星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/23
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オーダーをリモコンのようなものに打ち込んでいく。 

(へー、凄いなあ、今はボタンでピッピと押していくんだ・・・・・・)

メンバーはアイスコーヒーやアイスティー、おまけにケーキやパフェを早口で伝える。

彼はそれらを復唱すると、にっこり微笑んで言った。

「少々お待ちくださいませ」

爽やかな青年の胸には「矢沢」と書かれたネームプレートがあった。


 そしてはじまった。

語らいというより、お喋りというより、それは助走もなく突っ走った。

一分間のワード数はかなりのもの。 ダンスの後の余力としては凄すぎる。

このパワーが萎んだ日本を支えているのか! 居眠りしている国会議員も目を覚ます迫力。

まるで、夏の夜空にドカーン!とあがった、うちあげ花火。

一瞬、形を魅せる花火はすぐに光の雫となって、パラパラと地上に散っていく。

リーダーを中心に交わされる会話は、四方八方からの言葉と宙でいったん交差する。

そして直ぐに散る。

裕子には話題の中心がわからない。 

受験や就職、息子、娘の自慢、亭主の愚痴、熟の紹介から結婚に話が飛ぶかと思えば、

退職金の使い道、離婚、不倫、ダイエット、温泉案内と、話は忙しい。



隣でコーヒーを飲んで寛いでいる男性が、新聞で壁を作った。

話が筒抜けだー。 喧しいだろう、とても気が休まるはずはない。

裕子はそんな隣を気にしながらも、話す相手の目を追ったが二つの目では足りないことが

わかった。 そうしてただ目をパチクリさせるばかりとなった頃、息切れがしてきた。

 トレーにドリンクをのせて矢沢君がやってきた。

続いて持ちきれないデザートの色とりどりを、若い女性が「クリーム餡蜜の方は? 」

「チョコレートムースは? 」 と丁寧に聞きながらテーブルに置いていった。

その数秒の静寂に、裕子はすかさず深呼吸をした。

お喋り合戦再開。 人の話は聞いていない。 空っぽの頷きと自分の言葉を吐き出せば

この場はいいらしい。 

「ねえ! 私のイチゴが小さいわ」

 その後、クリームがあの店より少ない、あなたの方が餡が多い、寒天はダイエットにいいと

言いながら、彼女達はものすごく幸せそうな顔でそれらを食べた。

喋るか、食べるか、どちらかにして欲しいと思いながら、裕子も弾みで頼んだチーズケーキを

口に運んだ。

これだけ喋れば、新陳代謝も良くなって、贅肉と一緒にコレステロールもぶっ飛ぶだろう。

すごい所にデビューを果たしてしまった。 しかも病み上がりだ。



「香川さん! 」

 キラキラ光るラメのティーシャツの上で、二つの目がやはり光っていた。

「はい!」

「香川さんは、失礼だけど専業主婦かしら? 」

「はい」 (・・・・・・今は)

 それだけ聞くと、彼女も残りのメンバーも再び口を動かしはじめた。

返事をはぐらかすことは避けて、できるだけ「はい」と「いいえ」で多くを語らず、いや

語れず、空っぽの頷きをしながらでも輪の中にいよう。 裕子は静かに思った。

社会勉強をしている矢沢君やウェイトレスに少しの関心の視線を送りながら、この裏で

テーブルに並んだデザートを作る顔が、いくつもあることを想像した。




 その後も、ダンスの後は幾つかのお気に入りの店をローテーションで廻ることが

繰り返された。 誰かが新しい店を開拓してくれば、そちらに流れ、あちらに流れ。

そうやってダンスより激しい時間と共に、裕子の上で秋が通り過ぎていった。

心身共にすさんだ暮らしで落ちた体重が、じわじわと戻ってきたことに裕子はとても

感謝をした。 

 リビングでビートの効いた曲が流れた。

「復活するぞ! 」 

 医者にもらった薬の空袋が遠い遠い過去のものに見えた。 


                       次回 「世代」 ~ 面接はこちらです!



        撮影 pooh0529さん





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最終更新日  2007/01/23 03:24:41 PM コメント(4) | コメントを書く


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