星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/25
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二度目は、紅葉が美しく街を染めている頃で店が凄く混んでいた。 結局ドリンクバーが

できたと言う他の店に移動した。

 今夜は裏口からだ。 

裕子は「関係者以外の立ち入りは禁止」と書かれた文字を見た。

自分が関係者になるかどうかはわからない。 

重い扉を開け、事務所を目指して通路を歩く。 

扉はいくつかあるが活気のある扉の向こうは厨房に決まっている。 

「ならばここ? 」 とドアをあけると倉庫。 

薄くらい中、焦りと緊張が増して来る。 

点滴がぽたぽたと落ちるのを見ながらトイレを我慢しているような焦り。



「面接はこちらです! 」

 男の声がした。 

事務所の扉は開いていて、張られたプレートが見えなかったのだ。

たぶん、二回位はその前を通り過ぎている。

「すみません! 」

 時計を見ると6時ぴったり。 謝ることはないと思いながら、中に入った。

チーフの西田は先に面接を終えた数人に、ご苦労様と声をかけた。 

彼等は裕子の脇を遠慮がちに通り過ぎた。 

「どうぞ! 今、店長がきますから」

「はい、香川と申します。 あのう? 」

 裕子は入り口の方を振り返って言った。

「ああ、彼等は夜のアルバイトです。 学生ですよ」

 西田はそう言って、細めの眼鏡をクイッと上げると何故かにんまり笑った。

店長の瀬川がやってきた。

少し神経質そうに見えたが、西田とは世代が違うことは明らかにわかる。

気さくな笑顔とテンポのいい動きは、まるで西田と対照的な印象だ。

「香川裕子です」

 裕子は再び立って元気いっぱい言った。 そうして、たぶん45度位頭を下げた。

「わかっています。 ここに履歴書がありますから」

 西田は立ち上がった裕子を見上げていた。



 面接がはじまった。

店長の瀬川の言葉には無駄が無く、不足もなく、心地良いとさえ感じられた。

「香川さん! ところで料理は得意ですか? 」

 西田の声に、緩んだ肩に再び力が入った。

「はい、普通です」

「いいんです、それで。 普通にできればいいんです」

 普通と言う言葉の基準が微妙でも、ある時には都合がいい言葉かもしれない。

「過去にこういった仕事のご経験は? 」

「喫茶店で半年」

「そうですか! 」

 西田は「半年」から先の言葉を遮った。

履歴書に無いくらい昔のこと。 たぶん25年位前のあれはたぶん、高校生の頃・・・・・・

慌てながら、もう一方の脳が遠い昔にフラッシュバックしている。

限りなく勘違いに近い納得の表情。 それが二つ目の前で微笑む。 

伝えるタイミングを失うと、つい笑って誤魔化してしまうものだ。

 瀬川がこれで最後とばかりに訊ねた。

「どうして街路樹を? 」

 なかなか話が噛みあわない隣の「にんまり」と違って、瀬川は歯切れがよく波長が合う。

「はい、インテリアが素敵!・・・・・・いえ(矢沢君が爽やか! 違う!)裏方で無になって働

きたいと思ったからです。 そして・・・・・・」

「香川さん! 無になってもらっては困ります! 」

 実際その通りのことを西田が言った。

「はい。 でもキッチン希望です! 」

「わかっています。 履歴書に書いてありますし、うちの店、フロア―に出てもらうのは

30歳までなので」

(ズコッ!)



 面接はあっけなく終わった。

「駄目だー。 まあ仕方がない、とんちんかんな私、別世界でやっていけるとも思えない」

 独り言をいいながら、事務所を後にした。

「それにしても足元が冷える! レストランの表と裏はそれこそ別世界だ」

 裕子は「街路樹」を出て、さっそうと歩き出した。

スーツを着て、図面ケースを持って、さっそうと歩いたあの頃のように、真冬の夜風を

浴びながら。 諦めと開き直りが何故だか裕子をスッキリさせた。

「とりあえずの一歩、ステップは踏んだぞ! 」

 不定愁訴から離れられ、働こうと思える自分がうれしかった。 

ダンスサークルで鍛えられた体力と精神力、つまりは図太さがあれば、拾ってくれる所で

黙々と働ければそれでいい。 

 裕子はさっそうと歩いた。 

「前進は死闘。 後退は一瞬」

 来た道と反対方向へ、気取りながら背筋を伸ばして。

                           撮影 SOU





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最終更新日  2007/01/26 10:43:04 AM コメント(12) | コメントを書く


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