星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/27
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遥かに、高く、暮らしの音やら匂いやら、そういう風景を引き連れて、太陽は昇ったり

沈んだりを繰り返した。

それは特別に我武者羅でもなく、安穏でも素朴でもない日々だった。

裕子は縁遠くなった通院と安静、そして遮断の暮らしを振り返った。

病んでいる時の最大の良薬は「希望」。 生存の権利を与えられ、縁あって地球に

ひょこんと生まれた。 しかも人間に生まれてきた。 

だから希望を失ったら、きっと他の生き物に失礼だと思うのだ。



 ライ麦パンを口にくわえ、コーヒーの香りに近づく為に身体を傾けた。

パンの端がコーヒーで染みた。 

「食べるか、嗅ぐか、どっちかにしないと」

 電話がなった。

忘れかけていた「街路樹」の瀬川からだった。

意外にも面接が通り、早速来週から来て欲しいと言う内容だった。

「アイミー」がアイスミルク、「レスカ」はレモンスカッシュ。

そんな呼び方がカッコイイと思っていた高校時代、「学生街の喫茶店」を聞きながら

いきがっていた時代。 

今は街から姿を消しつつある喫茶店で、そんな昔のアルバイトを

「経験」とされてしまったオバサン。

世間にやりきれなくなったわけではない、希望の欠片をにぎった裕子の再出発。 

年齢は5つばかり誤魔化したものの、勇んで行った説明会。

「なーんだ、オバサンじゃん! 」

 回路の違う若者の言葉が、そ知らぬ顔をして裕子の肩にしがみ付く。



「もしもし・・・・・・」

「久しぶり! 」

「私、アルバイトが決まったの」

「そう! 声が元気だもの。 よかったね! でフリー? 派遣? 」

「ああ、あの業界には戻らない。 接客も卒業する。 復帰はね、あのね、レストラン」

 裕子の話は忙しい。 

ダンスサークルが感染したのか。

「レストラン? 裕子さんが? 」

「そ! 裏方、お皿洗い」

「えっ! 大丈夫? っていうか、他にもあるでしょう? 何もそんな地味な仕事

じゃなくたって? 」

「今は無になって、なんかこう・・・・・・黙々と働きたいんだ私」

「黙々と・・・・・・そうか。 身体を少しずつ慣らすっていうことね」

 そうでもなかった。

だから裕子は、明海にはそれ以上話さなかった。

そして明海も、裕子の潔い決断が嫌いではなかった。



 秀明は夕飯を終えると、咳払いしながらお茶を入れてきた裕子を見た。

「アルバイトする」

「そう。 身体はもういいのか? 寝込むことになってもしらないぞ」

「ダンスも週一で、つまらないし。 やっぱり仕事をしていないと落ち着かない性分」

「どこ? 」

「レストランの厨房、キッチンって言った方が聞えがいいか」

 秀明は飲みかけたお茶を吹き出した。

淡々と言い放された言葉に耳を疑った。 

「週4日、一日4時間」

「勝手にしろ! 」

 裕子はクスッと笑って洗濯物が入ったカゴを抱えながら、隣の和室に避難した。

テレビの音が大きくなった。 


                        次回 「世代」 15  タイムカード



撮影 kitakitune05さん さん





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最終更新日  2007/01/28 04:42:47 PM コメント(6) | コメントを書く


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