星の髪飾り

星の髪飾り

2007/02/12
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服装や会話、それに笑顔から仄々とした幸せが僅かに零れる。

 静かなるベテラン小林太郎は、季節の移り変わる中で客層のサイクルやら賑わいを

毛穴から吸収していた。 

以前の会社の後輩、雄二と近い世代の二人はどこか似ていて、時折小林の後ろ姿に

雄二が被る。 

現状をおとなしく受け入れ、どこか内省的。 多くを語らない、人のことは干渉しない、

されたくない。 

イギリス留学から帰国した雄二の手紙にもあったように、どこか漂流しているようで

案外、生真面目。

「俺たちひょうきん族」を見て育った彼らは「漂流族」にならないように、自分探しを

しているのか。 



「 前略 

 裕子さん、体調が戻って『街路樹』の厨房にいるんだってね。

驚いたな。 けど、俺もそうだったように人の気持ちは変わる、状況もね。

思いもよらない現実に立っている自分に、自分で驚いているんだからね。

 帰国してすぐに仕事が決まらなくて焦った時期もあったけれど、俺らを囲んでいた

メディア環境、ゲームやネットに翻弄されたり役立ったり、何だかわからないうちに

この歳になったよ。

 今の職場は留学中に学んだ家具、生かせるように頑張れると思う。

ただ、何か『これでいいのかな?』って思うんだ。 

人生のイメージがいまいち掴めないって言うか、正直わからない。 こんな時代だしな。

 親父がもうじき退職。 『団塊の世代の技術者たちは埋もれない!』なんて気張ってる。

「黄金の手」・・・・・・確かに今の日本を作った手だと思うには思うよ、漠然とね。

 裕子さん、以前の仲間は派遣やフリーになってるらしいね。 また皆で会おう・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・雄二    」



 いまだ社員を拒む小林。 研修やら、売上げやら、そういうのがめんどくさい。

型にはまりたくないと言う。 

「もったいない! 」と仲間が言うが、そもそも結婚だって

「そんなにいいものだとは思わない」 

 周囲の現状を見ていて、まるで最もらしく言う彼らに裕子も言葉がない。



 裕子が小林と並んで従食をとっていると、汗を拭き拭き千尋が入って来た。

「ああ、美味しそう! グラタン! 」

「フロア―は落ち着いた? 」

「ピークは過ぎたみたい。 裕子さん、警報機大変だったね! 私もいずれは当番。

大丈夫かしら? 鍵を抜くタイミングが微妙らしいけれど」

「ああ、もうそのことは言わないで。 落ち込んでくるから、また・・・・・」

「ゴメン! あのねえ、毎週同じ時間にやってくるご高齢の夫婦がいてね」

 裕子は小林が吐くタバコの煙をよけながら、グラタンのスプーンを置いた。

「へえー、毎週同じ時間? ここの明治風のインテリアがそそるのよ、きっと」

「オープンとともにドアが開くの。 品がよくて、仲むつましい二人はねえ」



 千尋が、アップにしていた艶のある髪を解きながら裕子の前に腰掛けた。

「エスプレッソを静かに飲みながら、ポツリポツリと話すのよ。たまに笑いを浮かべて。

いいなあ、ああいうご夫婦って」

「きっと尊敬から感謝の時に入ったのね、そのご夫婦。 千尋ちゃんは30代ね? 

ラブラブでしょう? 」

「子供のことに負われて、日が暮れる毎日」

「ここが休みの日は下の娘とお出かけ? 公園とか? 」

「うん・・・・・・越してくる前は近所の公園に行ったけど、それに大きな公園で

バトミントンやったり、バスケットのリングもあって小学生もいたからね。 

自然に入れたんだけれど、今は駄目なの」

「どうして? 」

「小さい集団を作っていて、入りづらいって言うか、結局公園の前を娘の手を引いて

行ったり来たり。 狭い公園は縄張りみたいなものがあってさ」



 小林が、落ちた灰をナプキンで集めながらチラッと千尋を見た。

「公園デビュー?」

 小林が低い声で訊ねると、千尋が体制を変えて「そうそう! 」と人差し指を

向けて弾んだ。

「何それ? デビューってジャニーズ事務所じゃあるまいし! そもそも公園って

公共の場でしょう? 子供が可哀相じゃない」

「今日こそ! 今日こそ!って思うんだよ。  砂場に行って凄く嫌な思いをした友達が

いてね。 何気なく手を振ったら、親達が手を引いてさーっと去ってしまったんだって。 

どうして○ちゃんと遊べないの? って聞かれて困ったらしいよ」

「新顔にはそうやっていじめをするの? 」

「そういうのもあるらしいけれど、彼女は社宅で目立っているから、綺麗だし」

「親のいいなりに手を引かれてった子達だって不思議に思うでしょう。 大人の

そういうのが子供に繁栄するんだわ! そういう子が小学生に入って仲間を無視したり

目立つ子を仲間外れにする可能性もあるよね。 結局母親じゃん! ムカツク! 」

「あら、裕子さん! 若者言葉、あれほど嫌がっていたのに、感染してる! 」



 千尋はそういって明るく微笑み、更衣室の扉の向こうに消えた。

小林が「うちの姉ちゃんも、公園で遊べるまで半年かかったらしい」と呟いた。

「普通に挨拶して、皆で仲良く遊ぼうね!って時代は何処へ去ったの? 」

 冷めたグラタンを口に運びながら、着替えをしている千尋の方を見て裕子が言った。

「こっちが単独だから嘗めるのね! きっと近所で他にも同じ思いをいているお母さん

いるよね。 手を組んでこっちも集団で潔く入ればいいのよ! 

『こんにちわ―!』って大きな声を出して、飛び切りの笑顔でね。 

相手の子供達はこっちも複数なら、たまには違う子と遊びたいとか思うでしょ、ね? 」

「圧倒させちゃう」

 そういう自然な融合を応援するような小林の一言。 

瞳から広がった光彩を、ドアの向こうの千尋に見せたいと、裕子は思った。







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最終更新日  2007/02/12 02:01:59 PM コメント(6) | コメントを書く


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