星の髪飾り

星の髪飾り

2007/03/04
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「回転寿司かなあ」とボソボソ言いながら店の外から覗いていた。

「いらっしゃいませー!」

 元気な声につられて、ふたりは滑るように入ってしまった。 

回っているのは中華色、中華柄の皿や器。

「回転中華! はじめてだ、こういうの」

「あんまり見つめると目が回るよ」

「悪たれ坊や! ひとこと多い」


 ふたりはやはり回転する、いや自転する高い椅子に腰掛けて、空腹の限界を

一挙に満たそうと、公転してくるエビシュウマイや春巻きに手を伸ばしはじめた。

「杏仁豆腐! これ美味いよ。 街路樹、負けてるな」

「そりゃあ、ここは中華屋さんだもの。 でも、いろいろな種類を少しずつ食べられるのは

嬉しいね」

 フジテレビの見学で、小学生の団体に出くわせ、少々疲れ気味の二人。

カウンターの横には、幾枚もの皿が次第に積まれていく。

「けっこう、皿が・・・・一皿200円、こっちのが・・・・・・」

 竜也は裕子の財布を心配してくれているのか、そういう所がなんとも可愛い。

「そんなのいいよ。 食べ盛りなんだからさ! たらふく食べよう」



 店をでると、竜也がどうしても見せたいスポットがあると言って

裕子の少し前を歩き始めた。

 昭和30年代の街並みを再現したフロア―は、年配者ももちろん若者でも溢れていた。

「わー!ラムネ」

「ね! 凄いっしょ? 」

 満腹になった竜也の声には力が入っていた。

タイル張りの銭湯に描かれた富士山、駅のアナウンス、存在感のある真っ赤なポスト、

黒んぼの抱っこちゃん人形。

「凄いなここ! 誰が考えたんだろう? 懐かしいよー」

 裕子は路地の両脇に、忙しく首を向けながら興奮気味にそう言った。

「でしょう? 」

 竜也は光景に見惚れて動かなくなった裕子の後ろで、ラムネを飲んでいた。

「凄いな・・・・茶の間だ」

 丸い卓袱台、引き違い戸の食器戸棚、煤けた障子紙、美空ひばりのセピア色のポスター、

日めくりカレンダー、土間には箒やハタキが掛けられている。

「まるで白い割烹着を着た母親が、今にもひょっこりと顔を出しそうだわ。頭は細かいパーマ

ネントでね。手も荒れててさ・・・・・・」

竜也の世代には新鮮に映るそれらは、裕子にはたまらない郷愁がある。

「この時代はよかった? 」

「よかったよ。凄くお金持ちも凄く貧しい人も、どこかにいたんだろうけどね。そういう

ものを感じなかった。みんな一緒、みんな必死、それで和やかだったよ」

「へえー」

「子供もたくさんいたな。ガキ大将はいたけれど、陰険ないじめは無かったと思うし」

「ほらほら!これに乗っていたのよ、お父さん達は」

「ああ、スクーター?・・・・・・ダサイね! 」

「ダサイ?必需品だよ。 この頃は缶蹴りとかメンコとかフラフープ・・・ああごめん!

今言った遊び、全部知らないよね」

「わかるのもあるけど。よく喋るなあと思ってさ。けど、喧嘩はあっても集団無視とか

小中学生の自殺とか・・・・・ほら、親の虐待とかは無かったんじゃん?」

「うんうん! 何が変わったのかね? 今は日常茶飯事。この麻痺が怖いんだよ」

「親の威厳?豊かさ、便利さ?」

「へー、驚き! たまには良いこと言うのね。今の発言ヒットだよ」

「たまに祖母ちゃんが言ってるよ」

「ああ、お父さんのお母さんね。たまには行ってるのね、お父さんに会いに」

「まあね。いちおう親子だから」

 「いちおう」という言葉の奥で、竜也が目を背けてきた大人の事情があるのだと思った。 



 そして竜也が裕子に付き添う形で時間が過ぎていった。

「今はね」

「ん?」

「素で遊べないんだろうな」

「素、す? ああ、何となくわかる。大人の社会もそうかもしれない。世間体や見栄、

腹の探り合いかと思えば、最小限度のかかわりで留めるみたいな・・・・」

「緊張や不安ってあるじゃん? 親や先生には言えないもんだよ。実際友達にだって」

「くちばし開いて、メールで 『ゴメン』 『ありがとう』で済んじゃうし。

便利だけどね会話や対話は減るわけだ。ね?極度の不安って心の病の引き金になったり

するのよ」


 ふたりが外に出ると、西の空が赤く染まっていた。

たわいもない一日が終わろうとしていた。 

やがて心地よい夜風が頬の辺りを通り過ぎると、砂浜を踏みしめて裕子が言った。

「ここ、もっと広かったんでしょ?」

「そうだよ」

 いろいろ手を加えて、自然のものが波と一緒に遠くに去って行く東京湾を、裕子は

いつまでも見つめていた。





撮影 kitakitune05さん





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最終更新日  2007/03/04 08:27:51 PM コメント(10) | コメントを書く


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