星の髪飾り

星の髪飾り

2007/03/13
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「街路樹」が休みの日は小学生も遊ぶ公園や、荒川に娘の春奈を連れて行く。

休憩室でポロっと話した公園の事情。 死ぬほど困るわけでもないけれど、そりゃあ

家から五分の公園で自由に遊べるにこしたことはない。


 裕子の車がやってきた。

ぴったり二時半だということを携帯で確認する。 裕子がくちばしと呼ぶ携帯が

この頃は千尋にもくちばしに見えてきた。 

駐車場で待っていた中谷久美も「街路樹」でバイトをするヤングママのひとり。 

今日は一肌脱いで、少々厚塗りをして息子の健太の手を握っている。 

隣にやはり三歳くらいの女の子が黄色いバケツと青いシャベルを持って立っていた。

中谷と同じ社宅の子供らしい。 

「ねえ! ここに止めていいの? 」

 裕子は千尋達に手を振ると、運転席の窓から顔を出してきいた。

「うん」

 裕子は百円ショップにあるよな長細い紙袋と、和柄の小さい布袋を腕に通して降りて

きた。 

「お疲れ様! 裕子さん」

「こんにちは、春奈ちゃんと健太君、それから・・・・・?」

「マリちゃんって言うの。 『こんにちは』は? 」

「こんにちは」

 健太が我先に!と言わんばかりに元気に言うと、ふたりもつられるように挨拶をした後

フードの付いたトレーナーとクリーム色のデニムを履いた春奈が、はにかみながら千尋の

後ろに回った。

「なんかさあ、裕子さんにそんな格好させて悪いね、ホント」

「そこまで地味にしなくていいのに。 今のおばあちゃんって結構若いカッコしてるのよ」

 日頃からしゃきしゃきフロア―を仕切る、中谷がそう言いながら裕子の全身を満遍なく

チェックした。

「それにその靴! どうしたの裕子さん!? 」

 中谷が指差して言うと、千尋が声を出した笑った。 

「ああ、またやっちゃった」

「いいじゃない、お祖母ちゃんということだし」



 健太が「早く行こうよー」と中谷のコットンシャツの裾を摘まんで言い出した。

健太は公園の事情を知らないからだ。

「んじゃ行こう! マリちゃんって言ったっけ? 手を繋ごうか? 」

 六人はマンションを出て、コインランドリーの前を通り公園に向かった。

「大丈夫かな? 」

「孤独につけこんで、孤立を楽しむような、そんなもん公園って言わないんだ」

「私が知ってる公園はね、むしろ母親同士が声を掛け合い『お子さんおいくつですか?』

とか言ってさあ、仲良く遊ぶ子供達を包み込むような眼差しで見ていた。 まあね

私としては、そんな光景が羨ましくもあったけど。 なんせ遊びに行く友人は殆ど子供が

いたからね。 話が合わないからって未婚の友人は、母親になった仲間とは疎遠に

なっていく傾向があるけど。 キャリアウーマンは仲間同士が集まるようになるし」

「裕子さんはどっちかっていうと? 」

「あははっ! 気を使わなくていいよ。 仕事するしかなかったし、結構孤独に育ったから。

ああ! あり得ないよね、こんだけ喋ってさあ。 中学の頃、保育園に弟達を迎えに

行くのが日課だったよ。 自転車の前にひとり、後ろにひとり乗せて足開いて自転車扱いで。

部活帰りの男子に笑われて凄く恥ずかしかったり・・・・・・」




 いつも間にか手を放した子供達の後ろを暫く歩くと、勾配の少ない坂にさしかかった。

ペンション風の真新しい住宅が競うように並んでいる。 

白い格子窓が左右に開き、白いレースのカーテンが微風に微かに揺れていたり

ガーデニングに凝った庭先の花ばなを見たりして、千尋親子の緊張を何とか解そうと

他愛もない話をしていた。 

 やがて千尋の歩調が衰えた。

その一角に公園があった。 公園の向こうには畑は広がり、月極駐車場と書かれた看板も

見える。 低い植え込みに囲まれたごく普通の公園だった。

「ああ、ドキドキしてきた」

「この前を行ったり来たりしていたわけだね、千尋は・・・・・・」

 千尋の肩をドン!叩いて中谷が「しっかりしろ! 」と言った。

千尋に反応したように、娘の春奈が慌てて千尋の手を握った。

マリが立ち止まった。

「ここで遊ぶの? おばあちゃん? 」

(ズコ!)

「そうよ。 遊ぼうね! 楽しい事たくさん、ね! 」

 マリはプラスティックの砂場用のバケツと小さなシャベルを裕子に見せた。

大きな滑り台、隣に子供を乗せたブランコが三本揺れている。 

さほど広くない公園にしては手入れが行き届いた花壇があって、橙色や黄色の

マリーゴールドが陽を浴びてそよいでいた。

砂場側には、家の勝手口のような日の当たらない入り口があった。

裕子達は、そこから入るのが自然な状況にいた。


 本来開放的であるはずの公園。 安らぎと交流の場。 ベビーカーを引いて裕子達の脇を

すーっと通り過ぎていったジーンズ姿のその人も、葛藤の末の散歩に終わるひとりのようだ。

 敷居の高い公園に入った裕子達に気付いた「先輩達」はブランコの後ろのベンチから

立ち上がった。

「まるで自分たちの領域って顔してる」

 中谷の声が急に低くなった。


                    撮影 kitakitune05さん





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最終更新日  2007/03/13 04:45:56 PM コメント(6) | コメントを書く


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