星の髪飾り

星の髪飾り

2007/03/25
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「やるなあ、瀬川店長」

「だって店長だから」

「そうだけれど」

 竜也と裕子が疲れた顔でボソボソと話す。 元々堀の深い小林の目がいっそう奥まって

いる。 カウンターにやってきた矢沢が遠慮がちに訊ねる。

「店長、フロア―に戻れませんか?」

「ああ、もうちょっと待って! 」

 ドリアを拵えながら瀬川が応える。

「はい」

 矢沢の動きは無駄がない。 カウンターには誰もいない。

瀬川店長は、オープンからラストまで「街路樹」のフロア―と厨房を行ったり来たり。

裕子が知る限り、週一度の休みもどこかに追いやられてしまっている。



「今日の中華スープね、ごま油を入れるの忘れてフロア―に出しちゃて」

 奏が汗を拭いながら休憩室にやってきて、裕子の前に腰掛けた。

「わー! 納豆だー 私、それだけはたぶん死んでも食べられない!」

 裕子の従食のパスタを覗きこんだ奏が、形のいい鼻を摘まんだ。

「身体にいいのに。 今は体力勝負だし」

「ああ、倉田さんが作ってくれた従食が食べたいな」

「そうだね」

「どこか他の店に引き抜かれたのかな? 」

「・・・だといいね」

 更衣室から出てきた中谷が「これから幼稚園の役員会」と言って口紅を付ける。

「裕子さん、倉田さんには随分いびられてたよね。 正直辞めちゃうんじゃないかって

話してたこともあるのよ」

 中谷は上下の唇を合わせて艶色を確かめた後、「よっしゃー!」と気合いを入れた。

「倉田さんには色々教わった」

 裕子は納豆の糸と格闘しながら、感情を沈殿させてそう言った。


 入れ違いで竜也がスタスタと入ってきた。

「お疲れ」

「ふー!」

「大沢君、疲れてるね」

「ねえ・・・・・・」

「竜也の『ねえ』は、ろくな事ないから」

 裕子は唇に刻み海苔を付けたまま、竜也を見上げた。

「で、何?」

「今、ろくな事無いって言った癖に!」

「ああ、ふたりとも疲れてるね。 イライラしてる」

 竜也は奏を感じながら裕子を見た。

「あのさあ、俺達ボイコットしない?」

「ほーらやっぱり!」

 裕子は再びパスタに納豆を絡ませた。

竜也がポケットからシワになった紙を出すと、奏が「なになに? 」と体制を変えて

竜也に寄り添う。 竜也は触れた奏の身体に戸惑い、心で大いに歓んだ。

「はい、シフト表のコピー。 最近キツクない? 労働基準法に違反してるよマジで」

「へー、難しい言葉知ってるのね。 しかも、何これ? 何時の間にコピーを?」

「俺、かなりマジなんだけど」

「うん。 キッチンきついよね? でね、店長がキッチンに入るとフロア―も困るの」

 裕子はグラスの氷をコロコロ揺さぶりながら、竜也がひろげたシフト表を見た。


            撮影 kitakitune05さん





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最終更新日  2007/03/25 09:44:37 PM コメント(8) | コメントを書く


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