星の髪飾り

星の髪飾り

2007/04/05
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指定席に止められた瀬川の車を横目で見ながら、そのままコンビニへ向かう。

いつもの缶コーヒーを買って裏口まで来ると、水道とガスメーターの記入を終えて

戻ってきた裕子の姿があった。

街路樹の裏口と隣の民家との境には、古いブロック塀があり、裕子は時々そこの奥さんと

挨拶を交わしたり、気が向けば庭でほころぶ季節の花を褒め、柿の実が色付きはじめた

と言っては微笑み、楽しそうに話し込んでいる。 そういうありふれた光景を見ると

(あの人も母親と何ら変わらぬ)普通の主婦だと思うのだ。 

「あら、小林君!」

「おはようございまーす」

 小林は瞼が重く、疲れていることを充分自覚していた。 そして少し顔を背けて

休憩室に向かう。

裕子は小林との距離を、程好く保てるように歩幅を変える。

裕子の気配が無くなった頃、小林はドアの張り紙を見て立ち止まった。

「最後に出る人は暖房、照明を消すこと!」

 ついでに、置き去りにされたような右手のドアを見る。

「節水!」

 トイレと洗面所にも赤いマーカーで大きく書かれた張り紙があった。

「おっとー、凄いなこのでかい文字」

 小林はBOSS缶を片手で軽く振りながら、椅子に腰掛け大きな欠伸をする。 

狭い更衣室から着替えを終えた千尋と奏が出てきた。 

「おはようございます!」

「ねえねえ見た?これ。 香川さんに決まってるわよね、そう思うでしょ?」

 白板の脇にあったお茶筒を指さしながら奏が言った。

「節電し忘れ、罰金300円だってさ。ちゃんと貯金箱みたいになってるし」

「金、取るの?気をつけよう。これが三本買える」

 小林は缶コーヒーをいとおしそうに眺めながら空かさず言った。

「オバサンのすることだよね!」

 竜也が男子更衣室からぼさぼさ頭で出てきて、いっぷくする小林の隣に腰掛けた。

「おまえなあ、人のことはいいから床屋行って来い!」

「時間ない。宿題だってギターだってできないんだー」

「時間は自分でつくれ!」

「ああ、そういえば来週からキッチンとフロア―に応援入るらしいよ」

「話、変えるな」

「束の間の補充だよね。まあ今のチーフが遅刻しないだけ助かるけどね」

「キッチンに人が入れば、フロア―も助かるわ。店長をフロア―に返してもらえる」

「このまま売上げ下がると店長も移動だ。きっと怖い店長が回ってくるよ」

 奏が、そうなんですか?と大きく目を見開いて竜也に近づいた。

「悲劇の告発おしまいよ!さあ、時間だわ」

 千尋が歯切れよくそう言うと、「小林君、電気消してきてね!」と奏が加えた。

小林がタバコを吸い終わるのは決まって10時5分前。 三人は気持ちを切り替えて

一斉に休憩室を出て行った。


 厨房では竹沢と裕子が大量のトマトを前に、日替わりメニューを広げていた。

「じゃあ、今日はメインの付け合せとスープということで?」

「お願いします」

「どうしたの?このトマト」

 竜也は形が整ったトマトをそっと手にした。 

「誰かが納品ミスしてさあ」

 裕子が竜也に気付いてそう言うと、矢沢がカウンターから顔を覗かせた。

「おまえなあ、俺の従食またトマトにする気かよ。いくら好物でも限度があるぞ」

「ええ!俺?」

 竜也は怪訝な顔をして納品書を確認する。

「ああ、やっぱ俺の字だ。まあ俺だってたまにはミスるよ」

「そういう問題じゃないだろう、こんな時に」

「そうよ、節約からはじめようって言う人もいるのに」

 竜也は竹沢チーフに「すみませーん」と言った後、バックヤードにいる裕子に声を

かけようとした。

「ああ竜也、それはそうと」

 裕子が何か大事なことを思い出したように竜也の腕を引っ張った。

「ん?何なに?」

「後で大事な話があるから・・・・・・」


                     撮影 kitakitune05さん





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最終更新日  2007/04/05 07:35:12 PM コメント(9) | コメントを書く


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