星の髪飾り

星の髪飾り

2007/06/06
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込んだ。 単調な導線、闇夜にこそ映えるがパッとしない俺の住処・・・

たぶんそんな独り言を言ったのだろう。

指が覚えたボタンを押している。 「ちゃんと連れていってくれよ」

 もう4年、この無機質な箱の上がり下がりの世話になっている。 

6階で扉が開くと、部屋までの通路左側から初夏の夜風が頬に触れる。

酔った晩、ことさら俺を優しく迎える夜風が嫌いじゃない。 柄にも無く風の行方を思う。



 部屋のドアに鍵が触れた時だった。 まるで生活感のない隣室の扉が開いた。 

「あのう・・・」

 俺はいきなり現われたその人が一瞬幽霊かと思う程驚いた。 

「はい?」

 多くの息が混じった声だった。

「これ・・・私の所のポストに間違えて入っていたんです」

 その人ははっきりした口調でそう言って、数枚の封筒を差し出した。

「ど、どうも」

 僅かに濡れた黒い髪、大きな瞳が俺を吸引する。 

冷めていく酔いの一方で、抜け目無く作動するシグナルがあった。

「郵便物なら、下のポストに放り込んでもらえれば」

 俺は初対面の隣人の美しさに戸惑い、声が上ずっていた。(・・・らしくもない)

「ええ、そうしようと思ったんですが、私、明日引っ越すんです。 だから・・・」

 白くて細い腕から封筒を受け取り、ちらっと表札を見た。

「田口 優」

それまでどうでもよかった「優」の文字が、夜風のように心地よく頬に触れた。

「はじめまして。 そしてさようなら、そういうことですね?」

「まあ、たぶん・・・・」

 その人はもう二度と会わないと踏んだ俺に適度な警戒心も持たず、にこっと笑って

ドアを閉めた。 年齢不詳、借り物の現実を身につけた幻。  

 そういえば、夫婦喧嘩が絶えなかったお騒がせ夫婦が引っ越して数ヶ月。

静かになった隣にやれやれと思ううちに、昼と夜を繰り返す退屈な暮らしに俺はいた。 



 一枚の壁に遮られ、惜しい者を逃す不運に苦笑する。

「優さんよー、何で今頃俺の前に現われた? それとも今のは夢? 」

 深い夜、彗星は青く妖艶な星を攫て(かっさらって)いく。

                              photo by  しっぽ2さん





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最終更新日  2007/06/09 10:19:51 PM コメント(14) | コメントを書く


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