星の髪飾り

星の髪飾り

2007/06/12
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 余熱たっぷりの夏の夕暮れ、畑の脇道を意味も無く我武者羅に自転車を漕ぐ。

なめらかにカーブを曲がって通りに出ると、空色のコンビニの看板が見えてきた。

日曜日に寮にいるのはデートに無縁な野郎ばかりだと僕は思う。

「おい、松村!」

「ああ、やっぱり・・・」

「おまえチャリなんやなあ。 車、たまに乗らないと動かなくなるでー」

 同じ技術部の大倉健太が、オープンカーのハンドルを握ったままこっちを見ていた。

「チャリで充分! おまえこそ運動不足になるぞ」

 僕は健太に背を向けたまま手を振ってコンビニに入った。 

こんなことがちょっとした楽しみになるのは情けないと思いながら、ビールやツマミを

気分で選び、グラビア雑誌をついでのような顔でカゴに入れて左のレジにくる。

「マルボーロね」

「赤ですね?」

 毎度の顔にプチトマトのような可愛い子が手際良くタバコを取り出す。

繰り返されるサイクルの締めのようなひと時。 けれど痛快に展開されるかもしれない

期待が、ポケットの中で息を潜めている。 

 帰り道、僕は夕べの健太の言葉を思い出していた。

「浩樹さあ・・・」

 彼は残りのビールを一気に咽喉に落とし込み、あーっ、ウマ! と言って僕を見た。

「何も警戒心持たなかったんか? 」

「身内かと思ったんだ。 あの日は墓参りだったし、それに電車に乗ったら電話に

出られないだろ。反射的に焦って」

「おまえらしいわ。 それで 『さっきはすみません。アナウンスが聞こえましたが電車に

乗れましたか』なんてメールに返信したんか? アホやなー。自分やったらそんな怪しいもん

無視するでー」

「きちんとしないと・・」

「ほんまはチャンス!と思ったんやろ。 お前みたいなのが変な女に騙されるんや」

「ほっといてくれ」



 スイッチを押すと別世界に出会うことが時々ある。 白昼夢であっても魔法にかかったと

しても僕はもう彼らにあの人のことは喋らないだろう。 

 薄い花びらを風に震わせて、あるいは仄かな香りを抱え込んで開く寸前を待ち焦がれる。

そういう今が僕は嫌いじゃない。

                  photo by kitakitune07さん





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最終更新日  2007/06/12 03:17:57 PM コメント(8) | コメントを書く


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