星の髪飾り

星の髪飾り

2007/10/05
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   シーン 4 「多希子」      

 昭和三十年、純白だった嶺々が薄紫色に輝いていた。            
自然が奏でる音色は、しずしずと変わりゆく季節に、淡い衣を着せて寄り添う。        やがて桃の実が色づきはじめた。                            

 梅雨明け間もない七月十六日、令子は無事女の子を出産した。              
大きな産声をあげた女の子は「多希子」と名づけられ、林家でも大谷家でも多希子の誕生に歓びの声をあげていた。        

 果樹園に囲まれた小道の先にある林家。 牛小屋と井戸の間の石段を下ると、良幸が住む別家があった。 石段の脇には大きな池があり、水面に雲を映しながら、たくさんの鯉がくねくねと泳いでいる。 両家の前にでんと居座る山の上からは、日に何度か通る飯田線の音が聞こえてきた。 
「ガターン、ゴトーン、ガターン、ゴトーン」                           「今、電車が行ったで、じき八時だな・・・」                   

 朝のひと仕事を終えた別家の衆(皆)は、石段を弾む足取りで上がって来た。        


 次男を負ぶった志津が台所から顔を出し、「さあ、上がってくんな」と微笑んだ。
皆の顔が揃うと、公男は一升瓶に入れた山羊の乳を湯飲み茶碗に注いだ。           「搾りたてだで」                   
「茂夫さ、どいれ(とても)喜んどるらー」 
「お陰でね。元気な女の子だでえ!」              
「へえ(もう)、あれから十年経ったなあ・・・感謝せにゃ、いかんな」

 公男は遠くに視線を移してそう言った後、手にした湯のみ茶わんを囲炉裏の淵に静かに置いた。


                     次回 「暗がりの扉」








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最終更新日  2007/10/05 06:45:27 PM
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