星の髪飾り

星の髪飾り

2007/10/17
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 木の葉が少しずつ色づきはじめた。  
お遊戯会の練習に勤しむ多希子は、しょんぼりしながら中庭にやってきた。 
シロは置き去りにされたフラフープを噛んでいる。
「シロ、お父さんはお仕事。 お母さんも忙しいで、お遊戯会は誰も見れん」
 そんな多希子を見ていた悦子が、事務所の窓から顔を出してた。
「タッコちゃ、今日はお銭湯へ行かん?」

 小石が散らばる小道を行くと、どこからともなくいい匂いがしてきた。 

 日が沈みかけると、多希子が通う幼稚園の屋根が山間から頭を出した。
「悦子姉さんがお遊戯会に行くでね」
 多希子は目を細めながら、優しく笑う悦子が好きだった。          
「来てくれるの? 空を向いて威張っとる白い屋根・・・あれがタッコの幼稚園だに」
 悦子は洗面器を膝の上に置き、にっこり笑って小指を出した。
多希子もうれしそうに小指を絡めた。        

 やがてふたりは「えびすや」の暖簾を潜った。
番台の愛想のいいおばさんに小銭を渡し、悦子が持ってきた大きな籠に、脱いだ服を次々と入れた。
潔く裸になった多希子は、大きな鏡の前でいきなり弾けた。      
「わあ! 裸がいっぱいおるに」                                       
 木枠のガラス戸をガラガラと開けると、温かい湯気の中で裸とやまびこが戯れていた。 石鹸の匂い、木桶の音、タイルの感触、背中を流し合う人。 

「山の王様だ!」 

 悦子に呼ばれた多希子は、かけ湯をして湯船に入った。 
「大きい山の下を走っとる人がおる。 松の木の下で、休んどる人もおるに・・・」       「この山は富士山。 日本で一番高い山だでね」                        悦子は、白くて大福のような乳房を、湯に隠しながら言った。
「ここにおる人のお乳も、富士山のようだ」


 昆布のような長い髪を洗った悦子は、多希子の背中を流し、あとは自分で洗うようにと手拭いを渡した。 浮かれ顔の多希子が、鏡の中にいた。                       
「さあ、もういっぺん温まっていかにゃあね」                        


 帰り道、駄菓子屋の前に差し掛かった頃、ずっと何かを考えていた多希子が言った。
「さっき、お便所で、黒いおしっこが出た」
「く、黒かったの?」
「お醤油の色だったに」

             次回 「悪魔の潜伏期間」


photo by  しっぽ2さん





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最終更新日  2007/10/17 08:33:28 PM コメント(10) | コメントを書く


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