星の髪飾り

< 新しい記事

新着記事一覧(全674件)

過去の記事 >

全て | カテゴリ未分類 | お気に入りブログ

2007/10/19

「永遠に」　　８

(6)

カテゴリ：カテゴリ未分類

　空から氷の板が落ちてきたような、寒い日のことだった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　沖へ去った放射能が、波に乗ってやってきた。　　　　　　　　　　
「おーい、おーい・・・」
　その声は、気のせいかと思うほど力のない声だった。　真沙は縫いかけの雑巾と針箱を仕舞い、声を辿って行った。　すると便所の前の廊下で、顔色を無くした茂夫が倒れていた。　
「おとうさん！」
　真沙は茂夫の姿に仰天し、大声で良幸を呼んだ。　茂夫は直ぐに病院に担ぎ込まれた。　
真沙は、鼻血も下血も止まらない茂夫の背後で、悪魔の影を見る思いがした。

　そしてこの事が、多希子の入院を更に伸ばした。　
茂夫が広島沖合いの駆逐艦で被爆してから、およそ十年が過ぎていた。　白血病と診断が下されると「　広島の惨事　」を甦らせた林家の姉妹もかけつけた。

　降り続く雨は空も山々も灰色に落とし、色のない街に病院だけが、のっしりと聳えていた。
会社と病院を目まぐるしく行き来する良幸と、幼い亨と亜由美の世話をする悦子。
真沙から知らせを受けた大谷家でも、進二夫婦が、ようやく訪れた平穏に安堵する母冴に、この事をどう知らせるのか・・・躊躇っていた。
緊迫した事態は取りまく人の平穏を奪い、生きていた放射能に脅えた。

　多希子は長い退屈に慣らされ、真沙が一日置きにしか来なくなった訳を訊ねた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「タッコ、ごめんね。お父さんも病気で入院したで」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「お父さんも腎臓病？　お父さんもこのお部屋でタッコと一緒に泊まればいいに」　　　　　　　「お、お父さんは、直に治るで・・・」　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　photo　by　ｙｕｕｙｕｕさん

お気に入りの記事を「いいね！」で応援しよう

最終更新日 2007/10/19　09:39:17 PM
コメント(6) | コメントを書く

■コメント

Re:「永遠に」　　８(10/19)

fellow さん

やっぱり、被爆した放射能は消えないんですよね。
黒い渦となって、身体の中を巣食ってしまう。

身近なところで、第五福竜丸の船を思い出します。
夢の島に現在展示されています。
娘達を連れて、見学に行きました。
(2007/10/19　11:50:36 PM)

返事を書く

病魔は

なにわっ子さん

本当に突然に形になって現れるんですね。
しかも、被爆の証明さえも不可能だなんて・・
理不尽です。悔しいね・・ (2007/10/20　09:09:32 PM)

返事を書く

Re:「永遠に」　　８(10/19)

男前のお姉さんさん

潜伏期間の長さに、人は皆　もう忘れてもいいんじゃないかとさえ、錯覚を起こすよね。
ある日　突然襲ってくる病魔に、なす術もなく怯える

そんな現実を小さいタッコには、理解出来ないもの。 (2007/10/21　02:25:25 PM)

返事を書く

Re[1]:「永遠に」　　８(10/19)

恵　香乙さん

fellowさん
＞やっぱり、被爆した放射能は消えないんですよね。
＞黒い渦となって、身体の中を巣食ってしまう。
＞
＞身近なところで、第五福竜丸の船を思い出します。
＞夢の島に現在展示されています。
＞娘達を連れて、見学に行きました。
-----
そうでしたか・・娘さん達を・・。　母として大切な行い、わかっていてもなかなかできませんね。 (2007/10/22　02:33:47 PM)

返事を書く

Re:病魔は(10/19)

恵　香乙さん

なにわっ子さん
＞本当に突然に形になって現れるんですね。
＞しかも、被爆の証明さえも不可能だなんて・・
＞理不尽です。悔しいね・・
-----
署名となると、現実きびしいでしょうね。 (2007/10/22　02:34:18 PM)

返事を書く

Re[1]:「永遠に」　　８(10/19)

恵　香乙さん

男前のお姉さんさん
＞潜伏期間の長さに、人は皆　もう忘れてもいいんじゃないかとさえ、錯覚を起こすよね。
＞ある日　突然襲ってくる病魔に、なす術もなく怯える
＞
＞そんな現実を小さいタッコには、理解出来ないもの。
-----
小さすぎた・・・そういう思いに浸ります。 (2007/10/22　02:34:52 PM)

返事を書く