星の髪飾り

星の髪飾り

2007/10/19
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類



 空から氷の板が落ちてきたような、寒い日のことだった。                                沖へ去った放射能が、波に乗ってやってきた。          
「おーい、おーい・・・」
 その声は、気のせいかと思うほど力のない声だった。 真沙は縫いかけの雑巾と針箱を仕舞い、声を辿って行った。 すると便所の前の廊下で、顔色を無くした茂夫が倒れていた。 
「おとうさん!」
 真沙は茂夫の姿に仰天し、大声で良幸を呼んだ。 茂夫は直ぐに病院に担ぎ込まれた。 
真沙は、鼻血も下血も止まらない茂夫の背後で、悪魔の影を見る思いがした。

 そしてこの事が、多希子の入院を更に伸ばした。 
茂夫が広島沖合いの駆逐艦で被爆してから、およそ十年が過ぎていた。 白血病と診断が下されると「 広島の惨事 」を甦らせた林家の姉妹もかけつけた。


 降り続く雨は空も山々も灰色に落とし、色のない街に病院だけが、のっしりと聳えていた。
会社と病院を目まぐるしく行き来する良幸と、幼い亨と亜由美の世話をする悦子。
真沙から知らせを受けた大谷家でも、進二夫婦が、ようやく訪れた平穏に安堵する母冴に、この事をどう知らせるのか・・・躊躇っていた。
緊迫した事態は取りまく人の平穏を奪い、生きていた放射能に脅えた。

 多希子は長い退屈に慣らされ、真沙が一日置きにしか来なくなった訳を訊ねた。                                                     「タッコ、ごめんね。お父さんも病気で入院したで」                     「お父さんも腎臓病? お父さんもこのお部屋でタッコと一緒に泊まればいいに」       「お、お父さんは、直に治るで・・・」               

                        photo by  yuu yuuさん





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007/10/19 09:39:17 PM コメント(6) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: