星の髪飾り

星の髪飾り

2007/12/07
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 体が大きいの篤は頭を掻きながら、肩越しの弘子を見た。
「入らん方がいいと思う」
「俺もそう思う」
 篤はちょうちん袖のブラウスが似合う愛くるしい弘子を意識しながら頷いた。
「なんだ篤、度胸ねえなあ」
 足元の草が弘子の膝のあたりまで伸びており、崖の上からは蔦が垂れ下がっている。
「石垣の間から出てくる蛇のようだね。 気味が悪い」
「タッコは行くで、おっかないなら待っとってね。 篤君、弘子ちゃんを守ってや?」 

 多希子は広隆と洞穴の中へ入っていった。
「大丈夫ずらかー?」弘子が穴を覗き込んだ。
 洞窟の天井が途中から急に低くなったので、ふたりは四つん這いになって地べたを這いだした。
「真っ暗だに、そんなに早く行かんでよ!」
「タッコ、根っ子があるで気をつけろ。 この棒持て。放すなよ!」
「まだ続いとる? この棒放したらどうなる?」
「おまえ怖いのか?」
「後ろが暗くて見えんよ。 帰れなくなるに」
「後ろは見るな。冷たい土だなあ・・・おっ!ここで行き止りだぞ」
「何かおるに。 鳥が飛んどるようだよ!パサパサ音がする」
 多希子は持っていた棒を放して、両手で膝を抱えて体を丸めた。
「おう、コウモリだ!」
「コ、コウモリ?!ひゃあー助けて! 帽子を取られる! おでこが・・・」
 白いランニングシャツにしがみ付いた多希子の腕を、広隆が慌てて掴んだ。
「な、なんだ、タッコ! 口ほどでもないな。 よし、俺が前になるで後ろにまわれ。 それにしてもここは基地にできんな」
「基地? 基地よりタッコずら? 早く出たいんな! 」
「わかったで、ケツ押すな!」
「男のくせに遅いんな! 本当は恐いくせに・・・」
「なんな! 女のくせに探険なんて言やがって。 置いてくぞ! 」
 頭上の羽ばたきと地べたの滑り、暗闇で止まったふたりは妙な形で向かい合い、棒の端を持ったまま互いを罵りはじめた。


 宝隠しをしようと篤がせっせと掘った穴。 洞窟に入ったふたりを余所に、弘子は膝の間にスカートを挟み、篤の視線を上手に遮断して頼もしい篤に拍手を送った。
「凄いに! どいれえ深いじゃん。 篤君が入れる位だ」
「何を隠す? 隠したら木の枝を乗せんとね? 見つかったら二度と見れんし」                             
 記念と称して掘った穴の底に、集めてきた大きな葉が敷かれていく。
弘子はポケットからお気に入りの白雪姫のハンカチを出して葉の上に広げて、満足そうに眺めていた。 篤も半ズボンのポケットから数枚のメンコ出し、お気に入りの1枚をじっと見つめた。
「もったいないら? それ・・・」
 弘子が心配そうに篤を見上げると、白雪姫のハンカチの上にお気に入りのメンコを乗せ、集めた小枝を両手でかぶせた。 弘子は慌てて小枝を掃い、篤が惜しんでいたメンコを取り出した。
「ポケットにしまったメンコと交換。 そうしたらこのハンカチで包んであげるに」

 意気の合ったふたりが、小枝や毟り取った草を敷き詰めると穴は地面と同じ位平らになった。
「よし、この上に葉っぱを置いて土をかぶせて終りだぞ!」

 木々の間から覗く太陽がしだいに西に傾き、風がそよぎはじめると、弘子は思い出したように洞穴の方を見た。 
「声がしとるけど、出てこんね・・・」

         続く

               「初恋」は次回でおわります。
               「冷たい寝顔」
               「宿縁」 「特別授業 東京オリンピック」

               「太陽の笑顔」
               「ささやかな晩」
               「さよならタッコちゃん」
               「陸の上の小さな船宿」      

                          完結





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最終更新日  2007/12/07 12:27:21 PM コメント(6) | コメントを書く


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