星の髪飾り

星の髪飾り

2007/12/20
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類


父の夢だった幼稚園は叶わなかったけれど、ある時大きな幸せがやってきたの。 私が中学生に上がった年、ふたりの弟ができてね・・・日が経つにつれて家の中が幼稚園になったの。 平屋のあばら家は、幼い弟達の仕業で障子が骨だけになった。 まるで陸の上の小さな船宿。                                  

 戦争や核の無益残虐を熱く語ってくれた父は、たびたび鼻血を出して母を驚かせたけれど、天竜川のような豪胆な人。 逆境の波がやってきても決して舵を放さなかった。                

 そしてあの晩、パスポートの手続きができぬまま私は帰宅して・・・
たった一枚の戸籍謄本に潜んでいた真実への問いかけに、母は言ったの。            

『私にもタッコにも、それからここにいるみんなにも宿命っていうのがあるのよ』    
 そしてさらりと漏れた「タッコのお母さんは、私の姉・・・」
 穏やかだった。 
驚きの隙間に次々と黄金色の小さな雲の破片が流れ、大空に隠れていた満月が顔を出した。                            

 私達五人は広島、長崎の被爆者二世。 
巡り巡って紡がれた家族の発端に恐ろしい核実験があり、被爆があり、そしてふたりの出会いと、哀しい死があった。 
 私はたくさんの人に守られ、運命に命を運ばれて、ここに来る事ができたのね。                                                                                   

 お父さん、それからはじめて逢えたお母さん。 伊那谷の空はみごとね。 みんなで澄んだ空をわかち合えたら。 戦闘機や銃弾に脅える鉛色の空、きのこ雲をつくる空はもう・・・いらない】                                   

 頬を撫でた風が桃の香りを残して去った。
ゆっくり立ち上がった多希子の背に、夕陽があたっていた。     

                                   完                   

;lk.jpg

 長い間、ありがとうございました。
手書きハートめぐみ かおと手書きハート





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007/12/20 05:15:51 PM コメント(20) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: