名作落語大全集

４４：ベクターの話

　パガニーニの作品はレベルが低いといわれるが、あくまでヴァイオリンのための作品だということだね。パガニーニは歌劇を一人で演じているんだと思うよ。管弦楽が序奏を演奏するのは歌劇の序曲。ね、中で歌われる主題が聞こえて華やかに鳴り響くだけで、どんなドラマが展開するのか期待させるじゃないか。そしてソロの登場、まさに名歌手の詠唱や重唱を一人でやってしまうんだ。そのための管弦楽として聞くと実に効果的で見事だね。序奏が長いというので省略するのは、その期待をそいでいるのだから、音楽の分からない人だね。そう思って聞いてごらん。ショパンもピアノ曲ばかり作ったが、管弦楽なんか本当に下手だよね。協奏曲の出来の悪さはパガニーニの足元にも及ばないんじゃないか。

　とにかく生きている間は……というよりも死んだ後も、批判にさらされた作品群だが、ヴァイオリンのために作ったんだから……もし歌劇を作っていたらイタリアを代表する作曲家になるってロッシーニが言っていたね。

　影響を受けた作曲家、やはりそのロッシーニだろうね。当時の音楽は何といってもイタリアオペラ、ベートーヴェンのおかげでウィーンが音楽の都なんて言われたが、やはりまずイタリアなんだ。それ以外で認められたのが「音楽の都」ということなんだよ。イタリアの都市をそんな名前で呼んだら笑われるよ。ロッシーニの華やかで明るい調子はパガニーニの作品にも表れているね。ヴァイオリン協奏曲第二番なんか、ロッシーニの『セビリアの理髪師』によく似ているじゃないか。

　一八二八年、パガニーニがウィーンに出た時にはベートーヴェンの作品も演奏され、素晴らしい作曲家だと認識し、尊敬の対象となった。ベートーヴェンは前年に亡くなっていて、第九交響曲『合唱』はまだ世に認められていない。後に第五番、日本では『運命』と呼ばれているが、この主題の展開に感銘している。パガニーニが最後に作ったのが『春』というソナタ。これもベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを意識したのかも知れないな。

　さて、パガニーニが演奏会でどのくらい設けていたか、一つだけメモが残っている。私が裏方で協力した演奏会さ。一八三一年のパリで、たった一回だけの演奏会で一九〇九六フランを手にしている。この頃のパリの市長に当たる役職が年俸四〇〇フランという記録があるそうだ。四〇〇万円で換算すれば、パガニーニは一回の演奏会で一億九千万円を手にした計算になるね。

　そうそう、この演奏会にはあのピアノのリストも来ている。前年にパガニーニを聞いて感動しているが、それからショパンやベルリオーズと出会っている。ヴァイオリン協奏曲第四番を聞いて「私はピアノの魔術師になりたい」と言ったのがこの演奏会だと伝えられる。

こうして、パガニーニはヨーロッパを回っているので、優れた作曲家や作品とも出会っただろう。

もう一人パガニーニが認めたのが、今名前の出たベルリオーズだ。詳しい人を紹介するから、話を聞いてごらん。

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バーンズ：パガニーニの主題による幻想変奏曲

　学校で吹奏楽やった人なら知っている作曲家で、奇想曲第２４番による２０の変奏曲だが、技巧はそれほど難しくない。ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」の吹奏楽版を作るのが目的だったといい、変奏ごとにソロの楽器が変わる。学生の演奏では一部をカットしていることも多い。１９８８年初演。

　自作自演の演奏を所有。

バイワー：パガニーニの主題による１２の変奏曲

　もちろん奇想曲第２４番によるピアノ独奏曲。

　自作自演の演奏を所有。

バスティン：パガニーニの主題による変奏曲

　もちろん奇想曲第２４番によるピアノ独奏曲。

　自作自演の演奏を所有。

ハッピー・バースディ・パガニーニ

　「ハッピー・バースディ・トゥ・ユー」をパガニーニが編曲したというパロディ音楽。演奏者不明。素人のものだろう。大した作品ではない。

ハメリン：パガニーニの主題による変奏曲

　もちろん奇想曲第２４番によるピアノ独奏曲。

　自作自演の演奏を所有。

ピアニスターＨＩＲＯＳＨＩ：ゲゲゲのカンパネラ

　リストの「ラ・カンパネラ」だが、主題は「ゲゲゲの鬼太郎」という楽しいパロディ。

ピルスル：パガニーニの主題による練習曲

　ハーモニカのための作品。奇想曲第９番の「狩り」から始まり、いくつかの曲をハシゴするが、その主題が何だかおかしい。実は第２４番の変奏になっているのだ。奇想曲のいろいろなフレーズを使って「狩り」に戻るが、２４番の主題そのものは聞こえない。

　崎元譲の演奏を所有。

フィヴェロード：Ｍｒ． Ｐａｇａｎｉｎｉ

　ジャズの歌謡曲。名歌手がみんな歌っているね。特に主題を使っているのではない。

　いくつか聞いてこれがいいなってんで、フィヴェロードって人の歌声をコレクション。

プーランク：３つの歌曲「メタモルフォーズ」

　第３曲が「パガニーニ」。特に主題を使っているのではない。

　ソプラノ歌手の名前紛失。