名作落語大全集

名作落語大全集

2025.10.21
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カテゴリ: 落語
【粗筋】
 八五郎は、あんないい女なら俺も、ってんで尾形先生の釣道具を勝手に借りて出掛ける。釣り人が大勢出ているので、「おう、どんな骨(コツ)を釣りに来た」と叫んで割り込み、そりゃっと釣り糸を垂らすが餌が付いていない。
「餌がないと釣れっこござんせんよ」「餌が無きゃ釣れない、そんな素人じゃねえや……こうしているうちに鐘がボンとなる……鐘がボンと鳴りゃさ、上げ潮みなみさ、烏が出て来て、コリャサノサ、骨があ〜るサイサイサイ……すちゃらかちゃん、スチャラカチャン」「ダメですよ、かき回しちゃ……せっかく寄った魚が逃げちゃう」「誰がかき回した……こうやったのをかき回すと言うのか……かき回すというのは、こうして……」「あーあ、本当にかき回しちゃった」
 ってんで、回りの人は見ていることにした。八五郎は骨が化けて出て、家を訪ねて来る、「まあお座り」と水溜りにすわって、二人の会話を想像……釣竿を振り回して、針が鼻に引っ掛かってしまう。回りの人に助けてもらい、「こんな物があるからいけねえんだ……さあ来い」「この人釣り針取っちゃったよ」 
さて、予定通り草むらを探すと、椋鳥が飛び出した。烏じゃないが当番制だろうと入って見ると大きな骨がある。酒をかけて、教えてもらったタヌキの句、住所氏名を名乗って、今夜待ってるから来てくれよってんで家に帰る。 これを立ち聞きしていたのが新朝という野幇間(のだいこ)。女と会う約束だなと勘違い、同席して客にしようと、刻限を見計らって長屋にやって来た。女が来ると思っていた八五郎は変な男が来たのにびっくり、「お前はいったい何者だ」「新朝という幇間でげす」「新朝の太鼓、しまった、昼間のは馬の骨だった」

【成立】
 中国の『笑府』にある「学様」を林家正蔵(3)が「手向の酒」という題でまとめ、三遊亭円遊(1:鼻の)が前半の滑稽を膨らまして演じた。落ちは太鼓を張るのに馬の皮を使ったことから。新朝の太鼓って何だか分からないが、新しい「新調」ではないかという人と、遊郭には刻を知らせる太鼓があって……と蘊蓄を垂れる噺家さんと、その他怪しい説が出て来るのはおかしい。でも新町は大阪で、江戸にはないしねえ……立川志の輔師匠によれば、馬がモノで下腹部を叩くのを「馬が太鼓を打つ」といい、そこから出たという説があるという。昭和になると春風亭柳好(3)が、客からリクエストが掛かるほどの人気だった。春風亭柳枝(8)は歌うような調子で、釣り人の心情描写を取り入れて人気になった。立川談志が柳枝のまま演じて喝采を受け、柳亭芝楽は柳好を完璧に真似て演じた。今でも釣り場の大騒ぎで切ってしまうことが多く、独演会や特別の席に行くと、本来の落ちまで演るのを聞くことも出来る。 タヌキの句、じゃない、手向けの句は「野を肥やす骨を形見に芒かな」としているが、昔の速記には「月浮かむ水も手向けの隅田川」と書かれている。 中国の古典『笑府』にある「学様」。粗筋は後項「支那の野ざらし2」を参照。これがそのまま上方落語になったとされているが、上方落語の資料が見付からない。明治の初期、林屋正蔵(2)が現在の型に作り上げ、三遊亭円遊(2)がにぎやかな滑稽噺に育てた。正蔵のものは、真っ向臭い、落ち着いた噺だったという。 浪人者は、尾形清十郎という名であるが、これは円生(2)の本名「尾形清次郎」のもじり。円遊は隣の浪人を、明治元(1668)年に上野に立てこもった彰義隊の生き残りとしていたたが、現在は昔に返って由緒のはっきりしない浪人者とする。 円遊の所演によれば、骨の供養に、  野を肥やす骨にかたみのすすきかな と秋の句を詠むのに、直後に「四方の山々雪解けて」と春を描写する。この雪解けの川が南風で「どぶゥり、どぶゥり」と音を立て、「風もないのにヨシやアシががさがさ」と鳴る。落語らしいくすぐりと言えるかも知れないが、この場面、季節感は統一させたい。 落ちの前の「新町の幇間」は「新調の太鼓」の洒落になっている。古くは幇間の名前が「新朝」だった。落ちが分からないので、釣りをして大騒ぎ、自分の口を釣ってしまい、「こんなものがあるから危ない」と針を捨ててしまうところで下げている演者が多い。私の見た高座では、本来の落ちまで演じたのは柳亭さん馬の一度きり。 春風亭柳好(3)は、食べ物の好みから道楽へ、そこから釣りへと導いて枕にした。三遊亭円遊(6:俗に(4))は道楽から入って狩り(猟)から釣りへと導いている。 【一言】  今の落語家、ま、噺家は、『野ざらし』のなかで「さいさい節」をちゃんと唄っていない。それを唄わずともパーソナリティで保(も)たせるだけのものを持っているならいいが、それがなくて古典を演るのであれば、せめて「さいさい節」は覚えておくべきだ。(立川談志(7:自称5))





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Last updated  2025.10.21 05:18:04 コメントを書く


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名無し@ Re:落語「と」の86:とろろん(05/12) 「デロレン左衛門」は「デロデン祭文」では…
モルモタマ@ Re:65:油屋猫(あぶらやねこ)(10/21) これは小咄で、桂米朝が小咄ばかりを演じ…
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