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隣り合ってるHさんとの間に割り込んだ
I先生の顔が悪戯っ子のような顔に見える。
「今だから言えるのですが」
M先生のご息女が憧れたと言う白髪の
ジェントルマンで若しかして(恐妻家)らしい
方が少年のようにはにかんでいます。
「実はわたし、相当のワルだったんです」
家には芸者さんが大勢いたそうです。
其処のボンボンですから春の目覚めは当然
早かったのでしょう。
中学時代(旧制)の夜遊びは桁外れだったらしい。
今は公園になっていますがそのころはくさ原だった
ところで酔って寝てしまったそうです。
折りしも頭上には春の満ちたおぼろ月が浮かんでる。
夜露に濡れた頬の冷たさに気付いたI先生の傍らに
何と三味線を抱えた若い芸者が寝ていたそうな。
当然、学校の方は卒業も危ぶまれる状態で。
地元の学校でありながら寄宿舎に放り込まれた。
珍しいと周りから噂されたそうですが今でも尊敬
しているK・S校長の計らいで無事卒業出来たとか。
と、言う事はI先生の放蕩無頼はそのまんま続行さ
れた様です。
「わたし、お酒呑まなくても酔えるんです」
とウーロン茶しか飲んでないI先生(若き日の酒豪)
の頬は薄っすらと紅を刷いて確かに酔ってました。
謹厳実直を絵に描いたような漢詩の大家にもそ
のような青春があったと言うことに羨望を禁じ得ま
せんでした。
90歳になられたI先生と出会えて青春時代のお話
を伺えたことは貴重な物でした。
まさに人生は人との出会いで紡がれる物ですね。