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12月初旬、冷たい風が冬の訪れを告げる季節。東京の小さな商店街の一角にある雑貨屋「春日商店」は、年末の忙しさに包まれていた。この店を経営するのは、50代半ばの春日佳乃。彼女は夫を亡くしてから10年、一人で店を守り続けてきた。
佳乃は、今年もお歳暮の注文が増え始めたことに気づいていた。毎年この時期になると、お得意様や近所の人たちが大切な人に贈る品を求めて来店する。最近はインターネットでの注文が主流になり、商店街の店も少しずつ客足が減っていたが、お歳暮の時期だけは違う。「贈り物を直接選びたい」という人たちが、この店を訪れるのだ。
ある日の午後、ひとりの若い女性が店に入ってきた。30代半ばの彼女は、スーツ姿で少し疲れた様子だった。
「こんにちは、どんなものをお探しですか?」佳乃が優しく声をかけると、女性は少し緊張した顔で話し始めた。
「実は、お歳暮を贈りたいんです。でも、こういう贈り物って初めてで……どう選べばいいのか分からなくて。」
彼女の名前は佐藤彩香。都内の広告代理店で働いており、忙しい日々を送っていた。お歳暮という習慣には馴染みがなく、会社の先輩に「取引先やお世話になった人に贈るべきだ」と勧められたが、何を選べば良いのか迷っていたのだ。
佳乃は微笑みながら、店の一角にあるお歳暮コーナーに彩香を案内した。そこには、伝統的な和菓子や地元の名産品、さらには佳乃が自ら選んだ特別な品々が並んでいた。
「お歳暮は、日頃の感謝を込めて贈るものです。贈りたい相手を思い浮かべながら選ぶと、自然と良い品が見つかりますよ。」
佳乃の言葉に、彩香は少しだけ肩の力が抜けた。彼女は取引先の名前を思い浮かべながら、それぞれの好みや趣味について考えた。
「例えば、このお茶のセットはどうでしょう?寒い季節にぴったりですし、リラックスする時間を贈るのは素敵なことです。」
「それに、この和菓子は地元で評判なんですよ。お正月の来客時にも喜ばれます。」
佳乃のアドバイスを聞きながら、彩香は少しずつ候補を絞っていった。そして最後に選んだのは、上品な包装が施された煎茶の詰め合わせと、彩香の地元で作られた焼き菓子のセットだった。
「これにします。きっと喜んでもらえると思います!」
彩香の顔には、初めてお歳暮を贈る不安と同時に、期待と喜びが混ざった表情が浮かんでいた。
佳乃は包みを丁寧に仕上げながら、「贈り物は、渡す瞬間だけでなく、その後も心に残るものです。きっと良いご縁が続きますよ。」と語った。その言葉を聞いた彩香は、初めてお歳暮の本当の意味に気づいた気がした。
仕事の義務として始めたつもりのお歳暮だったが、実際に贈る相手を思い浮かべることで、「感謝を形にする」ことの大切さを知った彩香。これが彼女にとって、新たな人間関係の一歩となるのだった。