現実逃避所 Ally of Jastice

May 15, 2005
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カテゴリ: 趣味のハナシ
トーストの最後の一口を食べ終えたビビは、歯を磨いてリュックを背負う。
「あら、どこか行くの? 」
階段から降りてきたビビの母親が問う。
「とぼけてるの、お母さん? 今日は月曜日でしょう。学校」
「ああ、学校ね。いってらっしゃい」
ヴァネッサは寝ぼけながら相槌を打つ。
「ねぼけてるの? それとも痴呆症? 」
「どうして? 」
「今日が月曜日ってことは、大人も仕事があるんだけど」


ビビは小学生の割にマセていたというか、生意気だった。
19歳という年の離れた兄を持つからなのか、あまり子供らしい無邪気さを見せなかった。
「おはよう」
淡々と道を駆ける同級生1人1人に言う。
どこか少し、冷めた目で。
同級生はみな汗をかいて必死に走り、チャイムの中、校門をくぐり抜けている。
「貴女の兄のプトレマイオスは、そりゃあ優等生でした」
校門で待ち構えていた担任教師のビアンカ・スターゲイザーは言った。
何も言わずすたすたと歩くビビに哀れみをこめた視線を送り、彼女は続ける。
「ビビ、今日も遅刻です」
「そうですね」

「そうですか」
彼女の生意気さはとどまることを知らない。
まるで1000回目の遅刻なんてどうと言ったことでもないような顔をして――実際どうでもよかったが――ビビは言ってのけた。
「先生、このチャイムはホームルームの始まりのチャイムですけど」
「それが何か? 」

言い終わるか終わらないかのうちに、ビビは角を生やしたスターゲイザーのもとから駆け出した。

その日の一時間目と二時間目はビビの好きな歴史だった。
今日の課題は『魔術に対しての意見文』を書くことで、これの内容で評価が決まる。
大好きな歴史だが、評価はいつも決まってCだった。
ビビは、自分が魔術を毛嫌いしていること――確かに魔術と呼ばれるものは存在したが、その実態は古代文明の科学技術で、人々がイメージを抱いている『魔術』とは異なるだろう事、その理由に現代に科学技術は伝わるけれど、不思議魔術の類が見当たらないことを書いて、ABCの3段階評価でC(D)を貰った。
前回の『偉大なる古代魔術師に対する意見文』のC(E)評価よりはずっとマシだ。
「ビビ、またCだった? 」
休み時間、からかい半分に同級生のテッドが尋ねてきた。
「Cは、Cだけど、特上よ。C(D)評価」
いたずらっぽく笑って返した。
「おお、やるじゃん! おれはただのCだった」
「C? 腕あげたじゃん。このあいだはBだったでしょ」
「だってさぁ、みんなおかしいよ」
唐突に語り始めるテッドに、小さく反論する。
「テッドもだけど」
「ちょっとだけ黙って聞いてくれ」
その表情がとても語りたそうだったので、ビビはテッドの話を黙って聞くことにした。椅子の上であぐらをかいて、ひじをつく。
「みんなお腹の中では魔術はないって思ってるのに、学校の勉強になったとたんおせじをペラペラペラペラ、考えもしないようなことをスラスラスラスラ並べ立てるんだ」
「知ってる」
「で、でもおれはそれが嫌だ。もちろんお前もな」
「うん」
小さく頷いた。
「それで、だ。不思議に思わないか? 」
「何が? 」
「大人たちもみんな魔術なんてなかった、あったらなくすべきだって考えてる。スターゲイザーたち教師も同じだと思う。社会では、そういう考えでいっぱいなんだよ」
そこまで一息にまくし立てると、テッドは自分で腕を組み1人で頷いていた。
まるで自分の意見を頭の中で確かめているように。
一方ビビは、今までそんなことを考えたことは無かった。
しかし、テッドに言われて考えてみると、なるほど確かにC評価を持ち帰ってもお父さんもお母さんもそして兄のプトレマイオスも、口をそろえて「よくわかる、たしかにその通りだ」しか言わない。
それならなぜ、魔術について学校では教えるのだろう?――これだけは、いくら悩んでも答えが出なかった。
そこで、テッドに聞いてみることにした。
「テッドはどう思う? なぜ政府は教育カリキュラムに魔術の歴史を組み込むのかしらね」
「わからないな、きっとなんかあるんだろうってことくらいしか」
ビビとテッドは幼馴染だった。
そして、2人とも『LibrtyResistance』のメンバーだ――というか、LRのメンバーは2人しかいない。歴史の時間に目立つ行動をしすぎたせいで、2人はなんとなくクラスから浮いていたが、気にしなかった。
自由に反抗する。それが2人のモットーであり、現在の活動は魔術が架空のものであることをまわりに広めることだった。
「まぁいいや。とりあえずおれこれをどう父さんに説明するか考えるよ」
「テッドの家は大変ねー…お父さん、政府の偉い人なんでしょ? 」
「そこまで偉くないんじゃない? だって偉い人はみんなドルドーにいるはずだろ」
ビビの頭に、チカッとひらめきの明かりが灯った。
「ねぇ、じゃあなんで政府は魔術の歴史を教育に組み込んでるのか聞いてみてよ」
言い終えたところで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
テッドが慌てた様子で答えた。
「OK わかった。ところで、次の授業何? 」
「魔術じゃなかったっけ? 」
ビビが目をつぶり、一生懸命考えながら言った。
「……ビビ? お前どうしたんだ? 」
「あたし、何か言った? 」
「次の時間が魔術の授業だって言った」
もちろん、魔術の授業なんて存在しない。
2人は顔を見合わせた。
ビビは思わずくすくすと笑い出したが、ビビの言葉があまりにも自然だったためテッドは少し怖くなった。
結局次は科学だったが、2人は授業に少し遅れた。



その日の学校の帰り道、ビビとテッドはプトレマイオスに会った。
「ビビ、テッド! 」
後ろから小走りでプトレマイオスがやってくる。
「ああ、プトレマイオス。大学は? もう今日の講義は終了? 」
「いや……その……今日は、サボりだ。うん」
「えっ? マジで? どうしよっかな。ビビのママに言っちゃおっかな」
にやりとテッドが笑う。
「内緒にしてくれよ、テッド。今日はおもしろい話があるんだ」
よほど興奮しているのか、声が少し震えていた。
「あててみせる」
人差し指を突き出して、ビビが自信たっぷりに言った。
「もしあたったら、そこのお店でケーキを買ってから家へ帰りましょ」
「いいね」
テッドが指をパチンと鳴らす。
腕を組み、目をつむり少し考えてからビビは口を開いた。
「プトレマイオス……アンタ今日大学サボって港に行って、海賊からなんか手に入れたんでしょ? おおかた魔術がらみのことでしょーけど。魔術がどうおもしろいのかなんて知ったこっちゃないけど、今日はどうせ暇だから話くらい聞くけど? 」
100%当たっていた。
ビビは昔からやたらと勘がよかった。それに、運がいいことも多いし、なくしたものを探すのも得意だった。
もちろん、勘がいいだけではなくて、科学や古文も得意だった。ただ、どうしても普段の生活がルーズなのだ。だから、両親に褒められるのはいつもプトレマイオスだったし、学校でも特にいい成績を収めているわけでもない。
しかし、今はすっかりビビのペースだ。いつもはダメダメなビビも、プトレマイオスを相手にするときだけは持ち前の勘を生かし、口喧嘩にしろ賭けにしろ、なんでも勝ってしまう。
負けを認めて、プトレマイオスが首を振る。
「ばっちり。ケーキはショートケーキでいい? 」
「おうよ! 」
「テッド!当てたのは私でしょ! 」
3人はティラミスとブルーベリータルト、チーズケーキを買ってビビの家に向かった。

「これが例の魔術石と、本。それから護石」
そういってプトレマイオスが机の上に並べたのは、白っぽい握りこぶし大の石と、くしゃくしゃで古文が書かれた古びた羊皮紙でできている本、そして透明なガラスのような小さな石だった。
今、3人はプトレマイオスの部屋――ビビの部屋の向かいだ――にいる。
ビビもテッドも、彼の部屋に入るのは久しぶりだった。
テッドにとっては、ビビの家に来ること自体が久しぶりだったが。
「これが、どうしたっていうの? 」
「だから、今朝港で海賊にもらったものだよ」
「で、それがなんなんだ? 」
テッドがにやにやして、いつものからかい調子で聞いた。
「さぁ、何に使うかはわからない。この本に詳しく書いてあるみたいだけど、古文で書かれていてよくわからない」
「古文ならあたしが得意よ」
ビビが得意げに言った。
「でもこれは、だいぶ古い文字で、大学の資料室にも手がかりは何もなかったんだ」
「それ、なんかいわくつきなんじゃないの? タダでもらえるって、おかしいよ」
テッドが不安げな目つきで3つを見回す。
「もらうっちゃもらったけど」
プトレマイオスが肩を叩き始めた。
「労働はしたんだよ。積荷を手伝った」
「ま、あの海賊団は変なポリシーがあるから恩を仇で返すようなことはしないね、たぶん」
ビビが相槌を打った。
「あ、そうそうプトレマイオス、今日テッドとの話題に上ったんだけど……」
2人はプトレマイオスにどうして政府は歴史で魔術を教えるかを聞いた。
「こないだ言ったろ? もうすぐ事件が起きるんだよ。だから、そのときに備えて魔術を歴史で教えてるんだよ。そもそも魔術っていうのは、アースで生まれ、トリクスに伝わったと言われていて……」
彼の話は、えんえんと続いた。
「で、ここからが大事だ。今まで俺の大学では教授が十何年間も魔術の真の発祥地、アースについて調べていたんだけど、アースはAD3000、イリス星と融合したんだ。アースは文明の進んだ国で、全てが電気信号になっていた。――が、それはやはりこの世の秩序を乱すようだった。人々は死に絶え、電磁システムが生き残り文明の信号はを全てイリス星にくっつけたんだ」
「うそぉ!? 」
すっとんきょうなこえをあげるビビ。
「それで……」

プトレマイオスの話が長くなったところで、テッドが思い出したように言う。
「あ、そうだ。おれもうかえんなきゃ、今日の夕飯カレーなんだ」
「あ、いいなー! ずるい」
「ケーキご馳走様ッ! 」
「こらテッド!」
虚しく声をかける兄妹をよそに、テッドはカレーを目指して走っていった。
遠くから、「ヴァネッサおばさんさよーならー」という声が聞こえる。
「プトレマイオス、テッド帰っちゃった」
「ま、いいか」
ため息をひとつ、ミルクティーを飲みなおすプトレマイオス。
「この護石なんだけど……ビビ、不思議な力感じるだろ? 」
透明な小さな石を、ビビの手のひらに乗せる。
「うん。プトレマイオスは? 」
「そんなもの感じないよ。――はは、変だよな。お前は魔術を信じてないのになんか感じるなんて」
けらけらとプトレマイオスは笑った。
「で、どんな力感じるんだ? 」
「わかんない。なんか、いつもの勘が絶対当たりそうな感じとか」
「そっか、ありがとう」
「えー…あー……それにしても、なんで? なんでわかったの? 私がこの石から何か感じてるって」
プトレマイオスが少し微笑んだように見えたが、それは気のせいかもしれないとビビは思った。
「なんとなく。これ、ビビに渡しとく」
透明で小さな古文字の刻まれた護石が、ひんやりとした感触を伴いプトレマイオスの手からビビの手に滑り落ちた。
ビビは、その石から少し光を感じていた。
そして、何か熱いエネルギーが体に満ちる感じがした。
「護石だから、お守りとして身に付けとけ。もし魔術が込められてたらお宝だ」
「魔術はまっぴらごめんよ」
今日の休み時間の終わりの魔術の授業の話をプトレマイオスに話そうかという考えがビビの頭をよぎったが――というか、もう相談するつもりでいたのだけれど――ヴァネッサから食事の合図が入り、その日はお風呂に入り宿題をして眠りについてしまった。





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Last updated  May 15, 2005 06:00:51 PM
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