幼幻記2 あーちゃんのハイヒール





あーちゃんのハイヒール 幼幻記2



 あーちゃんと一緒に夜の早い時間に出かけた。
 あーちゃんは出かけるときはいつもきれいにオシャレをする。

 今日は初めてハイヒールを履いてのお出かけだ。
 ぼくはハイヒールをぎこちなく履こうとするあーちゃんを心配そうに見ていた。
 ばあちゃんは「ケサ子、大丈夫か?」と声をかける。
「大丈夫よ」と答えるあーちゃん。

 なれない曲芸をするかのように、均整を取りながら歩き始めた。
 暗くなっているのにも関わらず、あーちゃんはぼくの手を取るわけでもなく、綱渡りをするようにゆっくりとぎこちなく歩く。
 自宅から歩いて5分ぐらいの鉄砲屋町岩倉まんじゅう店の近くまで来ると、あーちゃんはついにハイヒールを脱いだ。

 爪先やかかとを手で摩る。
ぼくは心配で「あーちゃん、あーちゃん」と声をかけるがあーちゃんはしかめ面をして、
「ああー痛い……」と何回も繰り返して言った。

 そんなあーちゃんが、ぼくはだんだん恥ずかしくなってきた。いつの間にか周りは暗くなっていた。家にどうやって戻って行ったかは覚えていない。


 2005年7月11日記

解説 まだ3歳のときの昔々の想い出です。「あーちゃん」とは私が呼んでいた母親の愛称です。ハイヒールがまだまだ珍しいときの出来事です。黒いハイヒールでした。

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