月のひかり★の部屋

月のひかり★の部屋

2006年04月10日
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2日前、良いお天気の日にいち時(どき)に開花した桜はこの長い雨に濡れて一体どんな風になっているだろうかと、例え気になったとしても、実は私って昨日から気分が優れず今日は朝から自分の部屋の中で寝たり起きたり、眠ったりの繰り返しばかりだったので、わざわざ今から外に出て桜の様子を確かめに行くほどの勇気をまだ復活させてなんかいないのである。

ベッドに座った儘、私はラフマニノフのピアノ協奏曲を聴きながら、白いレースのカーテンの半分ぐらい開かれた透明の窓ガラスの向こう側に拡がる庭の風景をじっと眺めていた。

つい昨日まで咲いていたピンクの梅の花はいつの間にかすっかり散ってしまって、まるでパズルの迷路みたいに複雑に絡み合った細い枝には早くも限りなく沢山な青い新芽が出揃っている。

その横ではハナミズキがまるで舞台裏で今か今かと自分達の出番を待っている踊り子達のような初々しい蕾を枝にいっぱい付けて降り注ぐ雨に濡れながら時折吹く風に揺れている。

刻一刻と自然界は休むことなく活動を続け、季節はどんどんと移り変わって行く。

それにしても、深刻なようであって、それでいて充分ロマンチックで美しいラフマニノフのこの曲って、今日のような状況の私の心と、雨の降り注ぐ春のこのような情景に何とよく調和していることだろう。

音楽は確かに人の心と体を慰め癒す力を持っている。

つい先ほどお昼を食べた後に作ったダージリンの紅茶を一口飲むと、次に、いつか塾の帰りにスーパーのお菓子売り場の棚に並んでいるのを珍しいからと思って買って来たギリシャのスナック菓子の袋を破って、中から一つつまみ出すと、かりかりとかじった。

スナック菓子は思ったより固くて、かじる音がぼんやりとした脳を刺激するみたいで心地良い。

(なるほど!ギリシャの人達ってこういう塩味も好んで食べるのね!塩味の好きなのは日本人だけかと思ったらそうではないんだわ。)

ほど良い甘さと塩辛さが口の中でミックスされて、昨日からの何とも言えない重苦しい気分の
悪さから次第に解放されて、再び正常な爽やかな感覚が自分の中に充満して来るのを感じた。

昨日は熱もあってとても辛かったけれど今になってみると、それもまた却って良かったのだという気がする。

何故なら、そのお蔭でこんなにゆっくり寛ぐことが出来たんだから・・ここ暫く私ってあまりにも時間に追われるような忙しい日々の連続だったから。

ついでに今夜の個別の塾の仕事もキャンセルにして別の日に振り替えて貰っても良いし・・
なんて考えまで一瞬頭を過ぎるが、そこまで決心してしまうのは幾らなんでも思慮に欠けたことになって普段の私らしくないだろうと再び気持ちを白紙に戻してそんなことは考えなかったことにする。

いずれにしてもどんな時にもプラス思考であることは良いことに違いない。

数週間前、大学の心理学科を受験する高3の生徒がいて、過去に出題された小論文の課題を使って小論文を書く勉強を一緒にしたことがあったが、何故だかその時のことがふと、甦った。

AさんとBさんとCさんの3人が道を歩いていると、向こうの方から一人の人が歩いて来た。

その人は泣いているのか、ハンカチで目の涙を拭いながら歩いて来たが、間もなく3人の横を通り過ぎてどこかに行ってしまった。

Aさんは「あの人は今日とても嬉しいことがあったのでそれで思い出して感動して泣いているのだ。」と言った。

Bさんは「いいえ、違います!あの人は今日とても悲しいことがあったので、それで悲しいことを思い出して泣いているのだ。」と言った。

二人はお互いに自分の方が正しいと言っていつまでも口論を止めず、ついに何も言わないで黙って聞いていたCさんに「貴方が私達の中のどちらが正しいのか決めて下さい。」と頼んだ。

「さて、あなたがCさんになったつもりで、二人に対してどのように言うのが最も適切であるか、それを考えて600字にまとめて書きなさい。」というのがその時の小論文の課題であった。

生徒と私は暫くの間、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を繰り返した結果、この二人はそれぞれどちらも間違ったことは言っていない。

二人の人の育った生い立ち、環境、状況によって同じ物を見ても全く違った物に見えるのは当然のことだから。

同じ黒い絵を見せても或る人には魔法使いのお婆さんの横顔に見え、或る人には美しい少女の横顔に見えるという心理テストが確かあったがあれと同じことで、結局AさんもBさんも二人とも正しいのだという結論にまでついに達したのだった。

(と、言うことは、人生で遭遇するすべてのことは良いことだと言えるではないか!)と、あの時私はまるで哲学者が何かの大切な真理を発見した時のように、自分もまた何かを確かに悟ったような気がした。

今から思えば至極当たり前のことが判っただけに過ぎなかったのかもしれないが、生徒も私もまるで鬼の首でも取ったように嬉しがった。


気がつくと、部屋の中も外も夕闇色に包まれ、ラフマニノフの曲もいつの間にか終わっていた。

その時、突然携帯電話の着信音が鳴り響いた。

ディスプレイにはメールが届いている印しが出ている。

「先生、いきなりですが、今夜の国語の勉強を他の日に振り替えて頂けないでしょうか。もし、駄目なら予定どおり行きますので、お返事お願いします。」

(まぁ!やっぱり・・!)

「不思議ですね。今日は体調がすぐれないので、私もちょうど振り替えて頂きたいと思っていたところでした。」

と、私も早速キーボードの文字を打った。

                     (完)

























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最終更新日  2006年04月17日 04時42分53秒
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