月のひかり★の部屋

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2006年05月18日
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先程から私は中学2年生の健ちゃんと学習塾で国語の勉強をしている。
私は学習塾の個別の国語の講師だから・・・
この仕事をするようになってから、早いものでもう10年以上になる。
教科書の漢字ばかりぎっちりと並んでいるページを開けて、一つ、一つの漢字が書けるかどうかノートに順番に書いて少しでも沢山覚えるように勉強をさせている。
(漢字を覚えるなんて私が中学生の時は誰にも手伝って貰わず自分で何度もノートに書いて覚えるしか無かったんだけれど・・今は贅沢というか、過保護というか・・こういう時代になるなんて考えもしなかったわ・・・)
近頃学校では先生によく叱られて(一体どんなことが原因で叱られるのかよくは判らないが・・)男っぽい健ちゃんの良さを充分出し切れなくて、何だか冴えない顔をしているけれど、漢字は中学2年生としてはかなりよく書ける方だと思う。
(もっと、自信を持てば良いんだけれど・・・心配しないでもきっと、今にそうなるに決まってる・・)
一つ一つの漢字を使った熟語も下の欄に5,6個ずつ並んでいて興味深い。
「分岐点」というのもあって、健ちゃんがそれをノートに書いているのを横から見ていたら何だか急にその言葉が自分にとって特別な意味を持った言葉のように思われて来た。
「分岐点って、なかなか素敵な響きの言葉だよね!」
「そうかなぁ・・」
「そうよ!分かれる所、また時。「鉄道の分岐点」などと使うと国語辞典には書かれているね!」
「そう・・」
「『分岐点』なんて題を使って、小説書いたらちょっと素敵なんだけれど・・」
「書いてみたら・・・」
「そうだね・・書いてみようかな・・」
「・・・・」
その時、私の頭の中にはいつか本で読んだ二つの物語が急に浮かんで来た。

一つはサンダーシングという人の書いた本の中にあった物語り。
「神様を信じている一人の人がチベットの山道を歩いて旅を続けていると、同じように歩いて旅をしている人と出会ったので、二人は一緒に旅を続けた。とても寒くておまけにその日はひどい吹雪だった。二人が歩いて行くと誰かが雪の中で倒れていた。お腹を空かせていて、寒さの為にその儘放っておいたら今にも死にそうだった。神様を信じている人はその人に少し食べ物をあげて一緒に連れて行こうとしたら、もう一人の人が反対をして言った。
「そんな人は放っておきましょう!こんな吹雪なのに一緒に連れて行ったら足手まといになって、私達までが死んでしまうことになりますから・・」
「いいえ!放っておく訳にはいきませんよ!一緒に連れて行ってあげましょう!」
「そうですか!じゃぁ、勝手にして下さい!私は先に行きますから!」
そう言って、もう一人の人は自分だけどんどんと歩いて行ってしまいました。
神様を信じている人は倒れている人を背負って、ますますひどくなった雪の道をふぅふぅ言いながら少しずつ歩いて行きました。
いくら寒い時とはいえ、背中に背負った人が重くて、しかも、その人の体温も背中に伝わって来て汗が出るほどでした。
吹雪はますますひどくなるばかりでした。
少しずつ、少しずつ歩いて行くと、誰かが道に倒れていました。
見れば自分を放って置いて、先に行ってしまったあの人ではありませんか。
その人は寒さの為にすでに亡くなっていました。

もう一つはブィクトール・E・フランクルの「夜と霧」という本。
ナチスによって強制収容所に入れられていた心理学者フランクルという人の実際の体験談はあまりにも強い印象として今も私の心の中に残っている。
フランクルは他の人達のように自分を守ることばかり熱心にならず、自分は精神科の医師という使命を最後まで持って進んで行こうと決心していた。
或る時、看守がやって来て、
「この中にもし医者がいたら出て来るように、今日別の場所に移動して、そこで働いてもらうことになるから・・」と言った。
「私は精神科の医師です。」
早速、フランクルが言うと、
「では、もう少ししたら呼ぶから外に出て来なさい。」と看守がいった。
「馬鹿だね!あんたは・・あんな風に看守は言ってるが、実は全くのでたらめで、一緒に連れて行かれたら大抵は電気室で殺されてしまうことになるってことをあんたは知らないのか?」
他の人達が馬鹿にして笑って言った。
「良いんですよ!私は医師ですから!もしも、そうなって死んだとしても、医師として死ねれば本望ですから・・」
予定の時刻になって看守に呼ばれたので、外に出て行くとトラックに乗せられた。
トラックが走り出して暫く進んで行った時、何気なく後ろを振り返って見たら、何と!今自分が出て来たばかりの収容所が真っ赤な火に包まれて燃えているではないか!先ほどまで一緒に過ごしていた仲間の人々は全員死んでしまったのだった。
フランクルは「私は収容所の中にいる時、何度も自分がどちらの道を行くべきか選択しなければならなかったが、いつも医師として人々の役に立つ方を選びながら進んで行き、奇跡的に強制収容所から脱出することの出来た数少ない人の一人である。」と述べている。

サンダーシングもフランクルも二人とも確かに「分岐点」に立たされた時があった。
どちらも同じ道を選んで、無事に命を得ることが出来た。
二人だけではなく誰の人生にも必ず「分岐点」がある筈である。
どちらの道を選ぶかは人それぞれで全く自由であるが・・・
早速、これを材料に今夜「分岐点」という題の短篇小説を書いてみたいと思う。
塾で国語の個別の講師なんかしていると、こんな風に得をすることも沢山あるんだから・・

「あ!健ちゃん!漢字は後もう少し書いたらお終いにしょうね!今日もよく頑張ったわね!」

ー完ー




















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↑のキリ画はHP≪Azusa≫より















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最終更新日  2006年05月19日 04時31分49秒
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