不況にあえぐ出版社にとってデジタルは、再び成長路線に乗るための最後のとりで。まして辞書は長い時間をかけて育て上げた、出版社ならではのかけがえのないお宝。スマホブームのおかげで「知の財産」が広くあまねく国民に広がれば、その意義は大きい。小学館の挑戦は、デジタル戦略に悩む出版社にとって大きなヒントを与えてくれそうだ。
「なぜ、新しい辞書の名を『大渡海』にしようとしているか、わかるか」「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」「海を渡るにふさわしい舟を編む」--。辞書編さんに携わる主人公、馬締(まじめ)光也の活躍を描いた三浦しをんさんの小説「舟を編む」の一コマだ。全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ「2012年本屋大賞」に選ばれ、4月に映画化されたのは記憶にまだ新しい。8日には映画のDVDも発売された。辞書を愛し人生のすべてをかける小学館の「馬締君」が、大辞泉を担当する板倉俊プロデューサーだ。ただし馬締君と違ってこの道約30年の超ベテラン編集者で、デジタルにも明るい。「紙ではできないことを何でもやれるのがデジタルの面白さ。中身の良さを技術の力で引き出せば辞書の世界での力関係をひっくり返せる」。板倉氏はこんな野望を持つ。
小学館が今、デジタル戦略の旗印として掲げるのが大辞泉のスマホ版だ。2008年に登場した初の国語辞書アプリ(応用ソフト)の後継版を5月に投入。ソーシャルゲームの概念を採り入れるなど斬新な工夫が大いに話題を呼んだ。既に12万人以上が日々の生活で役立てている。無料で検索できるのは15語までだが、15分たつと1語ずつまた検索可能になる。お金を払えばすぐに15語まで復活する。今までにないこんな工夫が人気の理由だ。敵からダメージを受けると一定時間たたなければ先に進めなくなり、プレーを急ぎたいなら時間をお金で買うソーシャルゲームとそっくり。辞書を引くのが楽しくなったと、若者たちの心をつかんだ。
アプリの価格を前バージョンの2000円から無料に変えるのは相当悩んだという。大辞泉は編さん開始から約50年近くたつ由緒ある国語辞書で、紙を買ってくれた読者は1万2600円(税込、12月までの特別価格)も払ってくれている。
最終的な決め手になったのは「本当に使ってほしい人が買えない辞書アプリに何の意味があるのか」(板倉氏)という気持ちだった。有料なら紙の読者の置き換え需要ばかりしか見込めないが、「無料なら1日数万人が新しい読者としてファンになってくれるかもしれない。特にお金がなく勉強に辞書が必要な10~20代の若者にこれを届けたいという思いが勝った」。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXBZO62277850Y3A101C1000000/?n_cid=DSTPCS003
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