<Sandy Bridgeがやってきた>
「Sandy Bridge」と聞いて、「あ、インテルの新しいCPUね」とピンと来た方はパソコン好きでなければ相当にハイテク業界のロードマップに精通している方のはずです。1月5日にラスベガス(CES2011の会場)で正式発表され、そして9日から日本でも販売が開始された新しいCPUが「Sandy Bridge」です。実際に私たちが買う時には、「Core i7 2600K」などといった形式番号になり、パソコンを買う時も「新CPU、噂のCore i7 2600K搭載」なんて表示になるのだと思いますが、私が「今年もハイテク株が面白くなる」と念仏のように唱えている理由の一つは、これによります。
<何がすごいのか?>
この「Sandy Bridge」は何が従来品と変わってすごいのか? ということを一言でいうと「CPUコアとGPUコアがひとつのダイに搭載された」ということです。「またこいつ、専門用語で煙に巻こうとしているな」と言われてしまいそうですので、ちょっと平易な説明を試みてみます。
パソコンの中には色々な半導体が使われているということは以前にもお話ししましたが、その代表的なものとしてはまず以下の4つがあります。人に例えるならば(1)頭脳にあたる中央演算装置(CPUともMPU共呼びますが以下CPUに統一します)、(2)頭脳が計算をする時に書類(データー)を広げるデスクの役目を果たすメモリー、(3)それらの結果をモニターに絵として表わすために描画データを計算するグラフィックチップ(以下GPUに統一します)、そして(4)それらの信号を整理して連絡役を務めるチップセットの4つです。
ただ最近の技術革新の流れの中では、これらの半導体の立ち位置が少しずつ変わりつつあります。例えば従来のパソコンではCPUとメモリーとはチップセットを介してデータのやり取りをしていましたが、より高速を求める流れの中で、チップセットを介さずにCPUとメモリーとが直接データのやり取りをするようになってきています。
またGPUについても、そもそもオフィス環境で使うような高度な描画性能を求める必要のないパソコンにおいては、その機能をチップセットに持たせてしまうというような流れは昔からありました。ただその一方で、3DゲームやHD動画などの高度な演算処理を必要とする描画のためには、どうしても高性能なGPUを別に搭載しないとならない状況が続いています。実はここに「Sandy Bridge」が凄いところがあります。
<CPUとGPU>
パソコンを買う時、どうしてもカタログ上で目が行ってしまうスペックのひとつは「どんな高性能なCPUが搭載されているか」という点だと思います。それはパソコンの一番の肝は頭脳であるCPUにより決まると思われているからなのですが、実はCPUの演算能力とGPUの演算能力を比較した場合、必ずしもCPUの方の能力が高いとは言えないのです。場合によってはGPUの方が、はるかに演算処理能力が高い場合があります。
これを簡単に説明すると、CPUはゼネラリストであり、GPUはスペシャリストだといえばお分かり頂けるでしょうか? CPUは基本的にパソコンに要求される色々な演算処理を何でもこなさないとなりません。メールやインターネットの処理もそうですし、ワードやエクセルの処理もそうです。文字を書いたり、変換したり、四則演算をしたりと何でもこなさないとなりません。
一方、GPUは絵さえ書いていれば良いのです。というより、絵を描くために特化した処理性能を与えられたと言えます。しかしその代わり、どんなに難しい絵を瞬時に描けと言われてもそれをこなさないとなりません。例えば波打つ水面に映る白い波頭とその中の透明感などというのは、極めて描画することに高度な計算処理が求められます。
余談ですが、米国PIXAR社の制作した映画を観ていくと、その時代のGPU処理の技術レベルが解ります。例えば「モンスターズ・インク」では主人公のサリー(青い動物)の毛並みだけがふさふさとしていますが、あとの登場者のそれは動きません。一匹分の処理が限界だったのです。「ファインディング・ニモ」になって初めてきらきら光る水面をカクレクマノミが泳ぐ姿が描かれます。こうしたフワフワした自由気ままに動くようなものの処理が本当は一番難しいのです。当時のこの会社のオーナーがアップル社のCEOであるSteve Jobs氏であったことは有名ですが、描画処理というのはコンピューターにとって大変難しいものだということのひとつの証明でもあります。
そしてこのGPUというスペシャリストの能力が、近年極めて注目を集めており、これを取り込んだのが「Sandy Bridge」ということになります。
<動画を処理する>
近時パソコン市場の主役は法人から個人に変わりました。従来は値段が高かったこともあるのでしょうが、パソコンは会社にはあるけれど自宅にはないということが多かったことが証明するように、以前パソコンは法人客が主要セグメントでした。しかし、近時状況は一変し、パソコンの総需要の6割以上が個人にとって代わりました。パソコンが会社のデスクや自宅の書斎などにあった時代から、リビング・ルームに出てくるようになり、パソコンでテレビを観たり、撮影したビデオ映像を観たりすることが多くなったのがその背景にあります。「主戦場はリビング・ルーム」と謳われたことが現実となって来ている証拠です。
そこで求められる能力のひとつが動画を処理する能力です。実はある程度のことまではCPUで演算処理可能ですが、ちょっとレベルの高い処理になるとCPUでは無駄な時間がかかったり、必要以上にヒートアップ(過熱)したりしてしまいます。コマ落ちと言われるような現象が起こります。優秀なゼネラリストは何でもこなしますが、その分野に特化したスペシャリストには適わないのと同じことです。そしてこのGPUの処理能力はこうした特化した計算をさせたらとても優秀なのです。ひとつの参考例としてはある有名大学のスーパー・コンピューターは、エヌビディア社製のGPUを大量に使って抜群の処理性能を誇るものに仕上がっています。このGPUの能力を個人の需要が高まっているパソコンが使わない手はありません。
<CPUとGPUの同居から同体へ>
従来、CPUとGPUはチップセットを介して繋がっていました。これは先程のメモリーとの関係でも同じで、より密接な関係にあった方が処理能力が早くなるということで、直接接続するという方法も始まっています。しかし、それでもまだ遅い。次なる手段としては、ひとつのCPUパッケージの中で、CPUとGPUのそれぞれのダイ(シリコンウェハーから切り出したままの状態)を一緒にパッケージしてしまうという方法が取られました。しかし、それでも当然別々のシリコンですから、まだ遠い(数ミリですが…)。ということで、「Sandy Bridge」ではひとつのダイの上にCPUコアとGPUコアを描き上げてしまったのです。一言で言うととても簡単な話のようですが、チップサイズの問題や発熱の問題など、多くの困難を克服して初めて出来た技術です。
<動画処理が抜群に速くなる>
これによってもたらされる大きなメリットは動画のエンコーディング処理がとても速くなったということです。現行の「Core i7」シリーズでもかなり速くなったと感じていましたが、更にこれが早くなるようです(まだ実際に手にしていないので、インテルのプレゼンの受け売りですみません)。
テレビやパソコンで観る映像をそのままスマートフォンやタブレットPCで、或いはカーナビなどでシームレスに観るようにするには、それぞれのデバイスにあった動画形式に「エンコーディング」という処理をしないとなりません。しかし、今まではこれらがとても処理時間がかかるか、手間暇がかかりました。だから一部の先鋭的なマニア(つまり私のようなオタク)でしか行われていなかったものですが、これで一般化する流れがハードの面で整ってきたということが言えます。処理能力が上がっていれば、あとはアプリケーションの問題で手間暇は解決しますから、それは時間の問題です。これでいよいよ多くのフォーマットで動画を観ることが簡単な時代の幕が開きました。
<ブロードバンド・ワイヤレスも整ってきた>
当然のことながら、こうした流れを加速させるもう一つの要因はネットワーク、それもワイヤレスの環境ということになります。昨年末、ドコモが始めたXiというLTEサービスもきっとこれに一役買うでしょう。この手のブロードバンド・ワイヤレスの技術トレンドはこれから3.9Gから4Gへと加速していきます。その陰には爆発的に普及しているFacebookなどのSNSがあることも忘れてはいけません。SNSについては参加してみないと解らないかも知れませんが、今全世界で爆発的に広がり始めています。
<まずは手に入れてから>
と、ここまで大風呂敷を広げてから言うのもなんですが、さすがにまだその「Sandy Bridge」搭載のパソコンは私もまだ作っていません。現在、どのマザーボードを使って、どのスペックのそれで新しいパソコンを組むかということを検討している最中です。新しいパソコンができあがって、安定稼働して実感するものを確認したら、この件の続きについてはあらためてご報告することとしたいと思います。
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CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第90号 2011年1月14日発行より) ==========================================================