全79件 (79件中 1-50件目)
<“PBR1倍”割れが底値にならないのは当たり前>日経平均株価が9,000円台を下回ってから既にふた月近く、更に言えば、PBRが1倍割れとなる水準を下回って早3カ月近くが経とうとしています。東日本大震災によってドスンと下がった後にリバウンドがあり、「ショック安は終わったからPBRの1倍水準が株価の下値目途になる」という説が一般には信頼されました。確かにGWの狭間には一日だけ辛うじて日経平均株価は10,000円台を回復しました。でも私は「弱気派筆頭」と言われながらも「もう一度9,000円割れをトライするでしょう」という見通しは変更しませんでした。そして実際にPBR1倍という水準はほぼ何の意味も成さず、この夏のソブリン・リスクの高まりと共に日経平均株価はスルスルと底抜けしてしまいました。現在、新聞紙面等から確認出来る日経平均株価のPBR1倍の水準は約9,100円、原稿執筆時点(10月23日現在)においてその水準には400円超足りません。ただ結論から言えば「“PBR1倍”割れが底値になる」というのは、理論上も、今までの私の経験則からも、それは外れて当たり前だと思っています。逆に言うなら、PBRは株価の教科書的な理論としては正論ですが、実務的には極めて使い勝手が悪い、或いは実務に応用し辛い指標だと言うことも覚えておいて欲しいと思っています。もちろん、参考指標にはなります。<解散価値と株価の関係がPBRの意味>そもそも株価の根源的な価値は、ある時に企業が事業活動を止めたと仮定し、それが解散した場合に総ての資産と負債を精算した解散価値、すなわち一株当たりの純資産が元になります。それを時価と比較してあまりに掛け離れて高かったら割高と考え、その解散価値近くまで売り込まれていたら割安だと考えるということが出来ます。これを指標として利用しようとしたのがPBRという考え方です。PBRとは「時価÷1株当たりの純資産」という式で計算されます。これは正に教科書的には正当な理論です。ただ問題のその1は生きている企業のその瞬間時々の解散価値を正確に把握することは不可能に近いということです。一番単純な例を挙げれば、その企業が保有している外貨建て資産の価値を考えてみてください。輸出入をしている企業の売掛金や買掛金がそれに相当しますが、為替相場が日々刻々と変動するように、これらの円換算後の価値は日々刻々と変動します。その結果として解散価値も動きます。これは時価のあるものすべてに該当します。また生産設備や車両なども、実際に売却精算したら幾らになるかなど解りませんが、帳簿上には資産価値として計上されています。帳簿上は減価償却をしていますが、それらの総和と時価を比較してPBRを求めるのですから、中古車買取価格が車種や色などによってまちまちなことからも明らかなように、前提にかなり机上の空論的な仮定が多く含まれることはお分かり頂けると思います。因みに、日経新聞紙上、毎日の朝刊の証券面に「純資産倍率:PBR」という欄があります。そこにはこう書いてあります、「前期基準」と。どういう意味かと言えば、今現在の状況で言えば企業の資産状況を最も正確に把握する方法である前期決算の貸借対照表上の総資産を利用しているということです。3月期決算の企業の場合ならば、通常は2011年3月末で締めた財務諸表から算出される過去の数値ということになります。<終わった期の数値が表わすもの>企業は生き物です。日々事業活動を続けることで、毎日変化しています。各企業の経理部の人達に毎日仕事があるということは、毎日なにがしかの収入や費用が発生しているということです。これすなわち総資産残高に変化をもたらします。そして今年のように大災害が発生すれば、その直前と直後とでは劇的な変化を起こしていることだってあります。その一番解り易い例が東京電力でしょう。3月11日以前の東京電力と、大津波に原子力発電所を破壊された後の東京電力とでは物理的な状況だけ考えても全くの別の企業になってしまっています。「損害賠償などで債務超過になる」という話も直後から出ましたが、それすなわち解散価値がマイナスになるということです。それでも今現在、投資家として確認出来る東京電力の純資産(連結ベース)は3月決算時点で1兆6,025億円、6月末時点で1兆510億円となっています。これを元に計算される一株当たりの純資産で時価を割って得られるPBRという指標に、どんな意味があると思われますか? タイムマシーンで来年3月末の純資産が解るのならば別ですが…。<PBRが有効なのは、最低限増益局面が続いている場合>東京電力の例で明らかなように、実務でこれを利用しようとすると、現時点の純資産が特定出来ないことが最大の問題となります。問題のその2は、収益環境が悪くて最終赤字となる場合にはPBRは役に立たないということです。最終損益が赤字になるということは、企業の純資産が日々目減りしているということです。働けば働くほど、存在そのものがコストであるという状況は、どこまで先の期間でものを考えるかにもよりますが純資産は日に日に減少して行きます。仮に合理的にその瞬間の純資産を計算出来たとして、その時点においてのPBR1倍は、実は風前の灯に等しいということです。しかし逆のケースを考えると、今この時点ではPBR1倍割れの企業でも、将来の純資産(それが解るとして)で考えるとPBR1倍以上になるかも知れない例があるということです。このことからも明らかなように、少なくともPBRが有効なバリュエーション指標として役割を果たす為には、最低限最終損益が増益基調であることが必要だということです。ならば、大きな災害に国中が動揺し、企業の損益状況の行方など確からしくない局面において、PBRの1倍割れ水準が下値目途になるという議論が如何にナンセンスなものであったかは誰の目にも明らかに感じられるのではないでしょうか? (「原点回帰その2」へ続く)
2011.10.28
<原点回帰:PER>80年代後半のバブルの頃からファンドマネジャーをしているので、色々な局面、事態に遭遇してきました。映画「バブルへGO!」などというものも近年ありましたが、日経平均株価は近い将来10万円を超えると真面目に信じられた時がありました。そんな時、株価の伝統的なバリュエーション指標など、どれも機能することなどありません。そうなると出てくるのが“斬新なアイデア”のバリュエーションの見方です。当時の渦中では極めて真剣に論じられていましたので、それを振り返って後世の人が「あれは異常だった」と検証するのは容易いことですが、それこそ「後から結果を見て言うならば、誰にだって出来る」という話です。「Qレシオ」などと呼ばれた指標はその典型でしょうし、その後も強気相場の多くの局面で「EV(エンタープライズ・バリュー)」に基づく計算方法だとか、キャッシュフローを中心に考える方法だとか、色々なものが陽の目を浴びる場面がありました。今でもそれらが投資尺度の一つとして使われているのも事実ですし、それらの意味を否定するつもりは毛頭ありません。ただこの長きに亘って、最後に一番有効で、何だかんだと言いながらも、最もシンプルで使い易いバリュエーション指標と言えば、私は「PER」だと考えています。正に株式投資の着眼点の原点である「利益成長」に着目したバリュエーション指標です。「時価÷1株当たりの利益」で計算されますが、ここで使う1株当たりの利益は、通常は予想し得る一番近い将来の利益、すなわち今現在で言うならば2012年3月期決算の予想データです。日本企業ならば今期予想数値として決算発表時に開示し、それから大きく変動が生じるようならば「上方修正」や「下方修正」を発表します。米国企業の場合も「ガイダンス」という形で着地見通しのレンジを開示します。それをベースに日々把握し得るマクロ環境などをプラス・マイナスすれば良いのです。もちろん、この収益予想ということが最も難しいことであるということは、100戦100勝のファンドマネジャーやアナリストがこの世に居ないことからも明らかですが、ただ実務で使えるかどうかという視点で考えると、最も実務的なものと言えると考えます。例えば震災などの災害で生産が止まったり、或いは為替変動により円換算ベースの売上に変動が生じたりするなどということは比較的簡単に計算出来ます。また2012年3月期予想ベースと2013年3月期予想ベースとの比較なども、ある意味容易になります。例えば「前者ならば20倍だが、新製品の売上寄与と生産設備の減価償却費の減少で後者は18倍になると予想される」といった感じです。勿論「来年のことを言ったら鬼が笑う」というほどに、先々の予想の確からしさは低くなりますが、その不確かさは市場参加者の多くに同条件であるということです。誰もが同じ「不確実性」の中で判断を迫られているのですから。<大ケガをしないPERの使い方>PERを使う時のポイントとして、「大ケガをしないため」の一つのヒントをお話しします。それは同じ土俵、同じカテゴリーを超えての比較には使わないということです。また、やはり株式市場の長い歴史の中で考えて「常識判断」を利かせるということです。これも言うや易しなのですが、迷った時には一番頼りになるのは「常識」です。例えば「欧米のPERに比べて日本市場のそれは高い」というのは、土俵が違う話なので正しき面もありますが、額面通りに受け取ると一切の投資機会を失うことだってあります。ただ世界市場のそれらを比較して「新興国市場のそれは高くて当たり前」というロジックで、あまりにかけ離れて高い数値を正当化するものではありません。それこそ「常識」が役に立ちます。同じ例が個別銘柄にも当てはまります。「PER1000倍以上」なんて銘柄が時々市場の人気を集めることがあります。「IPO直後で新興企業のそれは高くて当然」と強気になる市場もありましたが、やはり「常識」はあとで正しかったことを証明しています。ただ重要なポイントとして、その中でも敢えて「火中の栗を拾う」つもりで手を突っ込まないと、全然投資収益が上がらないことがあるのも事実だということです。こういう時、教科書的な「株式投資は長期投資」という理屈は何の役にも立ちません。寧ろ「Touch & Go」で割り切って売買しないと「9勝1敗で過去の利益をすべて吹き飛ばず」ことさえ有り得ます。ポイントは「常識」です。<最終回の締め括りとして>初めて寄稿した「書を捨てよ、町へ出よう」(2008年7月25日発行)から数えて78回目の今回でこのメルマガも最終回となりました。最後のタイトルは「原点回帰」。振返ってみるとこの間だけでも「リーマン・ショック」あり、「ギリシャ・ショック」あり、そして「東日本大震災」という大変甚大な災害があり、その都度、市場は大きく揺れてきました。今、過去のアーカイブを見直してみると、やはり私がお伝えしたかったことは首尾一貫しているのですが、それは「自分の目で見て、そして自分の耳で聞いて、そして自分自身で経験し、納得した上で、株式投資を楽しんでください」ということです。常に「株を買うとは何か?」と自問自答しつつ、いつでも自分自身で「なんで買ったのか?」ということを検証出来る状態を維持してくださいということです。だからこそ、常に自分の身近なところからそのヒントが拾えるような方法をお伝えしたかったのです。そして株式投資こそ、究極の心理ゲームだと思っています。勝っている時、負けている時、いかに自分の欲望をコントロール出来るかということがこのゲームに勝つ最大のポイントであり、難しさです。「相場には神様がいる」というのが私の信条です。神様は間違えることなく、間違えるのは煩悩の多い人間の方です。私のように、まだまだ未熟者で煩悩の多い者は、常に神様に諭されているように思います。ただ安易な方法を取らず、真摯に市場の神様と向き合えば、神様は必ず微笑んでくれると私は信じています。長いことご愛読いただき誠にありがとうございました。今後とも色々な形で皆様の投資のお役に立つような情報発信は続けさせて頂きたいと思っております。今回を以ってこのメルマガは終了いたしますが、またどこかでお目に掛れることを楽しみしております。今後とも宜しくお願い申し上げます。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第107号 2011年10月28日発行より) ==========================================================
2011.10.28
<RX-8の生産終了と共に>10月7日、世界でただ1社、ロータリー・エンジンを搭載した量産車を作り続けてきたマツダが来年6月の「RX-8」の生産終了と共にロータリー・エンジンの生産をも終了すると発表しました。時は正にアップルのカリスマCEOスティーブ・ジョブズ氏の訃報が伝えられた翌日で、ハイテク・セクターとオート(自動車のこと)・セクターに常に強い関心を払ってきた者としては、二つのショックが一気に押し寄せたという感じです。勿論、ロータリー・エンジンの話の方が圧倒的にメディア的には地味であることは事実ですが、「イノベーティブな技術」を持つ会社を常に調査対象として投資活動をしてきたファンドマネジャーとしては、正直これもかなり大きなショックでした。<ロータリー・エンジンとは?>もしかすると多くの読者の方にとって、そもそも“ロータリー・エンジン”が何であるかということ自体が既にあまり知られていないことなのかも知れません。国内で新車販売が不振であるということは取りも直さず車に対して興味を持っているという人が年々減少しているということであり、更にその車のエンジンの形式にまで興味を持っている人は更に減っているのだろうと思います。「シルキー6」と呼んで、その直列6気筒エンジンの回転のスムーズさが“絹のように”滑らかであることを、会社の技術的なアイデンティティとしていたBMWでさえ、ついにV6エンジンに舵を切るようですから、エンジン形式に拘るなど、もう一部のマニアだけの自己満足なのかも知れません。ロータリー・エンジンもピュア・スポーツ・カーのRX8の心臓部として最盛期の2004年には約6万台の世界販売を記録しているのですが、2010年には僅か約2,900台にまで減少してしまっています。ロータリー・エンジンに対する通常のエンジンはレシプロ・エンジンと呼ばれます。自動車のエンジンの多くはガソリンなどを燃料とした内燃機関で、その爆発力を利用しているということはご承知の通りですが、エンジンの中でガソリンを爆発させる場所は一般的にはシリンダーと呼ばれる円筒形のものです。爆発によって膨張する空気の力によってピストンがシリンダー内を押し下げられることで必要な力を発生しています。でも本来車が必要としている力はタイヤを回す力です。つまり回転運動です。しかし、シリンダーの中で動くピストンは上下運動、すなわち直線運動の力を発生しているのに過ぎません。これをクランク・シャフトと呼ばれる特殊な形状をした棒に伝えることで回転運動に変換しています。直線運動を回転運動に変える時には、当然ながらエネルギー・ロスが発生します。また断続的な爆発による直線運動の繰り返しが、あの独特な微振動を発生させています。これが一般的なレシプロ・エンジンの構造です。ならばその直線運動を発生させる爆発を、最初から円運動のシステムの中で発生させることは出来ないかと考えられたのがロータリー・エンジンです。理論上、内燃機関のひとつの無駄(最大の無駄は爆発エネルギーが熱になること)が省けますが、正にこれが「言うは易し、するは難し」そのものの世界で、世界広しといえどもこれを量産車に搭載する技術を持っているのは日本のマツダだけです。因みに、英語では「Rotary Engine」とは呼ばず「Wankel(ヴァンケル) Engine」と呼びます。これは開発したドイツの技術者の名前に由来しており、アイデアとしてドイツで生まれたことの証ですが、日本企業だけが量産可能なものに仕立て上げたというのも誇らしい事実です。<ロータリー・エンジンの仕組み>ロータリー・エンジンの仕組みを文字だけで説明するというのは文才の無い私には至難の業ですが、レシプロ・エンジンの円筒形のシリンダーに相当するものがローター・ハウジング(その形状を極端に言うとあまりくびれの無い“落花生”の断面と似た形のものです)であり、ピストンに相当するものが“おむすび”のような3角形をしたローターです。このローターが落花生の中をちょっと中心がずれた位置で回ります。その時に出来る空間で「吸入・圧縮・爆発・排気」というエンジンの基本行程が連続的に行われ、駆動力を発生させます。故に最初から回転エネルギーが作れるのですが、理屈は簡単そうに聞こえても、これを実際に車のエンジンとして実用に耐え得るものとするのは並大抵のことではありません。それを成し遂げたのがマツダのエンジニアの人達でした。<ロータリー・エンジンの困難さ>前述のように、ロータリー・エンジンはローターがハウジングの中を回転するわけですが、この時に出来る空間は充分な気密性が保たれないとなりません。さもないと、空気を圧縮出来ず、また爆発した際に排気が漏れたりしてしまいます。勿論、極悪な使用環境にも耐え得る耐久性にも優れていないとなりません。マツダが生産を開始した始めの頃は、このローター自身でハウジングの中に大きな傷をつけてしまう「悪魔の爪跡」などと呼ばれる引っ掻き傷が残ったり、また隙間の気密性を保つためのシールが吹き飛んで吸気から圧縮が出来ず、スカスカになってエンジンが止まったりすることが頻繁に話題になりました。しかし、エンジニア達の不屈の魂と根性がこの問題を克服します。これはNHKの「プロジェクトX」などにも以前取り上げられていたのでご存知の方も多いかも知れない話ですが、1991年、自動車の耐久レースでは世界で最も過酷なものとも言われる「ル・マン24時間耐久レース」でマツダはそのロータリー・エンジン搭載の車で総合優勝を果たしています。この時の感動は今でも忘れません。何かのドキュメンタリー番組だったと思いますが、レーサーも、メカニックなどのピットクルーも、そして当然走行したレースカー自身も皆ヘトヘトになりながら完走、チェッカー・フラッグを受けるそのシーンは「あのチームのメンバーの1人として、一緒に参加したかったなぁ」と心から思わせると同時に、技術者達の技術に対する執念の凄さに心から感動させられたものです。耐久性の問題がいつでも話題になったロータリー・エンジンが、ル・マン24時間耐久レースに勝てるだけの最高の耐久性を持つことが出来たことを証明しました。この技術のフィードバックがあったればこそ、マツダはDEMIOの低燃費エンジンなど画期的なものを開発出来たのだと思います。<ベンツの社員も憧れるマツダ車>もう7、8年も前の話になってしまいますが、シュツット・ガルトのベンツ本社(当時はまだダイムラー・クライスラーでした)を訪問した折、機会あって日本で言うなら財務部の一般職の女性が運転する社用車で同市内を移動したことがあります。その時の車内の他愛無いお喋りの中で聞いたのが「自分達のサラリーでは自社のCクラスでさえ買えないので、マツダの車を買うのが夢」だという話です。車種で言うと日本名はどうやらカペラでしたが、普段、日常的に自社製品である多くのメルセデス・ベンツに触れ、それを高嶺の花と諦めている人が次に欲しいのがカペラだというのは、何と日本人として誇らしかったことか。理由は性能と品質と価格のバランスでした。マツダが欧州に力を入れていたこともありますが、トヨタでも、ホンダでも、日産でも無く、マツダが良いというのがちょっとした驚きでもありました。勿論、欧州系の他社の車についても尋ねてみましたが、歯牙にもかけないという感じだったのが印象的でした。恐らくこれこそが、ドイツの隣の国フランスで行われるル・マン24時間耐久レースの戦績が影響していることは言うまでもありません。速度無制限のアウトバーンをぶっ飛ばすお国柄ですから、これはかなり重要なお墨付きだったようです。<水素ロータリー・エンジン>ロータリー・エンジンはその構造上、どうしてもその圧縮比をある程度以上に上げることが出来ません。空気は急速に圧縮すると熱をもつという特性がありますが、これは究極の環境燃料と呼ばれる水素を使った場合の障害となります。すなわち、ある程度まで圧縮比を引き上げた場合に、早めに水素が自爆してしまうため、小型で高圧縮比の水素エンジンを作ろうとするとレシプロ・エンジンでは限界が来てしまいます。平たく言うと、小さな排気量では馬力のある水素エンジンをレシプロ方式では作れないということです。ロータリー・エンジンはその逆です。変な言い方になりますが、ダラダラ爆発されても、それが回転エネルギーになるのです。それが最大の特徴です。そして、同じ程度の馬力を得るためにはエンジン本体のサイズを小さくすることが出来ます。これもロータリー・エンジンの特性のひとつです。水素ロータリー・エンジンのRX-8に同乗させて貰ったことがありますが、助手席に乗っている限り、ガソリンなのか、水素なのか、正直一切わかりません。運転をしていた技術者に問い掛けましたが、その差は普通の人には解らないだろうとのことでした。そして何より凄いと思ったのが、水素とガソリンをシームレスに運転席からスイッチ一つで切り替えられるということです。水素が素晴らしいということは解っていても、そのガソリン・スタンドのような水素ステーションの普及はまだまだ難しいのが現状です。水素が入れられれば水素で走り、補充出来ない状況ではガソリン車として走る。そんなことが可能になるのが水素ロータリー・エンジンだと、今でも私は思っています。だからこそ、その可能性の火を消さないで欲しいと。<化石燃料の問題は無くなっていない>東日本大震災後、それに伴う原子力発電所事故の関係で急速にエネルギー問題のベクトルが向きを変えました。しかし、化石燃料が有限であり、また化石燃料を燃やす限りは二酸化炭素(地球温暖化ガス)が排出され続けるという事実は変わっていません。北極のオゾン層が史上最大の大きさになっていると週末報道がありました。オゾン層が無くなり、また地球温暖化ガスである二酸化炭素が増えれば、エルニーニョやラニーニャ現象等と呼ばれる海流温度以上による異常気象が益々増えるでしょう。我々は何を排気しているのかを常に考えないといけません。今は電力を得るために、ガンガン原油、天然ガスそして石炭を燃やして火力発電を増やして、どんどん二酸化炭素を排出しています。京都議定書批准問題はどこに行ったのでしょうか?自家発電機能が無い電気自動車さえも環境車両という誤解を呼びながら増えて行く流れがあります。私は水素ロータリー・エンジンとハイ・ブリッド・システムの組み合わせがひとつのソリューションだと思っています。技術開発は一度止めるとその時間的空白をなかなか埋められないと聞きます。ゼロ戦を作った日本の航空機産業が欧米の後塵を拝し続ける理由は、終戦後GHQによりその研究開発を止められたからです。そうならない為にも、是非、マツダのエンジニアの人達には引き続き頑張って頂きたいものです。コア技術を諦めた企業が発展を続けた歴史が余りないという事実も重要です。投資家としてそういう企業を株主になって応援する、というのも株式市場の役目の一つだと、私は信じています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第106号 2011年10月11日発行より) ==========================================================
2011.10.14
<ギリシャ、ギリシャ、ギリシャ……> 「ギリシャ問題」なる言葉が市場を初めて震撼とさせたのは2009年11月のこと。それ以来、何度も蒸し返されては、一旦沈静化し、そしてまた騒ぎ出す。段々そのサイクルが短くなってきたなという感じについに今年の春先には成り始め、日本市場では東日本大震災の話題の大きさの陰に暫く隠れていたものの、ついに物語はこの秋に向けて最終局面を迎えつつあるように思われます。ギリシャは「破綻するのか、しないのか」、あるいは「破綻させるのか、させられないのか」、いろんなことが言われているのは承知していますが、どうも直感としては、少なくとも“ほぼ破綻と同じような”結果になるのは、不可避な情勢のように思います。つまりギリシャ国債がデフォルトする、ということです。“デフォルト”と呼ばせないような巧妙な手立てを考える賢い人も居るのかも知れませんが、内容としてはそれと同義、という結果が待っているように思います。 <欧州の南北問題> 一般に経済用語で南北問題とはやや違った意味で使われるものですが、今回の問題はギリシャを含む南欧諸国と、ドイツなどの北方の欧州と言う意味で、正にこれは欧州の南北問題です。別な言い方をすると「アリとキリギリス」問題。自由奔放に人生を謳歌するタイプの南欧の文化と、一生懸命勤勉に働く北側欧州、問題の発端は、文化も考え方も、働き方も違うこの南北欧州をユーロ圏と言う理想概念でひとつの経済圏に無理やりにまとめようとしたところから始まっています。その無理が、ここまで何とか辻褄を合わせて綻びが出ないようにしてきたものが、どうにも収拾のつかない事態になってしまったのが今の状態です。誰だって自分が一生懸命働いて作ってきた蓄えを、食べたい時に食べ、昼寝をしたい時には寝て、好き放題にしてきた怠け者が急に冬に向かって蓄えが無いことに気がついて泣きついて来たからと言って、「はいはい、大変ですね」と言って援助したいとは思いませんよね。よほど慈悲深い神様のような信仰心でも無い限り、おいそれと援助の手を差し伸べたりはしないものです。ましてやもうそれでも何度かは援助はしたのですし、本人も改心して真面目に働くと言ったのですから。 <ドイツの本音はどこにあるのか?> そもそもユーロというのは大実験通貨だったと言って過言ではありません。勤勉さと技術力を合わせ持ったドイツがヨーロッパの中で再びあまり強大な経済力を持たないように押さえつけるという意味合いもあったのかも知れません。またドイツと言う国の褌を借りて、力の無い他の国が何とか生きながらえようと考えたからなのかも知れません。その当初の意図は別にして、異なる財政基盤を持つ国々が、地域的に密接な距離感になるからという理由でひとつの統一経済圏をつくろうと考えたのが通貨ユーロの始まりです。 ドイツ自体も東西ドイツの統合により疲弊していたところでもあったので、この通貨統合という施策に渡りに船とばかりに飛び付く要素が一部にあったのも事実です。経済力の強いドイツの通貨マルクは、放っておけば他の欧州各国の通貨に比べて強くなってしまいます。しかし通貨統合をしてしまえば、ユーロ域内であればいつでも同じ値段で商品を仕入れて、販売することが出来ます。また本来ならばマルク高によって是正されるべき貿易不均衡も、ドイツにとっては好ましい状況としてせっせと外貨を稼ぐことが出来ます。そしてまずは域内でせっせと稼ぎました。 しかし、結果として起こったことは、ユーロが他の通貨に対してどんどん高くなり、ドイツのユーロ域外への輸出は思うほどに儲けが出なくなってしまいました。しかし、当然域内では想定通りに稼げています。その積み重ねが結局南欧諸国を弱くしたのです。逆にユーロがギリシャ問題で崩れて弱くなるこの2年程度の過程では、ドイツは域外でも散々稼ぐことが出来ました。これが正に株価に素直に表れています。だからこそ、ドイツはギリシャにハード・ランディングはして欲しくないものの、適当に問題視されながらいることに、ある一定の居心地の良さを感じているように思います。 <同じ金融政策に別々の財政政策> そもそも金利政策に代表される金融政策だけはECBの判断に委ねる形にして、その一方で財政政策は個々の国々に任せるとしたら何が起こるでしょうか?怠け者はより怠けるようになるという、とても単純な答えが返ってきただけのことです。 もちろん、通貨の相互保証と安定性のために、ユーロ圏諸国は安定・成長協定を尊重しなければならず、この協定は赤字額や国債発行に上限を設け、違反に対しての制裁規定も定めていました。協定ではもともとユーロ圏各国に対して毎年の赤字額の上限を GDP の 3% と設定し、この額を超過した国には罰則金を科すとしていたのですが、残念ながら途中から財政赤字額の基準は加盟国の経済情勢やそのほかの要因を考慮することを含む改定が採択されてしまいました。これが間違いをより大きくしてしまいました。結局は財政赤字を垂れ流しながらも、ユーロ圏全体の信用力を使って国債を発行する借金体質から逃れられない状態になってしまったということです。 サラ金に行かないとお金が借りられない人に、もし銀行がプライム・レートでお金を貸してくれると言ったら何が起こるでしょうか? それも金額枠はかなり自由に無制限な感じだとしたら。答えは恐らく余程克己心の強い人でない限り、働いて稼いで借金を返しながら慎ましやかに暮らすということよりは、適当に働いて、足りない分は低利の借り入れに依存するという結果を招くと思います。言い方は悪いかも知れませんが、今のギリシャ問題の本質はこれです。同じ金融政策で別々の財政政策という仕組みがうまく機能するわけが無いのです。 <ギリシャ問題とリーマン・ショックの違い> よくギリシャ問題の解説を聞いていると、万が一の事態が起こった場合、それはリーマン・ショックを超える大惨事になると聞くことが多いですが、果たしてそれは本当でしょうか? 当然のことながら、その正解はそうした事態が実際に起こってみて、蓋を開けてみないと解らないのは事実です。ただ一つだけ言えることは、仮に万が一ギリシャが破綻するというようなことがあったとしても、それは市場にとっては想像を超えるいきなり降って湧いた災難では無いということです。NYのワールド・トレード・センタービルにジェット旅客機が2機も突っ込んだような事件とも違います。正直、あそこ(ギリシャ)に大問題が潜んでおり、いつ爆発してもおかしくない状況にあるということは資本市場関係者たちの誰もが知っていることです。またUBSのトレーダーの起こした事件は、その上司さえも知りませんでしたが、ギリシャが危ないということは、今や誰もが知っていることです。 <言い訳の仕様が無い> もしこの問題が実際に不可避な状態になってしまった場合、「まさかギリシャが破綻するとは想定していなかったので、これだけの大損を出してしまいました。」という言い訳が通じるかと言えば、少なくともまともなケースの場合、その一次被害の言い訳はかなり苦しいものになると思われます。勿論、それにより2次被害、3次被害と連鎖して行くような場合はこの限りではありませんが、通常、例えばファンドマネージャーたるものこういう局面では可能な限り“予めの手段”を講じておくのが普通です。むしろ、予めギリシャが破綻したら収益になるようなポジションを組もうとするかも知れません。 <材料出尽くしになる可能性> もちろん、準備に怠りない慎重派だけでは無いので、実際にことが発生した時にパニックが起こるかも知れません。想定したシナリオを超える速度と規模でダメージが拡散することだってあり得ます。しかし、往々にして市場は突発的に不意を突かれることには脆いものですが、予め可能性が示唆されているものに対しては、仮に瞬間的にはネガティブ・リアクションを起こすことがあっても、案外立ち直りは早いものです。当然、その逆もよく起こります。期待されたことが現実になった時に天井を付けるという話です。私は楽観論者なのかも知れませんが、最悪な事態と思われる時が本当に来たとしたら、それは材料出尽くしの時になるような気がしています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第105号 2011年9月30日発行より) ==========================================================
2011.09.30
<“読み書きそろばん”よりもパソコン> 一家の主がこんな性格だからか、我が家には正直、ほぼありとあらゆるタイプのITガジェットが転がっています。パソコンは次から次へと私が自作をするので、古いものからいくらパーツ買取り屋に持って行ってもなお家族の人数よりもその台数が多くなってしまいますし、ゲーム機も据え置き型から携帯型まで、これまた多種多様なものが転がっています。ゲーム機に関しては「教育上好ましくない」とお考えで敬遠される方も多いようですが、我が家では子供が小学生だった頃から、家族揃ってリビングの大画面TVで攻略法を考えながらドラクエやファイナルファンタジーをするような文化が根付いてしまい、先日も私の誕生日に「今年の冬はこれをみんなでやろう」と息子から贈られたプレゼントはPS3®用のゲームソフトでした。知人からは変わった家庭だよと言われることがありますが、私は自分の実体験を通じても、これからの世の中は“読み書きそろばん”よりもパソコンが大事と考えているタイプの典型ですから、特に教育方針を間違ったとは思っていません。なぜなら、その攻略法を調べる過程で、彼らは自ら独学でネットの検索エンジンの使い方さえ学んだのですから。必要は発明の母だということを実証しました。むしろ、今から10年以上も前、息子がまだ幼稚園児だった頃、出張先に息子が自分でe-mailを送ってきたことの方が大事だと思っています。 <パソコン派の息子、タブレット派の娘> 高校生の息子はパソコン派です。幼稚園の頃から専用のデスクトップを与えていたからかも知れませんが、見ていると基本的には何でもパソコンが生活の中心にあるように思われます。当然、それはインターネットに繋がっていないとならないのですが、電話よりもSNSやTwitterの方が便利なようですし、モンスターハンターなどのゲームも、チャットで友達と話し合いながら遊んでいるようです。 それに比べると中学生の娘の方は明らかにタブレット派です。私の部屋のデスクトップ・パソコンが使い易いらしく、勉強や宿題でワードなどを利用する時はそれを使っていますが、リビングでゴロゴロしている時は大抵iPadを抱えて何やらしています。どうやらYouTubeでお気に入りのアニメなどを観るのがメインのようなのですが、何かあるといつもiPadをいじくり回しています。ちなみにそんな彼女はまだ中学1年生です。 <何も教えたことはありません> 正直な話、私は子供たちにパソコンに関しても、iPadに関しても、使い方を教えたことはありません。常に使えるような状況にして、必要なソフトウェアのアップデートやメインテナンスはしていますが、いわゆるパソコン教室のような教え方をしたことはありません。それはプレイステーションやDSなど、ゲーム機器なら私が教えるまでもなく勝手に使い方をマスターすることを知っているからです。兄弟の間では相談し合っているかも知れませんし、きっと友達同士での情報交換はしているだろうとは思いますが、何かのトラブルでフリーズした時などを除いて基本的には野放しです。 ただそれでも気がつくと彼らは見事にそれらを使いこなしています。最近では逆に私の方が「こんなことをしたいんだけど、いい方法はあるかな?」と教えを請うことさえあります。少なくとも高校生の息子の方が、少ないお小遣いをやり繰りしていることもあり、フリー・ソフトやコンテンツに関する知識は私よりも上だと認めざるを得ません。コンテンツの制限にセキュリティ・ソフトを利用してトライしたこともありますが、気がつくと何をどういじったのか、どこからか知恵を貰ったのか、いつの間にかそんな制限はしても無駄だということが解りました。考えても見れば、自分が中学生や高校生の頃、親の目を盗んでハラハラ・ドキドキしながらしていたことを、アナログな世界ではなくデジタルなインターネット世代が今と言う時代の中で同じことをしているだけなのですから、もう無駄な努力をすることは止めました。 <メールをしたり、ネットを観たりするだけという誤解> 「パソコンを何に利用していますか?」と聞くと、多くの人が「メールをしたり、ネットを観たりするだけかなぁ」というような答えが返ってきます。その延長線上にあるのは「そんなに高機能なパソコンを買っても必要無いから、まだ古いのを使っているよ。充分まだ使えるから」という発想です。 このメルマガを読んで頂いている方々にはそれは少ないだろうと思いますが、もし本当にそう思っているのならば「あなたは完全にデジタル・デバイドの負け組側に片足をもう突っ込んでいる」と思った方が良いでしょう。そしてまた、その感覚のままに株式投資を考えている、すなわちハイテク関連銘柄への投資機会をみているとしたら、恐らくその人が投資収益をあげられる機会はとても低いだろうと思われます。 <異次元のコミュニケーション能力を持った世代が追い掛けてくる> ケータイとメールが人々の生活様式やビジネス・マナーを根底から変えたということに異論を持たれる方は少ないでしょう。でも、どちらも普及し始めてからの時間は僅か10数年のものです。ケータイの出始めは「公衆電話で充分」と言われる方が多かったですし、「メールアドレスを教えてくれますか?」と聞いても「電子メールはまだ使っていないので、FAXでお願いします」と断られることが多かったことを記憶しています。 しかしケータイを利用したメールが日本で一気に普及するきっかけとなったのは、実はページャーと呼ばれる「ポケベル」に馴染んでいる世代が育ってきたからというのがありました。この話を掘り下げると長くなるので控えますが「親指で文字を打つ」という独特の文化はここから始まっているはずです。そして現在、当時のポケベル世代の役回りに該当する世代に、前述の我が家の子供たちのような世代が居ます。それが10年後には20歳代を上から下まで席巻するのです。彼らは物心つく前からパソコンはあって当たり前、友達とのコミュニケーションは電話やメールでは無く、Facebookやmixiであり、あるいはTwitterで呟くことという今までとは異次元のコミュニケーション能力を持った世代です。その彼らが10年後に、今のビジネス・フォームで仕事をしているとは考え難いです。革新あるところには必ずビジネスチャンスがあります。そしてそこに必ず投資機会があります。 <スマホはスマホ、タブレットはタブレット> ケータイをスマホに変えた人が「かえって使い辛くなった」と言われるのをよく聞きますが、それは当たり前なのです。ガラパゴスなどと批判されますが、日本のケータイは実によく出来ています。時間をかけて熟成されながら、段々と新機能を取り込みながら、丁寧に進化の道筋を辿ってきたからです。消費者と共に歩んできました。その意味からすると、スマホはケータイの進化系では無いのかも知れません。人間のルーツを猿に求めることが出来るというのと同じ程度には進化形だと思いますが、ある意味では不連続な進化です。 タブレットPCをノートパソコンの代わりに買おうかなという話もよく聞きます。値段帯域としてはネットPCと被るためにそう思われるのだろうと思いますが、これもやはり不連続な進化系です。スマホとタブレットの間に兄弟関係の遺伝子を見ることは可能ですが、少なくともノートパソコンとは別物です。 <スマホのCPU、パソコンのCPU> その証明、実はCPUですることが出来ます。パソコンのCPUの本家といえば、今はインテル以外にありません。AMDもありますが、MACパソコンでさえもインテル製CPUを搭載している現在、インテルは市場シェアの80%超を握る巨人です。しかし、その一方でスマホやタブレットの世界になるとインテルの名前は全然聞かなくなります。 それらのCPUを誰が作っているかと言うと、iPhoneやiPadはアップルですが、GALAXYなどに搭載されているのはSAMSUNG製です。またCDMA技術で一躍有名になったクワルコムやグラフィックチップで馴染み深いNVIDIAなどが名を轟かせ始めます。そしてそのアップルのCPUも、実は作っているのはSAMSUNGというややこやしさがあったりします。そしてARMという会社の技術がこれらのほぼ総てに深く関わってきます。 確かに表面的には似たような処理をしている、すなわちインターネットを見たり、メールをしたりという点だけにスポットを当てれば、今現在は似たことをしていると言えなくはありません。ただその心臓部を作っている会社を見ると全然違うことが解ります。パソコンの世界では80%以上のシェアを握り、世界最大の半導体企業という評価を持ち、ネットPC用のATOMというCPUをも生産するインテルをもってしても、スマホの世界には橋頭保を作るに至っていません。当然それを言うなら、OSの世界でもマイクロソフトの名前も今現在はマイノリティです。それだけ似て非なるものだということです。 技術のロードマップを見ていると、パソコンCPUとスマホCPUの差が歴然と見えてきます。今のiPhone 4に使われているA4というCPUは、次世代のiPhone 5に変わる時には現在のiPad 2で使われているA5に変わると言われています。それはA4に比べると34?(+64%)も面積が大きなものです。小型化や軽量化が求められるスマホの世界で面積を大きくするというのは、アップルは何を考えているのでしょうか? この辺りのストーリーを掘り下げて行く時、やっぱりまだまだ面白い世界を見ることが出来るのがハイテク業界です。時々「もうハイテクは駄目だ」というようなアナリスト・レポートを見ることがありますが、それは大きな誤解だと思います。何が面白いって、ハイテク業界ほど投資機会がたくさんある業界は他に無いと思っています。ただ日本がこの先どこまでプレゼンスを発揮できるかは、どんどん未知数になっていっているとは思いますが……。私は永田町劇場やグローバル・マクロの暗い話に疲れた時は、積極的にこちらの世界に飛び込むことにしています。そこにはまだまだ充分に夢があるから。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第104号 2011年9月9日発行より) ==========================================================
2011.09.09
Android OSがiOSのシェアを上回ったと騒がれる日々。グーグルがモトローラを約1兆円で買収しました。今起きている流れはAndroid勢にとって朗報か、焦りの記しか?<今年の5月GWから私もAndroidデビューしました>当然の流れと言えば当然なのですが、“ITオタクのファンドマネジャー”とも呼ばれることがある私がiPhoneを手に入れていないわけがありません。でもその一方で、料金体系の色々な縛りの関係で“もしもし通話”に使う携帯電話はずっとauを利用しております。それにEdyやSuicaの利便性も手伝い、どうしても通常の高機能ケータイは手放せずにおりました。震災直後はワンセグもフル活用しました。しかし時代はどんどんとAndroidの話で盛り上がるようになり、また一方でAndroid端末の中にもワンセグやお財布機能を持ったものが登場し、夏にはSuicaにもいよいよ対応するという話を聞いたところで、この5月に、当時最新モデルであった“機能てんこ盛りAndroid”端末に乗換えました。Suica対応までの3カ月間は不便だとは思いましたが、どうしてもiPhoneとAndroidを自分で比較してみたいと考え、Androidデビューを果たしたというわけです。<機能面で驚きは無かった>正直な話、iPhoneと高機能ケータイを利用していた身としては、Androidデビューを果たしたことで目新しく驚いた機能はありませんでした。Suicaが使えなくなったのが逆に不便な程度で、印象としては「高機能ケータイからの切り替えに有利な方ならAndroid端末」で、「スマートフォン機能にこだわるならiPhone」という感じがしています。その最たる理由はiPhoneのiTunesとの関わり合いはやはり重要な気がするからです。しかし私の苦労は初日から始まりました。何と、帰宅して設定している直後から電話が通じない現象が始まったのです。アンテナが弱いのかなと当初は“痘痕(あばた)も笑窪”のような贔屓目に考えていましたが、屋外に出ても通じません。ただ電源を一度落として再起動すると復活するということに気が付いてからは、これはどうもおかしいと感じるようになりました。あれやこれやと色々と試してみましたが、状況は改善しません。翌日、購入した当日からの不具合でしたので、ひとまず端末の新品交換をお願いすることにしました。<気が付くと通信不能状態>取りあえずは新品交換後の新端末は上手く使えている感じでしたので納得していたのですが、ひと月もしない内に「メールを送ったのに返事が無い」とか、「電話が通じなかった」というクレームが家族や友人から始まるようになりました。マナーモードのせいかなとも考えましたが、ふと気が付くと「PCメール」という機能に至っては殆ど上手く動いていません。パソコン宛のメールを読みに行く機能ですが、これもやはり再起動すると新しいメールをガサっと取得しに行き、気が付くと前日の朝で止まっていたりします。仕方無く、再び購入したショップに行き、事情を説明すると今度はSIMカードを交換してくれました。しかし結論から言えば、これでも状況は改善しませんでした。おまけに海外ではローミングもせず、伝言メールだけが来る状態だということも解りました。生活にあまり関係無い余計なアプリが動かないのはまだ許せます。しかし、時にライフラインとして大事な役目を果たす携帯電話の通話機能までが損なわれるというのはいかがなものでしょう?<Androidデビューから3カ月、そして引退へ>すったもんだの揚句、当該Android端末は手放すことにしました。ショップで色々と設定を確認してもらいましたが特におかしな点は発見されず、今までの経過説明と共にメーカー修理送りになったのですが、結局「事象は確認出来ましたが、原因を特定出来ません」との返答がメーカーから返ってきました。“付加機能に時々故障がある電話”というのならば許せますが、逆の“時々繋がらないスマートフォン”を持ち歩いていても意味がありません。これが故に私のAndroid生活はとりあえず3カ月間で幕引きとなりました。今、私が「シャキン!」と折り畳み式の携帯電話をもしもし通話用として恥しげも無く使っているのはその為です。正直、ひとりの消費者の目線としては某メーカーの対応(鋭い着眼点での商品開発をPRしているメーカーです)に納得のいかないところがある(故障の原因が解らないというのは製造責任として問題ありです)のですが、そうした問題よりも、これはスマートフォン普及の大きな障害にこの先なるかも知れないと、少なくともAndroid勢にはどこかで逆風が吹く可能性があると思い始めています。<多品種小ロットのハードウェアを短期間で開発することの弊害>前段で申し上げたようにAndroid OSというのは、スマートフォンが普及する上で欠くことの出来ない画期的な存在となってくれたことは確かです。日本で言うなら、ソフトバンク以外のキャリアを利用している人でもスマートフォンが使えるようになったのですから。しかし、その陰で起きたことは、余りに多品種小ロットのスマートフォンを短期間で競争開発して市場投入してしまう携帯電話の日本型ビジネスモデルの欠陥です。AndroidはOSとしては素晴らしいのかも知れません。でも昔から「ただほど高いものは無い」という諺が示すように、この先、業界はこのコストを払わされるのかも知れません。iOSと同じシェアをAndroidが獲得していたとしても、そのハードの種類が10種類あるとすれば、各端末の台数はiPhoneのそれの平均10分の1ということになります。実際はもっと多品種であり、売れ筋以外はiPhone端末と比べてゼロの数が二つ以上少ない数しか作られていないだろうと思います。ひとつのハードを多数作っているならば、そのハードに使うファームウェアもきちんとコストを掛けてメインテナンス(開発やバグ潰し)ができます。しかし、もし多品種少量生産、おまけに短いライフサイクルとなったら、メーカーとしてはそれでも赤字を覚悟で愚直にファームウェアの改善を続けていくのか、あるいは目を瞑って黙っているかしかありません。そして一般的には後者、すなわち利益を優先する選択をするのが企業では無いでしょうか?<グーグルがモトローラを買収するという朗報>そんな中、Android OSの生みの親であるグーグルが米国時間8月15日、Motorola Mobility Holdingsを現金約125億ドルで買収すると発表しました。それも1株あたり63%ものプレミアムを払う形の40ドルで。一見すると大盤振る舞いで、株式市場でも評価は二分された感じですが、私は少なくともスマートフォン業界全体の発展には極めて朗報であり、強いては日本メーカーにとっても一部に朗報であると思っています。またこの話が無ければ、トラブルの多いAndroid端末は一時の熱狂に終わったかも知れないとさえ思っています。ここに面白い数字があります。前回、米調査会社大手のNielsenが開示したデータを元に、米国スマートフォン市場におけるOSの直近の市場シェア内訳はAndroid OSが39%、 iOSが28%とお伝えしました。では、そのAndroid OSの端末の中でのメーカー別のシェアはどうなっているのかというと、台湾のメーカーであるHTCが約35.9%と1/3のシェアを握り、次にモトローラが約28.2%、そして韓国SAMSUNGが約20.5%となります。この上位3社で既に約84.6%になりますので、日本メーカーは残念ながら束になってその他のセグメントに入ってしまいます。この報道にHTCとSAMSUNGは戦々恐々としている筈です。何故なら、グーグル自らがアップルの垂直統合型ビジネスモデルと同じ路線に踏み込んだかに見えるからです。グーグルはモトローラを特別扱いしないとまずは言っていますが、AndroidがiOSと今後も伍して戦うには、たぶんいずれ特別扱いせざるを得なくなってくるだろうと思います。ただ仮にそうなったとしても、HTCとSAMSUNGの市場シェアは、彼らにまだハードで利益をもたらすことができるかも知れません。問題は日本企業の生き残り施策です。<日本ではやはり高付加価値の電子部品にメリット>日本のセットメーカーは正直更に厳しい戦いに入って行くだろうと思います。消費者の要望は限り無く高く「高機能携帯の機能+スマートフォン」を求めてきます。その一方で、恐らくiPhoneはこの先の2世代ぐらいは安泰でしょう。iPhoneを使いたいがために、Felicaシールを張ってまでお財布機能を我慢したり、繋がりが悪いと言いながらもキャリアを変更したりしているのが今の消費者のニーズであり、実態なのですから。それだけの魅力があるハードはそうそうありません。だからまだiPhoneは強いままだと思います。一方、Android端末を手掛ける日本のセットメーカーは、このままでは結局ガラパゴス携帯と呼ばれて利益の出ないビジネスになった高機能携帯ビジネスと同じ運命を辿るしかないように思えます。多機能、多品種、小ロットといった条件が揃えば揃うほど、品質不良が起こり、消費者は離れて行き、結果として値下げせざるを得なくなるからです。だから日本のセットメーカーは辛い。ただ、Androidに負けじと、iPhoneも勿論高機能化していく筈です。そうなれば付加価値の高い電子部品を多量に使うことになります。この分野においてはまだまだ日本製が有利な立場にあることは論を待ちません。日本企業が苦手なのは、高い人件費、高い法人税、そして高いエネルギー料金に阻まれる価格競争の分野です。まだ技術力では勝っているようです。スマートフォン市場が拡大する限り、これらの企業には恩恵があると考えます。ただもし万が一、私が実体験した“セットメーカーですら原因を特定出来ない故障”の原因が、そうした付加価値が高いと思われていた電子部品のエラーだからということになれば、その絵も崩れてしまいます。今はそれは無いだろうと期待を込めて信じています。そしてただひたすらスマートフォン市場が順調に拡大することを願っています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第103号 2011年8月26日発行より) ==========================================================
2011.08.30
<スマートフォンの普及は間違いない>3年前、iPhoneが初めて登場した時は正直な話、私はスマートフォンの普及については懐疑的でした。とりわけ日本においてはかなり厳しいのではないかと思っていました。その理由はいくつかありますが、(1)日本の高機能携帯を上回る機能を本当にユーザーが求めるのか懐疑的であったこと、(2)通信環境がスマートフォンのコンテンツを不自由なく使えるようになるには余りにpoor(脆弱)なものであるということ、などなどからです。スマートフォンなどと電話の延長線上にあるような言い方をしていますが、性格はどちらかと言えばパソコン寄り、というか完全にパソコンであり、それを小さくして電話をつけたのがスマートフォンとも言えます。一方で日本の携帯電話は技術的にはガラパゴスなどと言われながらも、日本人の文化の中で上手く高機能を取り込みながら、独特な発展過程を遂げて今日を迎えています。ワンセグやお財布機能などは第4世代に入ったiPhone 4でさえいまだに搭載していないものの、日本の携帯電話には随分前からほぼ間違いなく標準装備化されているのですから。それにも関わらず、最近は身の回りにスマートフォンを使っている人がとても増えてきました。というより、最近では着信音と共に携帯電話をパカッと広げる例の仕草はむしろ気恥ずかしいような感じにさえなってきました。時代はスマートフォンへときっちり舵を切ったというのが現状認識です。<Android(アンドロイド)OS登場が起爆剤>高機能携帯がありながらも、こんなにもスマートフォンが日本で普及する起爆剤になったのは、なんと言ってもAndroid(アンドロイド)OSの登場によるところが大きいです。また極めて逆説的な見方になりますが、iPhoneをキャリアとしてソフトバンクが独占しているということが、これまたスマートフォンの普及に拍車をかけたと言えると思っています。すなわち、iPhoneがSIMフリーで他のキャリアに提供されない以上、巨人であるドコモは対抗策を何らかの方法で取らねばならず、一方でユーザーの側にもキャリアがソフトバンクでなければスマートフォンを使いたい(失礼!)という人は少なからず存在したからです。そこを埋めるのに好都合だったのがAndroidです。恐らくAndroid OSがなければ、今のこの段階でスマートフォンの大ブームは起こせなかっただろうと思います。何故なら、前述したようにスマートフォンとは、フォン(Phone)という単語がついてはいますが、電話が高機能になったというよりは、ほとんどそれはパソコンに電話を付けたというのに相応しいからです。それはCPUの性能だけを見てもそれを証明できます。となると、何がコストの中で大きなウェイトを占めてくるはずかと言えば、創業者を世界屈指の大金持ちにしたシアトルの巨人マイクロソフトがパソコン業界に供給しているWindows OSにあたるものです。しかし、マイクロソフトがあれだけ儲かったことが証明するように、OSの開発には莫大なコストや手間が掛かります。<Googleが開発したAndroid OS>Android OSはLinuxベースのOSですが、これをスマートフォンで使えるようにモバイル用プラットフォームとして開発し、無償で2007年に市場提供したのがGoogleです。これがある意味で救世主になりました。個々のメーカーやキャリアが独自にOSを高いコストを掛けて開発する必要がなくなり、またその利用中のライセンス料を払う必要もないというのは、最大の起爆剤になりました。Windows 7を普通に買えば2万円も3万円もするわけですから、それが無料ということのメリットがどれだけ高いかはご想像の通りです。更にLinuxベースのオープン・ソースですから、誰もがアプリを開発できるというおまけつきです。因みにiPhoneの生みの親であるAppleにはパソコンMacシリーズ用のOSがすでにあったというのが一日の長を生んだ理由と言えます。これを改良利用することにより、AppleはiPhone用のOSとし、他社はそれを利用することができずにAndroidに走ったということです。iPhoneアプリがAppleの検閲を受けないとならない理由は、オープン・ソースではないここにあります。<iPhone用iOS対 Android OS>スマートフォンが普及し始めた図式の中で、iPhone用のOSであるiOSとAndroid OSとのシェア争いのような報道をよく見かけます。確かにスマートフォンの業界では、iOSとAndroid OSが覇権を争う形になり、その他のOSについては歩が悪い状況になってきていると思います。因みに日本での適当なデータが得られないので、米調査会社大手のNielsenが先月末に開示した米国スマートフォン市場におけるOSのシェア調査結果を引用しますが、直近の市場シェアの内訳はAndroid OSが39%、iOSが28%、RIM BlackBerry OSが20%、Windows Mobile/Windows Phone 7が9%、Palm/HP WebOSが2%、Symbian OSが2%ということになります。日本でもAndroid OSがiOSのシェアを抜いたとも聞いておりますが、実はここにスマートフォンが今後普及するための重大な落とし穴があるかも知れないと考えています。<Android端末は初期の自作パソコン並みかも知れない>OSが動くためには当然ハードウェアが必要です。パソコンにデル製やSONY製があるように、スマートフォンにも当然ハードウェアのメーカーがあります。ただ大きな違いはiOSは総てiPhoneであるのに対し、Androidは単一メーカーの単一端末ではないということです。日本国内だけ見ても、ドコモ用、au用、ソフトバンク用と各社が品揃えを増やしていますから、端末の種類から言ったらすでに10種類どころではなくなっています。ここに問題があるのです。Android OSは無料だから故に各メーカーを開発を容易にし、短期間に多数のスマートフォン端末を市場投入させる原動力にもなりました。しかしパソコンが当初の普及期に置いて、とても高価なものであるが故、そうしたメーカー製の製品と比較して自作パソコンがとても安かった時があります。同じインテル製CPU、同じマイクロソフト製OSを利用している数値スペック上は同じパソコンを組んだとしても、圧倒的に自作の方が安くなる時期がありました。それは人件費が理由ではありません。品質保証の問題です。各部品間の相性の問題でもありました。突然、動かなくなったり、画面がフリーズしたりしてしまうリスクを排除できなかったのです。全部を組み上げた状況での安定稼働をチェックし、きちんと動くような動作確認ができなかったのです。そのリスクと引き換えに自作パソコンはメーカー製と比べてとても安く仕上げることができました。そのキーワードはファームウェアだと思います。それをきちんと開発し、改良を続けられることこそメーカー製の電化製品の良さでもあるのですが、ことスマートフォンにおいてはそれができていないのかも知れません。次回は私の実体験を元に、その辺りの考察からAndroidの急速な普及が、逆に急ブレーキの原因となる可能性について考えてみたいと思います。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第102号 2011年8月12日発行より) ==========================================================
2011.08.12
<“オーナー”だということ>前回、企業にとっての株主の存在意義みたいなことを考えてみましたが、株主にとって企業とは何かということも考えてみたいと思います。日本企業の個人株主になってみたところで、銀行などとの持ち合いが多ければ株主としての発言権も行使できないので、「企業は株主のもの」と言われてもピンとこないというのが前回の結論の一つではありました。しかし、とはいえ、やはり「企業は株主のもの」であり、株主は企業のオーナーなのです。「オーナーだって言われても、何だか全然実感もないな」という声が聞こえてきそうですが、それはもしかすると、投資する企業を選ぶ時のやり方にひと工夫を加えることで変えられるかも知れません。<“値上がり益”狙いだけが株式投資ではない>株式投資の理由は「儲けたいから」が究極の本心だということを以前にもお話ししたことがありますが、もしかするとそれは“値上がり益”だけではないかも知れません。ただ「預金感覚で東京電力を買っていたのに…」という、最近巷でよく耳にする愚痴を肯定するわけではありません。私は株を預金感覚で買う、すなわち元本の安全性を預金と同列で捉えるというのは、相当に論理の飛躍がある(そんなセールスをした人がいたとしたらとんでもない話です)と思っていますので、その話ではありません。例えば預金は1千万円までは預金保険機構が守っています(銀行や預金種別で例外はあります)ので、銀行の信用リスクは1千万円を超えるまでは考えないで大丈夫ですし、そもそも優先弁済順位が預金と株主では全然違いますから同列で考えるなどあり得ません。「でも東京電力がこんなことになるなんて、誰も想像できなかったから…」との言い訳を聞く場合がありますが、「ニューヨークの高層ビルに旅客機が2機も突っ込むことは予想できましたか?」というのと同じで、そのあり得ないかもしれないリスクなども含めて、その対価としてリターンがあります。預金でもないのに預金以上のリターンがあるということは、必ずどこかでそうしたリスクを抱えているということなのです。話がそれましたが、では「儲け」とは何かというと、それは株主メリットです。<株主メリット?>株主メリットの最たるものは「株主配当」です。株主である以上はその企業自体の儲けの分配があって当然なわけですが、株主であり続ける間、つまりその株を持っている間の儲けは株主配当だけです。これって、実はかなり哲学的な話にもなるのですが、株を買って値上がりしたことを喜んでいても、その喜びを実現できるのは株主を辞めた時、すなわち株を売った時であり、株主であり続ける限りは値上がり益も値下がり損失も関係ないということです。逆に言うならば、好きな会社の株主である限り、すなわちその企業のオーナーである限り、その株が値上がりしようが、値下がりしようが関係ないということです。ならば株主にとって何が儲けかと言うと「株主配当」なのです。それが株主メリットです。だから「持っていて嬉しい銘柄に投資しなさい」とものの書には書いてあるのです。<株主配当?>「株主配当」と配当金とは別です。いえ、同じものですが株主配当のひとつの形態が配当金という現金で支払われるもので、それ以外にも株主配当というものがあります。株主優待とか、株主優遇とか言われたりもしますが、株主である間には、たとえ現金配当がゼロの会社でも、何かと株主であることにメリットを与えてくれるところがあります。例えば、化粧品会社であればそのサンプルの詰め合わせであったり、飲食関係であればその系列店で利用できる割引券や商品券であったりします。鉄鋼会社が地金を数キロくれるなんていうのは、(仮に実際にそんな制度があって、物を)もらっても嬉しくはないですが、本来はその会社が何らかの理由で好きだから株主になっているわけですから、案外とこの株主配当は馬鹿にできない喜びがありますし、実利的にも有利なものがたくさんあります。<実体験でいうと…>立場上、このコンテンツの流れで具体的な銘柄名を書くことはできないのですが、私自身の実体験として「これは凄いなぁ」と今年の6月は思いました。震災後に株式市場は軟調でしたから、多くの銘柄が値下がりしていたからです。機関投資家のファンドマネジャーとして株を売り買いしている限り、その株主配当は現金か換金性のあるものでないとメリットを感じません。つまり株主配当金が多いか、或いは航空会社の株主優待券のようにチケットショップに持って行って、いくらかに換金してもらえるものしか興味が湧きません。しかし、個人として買ったものには色々と実利的なメリットがあるものです。例えば私の大好きな電機メーカーの株主優待では、そのネットサイトで商品を買うと、株主割引が適用されました。その企業のWebサイトを開いて、自分の株主番号を登録することでそのメリットが得られるのですが、そもそもそこの商品が好きだから買った株ですから、その割引はありがたいです。またアミューズメント関連の株主優待も良かったです。家族でカラオケに行くのが最近の我が家のマイブームなのですが、そこの利用券がたんまりきました。子供たちに「カラオケ行くぞ!」と声を掛けても、懐は傷みません。家内は化粧品の試供品というか、サンプルをもらって喜んでいます。普段使っているものだし、新製品などが送られてきても大変嬉しいようです。住んでいる地区の鉄道会社も、地域にいろいろな関連会社があることもあり、これもまたメリットが多いです。居酒屋の利用券や、牛丼屋の金券も、全く無駄にはなりません。その上に現金での配当金まで送ってくると、かなり「儲かった」気にもなりますし、小市民的発想かも知れませんが精算の時に「株主優待券」の表記があるものを出すのは、ちょっと「エヘン!」という感覚になれたりもします。<その企業が好きであることが大事>でもたぶん居酒屋に行かない人に居酒屋の商品券は無用でしょうし、カラオケボックスに行って歌ったりしない人には不要な利用券です。女性用化粧品のサンプルを男性がもらっても使いようがありませんし、女性は牛丼屋には入りにくいかも知れません。自分の生活圏ではないエリアの鉄道会社や小売関係も、きっともらっても使いようがありません。つまりここでのポイントは、株式投資本来の姿でもある「好きな企業の株主になる」ということです。何をやっている会社なのかも解らずに、ただ証券マンのお勧めや巷で流行りの材料株に飛び乗っても、たぶんこの喜びは味わえません。でもその会社のサービスや商品が好きで、何だかんだと日常の中で関連のある企業ならば、その優待は普通に利用価値があります。<株主優待を狙え!?>マネー誌などで年度末近くになるとよく「株主優待銘柄を狙え」といった特集が組まれます。逆に機関投資家向けの証券会社のアナリスト・レポートでそういう内容を見ることはまずありません。それは対象となる機関投資家にとっては前述のように現金、もしくは換金性のあるもの以外は株主配当のメリットがないからです。確かに直接消費者に関係ない会社では、株主優待に苦労されているところも多いようです。でもそれを考えるのは企業側の仕事であって、投資家サイドが考える必要があるものではありません。半導体製造装置メーカーが個人投資家に何を優待として渡したら良いのかとか、セメント会社がどうしたら良いのかとか、数多の投資先から投資対象を選ぶ権利を持っている個人投資家が考える必要はないのです。でも私は変わっているところもあり、かつて株主としてではないですが、インテルの半導体“ペンティアム4”が封入されたキーホルダーをもらってえらく興奮した覚えがありますので、好きな会社の製品ならば、蓼食う虫もなんとやらなのかも知れません。株価が下がって評価損を抱えて悩んでいる方をよく見かけます。でもその多くが「どうしてこの人がその株を買ったのだろうか?」と思わせるものがほとんどです。逆に株主優待などを喜んで利用している人に聞いてみると、笑いながら「株価は下がっているよ」と言われることがよくあります。でも私はそこに株式投資の王道を見た気がしましたし、現実に私自身、この6月は郵便物が楽しく、待ち遠しかったです。先日、ある知り合いからは「もう優待だけで元は取ったから、株価はどうでも良いし、ちょっと上がってくれればそれでいい」という話を聞きました。是非、こんなスタイルの銘柄選びを、特に今まで株式投資をしたことがないという人にはお勧めしたいと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第101号 2011年7月22日発行より) ==========================================================
2011.07.22
<株主総会とは>今更「会社は誰のものか?」などという議論をするつもりはありませんが、念のために確認すれば「株主のもの」ということになります。何故なら、会社は一番最初のその発足当時、何らかのそのビジネスプランに共鳴した人や、それを興そうと思った人が私財を投じて資本金をまとめ、そして事業運営を始め、その出資した人こそが株主となるからです。当初にオフィスを借りたり、デスクを買ったりする最初のお金はすべてその出資者が出した資本金で賄われます。段々売り上げが伸びるようになって、利益も出るようになってくると、決算ごとに会社の純資産が段々と膨らみ始めますが、仮にそれが資本金を上回ってきたとしても、もしある瞬間をもって株主みんなで「やーめた!解散!」と決めて全部を現金化して精算したら、その清算代金は出資比率によってきちんと株主に分配されて戻ります。だから会社は誰のものとあらためて問えば、本来は「会社は株主のもの」ということになります。当たり前ですね。株主総会とは、その株主(すなわち会社の所有者達)が集まって、その会社の運営状況(一番手っ取り早い話が決算承認)を話し合い、いろいろと今後の事業計画などにオーナーとしての決定を下す機関です。「株式会社 組織図」として検索してみてください。多くの企業の組織図へのリンクがヒットされますが、そのどれを見ても、組織図の頂点に来るのがこの「株主総会」です。会社の中でも最高の意思決定機関、それが株主総会です。<取締役、取締役会とは何か>会社の「社長」、或いは「重役」なんて聞くとものすごく偉そうに聞こえたりもしますが、この人達は何かと言えば株主総会によって選任された会社の舵取り(経営)をする人たちであって、別に会社の所有者(株主)ではありません。これを所有と経営の分離と言いますが、中には筆頭株主が社長である例も多々ありますので、この場合は所有と経営が一緒ということになります。社長=100%株主という例だってあまたあります。ただ通常は上場企業の場合、資本金が大変大きく、ひとりの個人で持ち切れるような金額ではないため、多くの場合は社長といえども多くて数%の株主に留まることが多いです。また逆に会社の株式はひと株も持っていない「(株主からの)雇われ社長」もたくさんいます。その意味において、株主総会で自社の経営成績を発表する議長として、社長が「わが社の業績は…」というのは理に合わない時があります。米国企業の株主総会では通常間違っても「My company」という言い方はされず、「Your company」という言い方をします。取締役はあくまでも経営のプロフェッショナルであって、所有者ではないからです。通常は株主総会において、任期1年もしくは2年間という期間で取締役を選任し、その人達が任期中の会社の運営を任されて行います。いちいち細かいことについて、年度期間中に株主がゴチャゴチャと口を挟むことはありませんが、ただ成果が上がらなければ最大の人事権をもって選任と解任を行います。<歪んだ株主構成>さて、今年の株主総会の注目は何と言っても東京電力だったと思います。福島で原子力発電所の大事故を起こし、その後も収束の目途がいまだに立たないまま今日に至っています。その中で行われた株主総会。9,200人もの多くの株主から経営責任を問う声が聞こえ、また株主総会自体延々4時間超の長丁場となりました。しかし、メディアが批判するように、そうした株主の経営責任を問う声や原子力発電所の今後についてなど、基本的に会社側提案がその場で覆ることはありませんでした。私がファンドマネジャーとなって市場業務に携わるようになってから、記憶の限りにおいて、株主総会で議案議事が紛糾し、会社側提案がその場で覆されたという例はあまり想いあたりません。その理由は、株式の持ち合いという制度が日本企業を支えているからです。この点をきちんと理解しておかないと、実は株式投資の多く部分で間違えを犯すことがあると思っています。<投票権は株数に依存する>選挙権は20歳以上の国民に等しく与えられています。年間に数億円、数十億円の税金を納めている人もそうでない人も一票の重さに区別はなく平等です。この意味においては、株主の議決権は不平等です。つまり株主ひとりに一票ということではなく、株式一単位につき一票という計算になるからです。つまり一人の人でも、1,000株持っている人よりは、2,000株持っている人の方が発言権が上だということです。前述の出資額に応じて権利が変わるという視点で見てもらえれば至極当然の話なのですが、テレビのニュースなどで個人株主の多くが「反対」と言っているのに、どう見たって会場の過半数は反対しているだろうと思われても会社側提案が可決されていく理由はそこにあります。つまり、ひとりで他を圧倒するだけの量をたんまりと持っている人がいるということです。それが株式の持ち合いです。東京電力のケースで言えば、2011年3月末現在、308社の金融機関で約30.3%の株式を保有するのに対し、何と74万人の個人株主で43.7%を保有する計算になります。実はその前の年、つまり東日本大震災の前になると、2010年9月末現在370社の金融機関で約36.3%を保有し、60万人の個人株主で約37.7%を保有していました。つまり恐らく震災後の株価急落の局面で、必死になって売り逃げた金融機関が62社ある一方で、約14万人の個人投資家が買い向かったという図式です。逆に言えば、この最後まで持ち続けた約30.3%の金融機関こそ、投資損益度外視で政策的に株式を保有していた株主ということになります。<会社は株主のもの>日本の国政選挙がそうであるように、実際に自分の投票権を行使する人は100%ではありません。選挙の投票率が50%を切ることも多々あるように、どうも日本の場合は民主主義の最大の権利を放棄してしまう人が多いのが実情ですが、株主総会も実際同様だと思われます。今年も株を持っている人には洩れなくその企業から株主総会の招集通知と議案説明、そして賛否を示すハガキなどが送られてきたはずですが、手続きが面倒だとほったらかした人も多かったはずです。一方、大口の株主に対しては企業は総務部が総力を挙げて各議案への賛成票の取り付け、或いは委任状の取り付けに走り回ります。必要な場合は社長・会長自らが同意取り付けに走り回ります。もし、この安定株主である30%の同意を得ることができれば、株主総会提案議案はほぼ賛成可決となったも同然なのですから。<会社は取締役会のもの>この図式から行くと、株主総会に提議する議案は事前の取締役会で決定していますから、もし安定株主が意のままに動く相手だとすると、実は会社は取締役会のものという実態が見えてきます。何故なら、株式の持ち合いをする金融機関の株を持っているのは、持ち合いの相手方なのですから、双方の取締役会の利益が一致してしまうのです。取締役会としては、当然自分達の任期もコントロールしたいし、役員自体の改選時における人事も自由に行いたい。更に言えば、会社の事業の大きな変更であるとか、利益計画や処分案、或いは役員退職慰労金などなど、取締役会で決めたいと思うのが人情というものです。取締役会は誰がどう牛耳っているのか? これは会社それぞれによって違います。派閥がある時もあれば、有無を言わさぬだけの功労者がトップに居る時もあります。歴代のOB達が院政の如くに後任人事を操っている会社もあります。当然、親会社が有無を言わさずコントロールしている時もあります。実はこのあたりをきちんと把握しないと、会社のガバナンスがどうなっているのかなどは解らないというのが事実だと言えます。<真のコーポレート・ガバナンスとは?>こう書いてしまうと、個人株主や普通の投資信託のファンドマネジャーが大上段に構えて「株主議決権行使の方法とその検討方法」などと悩むのはバカバカしいことのように思える時もあります。確かに、株式持ち合いでギチギチの会社の株主総会に異議を投げ掛けるのはかなり難しいかも知れません。しかし、私達にはもうひとつの、そして最大の武器があります。議決権行使で反対を投じるなどというまどろこっしい方法ではなく、もっと簡単な方法です。そういう会社の株は買わなければ良いのです。運悪く、自分がそういう会社の株を持っていたんだということに気がついたら、売ってしまえば良いのです。その結果何が起こるのでしょうか?当然、株価が下がります。売る人が多ければ多いほど、買手の数と均衡するまで株価は下がります。今回の震災後に東京電力でさえ多くの金融機関が売り逃げたのは、その東京電力株の下落による投資損失に耐えられなくなったからです。こうした安定株主が逃げることこそ、企業にとっては最大のリスクであり、こうした企業の取締役会も市場の声についには耳を傾けざるを得なくなります。議案に反対したいものがある、経営方針に納得がいかないという企業の株は、議決権行使の葉書を出すことよりも「買わない、持たない」というのが、今の日本企業に真のコーポレート・ガバナンスに気付かせるひとつの方法であり、つまらぬイライラを抱えぬ良策なのかも知れません。やや寂しい結末だと思われてしまうかも知れませんが、それが上場企業の株式がいつでも売買できる取引所にあるという本当の意味だとも思っています。今年の東京電力の株主総会を見ながらつくづくそう思いました。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第100号 2011年7月8日発行より) ==========================================================
2011.07.08
<SNS(Social Network Service)とは?>さすがに映画が流行ったこともあり、SNSをそのまま和訳して「社会的ネットワーク構築サービス」などといった訳をされる方は少ないかと思いますが、SNSって利用されていますか。少なくともこのメルマガ(もしくはバックナンバーのブログ)を読んでいただいている方達で全然知らないってことはあまりあり得ないと思いますが、どのくらいの人達が利用されているのでしょうか?こうみえても(本人は若く見えているつもりなので)今年齢(よわい)50をまもなく数えようという私でも、今現在登録しているアカウントがmixi、GREE、LinkedInそしてFacebookと4種類あります。当然、その全部を頻繁に利用しているわけではなく、今最もアクティブに使っているのがFacebookです。そして実は案外はまっています。念のため、あまりSNSを利用されていない方々のためSNSとは何かということを、自分の利用実感の中で説明すると、それはネット上の井戸端会議の場所。別にそこにいることが義務なわけでもなく、井戸端で話されている内容が面白ければ参加すればいいし、興味がなければ適当に流しておけばいい。でも基本的に本来の井戸端会議がそうであるように、誰がそれを話しているのか顔が見えるというもの。見ず知らずの人、或いは不特定多数の人に混ざって議論したり、自分の意見を一方通行で披露したりする場所ではない感じ。時に真面目な話をしてみたり、時にただただ意味のない「お腹減ったなぁ」みたいな呟きをしたり、冗談を言い合ったり、誰かの話にコメントを付けてみたり。インターネットが物理的な距離も、国境も、時差さえもなくしたという最も根源的な長所を利用したバーチャルな井戸端会議、それがSNSだと私は思っています。<TwitterとSNSの違いとは?>こうしたサービスの中で類似な感じがするのがTwitterです。こちらもアカウントをもっていますが、何がどう違うのかというと、私の印象ですが、Twitterは正に独り言を「つぶやく」もの。誰か特定の人、もしくはサークルに向かって話すというよりは、ひとりでブツブツ言いながら、それを誰かがキャッチして、反応してくれたら反応をし返すし、そうでなければつぶやきっ放しという感じです。それに対してFacebookなどは、自分の知り合い・お友達限定の井戸端にいて、「こんな永田町のドタバタはやめて欲しいよなぁ」とか呟くと、隣にいた知り合いが「俺もそう思うよ。この間なんかさぁ~」と話が続くという感じです。もちろん、この例でいえば政治に興味がある人がその場所にいなければ、単なる独り言になるという意味では一緒ですが、少なくとも基本的には知り合いベースの話し合いになるということです。<何でこれらが広まったか>映画「The Social Network」を観ると、そもそもの事の発端はハーバード大学の中の学生達用のコミュニティ・ネットワークがどんどん伝搬していったということ(この映画は面白いので一見の価値ありです)なのですが、日本で最近急速に伸びているのは、やはり東日本大震災の影響です。電話もケータイも繋がらない状態になったあの日、インターネットを利用したSNSが一番早く通信ができたという実感があるからです。実際、あの日を境に私のお友達登録も加速度がついて伸びていて、皆さんFacebookを始めたばかりというところからも、その加速度感が伺われます。実際の話、これは私の体験談ですが、震災当日に家族と連絡がつくまでに数時間かかりました。横浜の自宅(停電してました)の家内と連絡がついたのは夜でしたから、家族の安否を確認できずに相当悶々としていました。一番最初に連絡がついたのは高校生の息子で、それがTwitterでした。仕事の合間を見ては自宅に電話をし、家族のケータイにメールを送りとコンタクトを試みていたのですが、当然繋がりません。ふと思い出したのが「Twitterに呟いたら、これを見てくれるかも知れない」ということです。息子は私のTwitterアカウント名を知っているはずなので、そこに自分は何とか無事でいると呟いておきました。息子からそれを確認したとのメールが届いたのは、数時間後でしたが、外出先にいた息子はやはり私のTwitterをリアルタイムで確認し「パパは無事なんだな」と混乱した街中で勇気づけられたそうです。ただ彼もやはり自宅とは連絡が取れず、延々歩いて夜中に帰宅するまで母親と妹のことが心配だったようです。当然、今では家族全員がアカウントを持っており、何かあればTwitterに呟くことにしています。これがSNSが日本で大ブレークするきっかけのようですが、それに合わせてFacebookも広まっているようです。<Facebookは記名式>インターネットは元々通信が途絶えないように開発された軍事目的技術の民間転用であることは有名な話ですが、そのお陰で、震災であちらこちら通信が寸断されたしまった中でも、最後まで繋がっていたのが幸いしました。ただSNSの中でFacebookなど基本的に本名を名乗るSNSは今後その存在感が他のSNSとは独立した流れを作るだろうと思っています。というより、本名を名乗るSNSと、匿名でも参加可能なSNSとが別々の道を歩むだろうなということです。mixiなども当初は会員の紹介がないとアカウントを持てませんでしたが、途中からその制度がなくなりました。当然加入利用者は増えたと思いますが、誰とコミュニケートしているのかと確認はできなくなりました。つまり時々「なりすまし」の人から変なお誘いが来るようになったということです。それはそれで良いと思います。ネット上では別のキャラクターとして振る舞うことができるというのは、変身願望とまではいかないまでも、それなりに楽しんでいる普通の人をしっています。当然オフ会とかは参加できないのでしょうが…。記名式の長所は、基本的に知らない人に余計なことが伝わらないということです。プロフィールの設定も、どの情報はお友達まで、この情報はお友達のお友達まで、など細かく設定することができます。私は現在「近況」などの呟きについては、基本的に「お友達」レベルまでしか公開しないように設定しています。<広報媒体としての利用方法など>その一方で、見ず知らずの人でも、お友達リクエストを幅広く受け入れ、そうした状況下でFacebookを利用している人も多くいらっしゃるようです。「ご承認、ありがとうございます」というメッセージがウォールに羅列されている方は、著名な方で、多くの人からお友達リクエストが送られてきて、それに快諾されていることが解ります。ある意味、それを商用利用されているのですが、自分からのメッセージであるとか、著作物の宣伝になるとか、そういう利用方法をされるにはこれまた大変便利な代物とも言えます。記名式なので、変に無責任なことも言えないし、そうした人のメッセージを即座に聞きたいという人には今までにないコミュニケーション手段だと思います。<無料サービスでどこまで広げることができるか?>正直、このサービスがどこまで今後ユーザーから料金を徴収しないで拡充できるのかは解りません。Googleが果てしなく無料サービスを拡充していく中で、誰がこの運営費用を払っているのかと多くの人が思っていると思いますが、それと同じ状況が起きているのだろうと思います。Googleの場合、そこにアクセスし、そこでメールをやり取りし、などという部分で、多くのデータをGoogle側が蓄積することで、最終的にはテレビなどと同じメディアの価値を急速に獲得しました。そこに宣伝広告を打つことが、最も費用対効果で見た場合に優れているということが見えてくることで、その価値はますます上昇したと言えます。FacebookなどのSNSも、それを利用する人が増え、頻繁にアクセスするようになり、写真をアップしたり、GPSで自分の居所を伝えたりなどすることで、スポンサーにつく企業にとって有益な情報がどんどんと集積されていきます。あそこの井戸端会議に行けば、ああいうタイプの人達が集まっているということが解れば、そこにある特定の意図をもった人ならば近づく価値があるからです。映画の中でも、つまらない宣伝広告のスポンサーなど探すことよりも、まずはとてつもなく大きなSNSサービスを作ることだと主人公が言う場面があります。それを企業がどう利用しようと思ってくれるかは、その後考えれば良いというような場面なのですが、これが正にインターネット・ビジネスだと思います。そうした面白いビジネスには、どんどん投資をしてくれる資本家もシリコンバレーにはいます。その活力とエネルギーがこの産業の根幹だと思うのですが、正直、私のような凡才には今の段階でこのSNSの究極の姿は描き切れていません。少なくとも、これからまだまだユーザー数が増え、アクセスする時間が増え、そして有益なデータがサーバーに蓄積されていくということだけは確かでしょう。そしてきっと更に無料で面白いサービスが拡充されていくはずです。百聞は一見に如かず、まだ使われていない方はまずは使ってみることをお勧めします。そこには、この閉塞感漂う今の日本にはない明日への拡がりを垣間見れるはずです。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第99号 2011年6月24日発行より) ==========================================================
2011.06.24
<iCloudサービスを今秋から開始>サンフランシスコで6日開幕したアップルの開発者向けイベントで、同社はこの秋から音楽や写真をインターネットに共有できる無料クラウドサービス「iCloud」を開始すると発表しました。一部の人達には「なんだ、期待外れだったなぁ」と思われたかも知れない内容ですが、ごく一般の人達にとってこれは「かなりおもしろいサービスが始まった」と言える内容だと思います。そしてアップルがやっぱり“一馬身リード”をアンドロイド勢につけるかも知れないと思っているというのが発表後の第一印象(原稿執筆時6月7日)です。とはいえ、アップルが独走して他を圧倒するというのではなく、正にこれから次から次とおもしろい材料が横に広がっていく話だと思っています。これからのハイテク株のテーマは「モバイル・クラウド」と「ブロードバンド・ワイヤレス」だとずっと言ってきましたが、それが確かなストーリーとして世の中に流れていることを証明してくれたと思います。<一言で説明するならば>「iCloud」とは具体的には何をする話かというと、一言で言うならば「iTunes」をクラウド上に持って行って、それに「MobileMe」(有料クラウドサービスで、複数のデバイスのデータを自動で同期させる)というサービスをくっつけたというのが、極めてラフな説明の仕方です。想像できますか?「iTunes」はiOS搭載のスマートフォンなどアップル製品に独特な利用スタイルとサービスと思われる部分ですが、この「iTunes」の役回りはアップル製品を複数持っているユーザーにとっては欠くことのできないものであり、複数利用でない場合にはAndroid OSのスマートフォンとの差別化をあまり感じさせない部分とも言えます。すなわち、iPhone、iPad、iPodそしてMacといった同社製品を同時に所有している人にとってはこの「iCloud」はある意味「待望の」というサービスであり、そうでない人には「たいしたメリットないね」というサービスでもあるかも知れないということです。<iTunesってなんだろう>私は「パソコンはWindows」派なので、Macパソコンこそ持っていませんが、携帯音楽プレイヤーとしてiPodに始まり、スマートフォンとしてのiPhone、そしてタブレットとしてiPadを所有しており、iPodに関しては更に複数のタイプを使っています。車に置きっ放しているものもあれば、バッグに入れているもの、或いはTシャツ姿の時にちょこっと袖口に付けて使えるようなものなど、iPodは利用シーンに合わせて使い分けています。私のようにiPodを携帯音楽プレイヤーとして使っているからiPhoneに難なく移行したという人も実際には多いだろうと思います。こうした利用シーンで活躍するのが「iTunes」です。パソコンにこれをインストールしておくことで、各端末に収納しているデータの管理が簡単に行え、その操作も簡単といったものです。いわば、アップル製品のハブになるわけですが、各端末にストレージしている音楽や映画、或いは写真などを自由に移動したり、コピーしたりできます。ただ何が問題かと言えば、各端末の容量が違い、一義的な用途も個々に違うため、どの端末にどの曲を入れておくかというようなことをきちんと考えておかないと、聞きたい時に聞きたい音楽が聞けないとか、観たくなるかも知れない映画を総て持ち出せないとか、そういうことが起こるということです。<Android端末にはないサービス>私が現在日常的に利用しているケータイはauのIS-05というAndroid OSのスマートフォンなので、iPhone環境との比較は容易なのですが、実感としての大きな違いは前述の通り「iTunes」があるかないかです。auにもLismoといったサービスがあるので、音楽の管理やデータの管理はそこでもできるのですが、OSも共に書いているアップル社製のそれと、Google社が作ったOSの上で使われる動作するアプリとしてLismoとでは、やはり多くの点で限りなく類似しながらも違いを残すと言った感じがします。今回の発表は、そのiTunesがクラウドの中に置かれるということで、今後のこの辺りのサービスの拡大や、それらに伴うハードウェアの拡がりがかなりおもしろくなってきたと思っています。<肩透かしを食ったという印象の原因>しかし、このメルマガが出る頃には、恐らくあちらこちらから今回の発表について「なんだ、たいしたものじゃないないか」という厳しい評価が出るかも知れません。でも株式市場関係者の目線で見ると、これはとても前向きな評価ができる内容です。それはなぜかというと、肩透かしを食ったなと思われる期待されたサービスの多くが、どうやらモバイル通信環境の問題でリリースが止まっている感じだからです。例えば今回の「iCloud」と各端末のデータのやり取りはリアルタイム・ストリーミングではなく、基本的には自動同期の考え方だということです。私も当初は動画のリアルタイム・ストリーミングを行えるようになるのだろうと考え、だとすれば、現在の通信環境を考えると伝送方式か動画の圧縮方法をいろいろと工夫しないと、少なくとも「アップル」というブランド名で万人に提供するサービスとしてはかなりなチャレンジになるだろうと思っておりました。そしてそうなることをかなり期待もしていましたが、結果は残念ながらストリーミングはできません。だからこそ「単純に「iTunes」をネット上に置いただけじゃないか」という厳しい声が聞こえてくるわけですが、これは今後の発展の大きな布石になると思います。<Wi-Fi経由で可能>たとえば従来はパソコンのiTunesでしかできなかった各端末のバックアップも、iCloud上で可能にはなるのですが、その条件は「Wi-Fi経由で可能」ということです。写真などをiCloud上にアップロードしたりするのも、基本的には「Wi-Fi経由で可能」ということになります。現状の3Gタイプのモバイル通信環境では、アップルとして提供したくても提供できないサービスがまだまだたくさんあるということです。すなわち、伝送したいデータ容量が通信の帯域幅で不足するということです。これは逆に返せば、消費者のニーズがどんどん喚起され、また技術革新が進むことで、この分野はますます発展し、進んでいくということを意味しているに他なりません。株式市場関係者は何と言っても右肩上がりのチャートが好きです。そこに右肩上がりのチャートがある限り、必ずそれで儲かる銘柄が出てくるわけですから。<インターネットTVに期待>以前もこのメルマガで「iPhoneで映画を観ています」ということをお伝えしたことがありますが、その延長線上として“インターネットTV”の将来性に期待しています。この「iCloud」にご自宅のHDDレコーダーがあると考えてみてください。それをリアルタイム・ストリーミングで、観たい時に、観たい場所で、観たいデバイスで、観たい所から再生出来るとしたらとてもおもしろいと思いませんか?電車の中ではiPhoneで、ちょっと座れるところではiPadで、そして自宅では大画面テレビの前でなどなどです。例えば、朝の忙しい時間、朝食を食べながら観ていたテレビのニュースを、その続きを電車の中で観られたとしたら便利だと思いませんか? でも、そんな夢物語みたいな話が現実になる時が、もう目の前にまで来ています。それが今回の「iCloud」の発表に垣間見えるハイテク産業のひとつの断面だと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第98号 2011年6月10日発行より) ==========================================================
2011.06.10
<電力各社も銀行も(所有権が国にはない)民間企業のはず>前回の続き、企業のSRI(Socially responsible investment=社会的責任投資)、すなわち企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の状況を考慮して行う投資について言及する前に、前回と今回の間に起きた不思議な政治の“無茶ぶり”に触れたいと思います。それは枝野官房長官が「東電を支援する前提として、銀行に既存債権の放棄を要請する」と発言されたものです。恐らく、多くのほとんどの市場関係者があんぐりと口を開けたと思います。それはもちろん感心したからではなく、呆気にとられたからです。ただ、事前に何の調整もなく、わずか記者会見の40分前に中部電力に通告し、「浜岡原子力発電所の原子炉全停止を中部電力に要請した」という“無茶ぶり”をされる内閣総理大臣を擁する政府の官房長官ですから、流れとしてはさもありなんとは思いましたが、内容はとんでもない話だと言わざるを得ません。何故なら民間企業の経営の根幹にかかわる部分をあたかも思いつきで言われているかのように右に左に振り回そうというのですから。長く野党(批判と批評さえしていれば良い)に居た政党出身のため、その要職者の発言がどれだけ重いのかを理解していないのか、或いは法律と言う社会の根源的なルールを理解していないのかとしか思えません。これを「政治主導」というのならば、正にファッショだと言われてもおかしくないでしょう。本人達は「要請しただけで判断は民間に任せた」と責任逃れをしていますが、政府の要請を断ったらその後にどんな意趣返しをされるか解ったもんじゃありませんからね。中部電力は慌てて臨時取締役会を2度にわたって開催し、そしてその要請を飲みました。取締役会とは企業の所有者である株主にその運営を委嘱されている取締役が揃って、会社の経営方針などを決定する場です。中部電力はその要請を飲みましたが、この決定による損失が株主利益の追求によるものではないという理由で、今後同社株主の議論を呼ぶ可能性はあります。意図的に株主利益の逸失を図ったとされたら、経営陣は背任行為として処断され、損害賠償の請求を受ける可能性だってあり得ます。株主、すなわち所有者が国だったのならば、全然問題はありませんが…。誤解なきように申し上げておきますが、浜岡原発を停止したこと自体の是非を論じているわけではありません。問題はその意思決定プロセスにあります。<銀行にも債権放棄を要請>枝野官房長官が言われた「国が東京電力の補償を支援するためには、銀行が債権放棄をすることが大前提となる」という発想は何がどう考えたら生じるのか理解に苦しみます。もし東京電力が実際に債務超過になって倒産したのならば債権放棄は止むを得ないかも知れません。ただ破産法の法律家に聞くまでもなく、その場合でも管財人を選定し、会社の清算価値を分析し、処分できるものは処分し、或いは売却できるものは売却するといった順序があります。その結果残った資産を東京電力に債権を持つ人達が、その法律で定められた債権の弁済順位に従って受け取り幕を下ろすというのが、通常の法治国家の中で会社が破綻した時の処理の基本です。首相官邸から「おまえとおまえは債権放棄、おまえとおまえは保護する」なんて決定が下されることはあり得ません。もしその会社が社会的に重要であるとか、再生の可能性があるとするならば、管財人を中心に債権者との話し合いが行われ、やはり同様な資産査定などを経て放棄させる債権は放棄し、そして会社を更生させるというやり方が普通の常識のはずです。少なくともこの段階で企業の所有者である株主の利益は優先順位としては最後になります。にも関わらず、東京電力が倒産もしていない段階で銀行に債権放棄を要請(実質的には命令に等しい)するというのは、やはり法治国家としてはあり得ないやり方だと言わざるを得ません。この場合も銀行の所有者が国だったらば話は別ですが…。<銀行株主はもっと政府に怒るべき>枝野官房長官がこの発言をされたことを受けて銀行株は急落しました。すなわち、銀行の所有者である銀行株主の財産は毀損したのです。米国ならば間違いなく訴訟を起こされるでしょう。一方で「個人投資家が多い東京電力の株主は保護する」と一度言ってしまっている以上、そう簡単に前言は撤回しないでしょうから東京電力は保護されます。しかし、そのつけを「銀行に債権放棄を要請」という形で回すことで、銀行の株主の利益は損なわれました。本来、どちらに責めがあるのでしょうか?「国民的な理解が得られない」という発言がありましたが、理解が得られるか得られないかといった何の議論もなく、官房長官の空想だけで唐突にこうした発言をされるあたりは、やはり中部電力の浜岡原子力発電所の停止を要請したのと同じ感覚です。これでは少なくとも原子力発電所を所有する電力会社へ融資を行っている金融機関の株式への投資など、今後安心してできません。少なくとも、財務諸表分析を精緻に行って、当該銀行の保有する債権分類などを調べて、投資をすると言った株式投資の王道理論は、この国においては完全に破綻したと言って良いでしょう。いつ「国家要請」で突然債権放棄をさせられるか解らない企業の財務諸表分析など何の意味もないからです。<東京電力の今後>東京電力の2011年3月期決算が20日に発表になりました。案の定、同社は2012年3月期決算の見通しを発表できないばかりか、終わった期の決算に織り込めたのは福島原子力発電所の廃炉に関わる(現時点で解る)費用だけで、補償費用は含まれていません。大きく毀損としたとは言え、2011年3月末の同社自己資本(純資産)は1兆5,581億円残っています。つまり現時点において、同社は債務超過にはなっておらず、この時点で銀行に当然にしてというスタンスで債権放棄を求めるのは難しいです。ただ一方で、同社は12年3月期に社債と長期借入金の返済に7,500億円、復旧費用や燃料費を合わせると総額2兆円余りの資金が必要ですが、原子力発電を火力発電に切り替えることによる燃料費アップで単年度ベースでの営業利益が計上できない可能性が高まっています。この状態では外部から資金調達をしない限り、資金繰りがショートし破綻します。しかしすでに従来のような社債発行による調達方法は(クレジット低下により)事実上不可能であり、銀行借り入れができるか否かに掛かっているというのがリアルな現状ですが、政府からはすでに銀行に債権放棄の要請がある段階で、どうやって銀行は今後東京電力に融資を行うのでしょうか?更には債権放棄をさせられて、実損(焦げ付き)を計上させられるとしたら、どういう理由を株主に説明して“盗人に追い銭”とも言える追加融資を行うのでしょうか? 現実には枝野官房長官のあの発言でその道は閉ざされたとも言えるのです。何度も言いますが、東京電力もそうならば、銀行も民間企業、その所有者は株主であり、国ではありません。因みに、2011年3月末の同社自己資本(純資産)は1兆5,581億円、補償費用がこれ以上になれば、その段階で同社の債務超過転落は確定です。補償範囲の特定ができなければその後も損失は膨らみ続けます。この問題をどう解決するかには、思いつきではない、また当然のことながら従来の“ポピュリズム”とか“ばら撒き”などと批判されている姿勢とは違うスタンスでの議論を政治に期待しないとなりません。何せこの国の公的債務の残高は、すでに対GDP比率でみて、世界で一番悪い状況にまで震災前で、すでに3月11日以前の段階で到達しているのですから。つまり収入対比、最も借金が多い国なのです。<SRIについて考える>SRI、すなわち企業の社会的責任の状況を考慮して行う投資と銘打った何本ものファンドが東京電力株を保有していました。そしてこの下落過程でその株式を売り切ったファンドもあります。さて、この件については皆さんどう考えられますか?現政府(少なくとも選挙結果で国民のコンセンサスとして選ばれた政府)がその公共性や株主に個人投資家が多いことに鑑みて、銀行に債権放棄を要請し、その補償責任については「どこまでも国が面倒を見る」とまで首相に言わしめているような、そんな重要なビジネスを行っている会社こそ、本来は社会的責任が高いと言うべきなのではないでしょうか?ここまでの論調で私が現政府のやり方をおかしいと思っていることはご理解頂けると思い、相当な皮肉交じりな言い方ですが、「社会的責任が高い企業を株主として応援する」というのがSRIの真骨頂ならば、それらのファンドは保有する東京電力株を始めとする原子力発電所をもつ電力会社の株を売却して売り逃げるどころか、今こそ残りの現金ポジションを総動員してでもそれらを買い入れるべきではないのでしょうか?株式投資をなぜ行うのかと問われた時、「儲けたいから」と言うことならば、今回の原子力発電所事故の混乱の中で、一目散に売り逃げるのは“是”だと思います。しかし、そうではない違う大義を掲げて設定されているファンドならば、やはりその大義に従うべきなのではないでしょうか? 「民主主義の資本主義経済国家」が「独裁政治の統制経済国家」かと揶揄されるような“無茶ぶり”をさせてまでも維持しようとされる会社こそ、SRIに適した企業と言えるのではないかとも思います。<銀行株主はもっと政府に怒るべき>恐らく、この震災後の期間において、多くの機関投資家の間で「東京電力株を保有し続けるかどうか」というのは色々と喧々諤々の議論が繰り広げられたことと思います。もしかすると前述のような議論もあったかも知れません。しかし、結局は多くの機関投資家が売却したのではないでしょうか?それはパフォーマンスをあげるという至上命題があるからです。では、そのパフォーマンスとはとなると、結局は大義ではなくて、儲けなんですよね。ベンチマークより良いか悪いか、或いは絶対収益を追求したかどうかの差はありますが、SRIなどといった大義は余り斟酌されていないでしょう。でもSRIのファンド、当初はどうして東京電力株を買ったのでしょうか? 「原子力発電という二酸化炭素を排出しないクリーン・エネルギーを作ることに邁進しているから」と考えたのではないでしょうか? つまり原子力発電肯定派だったのだと思います。東京電力が尾瀬の大地主で、その湿原の自然環境を守っているからなどということは二の次だったと思います。すなわち、一番のビジネスの根幹である原子力発電を“是”として投資判断をしたはずです。今回、それが不幸にして破壊され、まだ終息の目途も経ちません。そこで「原子力発電はクリーン・エネルギーではなく、最悪のエネルギーだった」といきなり宗旨替えをされたのでしょうか? 或いは、事故発生後からの対応を責めているのでしょうか?でもそれでは余りに節操が無い気がします。ましてやその後のコーポレートガバナンスを否定しているのならば、何をかいわんやです。だとしたら結局は、株主として企業を所有して応援するというスタンスではなく、能書きは良いからとにかく儲かる銘柄を探す、というのと大差ないと思います。今回の東京電力株を巡る多くの流れは、運用会社の投資哲学とその実際を確認するのにたくさんの材料を提供してくれたと思います。これを機会に「なぜ株式投資をするのか?」ということをもう一度考え直して頂けたらと思います。因みに私の答えは前回の冒頭に申し上げた通りです。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第97号 2011年5月27日発行より) ==========================================================
2011.05.27
<1番の理由は“金儲けでしょう”(笑)> 運用の現場に長くいると興味深い議論に出くわすことがよくあります。その代表格は、その議論の主旨を突き詰めていくと「なぜ株式投資を行うのか?」ということになるものです。私はそもそも変な綺麗ごとは言いたくないタイプなので、大抵の場合「一番の理由は“金儲けでしょう”」と答えることにしています。 もちろん、発行済み株式数の過半数以上を握って買収したり、その会社の経営を左右しようと思ったりする場合や、或いは少数株主として発行済み株式数の3%以上を取得して株主総会招集請求権や役員解任議案の提出を行いたいなど、それなりに株主としての権利を利用しようと目論む場合は別ですが、普通の場合は「値上がりしそうな株を買って、値上がりしたところで売り抜けたい」というのが株式投資をする一番の理由なのではないでしょうか? 一日のうちに同じ銘柄を何度も売り買いして、薄い利益を積み上げて行くようなデイ・トレーダーの人達はその極端な例としても、「長期投資です」と言い切る人でも余程のことがない限り目的はひとつのはずです。「長期投資で資産倍増計画」なんて言うと、どこかスマートな感じがしますが、要するにそれも突き詰めると「金儲け」ですよね。 <株式投資の最大の特徴とは企業の所有権を手にすること> 預金すること、債券を買うこと、或いは投資信託を買うことなどと株を買うことの決定的な違いはその企業の所有権がついてくるということです。預金をしてもその銀行の所有権は自分のものにはならないし、投資信託を買ってもその運用会社は誰か他人のものですが、株だけはその企業の所有権がついてきます。 利息や配当金の他に、債券や投資信託が値上がり益を狙えるのと同様に、株にも配当金や値上がり益を狙えるという同じ特徴がありますが、投資先の所有権までついてくるのは株だけです。案外、単純な小さな違いと思われがちですが、実はこれって大きな違いなのです。つまり責任の度合いが全然違ってきます。 例えば、500万円で購入した自慢の車をぶつけて壊してしまったとします。まだローンはたっぷり残っていますが、車の価値は著しく減価しています。この時、所有者の資産価値はその分目減りしますが、ローンはその分を減らしてくれませんよね。内容はこれと似た意味になるのですが、その代わり、所有者はその車を好きに乗り回せますが、ローン会社は一切その車を使えません。そういう所有権がついてくるのが株を買うということなのです。 ただ一般に所有権が付いている気がしないのは、残念ながら普通はその所有割合が小さいからです。トヨタ自動車の場合、発行済み株式総数は34億4,799万7千株にもなりますので、最低売買単位の100株を持っている人(約33万円)は同社の「0.000003%」を持っていることにしかなりません。 逆にもし5月6日の株価で試算して3,320億円くらい払って3%分の株式を保有したら、個人の判断で株主総会招集請求権を行使することもできますし、「某何某さんは役員として失格だ!」などとして解任議案を提出することだって出来ます。トヨタ自動車で考えるとあまりに金額が大きくて現実性がないような気がしますが、時価総額100億円の企業ならば、それは3億円となり、庶民感覚では程遠いですが、いわゆる超富裕層と呼ばれる方々にとってはそんなに現実性のない話ではありません。 <企業の所有権を持つメリット> バブルが弾ける前の日本やサブプライム・ローン問題が起きる前のアメリカの住宅は例外として、通常は所有権を売買できるものは、手に入れた端から値段が下がります。車などはその典型例で、余程レア(珍しい)なクラシック・カーなどでもない限り、車はナンバーが付いた段階で3割ぐらいは値段が下がります。それはもうその物が新たな付加価値を生まないから仕方がありません。 ただ企業の所有権の場合、その企業が成長し、新たな付加価値を生み続ける(利益が出続ける)限り値段が上がります。PBRというバリュエーション(企業価値評価)指標がありますが、その企業が解散して総ての資産を処分した場合の1株当たりの価値と、実際の取引値段との比率で計算されるものです。企業は成長し続ける限り、機械も増えるし、工場などの資産も増えますので企業価値は増加します。だから株価が上昇するという訳です。これが企業の所有権である株の最大のメリットです。 <企業の所有権のデメリット> 一方、デメリットも当然ながらあります。もちろん前述したメリットの通り、成長し続ける限り価値は上昇しますが、一方で赤字になったり、経営環境が厳しくなったりすれば価値が下がります。これがひとつのデメリットには違いありません。しかし、本当のデメリットはそんなことではありません。 冒頭、車を壊してしまった時の例を引用しましたが、企業が何らかのダメージを受けた場合に価値が減少した時、一番その被害を受けるのが株だということです。例えてみれば「債権の弁済順位が低い」ということです。同じ会社のものでも、社債を購入している場合は、その会社が存続している限りは満期時に通常は償還されます。つまり満期まで持っていれば元本が返ってきます。 赤字だろうが、工場から火災を出そうが、存続している限り元本は返ってきます。それは債権の弁済順位が高いからです。当然、その間は約束された利息も入ってきます。銀行預金の場合も同様です。社債も銀行預金も、企業の側から見ると貸借対照表の負債部に計上されるため、企業が存続する限りは返済する義務があります。 ただ株の場合、それは資本の部に計上されるため、基本的に企業にその返済義務がありません。というより、株主である以上、借財を返済する側であり、返済される側ではないということです。株主が注入した資本は企業にとって借財ではないのです。 <東電のケースで考える> なぜ今回こんな話を始めたのかと言えば、東京電力の福島原子力発電所の問題をきっかけに、多くのところで議論がこんがらかっていると思われるからです。すなわち「東京電力の株主責任」という話です。 東京電力の場合、今回の原発事故に伴う補償金がどこまで広がるかが解らない中、数兆円にもなるかも知れない補償金支払いにはとても耐えられないとの政治的判断から多くの案が検討されているのはご承知の通りです。東京証券取引所の上場廃止基準に明記されていますが、上場企業は「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」に上場廃止するとあります。 東京電力の純資産はおおよそ2兆5千億円程度ですから、これを超える補償金が発生するとなると同社が債務超過に陥ることは避けられません。そして1年以上にその期間が及ぶと当然上場廃止基準に抵触するということになります。 問題は東電が残高にして5兆円以上の社債を発行している会社だということで、そんな債務超過の会社の社債を購入する投資家がいるのかということになり、もしそれがなければ銀行融資(銀行も債務超過の企業には原則的に融資はしませんが…)などで調達できない限り、東京電力は倒産せざるを得ないということなります。 いずれにしても、現状の株式は基本的に価値がなくなり、株価はゼロになるというのが普通の考え方です。債務超過ということは、同社の保有資産などをすべて資金化しても、帳簿価格以上に余程高く売れるものでもない限り、債務を弁済したら何もなくなるどころか、債務さえも全額弁済できないという意味なので、当然企業の所有者である株主にまで回ってくるお金はないということです。これが株主としての責任ということで、逆に言えば、株主の有限責任と言うことで、それ以上の責任を負うことはありません。 <東電の場合で学ぶべきこと> 東電のケースでおかしな話だなと思うことは「東電には個人投資家がたくさんいるのだから、上場廃止になるようなことはするべきではない」とリップサービスをする政治家や経済評論家などがいることです。残念ながら、それは「株とは何か?」いう基本的な部分を踏まえていないとしか言えず、心情的な議論は別として、東電の株価は債務超過となるのであればゼロにならざるを得ません。 それが株というものであり、だからこそ、キャピタルゲインも狙える傍らで、普通の債券よりも高い配当利回りを享受できたのです。恐らく東京電力の株式を買われていた方は「東電は絶対に潰れないから、高利回りの預金感覚で、上手くいけば値上がりして儲かるかも知れない」と思われていたはずです。でもこの資本市場の世界「絶対」はないのです。それを学ぶべきなのが今回の東電のケースだと言えます。相当高い授業料についてしまった方も多くいらっしゃると思いますが、残念ながらこれが本来の資本市場の怖さとも言えます。 <機関投資家の場合の問題点> ここまでだいぶ長い前振りになってしまったのですが、東電の話が変だと思うもうひとつの点は、機関投資家の購入動機とその後の対応です。とりわけ、SRIといわれる分野で同社を含む電力関連銘柄に投資をしていた場合の話です。SRIとはSocially responsible investmentの略で日本語では社会的責任投資という意味になり、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の状況を考慮して行う投資のこととされています。この辺のことを含めて、機関投資家の場合の問題点を次回考えてみたいと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第96号 2011年5月13日発行より) ==========================================================
2011.05.13
<“技術大国日本”という看板の崩壊>3月11日に日本を襲った大震災、それに伴い引き起こされた津波の悲惨さや悲劇について、この場でことさらに書き立てることはいたしません。ただ福島原子力発電所の事故については、その発生自体はM9の大規模地震の影響ということで不可避な面も多々あるとは思われますが、現場で命懸けの復旧にあたられている方々やその関係者の方々への心からの感謝の念とは別に、原発事故はやはり「人災」だったとどう調べてみても思わざるをえません。とりわけ、その後の処理については間違いなく「人災」と言えると思います。そしてこの被害は直接的な放射能汚染によるもののみならず、今後の日本経済に大きなダメージを与えてしまったと思っています。それは長年かけて先人達が培ってきた「技術大国」というレピュテーションに大きく傷を付け、そしてその信用を失わせたということです。厄介なことに、こればかりは日本国内で被害者の特定をすることはおろか、被害額を算定することもできません。それをどうすれば回復できるのかも解りませんし、当然のことながら、国や東京電力にそれを補償しろといっても何もできません。かつて「メイド・イン・ジャパン」は信頼の証でした。しかし、この先それが通用するのかと言えば、状況はかなり厳しいと言わざるをえません。<チェルノブイリやスリー・マイル島よりも悪いという事実>チェルノブイリ原発の事故については、当時のソビエトのずさんな管理が故と言われて来ました。スリー・マイル島原発の事故についても、多くの人の心の中で「アメリカ製だからね」という暗黙の了解があり、だから「日本の原子力発電所は絶対大丈夫」みたいな虚像を誰もが信じてきたのだと思います。地震発生直後から「チェルノブイリみたいにはならないよね」と多くの人が信じてきたのは、単に政府や東京電力の情報発信の不確かさ(不誠実さ?)が理由なのではなく、日本製の製品に対する絶対的な信頼のようなものがあったからこそだと思います。その信用の裏書きを結果として支えてきたのは、自動車や電化製品などの多くの日本の工業製品であり、日本人の勤勉実直さに他なりません。多くの米国企業や欧州企業を訪問してきたので肌で感じたものがありますが、世界中の企業が日本の物作りに学ぼうとしていました。しかし先日の発表、すなわち今回の原子力発電所の事故評価が「レベル7」となった段階でその総てが水泡に帰したと言って過言ではないかも知れません。<一度失った信用を取り戻す>企業にとってのみならず、人間関係においても同様ですが、信用を築くのには膨大な労力が必要ですが、それを失うことはいとも簡単です。そして一度失ってしまった信用を再び元に戻すことは、それをゼロから作り上げるよりも更に大変だということは、皆さんご納得頂けるでしょう。かつて「技術の日産、販売のトヨタ」と呼ばれていた時代があることをご存知の方はこのメルマガの読者の方には少ないかも知れませんが、かつてBC戦争などと言われた日産のブルーバードとトヨタのコロナの販売合戦(共に現在では絶版車)の頃、こんな言い方がされました。あえてこのタイミングでの言及は控えますが、少なくとも今現在トヨタの力が販売力だけだと思っている人は少ないのと同様、日産の方が優れた技術力を有すると思っている人も少ないでしょう。でも私が就職活動で日産自動車のOBを訪問した時代(1984年)、先輩は「うちはロケットも作っているからね。」とその技術力に誇らしげでした。その後、何が日産自動車にあったのか興味のある方は調べて頂ければと思いますが、少なくとも今現在「技術の日産」という金看板が同社の上に輝いているとは思えず、再び取り戻せるのかどうかも定かではありません。それだけ一度失ってしまったものを取り戻すのは大変だということです。<ポイントは人災と認定できるかどうか>震災以降、誰もが原子力発電評論家のようになってしまった感がありますが、その一人として思えるのは、今回の事故はきちんと危機管理がなされていたなら防げたものが多いということです。津波直後の福島第一原子力発電所の写真をみる限り、原子炉建屋は立派にその存在を誇示しており、その後の状況から推察してみても、原子炉や使用済み核燃料が保存されていたプール自体に物理的な損傷はなかったと思われます。それが見るも無残な今の姿に変容した最大の理由は、そこが電力会社の発電所でありながら、電力供給が途絶えて冷却装置が作動できなくなったという何とも皮肉な結果が理由です。先日の報道によれば、原子炉はその後制御不能に陥るギリギリのところまで追い込まれていたようです。でも電源さえ確保されていれば、ここまで酷い状況にはならなった。もし地震や津波の直後から原子炉建屋が損壊し放射能漏れが起こっていたり、或いは原子炉そのものが破壊されてしまったりというのならば、これは技術力(耐震技術)の問題だと言えるでしょう。しかし今回の場合はそうではありません。“想定外”のサイズの津波に襲われた結果、非常用のディーゼル・エンジンで駆動する自家発電装置が水没して動かなくなったというにわかには信じ難い理由が原因です。これは技術の問題ではなく、危機管理意識の問題であり、その後の後手後手に回るどの対応をみていても、総てが技術力の問題ではなく判断ミスです。つまりこれらは人災だということです。<非常用発電機とは>非常用発電機と呼ばれるものをご覧になったことがあるでしょうか? 大きさは様々ありますが、基本的には車や船に搭載されているのと同じディーゼル・エンジンに発電用のダイナモ(モーターと基本構造は一緒です)を合体させたものです。特殊なデリケートな装置なんかではありません。極論を言えばダンプカーや漁船に搭載されているようなエンジンですから、多少の振動なんてビクともしません。以前、米国AOLのデーターセンターで災害用バックアップ電源を見せてもらったことがありますが、緑色に塗られたディーゼル・エンジンがたくさん並んでいるというだけのもので、印象として「かなりローテクだな」と思った覚えがあります。つまりそれが動かなくなったというのは、物が物理的に破壊(シリンダーヘッドが割れるなど)されたということではなく、設置場所の関係で津波で水没したということに過ぎません。ちなみに「火力発電用のガスタービン」と呼ばれているものは、飛行機のジェット・エンジンと基本一緒です。気流の悪い空を飛んでいる時の飛行機の揺れ方は、間違いなく震度6以上はあると思いますが、それでエンジンが止まったりしませんよね? 翼からエンジンが気流による機体の揺れが原因で脱落したという話も、ジョイント部分の金属疲労などの整備不良以外の理由では聞いたことがありません。つまり、正しい危機管理意識のもとで、あるべき場所に設置され、それが適正なメインテナンスを受けていたとしたら、少なくとも今回の「冷却用の電源が確保できません」ということを理由とした原発事故は起きていなかったと言えるだろうと思います。<ややお粗末だった感もあるのはロボット技術>とはいえ、技術大国日本を謳いながら「ややお粗末」だったかなと思われるのはロボット技術です。二本足で歩くロボットや、自転車に乗って走るロボットが日本製であることは有名ですが、残念ながら今回の放射能汚染の場所で人間に代わって活躍するほどにまでは日本のロボット技術は成熟していなかったようです。もちろん、強い放射線の影響下では通常の半導体などを使った電機装置は誤作動を起こして使い物にならず、そもそもそうした用途の製品開発をしていないという言い訳はあります。しかし、今回米国から借りたと言われて報道されて映像に映ったそれは余りに……、まるでただのラジコン・カーですよね。それにハンディカムをつけてあるだけという印象でしたが「こんな物さえ米国から借りてこないとならないの?」と誰もが思ったことでしょう。あんな物なら、ちょっとその気になれば日本で当然のごとくに作れるはずです。にもかかわらず、現実にはそれはなく、米国から借りなければならなかった……。<官僚主義という人災>「想定外の津波でした」とか「耐震基準はあっても、津波への基準は無かった」といった言い訳が何度もなされました。ただそうした法的な基準がなくても、万が一の場合を自ら想定して対応しておくというのが民間企業のあるべき姿ではないのでしょうか? 東京電力という会社が独占状態でインフラを担う企業として存在してしまったが故、限りなく組織体質が官僚化したということの最大の弊害がここに出たのだと思います。事故後の対応どれ一つとっても、とても柔軟で、機動力のある民間企業という印象は伝わってきません。ただ一般に官僚主義という言い方は悪いものと思われがちですが、今回は政治主導にこだわったあまり、その官僚組織を上手く使いこなせていないということが最大の失敗のように思います。霞が関に批判が多いことは充分承知していますが、その一方で、東大をはじめとした日本のトップエリート達が多く集まっているのが日本の中央官庁であることも事実です。その組織をうまく使えば、少なくとも放射線の嵐の中を走れる“ラジコン・カー”ぐらいはすぐに作れた(それらを作る企業なり、研究所を把握しているという意味)だろうと思います。東京電力という民間企業には官僚主義という病魔が宿っていたかも知れませんが、官僚組織はもっと上手に使うべきところだと思います。<技術大国日本が復活することを信じます>私は日本が技術大国であり続けること、仮に今回の原子力発電所の事故によってその威信に多少傷がついてしまったとしても、必ずやそれが復活することを信じます。多少浪花節な部分がありますが、日本人の火事場の馬鹿力はすごいものだと思っています。問題があるとすれば、それをきちんと束ねる力、求心力のあるリーダーが見当たらないことだけです。計画停電で真っ暗な我が街に会社から戻った時、これでひとつの暴動も起きていないなんて有り得ないと思いました。少なくとも個々の民間企業には、それを束ねて引っ張るリーダー(社長)がいます。多少の例外はあるにせよ、私が今までお目にかかった企業のトップたちにはそう思える人が多かったと思います。頑張れ日本! ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第95号 2011年4月22日発行より) ==========================================================
2011.04.22
<市場関係者のはやり言葉>テレビに出演させて頂いたり、講演会に呼ばれたりして人前で市場見通しなどをお話しさせて頂くことが時々ありますが、よくディレクターの方なり、司会者の方に「専門用語とカタカナをできるだけ減らして下さい」とあらかじめ注意をされます。市場コメントの中でも、私の場合は内需関連の市場見通しをお話しする機会よりも、ハイテク関連や自動車関連の、それも割と技術にこだわった視点で投資環境をお話しする機会の方が多いからかも知れませんが「専門用語とカタカナは視聴者に解りづらいのでできる限り使わないようにして下さい」と言われます。ただパソコンを「個人向け電子的半導体による演算機」と呼んだり、ハイブリッド車を「内燃機関と電動機関の複合自動車」などと呼んだりするのは現実的ではありません。また限られた時間内で言いたいことを全部伝えようとすると、どうしても勢いカタカナの多い専門用語をとても早口で喋ってしまう傾向があるというのはいつも終わってから猛省するところではあります。 ただそんな私でも市場関係者と言われる人達、すなわちアナリストやファンドマネジャーの方と話をすると「???」と困惑してしまうことがよくあります。それが市場関係者の“はやり言葉”でもあるのですが、外資系証券会社や運用会社の方が多いからか、或いは海外赴任経験者が多いからなのか、時々英単語を日本語の助詞と助動詞で繋いだだけみたいな話し方を得意気にされる方にお会いします。正直私でも「どん引き」してしまうのですが、ただ気がつくと自分も同じ言葉を使ってしまったりして情けない限りです。<“カタリスト”って触媒という意味の はず>以前にも触れたことがあると思いますが「この先、この銘柄を市場が見直すカタリストとしては…」などという言い方をよく耳にします。また「市場がこの先上昇するにはどんなカタリストが必要ですか?」などと聞かれたりするのですが、“カタリスト”と辞書を引いたらそこには「触媒」と出てくるはずであり、決して「きっかけ」とは出てこないように思います。でもちょっと注意をして聞いてみてください、案外と前述のような語感で市場関係者の間では使われていることが多いですから。もしかすると好きな異性に気持ちを告白することを最近の若い人たちが「告る(こくる)」と言うようになったのと同じこと、或いは「buffet(日本語的発音では“ビュッフェ”)」のことを「バイキング」と言うような和製カタカナ英語の一種なのかも知れませんが、この業界には不思議なはやり言葉多いように思います。<地政学的なリスク>リビア情勢が混沌とし始めた頃から、また再び「地政学的リスク」という言葉がよく使われるようになってきました。ただ振り返ってみると、90年湾岸戦争の頃、アジア通貨危機の頃、或いは911同時テロの頃までさかのぼってもまだあまりこの言葉は市場関係者の間では使われていません。実は2005年に、当時FRB(米連邦準備制度理事会)の議長であったグリーンスパン氏が議会証言で「Geopolitical Risk(地政学的リスク)」という言い方で、米国のイラク攻撃により世界的規模で景気が悪化する可能性について言及した頃から頻繁にメディアなどでも使われるようになり、以来世界のどこかで治安が乱れたり、何か地域的な問題が発生したりすると「地政学的なリスク」というような言い方を多くの人がするようになりました。確かに最近各地で起こるこうした問題について語る時にはとても便利な言葉ですが、ある意味では極めて定義が曖昧なはやり言葉のような気もします。<地政学とは?>本来地政学とは「地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究するもの」という意味ですから、決して地域紛争が総てイコール「地政学的なリスク」ということにはなりません。確かに今回のリビア問題などは中東という宗教的にも、政治的にも極めて複雑な地域で起こった内紛、それもチュニジアのジャスミン革命に始まった流れがエジプトに飛んでムバラク体制が崩壊し、そのチュニジアとエジプトの両方に国境が接していた国で起きたという意味では正に地理的な環境がなした結果とも言えるのですが、何でもかんでも「地政学的なリスク」という言い方をするのはやや逸脱しているような気がしてなりません。その意味では、先頃起きた北朝鮮問題をそう呼ぶのはややおかしな気もしますが、市場関係者にとっては充分それで意が伝わったという代表的な例かも知れません。<リビア、中東情勢をどう見るか?>と、ここまで長い振りになりましたが本題は市場関係者として現下のリビアや中東情勢をどう見るかということが重要です。ただ結論から言えば「よう解らん」というのが本音です。「何と無責任な!」と叱責を受けそうでもありますが、リビアはおろか、中東界隈には一度も行ったことがない私としては正直何が起きているのかは解りません。もちろん、この問題が市場の大きな話題となり始めた時から、メディアやインターネットを通じて意識的に情報収集はしていますから、カダフィー大佐がどうやって独裁体制を築くに至ったかというようなことや、フセイン元大統領率いるイラク軍が米軍に負けて以来のリビアと英国を中心とした欧州各国との結びつきなどは知り得ましたが、それを部族的な歴史的対立問題や、中東全般に言えるスンニ派とシーア派といった宗教的な背景までを踏まえて解き明かすまでには至りません。例えば911同時テロの後、同年の9月、11月そして12月に米国を企業調査で訪れた時は、現地で取材した企業関係者(主としてIR担当者やCFOの人達)との会話の中で米国人の怒りを感じ取り、当時のブッシュ大統領は国内のガス抜きをするためにもイラク空爆は不可避なのだろうなと想像できたりもしましたが、残念ながら中東には知人さえいません。故に責任持ったコメントもできませんし、この先どうなるのかという予測をすることはできません。<資本市場が教えてくれるもの>ただ資本市場というのは便利なもので、世の中の情勢変化を何らかの形で予見してくれることが多々あります。例えば一昨年末頃から何度も蒸し返されているPIIGS諸国の問題は、株式市場はその都度振り回されていますが、CDS市場の動きを見ていると大体のことが解ります。株式市場が「もう解決!」と楽観しても、CDS市場がまだ緊張したままであれば、この問題はまたいつか蒸し返されるだろうというような読みができるということです。その意味において、今回はエジプト問題がムバラク体制の終焉で幕引きかと思われましたが、原油価格がまだ問題が終わっていないことを示唆していました。つまりWTI原油先物価格は落ち着きましたが、欧州の原油価格に影響がある北海ブレント原油やドバイ原油の価格は下がっていませんでした。つまりそこに近い地域で、経済的にも多くの影響があるものの価格は緊張状態を保ったままだったということです。そしてやはりリビア問題にまで発展しました。<当面は原油価格に注目するしかない>リビア問題が今後どうなるのか、そしてもしそれが仮に終息したように見えたらそれで終わるのか、といったことは当面は原油価格に注目しているしかないと思っています。それも恐らく北海ブレント原油の価格です。WTI原油先物は取引量としては世界最大ですが、NYマーカンタイル取引所で売買されているということは、やはり或る面においては私と同じ立場であるからです。すなわち地理的に遠いということです。北海ブレント原油もドンピシャリの場所ではありませんが、少なくとも欧州という近い地域に根付いているという“地政学”的な問題があります。この原稿執筆時点(3月8日)ではやや値下がりの傾向が見えました。これが良いシグナルであることを願いますが、感覚的にはややまだ長引きそうだと感じています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第94号 2011年3月11日発行より) ==========================================================
2011.03.11
<“Sandy Bridge”駄目じゃん!> 新聞報道等でご存知の方も多いと思いますが、インテルのプレス・リリース(現地1月31日付)によると 「品質検査の過程で、先日発表したインテル® 6 シリーズ・チップセット(開発コード名:Cougar Point)の設計上の問題を特定し、解決策を施しました。この問題では、場合により、チップセットの Serial-ATA(SATA)ポートの品質が時間経過とともに低下することにより、SATA で接続された HDD や DVD ドライブの性能や機能に影響が及ぶ可能性があります。 本チップセットは、第2世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー(開発コード名: Sandy Bridge)搭載 PC に利用されています。インテルは、該当するチップセットの工場からの出荷を停止し、今回の問題を解決した新しいチップセット製品の製造を開始しています。第2世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー、およびその他の製品には、この問題による影響はありません。」 だそうです。 この同社のプレス・リリースで意味が分かった方々にはパソコンやその部品を購入されたり、或いはハイテク株への投資を考えたりする時にも充分なヒントになったと思われますが、たぶん普通の人には「???」だったのではないでしょうか? また新聞などの記事で断片的に話を知らされた方も同様かと思います。では平たく言うとどういうことかというと、先般鳴り物入りで登場したインテルの最新MPU(超小型演算処理装置)であるSandy Bridgeはまだ使えないということです。使えることは使えるのですが、それが本来持っている性能を使い切れないがため、当然満を持してその新しいMPUを搭載したパソコンを売りまくろうと目論んでいたパソコンメーカー各社は、思い切り肩透かしを食った、ということになります。 <チップセットとは何ですか?> チップセット(この場合ではインテル® 6 シリーズ・チップセット(開発コード名:Cougar Point))とは何かというと、何度かこのコーナーでも取り上げましたが、パソコンの頭脳であるMPUとHDDやDVD或いはネットワークなどとの間でデータの仲介をしたり、時にグラフィックス描画機能を持ったりするパソコンの隠れた心臓部ということが できます。 もちろんMPUがパソコンの主な性能を決めるのですが、実はこのチップセットの違いでパソコンの特性がガラッと変わったりします。だいたいMPUの世代交代に合わせてチップセットも世代交代しているので、注意深くパソコンのカタログ・スペック表を見ていると、何気にそれが機種ごとに違っていたりすることが解るはずです。 以前はチップセットの専業メーカーなどもあったのですが、現在ではインテル製のMPUについてはほとんどインテル製のそれが使われていることが多く、たまにエヌビディア製などを見かけたりするという感じで淘汰されてしまいました。 <チップセットが不良品だとどうなるの?> 前述のようにかつてはチップセット専業メーカーも多かったため、ひとつのメーカーのチップセットが使えなくても他社製品を使えば良かったのですが、現在はほとんどインテル製のMPUにはインテル製のチップセットが使われるようになってしまったため、はっきり言ってチップセットが不良品だと解った段階で新しいMPUの利用もできないということになります。 プレス・リリースには「第 2 世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー、およびその他の製品には、この問題による影響はありません。」と書いてありますが、 もちろんそれら自体には影響はありませんが、 いくら新しいMPUを買ったと喜んでみても、それで稼働するパソコンが組めないのでは意味がありません。これは当然自作パソコンのマニアの間だけで問題になるのではなく、主として困っているのは新MPU「Sandy Bridge」の登場を当て込んで、春先のパソコン需要を取り込もうと目論んでいいた完成品メーカーです。 当然新学期セールに「新MPU搭載! インテルの新型Corei 7で動画処理も楽々!」なんてキャンペーンを考えていたところは全滅です。解決策を施し、今回の問題を解決した新しいチップセット製品の製造を開始しているとは言っていますが、2月21日現在、インテルが完全なる対策品を供給し始めたとの報道がありませんから、さすがに今からそれをマザーボードにマウントして、新しいパソコンとして組み立てて、そして春休みに店頭に並べるなんていうことは物理的に不可能です。このダメージをまだ市場は織り込んでいないような気がします。 <H67とP67の違い> 今この段階でご説明しても仕方のないことかも知れませんが、今回の新MPUである第 2 世代インテル® Core ™プロセッサー・ファミリー(開発コード名: Sandy Bridge)の最大の売りは何かといえば、MPUコアにグラフィックス・コアが混載され一つのダイ(シリコン・ウェハーから切り出した四角い状態のもの)になったということです。MPUパッケージの中に二つのダイを混載したのは前世代からありましたが、一つのダイに混載したのはインテルでは初めてです。これにより劇的に処理能力、取り分け動画のエンコーディング処理が早くなったので、私のように映画をiPhoneやiPadで観られるように圧縮したりする人には大歓迎されて期待されていました。 しかし、前述のようにチップセットはここで重要な役割を担っており、実はH67とP67と呼ばれる2種類のチップセットのどちらを選ぶかによって、パソコンの性能や性格が大きく変わるのです。一番端的な例は、その評判のグラフィックス機能を利用できるのはH67の方だけで、P67を購入しても内蔵グラフィックス機能を利用したパソコン画面描画はできません。つまり劇的にエンコーディングが早くなることを楽しめるのはH67だけということになります。 しかし一方でオーバー・クッロクという、より能力を引き上げるような処理をすることはできません。そもそもゲームなどで高度な演算能力を必要とする人は、グラフィック・チップは内蔵GPUなどを使いませんから問題ないという判断だと思うのですが、同じ新MPUを買ってきても、チップセットでH67を選ぶかP67を選ぶかでパソコンの性格は大きく変わってきます。ちなみに私はH67を買ってエンコーディング時のメリットを享受しようと算段していたのですが、先月末の報道を聞いてから動けていません。 <一部機能を諦めるならばOK> プレス・リリースが良く意味の解らない説明になっている部分に「チップセットの Serial-ATA(SATA)ポートの品質が時間経過とともに低下することにより、SATA で接続されたHDDやDVDドライブの性能や機能に影響が及ぶ可能性があります。」という部分があります。「時間経過と共に???」ということなのですが、どうやらこの辺の状況はあまり開示されていないようです。ただ要するにHDDやDVDドライブと接続した時に、段々と速度低下が起こったり、最高性能を得られなくなったりするということのようですが、逆に言うと、それを諦めるならば新MPUも使えるようです。 つまりこの新チップセットにはHDDなどを接続するポートが6つあるのですが、その内の2つは正常稼働するようなのです。故に残りの4つを蓋して使わなければ問題ないらしいです。実際パソコン・パーツを買いに行く私の御用達のショップでは「デバイスを接続できるSATAポート、および搭載可能なドライブ数に制限がございます。」という太ゴシック表示の後に「SATA 6Gb/sポートのみ、デバイスの接続が可能です。SATA 3Gb/sポートについては、ポートは存在しますがデバイスを接続できないよう加工して出荷いたします。 したがいまして、SATA 3Gb/sポートに関しましては、デバイスの接続(増設)が行えません。(使用マザーボードによって利用可能なSATA 6Gb/sポート数は異なります。)」という但し書きがあり、それを了解の上でならばH67もP67も手に入れることができるようです。確かにみんながみんな全部のポートを使う訳でもないので、この対応の仕方もありといえばありなのですが……。 <完成品メーカー数社は腹を括った> 実際、1月31日の発表以来、途方に暮れた完成品パソコンメーカーとインテルは協議を続け、機能を限定して使うことにしたメーカーには対策前の製品を供給し始めたようです。確かに日本においては新学期セールが書き入れ時であり、この時期に最先端パソコンを投入できないメーカーとしてはやり切れないと思う反面、なりふりかまわず出せる物を出すという決断もありだと思います。ただこんな私でさえ「4月に買い換えよう」と計画を先延ばしにしているぐらいですから、業界が失った需要はインテル一社の損失額見通しである約3億ドルよりはるかに大きなものになる筈です。 <悪材料はどこまで影響するか?> 市場関係者として注目しているのは、この悪材料がどの程度、どの範囲まで、いつまで影響するかということです。せっかくこのところ調子の良い株式市場、ハイテク株比率の高い米国ナスダック総合指数などはもう少しでITバブル崩壊後の高値を更新しようかというこの段階で降って湧いたような災難です。 市場シェアの80%を握るインテルの製品トラブルは長引くようだと市場に冷や水をかけかねません。ハイテク関連の部品はどんどんコモディティ化して値段が下がり薄利になります。利幅の取れるハイエンド品で稼がないことには、とりわけ日本の電子部品メーカーにとっては頭の痛い話です。安価な製品群の世界では、韓国や台湾、或いは中国勢などが牙を研いでいるのですから。 ただ私が危惧しているようなことはなく影響は軽微なものに留まるという見方が ないわけではありません。すなわち、 いかに注目されている第2世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリーといえども、出始めはそれを搭載したモデルが主役になるとは限らないからです。それにマニアでなければそんなにMPUに こだわりは ないかも知れないとも思うからです。 ただ私自身、とてもSandy Bridgeには期待をしていましたし、どの週末で新しいパソコンを組もうかと考えていた矢先だったのでかなりがっかりしている次第です。こういう消費者が多ければ多いほど今回はマイナスインパクトが拡大するので、今回限り「そんなこと、あまり こだわらないんじゃない?」という人が多いことを願う限りです。マーケットの問題意識には注意が必要です。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第93号 2011年2月25日発行より) ==========================================================
2011.02.25
<お相手は社長室長兼IR担当>先日ふとしたご縁から某中堅企業の社長室長でIRも担当されている方と一献汲みかわしました。当社のファンド運用とは直接何も関係ない先なのであえて社名を伏せる必要もないのかも知れませんが、相手先に余計なご迷惑がかかってもいけないのであえて某中堅企業とさせていただきます。業種はハイテク関連(括り方がかなり広くてすみません)とだけ申し上げます。夜も更け、アルコールの血中濃度が上がるほどに、お互いの口が滑らかになってくるのですが、やはりこの方も他の例に違わず自社技術や物作りの話なると一過言以上のものをお持ちで、また「酒飲みながらする話かよ?」と周りのテーブルから疎んじられるような世界へと話題は入って行きました。今回はこの某中堅企業の社長室長との「飲ミニュケーション」を通じてあらためてファンドマネジャーとして感じたポイントをお話ししたいと思います。<企業の素顔を垣間見る>私はこういう飲み会の時間が一番好きです。インサイダー情報だとか、秘密のヒソヒソ話、以前事件にまで発展したどこかのファンドマネジャーのように「聞いちゃったんですよね」ととぼけなくてはならないような話が聞けるからという意味ではありません。仮に百万が一そうした話を耳にしてしまったとしたら、コンプライアンス・ルールに従って正規の手続きを踏みます。ただ今回もそういうきわどい話ではありません。当然そうならないように一線を画すようにしているからかも知れませんが、実際不思議なくらい、記憶の限りにおいてそういう類の話を「聞いちゃった」という状況は今までに一度もありませんからご心配なく。では何が面白いのかといえば、その会社の本当の姿が見えてくるところです。例えばお見合いの席を想像してみてください。最近はめっきり減ったのかも知れず、私も20数年以上前にわずかに経験がある程度ですが、綺麗な服を着てしゃちこばった状況で女性とお見合いをしても、決してその人の本当の姿は解りません。当然釣書(身上書)は事前に取り交わしているので、ある程度の人となりまでは解っていても、その人を一生の伴侶とできるかどうかは“世話好きおばさん”が席を外した後に、カジュアルに話ができる状況になってから段々と解ってくるというものです。投資対象先企業や業界動向を知って投資判断をするという場合でも、私は同じことが言えると思います。<IRのあり方で盛り上がる>その社長室長と盛り上がった話のひとつがまず現在のIRのあり方です。IRとは「Investor Relationsの略で企業が投資家に向けて経営状況や財務状況、業績動向に関する情報を発信する活動をいう」ということになるのですが、要するに投資家向け広報活動です。今ではほとんどの上場企業が自社Webページに「投資家向け情報」といったページを設けて上記に関わる内容をPDFファイルによる配布や、或いはストリーミングによる動画配信で行っておりますが、実は10数年もさかのぼるとほとんどその歴史は消えてなくなります。ましてやそれが個人投資家向けともなるともっと最近の話になるのですが、盛り上がった話題は機関投資家向けのIR活動についてです。証券会社のアナリスト・レポートというのは古くからありますので、その頃から証券会社のアナリストは企業の財務部なり、広報部とそれなりなコンタクトはあったと思いますが、機関投資家のファンドマネジャーが独自に企業調査をするようになったのはやはりそう古い話ではなく、それは企業のIR部門の歴史とほぼ符合するはずです。どうしてそれを断言できるかといえば、恐らく私がその草分け的存在だからです。今でこそグローバル企業の代名詞のような日本企業でも、少なくとも20年さかのぼると運用者による企業訪問を受け付けていませんでした。話が横道にそれるので控えますが「徹底したボトムアップ・リサーチにより」という今では当たり前になりましたが、その程度の歴史のものです。<IRのあるべき姿>さて一般に機関投資家と呼ばれる人達の最近の企業調査活動はどのように行われているのでしょうか? 今回話題となったのは、そのやり方の「べき論」でした。というのも、その社長室長が嘆いていたのは主に二つのポイントで、(1)四半期決算を発表するようになってから投資家の視点が近視眼的になったということ、(2)企業訪問や工場見学を、明確な意図をもってする投資家が少ないということなのですが、これは私の日々の問題意識と極めて一致しており、故にお互い「そうだ、そうだ」と血中アルコール濃度が上がるにつれて口角泡を飛ばすといった状況になったという訳です。この(1)と(2)の詳細について、次回以降、本来どうあるべきかという考え方も含めてあらためてお話しさせて頂きます。その前に、最近世間一般に減りつつあると言われる「飲ミニュケーション」についてお話しさせて下さい。<「飲ミニュケーション」の重要性>なぜ私がこうした飲み会の時間が好きかといえば、もうお分かり頂ける通り、お互いにその本来の立場を超えて本音の会話ができるからということです。最近は世間的にも社内の「飲ミニュケーション」が減ったと聞くことが多く、実際先日私の同期が集まった時も「部下を誘っても乗ってこないんだよね。」とぼやいている銀行の支店長がいました。口の悪い同級生からは「お前が上司として煙たがられてんだよ」と逆に説教されていましたが、私はこうした「飲ミニュケーション」肯定派、それは社内に限らず社外でも多く持つべきだと思っています。もちろん、お酒など飲まずに昼間の会議やミーティングで充分意思の疎通ができ、腹の底まで解り合えると自信のある方は「飲ミニュケーション」など必要ないのかも知れませんが、私は自分のコミュニケーション能力にそこまで自信が持てません。やっぱり人間同士、その基本本能である「食事をする」という行為を共にし、そして緊張をほぐす為にも多少の潤滑剤(全然飲めない人もいらっしゃるので)を入れたアフター・ファイブでのコミュニケーションというのは極めて重要だと思います。<技術系のIRとは飲んでこそ面白い>今回もある意味ではIR担当の社長室長と運用会社の社長という立場ですから「IRのあり方」などというテーマはそぐわないものかも知れません。でもそうした立場を超えた親密な会話ができたことで、恐らく今後のあの会社のIR方針には何がしかの変化があるはずですし、私自身も今後どこの企業とお話をする時でも、ふと今回の話題が脳裏をかすめ対応が変わるだろうなと思っています。そして何より今回も私が強く思ったのは、やはりハイテク業界など技術系の会社のIRの人は飲ました方が面白いということです。それはあの人達の知識の方が、金融業界にいる私たちよりも少なくともその周辺業界までは当然のことながら知識も卓見も豊富で上だからです。だいたい最低必ずひとつは目からうろこが落ちる機会があります。「へええ」と思う時があります。それはその方の業界内での横の繋がりによるものであったり、或いは大学時代や趣味に起因するものであったり多種多様ですが、必ずあります。そしてそれが縁で普段は会う機会のないエンジニアの人と知り合いになれることもたくさんあります。例えば、その人達の御用達のスナックに連れて行ってもらったりすれば一気に知り合いは増えますよね。<広げよう「飲ミニュケーション」の輪>たぶん「あなたが運用会社の社長だからそういう機会があるんだよ」という声が聞こえてきそうですが、そうではありません。私のような立場だからこそ、逆に他業界のそういう人と知り合う機会がIRに偏るのです。だって席に座って見渡す限り、そこに居るのは当社の社員、すなわち金融関係者なのですから。その意味ではきっと皆さんの方が金融以外の専門知識を持たれた方に触れ合う機会はずっと多いはずです。そうして得た知識や情報をあらためて投資に活かせばいいのだと思います。社内の愚痴大会の「飲ミニュケーション」ばかりならば付き合うべきもないでしょうが、まずは身近な社内の「飲ミニュケーション」をはかりましょう。そして積極的に社外のネットワークも増やしましょう。きっとそれが日常業務にも、日々の投資活動にも生きてくるはずです。私も懐具合と、肝臓が悲鳴をあげない限り、これからも積極的に続けて行きたいともいます。もし、どこかで機会があれば「飲もうよ」とお気軽にお声かけください。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第92号 2011年2月18日発行より) ==========================================================
2011.02.18
<Air Videoがお気に入り>iPadにしてもiPhoneなどのスマートフォンにしても、当然のことながら買った時のまま使っていたのだとしたら、その価値はまったくと言っていいほどないのかも知れません。その真価が問われるのは、いろんなアプリを試してみて、各種豊富なアプリの中から自分のニーズにぴったり合うものと出会った時だと思うのですが、購入して9カ月、私のお気に入りもだいぶ変わってきました。最初は雑誌のチラ読みだったり、ちょっとしたゲームだったりしたのですが、ここしばらくのお気に入りアプリの代表格と言えば「Air Video」です。ご存知の方も多いかと思いますが、スマートフォンやiPadなどのデバイスが本来あるべき姿を感じられるのはこうしたアプリを使っている時だと思っています。<Air Videoって何?>一言で言ってしまえば、最も手軽にモバイル・クラウドやブロードバンド・ワイヤレスの重要性や可能性を体感できるものだと言えます。何ができるアプリかと言えば、Air VideoのソフトウェアをパソコンとiPadやiPhoneの両方にインストールしておけば、パソコンのHDDの中にある動画コンテンツをネットワークを通じてiPadやiPhoneにストリーミング配信できるという代物です。これが実に便利なんです。最近のマイブームはiPadやiPhoneで好きな場所で映画を観ることとお伝えしたことがありますが、どんなに前回お話ししたインテルの「Sandy Bridge」登場のお陰で動画のエンコーディング能力が高くなったと言っても、そして一本の映画を加工するのに数分しかかからなくなったと言っても、そのデータサイズは映画一本でだいたい1.5G前後にはなってしまいます。一方で、スマートフォンのデータ・ストレージ容量は通常はだいたい16Gから32G程度しかありません。私の持っているiPadもiPhoneも実は16Gの容量しかありません。ですからその他のアプリや音楽データなどの関係で、一度に持ち出せる映画の本数は4本から5本が精一杯です。しかしこのAir Videoがあれば、映画のデータをいちいちiTunesを使って移し替えて持ち出すことなく、必要な時に自分のパソコンにアクセスして観ることができます。すなわちiPadなどのストレージ容量に関わらず、自分のコレクションに無限にアクセスできるということになるのですが、これこそがモバイル・クラウドを体感する最も身近な例だと思います。ネットの向こう側にあるのが自分のパソコンだったりするので、ちょっとクラウドのイメージと違うと思われるかも知れませんが、手元にあるデバイス自体では複雑な重たい処理をしていない点、これこそ正にクラウドの世界と言えます。<iTeleportもおもしろい>先日(1月20日)、何気なくiPadで電子版「Wall Street Journal」を見ていると、ある記事の動画コンテンツでiTeleportというアプリを紹介しているものを見つけました。その動画の記者曰く「これをインストールしておくと、自宅のパソコンをリモート・アクセスによりデスクトップを表示しながら同じように使うことができるようになり、実際、Wordを使ったり、メールを使ったりしたが、そんなに不自由なく使える。更にアップル製品ではフラッシュを利用したWebコンテンツを見ることはできないが、これを利用することでパソコン画面に表示をさせると間接的にそれを見ることができるようになる」というようなことを動画コンテンツでデモンストレーションを見せながら読者に紹介していました。もちろん、帰宅後すぐに有償版をインストールして試してみましたが、記事で紹介されていた通りの動きが確認できました。iPadの画面に広がるのは見慣れた自分のパソコンのデスクトップです。カーソルに指を合わせて動かして、画面を「トントン」と叩くとメールソフトは開くし、ワードも開きます。iPadのキーボードを利用してファイルの内容を修正して保存することもできますし、当然それをメールに添付して送ることもできました。そう正に気軽にインターネットを利用したパソコンのリモート・アクセスを使うことができるようになるのです。それも複雑な設定をせずに。利用しているのはグーグルのGmailということで、アカウントさえ持っていれば誰でもグーグルのセキュアなネットワークを利用したリモート・アクセスが使えるようになるというのはかなり画期的な気がしました。まだ利用し始めたばかりなのでどういう風に今後それを使うというのはやや未知数ですが、少なくとも自宅のパソコンを立ち上げておきさえすれば、手許のiPadからそれを意のままに使いこなせるというのはとても便利です。ただGmailを使っているからだと思いますが、動画をパソコン上で再生させても、画面イメージはややコマ落ちしながらも観ることができますが、音声は取ることができません。テレビが毎秒30枚の絵を繋げることでコマ落ち感のない動画になっていることを考えると、たぶん毎秒数枚程度の画面イメージをネットワーク上で送ってきているのだと思います。試しにパソコンの画面の前でiPad側からパソコンを操作してみると、体感的に約1-3秒程度のタイムラグを持ってパソコン画面をiPadで見ることができました。つまりiPad上のカーソル操作で、パソコン側のアプリを立ち上げたり、落としたりしようとすると、実際のパソコン側の動作は完了しているのに、iPad側の画面が切り替わるのに時間がかかるということです。でも、そんな誤差は今の時点ではどうでも良いという感じもします。<ネットワークの帯域幅が欲しい>Air VideoやiTeleportなどを使って見ると、当初想定したよりも早い勢いで消費者側のニーズはより高まるかも知れないと思ってしまいます。なぜなら、どちらのアプリも自宅の無線LANの環境で使うのと、外出先で使うのとでは明らかに「別物」になってしまうからです。でも前述の通り「かなり、とっても便利」なものです。現在私が外出先にいつも持ち歩いている通信環境はWiMAXなのですが、多くの週刊誌などのユーザーテストで、状況さえ良ければ最も早い(昨年末24日のドコモのLTE発売後にまだその手の比較記事を見たことがないので、それまでの比較ですが…)と呼び声高いものではありますが、現実にはコマ落ちがあったり、固まったり、時に繋がらなかったりしてしまいます。公衆無線LANのスポットも、恐らくどこかに早い場所はあるのでしょうが、私の知る限り、少なくとも空港のラウンジなどでは遅くてイライラする状況は変わりません。正にボトルネックになっているのがワイヤレス通信環境だということは明らかです。ここが劇的に変わってくれたら、この物語は大きく変わってくると思います。<デバイス能力の向上が不要になるというのは不要な悲観論>こうした話をすると、時に「すべてクラウドになったらデバイス側の処理能力って低くても良いわけだから、電子部品などの需要は低位安定してしまうのではないのか」という悲観論を言われる方も居ますが、その答えはノーです。それは人間の欲望は常にアグレッシブに次を求めるからです。例えば、今はiPadで動画を観ることが第一義的な目標ですから、まずはデータをひたすら圧縮して、シンプルにして、そして狭いネットワークの帯域の中を流すことを考えています。これにより排除された機能は、画面の拡大機能、字幕スーパーの選択などがあります。もし動画を観るというハードルを越えることができたら、次は当然再生中に観たい部分を指で触って拡大するというiPadなど特有の操作が出来る事でしょうし、字幕スーパーについても、DVDやBDを再生している時のように自由に日本語や英語を選択できるという環境となるでしょう。当然、その為にはデバイス側の処理能力も膨らまないとなりません。<パソコンの処理能力を持ち出すこと>Air VideoやiTeleportの登場で、少なくとも消費者はこれからパソコンの処理能力、機能をiPadやiPhoneなどのスマートフォンで外に持ち出せることを知ります。そして当然、その時のボトルネックになっていることは何かを知り、そしてそうした環境に慣れることで次のステップを自ずと求めるようになります。必ず人間の欲望には「NEXT」があり、「MORE」があるのですから。その事実は、携帯電話がここまで高機能化してきた歴史を振り返れば極めて明確です。公衆電話との比較感で携帯電話の必要性がまじめに議論されていた頃、誰がここまで携帯電話が高機能化することを予想したでしょうか? でも、その携帯電話の高機能化の歴史は、人間が常に「NEXT」と「MORE」と考え、思い続けた歴史に他なりません。そして今、正にモバイル・クラウドとブロードバンド・ワイヤレスの時代が「Just the beginning(正に始まったばかり)」だということを、そしてこれからますますおもしろくなるとひしひしと感じているところです。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第91号 2011年1月28日発行より) ==========================================================
2011.01.28
<Sandy Bridgeがやってきた>「Sandy Bridge」と聞いて、「あ、インテルの新しいCPUね」とピンと来た方はパソコン好きでなければ相当にハイテク業界のロードマップに精通している方のはずです。1月5日にラスベガス(CES2011の会場)で正式発表され、そして9日から日本でも販売が開始された新しいCPUが「Sandy Bridge」です。実際に私たちが買う時には、「Core i7 2600K」などといった形式番号になり、パソコンを買う時も「新CPU、噂のCore i7 2600K搭載」なんて表示になるのだと思いますが、私が「今年もハイテク株が面白くなる」と念仏のように唱えている理由の一つは、これによります。<何がすごいのか?>この「Sandy Bridge」は何が従来品と変わってすごいのか? ということを一言でいうと「CPUコアとGPUコアがひとつのダイに搭載された」ということです。「またこいつ、専門用語で煙に巻こうとしているな」と言われてしまいそうですので、ちょっと平易な説明を試みてみます。パソコンの中には色々な半導体が使われているということは以前にもお話ししましたが、その代表的なものとしてはまず以下の4つがあります。人に例えるならば(1)頭脳にあたる中央演算装置(CPUともMPU共呼びますが以下CPUに統一します)、(2)頭脳が計算をする時に書類(データー)を広げるデスクの役目を果たすメモリー、(3)それらの結果をモニターに絵として表わすために描画データを計算するグラフィックチップ(以下GPUに統一します)、そして(4)それらの信号を整理して連絡役を務めるチップセットの4つです。ただ最近の技術革新の流れの中では、これらの半導体の立ち位置が少しずつ変わりつつあります。例えば従来のパソコンではCPUとメモリーとはチップセットを介してデータのやり取りをしていましたが、より高速を求める流れの中で、チップセットを介さずにCPUとメモリーとが直接データのやり取りをするようになってきています。またGPUについても、そもそもオフィス環境で使うような高度な描画性能を求める必要のないパソコンにおいては、その機能をチップセットに持たせてしまうというような流れは昔からありました。ただその一方で、3DゲームやHD動画などの高度な演算処理を必要とする描画のためには、どうしても高性能なGPUを別に搭載しないとならない状況が続いています。実はここに「Sandy Bridge」が凄いところがあります。<CPUとGPU>パソコンを買う時、どうしてもカタログ上で目が行ってしまうスペックのひとつは「どんな高性能なCPUが搭載されているか」という点だと思います。それはパソコンの一番の肝は頭脳であるCPUにより決まると思われているからなのですが、実はCPUの演算能力とGPUの演算能力を比較した場合、必ずしもCPUの方の能力が高いとは言えないのです。場合によってはGPUの方が、はるかに演算処理能力が高い場合があります。これを簡単に説明すると、CPUはゼネラリストであり、GPUはスペシャリストだといえばお分かり頂けるでしょうか? CPUは基本的にパソコンに要求される色々な演算処理を何でもこなさないとなりません。メールやインターネットの処理もそうですし、ワードやエクセルの処理もそうです。文字を書いたり、変換したり、四則演算をしたりと何でもこなさないとなりません。一方、GPUは絵さえ書いていれば良いのです。というより、絵を描くために特化した処理性能を与えられたと言えます。しかしその代わり、どんなに難しい絵を瞬時に描けと言われてもそれをこなさないとなりません。例えば波打つ水面に映る白い波頭とその中の透明感などというのは、極めて描画することに高度な計算処理が求められます。余談ですが、米国PIXAR社の制作した映画を観ていくと、その時代のGPU処理の技術レベルが解ります。例えば「モンスターズ・インク」では主人公のサリー(青い動物)の毛並みだけがふさふさとしていますが、あとの登場者のそれは動きません。一匹分の処理が限界だったのです。「ファインディング・ニモ」になって初めてきらきら光る水面をカクレクマノミが泳ぐ姿が描かれます。こうしたフワフワした自由気ままに動くようなものの処理が本当は一番難しいのです。当時のこの会社のオーナーがアップル社のCEOであるSteve Jobs氏であったことは有名ですが、描画処理というのはコンピューターにとって大変難しいものだということのひとつの証明でもあります。そしてこのGPUというスペシャリストの能力が、近年極めて注目を集めており、これを取り込んだのが「Sandy Bridge」ということになります。<動画を処理する>近時パソコン市場の主役は法人から個人に変わりました。従来は値段が高かったこともあるのでしょうが、パソコンは会社にはあるけれど自宅にはないということが多かったことが証明するように、以前パソコンは法人客が主要セグメントでした。しかし、近時状況は一変し、パソコンの総需要の6割以上が個人にとって代わりました。パソコンが会社のデスクや自宅の書斎などにあった時代から、リビング・ルームに出てくるようになり、パソコンでテレビを観たり、撮影したビデオ映像を観たりすることが多くなったのがその背景にあります。「主戦場はリビング・ルーム」と謳われたことが現実となって来ている証拠です。そこで求められる能力のひとつが動画を処理する能力です。実はある程度のことまではCPUで演算処理可能ですが、ちょっとレベルの高い処理になるとCPUでは無駄な時間がかかったり、必要以上にヒートアップ(過熱)したりしてしまいます。コマ落ちと言われるような現象が起こります。優秀なゼネラリストは何でもこなしますが、その分野に特化したスペシャリストには適わないのと同じことです。そしてこのGPUの処理能力はこうした特化した計算をさせたらとても優秀なのです。ひとつの参考例としてはある有名大学のスーパー・コンピューターは、エヌビディア社製のGPUを大量に使って抜群の処理性能を誇るものに仕上がっています。このGPUの能力を個人の需要が高まっているパソコンが使わない手はありません。<CPUとGPUの同居から同体へ>従来、CPUとGPUはチップセットを介して繋がっていました。これは先程のメモリーとの関係でも同じで、より密接な関係にあった方が処理能力が早くなるということで、直接接続するという方法も始まっています。しかし、それでもまだ遅い。次なる手段としては、ひとつのCPUパッケージの中で、CPUとGPUのそれぞれのダイ(シリコンウェハーから切り出したままの状態)を一緒にパッケージしてしまうという方法が取られました。しかし、それでも当然別々のシリコンですから、まだ遠い(数ミリですが…)。ということで、「Sandy Bridge」ではひとつのダイの上にCPUコアとGPUコアを描き上げてしまったのです。一言で言うととても簡単な話のようですが、チップサイズの問題や発熱の問題など、多くの困難を克服して初めて出来た技術です。<動画処理が抜群に速くなる>これによってもたらされる大きなメリットは動画のエンコーディング処理がとても速くなったということです。現行の「Core i7」シリーズでもかなり速くなったと感じていましたが、更にこれが早くなるようです(まだ実際に手にしていないので、インテルのプレゼンの受け売りですみません)。テレビやパソコンで観る映像をそのままスマートフォンやタブレットPCで、或いはカーナビなどでシームレスに観るようにするには、それぞれのデバイスにあった動画形式に「エンコーディング」という処理をしないとなりません。しかし、今まではこれらがとても処理時間がかかるか、手間暇がかかりました。だから一部の先鋭的なマニア(つまり私のようなオタク)でしか行われていなかったものですが、これで一般化する流れがハードの面で整ってきたということが言えます。処理能力が上がっていれば、あとはアプリケーションの問題で手間暇は解決しますから、それは時間の問題です。これでいよいよ多くのフォーマットで動画を観ることが簡単な時代の幕が開きました。<ブロードバンド・ワイヤレスも整ってきた>当然のことながら、こうした流れを加速させるもう一つの要因はネットワーク、それもワイヤレスの環境ということになります。昨年末、ドコモが始めたXiというLTEサービスもきっとこれに一役買うでしょう。この手のブロードバンド・ワイヤレスの技術トレンドはこれから3.9Gから4Gへと加速していきます。その陰には爆発的に普及しているFacebookなどのSNSがあることも忘れてはいけません。SNSについては参加してみないと解らないかも知れませんが、今全世界で爆発的に広がり始めています。<まずは手に入れてから>と、ここまで大風呂敷を広げてから言うのもなんですが、さすがにまだその「Sandy Bridge」搭載のパソコンは私もまだ作っていません。現在、どのマザーボードを使って、どのスペックのそれで新しいパソコンを組むかということを検討している最中です。新しいパソコンができあがって、安定稼働して実感するものを確認したら、この件の続きについてはあらためてご報告することとしたいと思います。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第90号 2011年1月14日発行より) ==========================================================
2011.01.14
<低迷する日本株式市場>日経平均株価指数やTOPIXなど日本の株価が低迷しているのはご承知の通りですが、株価という“値段”だけの話ではなく、売買高や売買代金などから見えてくる“市場取引”自体の活況さが失われているのが目下最大の問題です。つまり商いが活発に行われていないということは、それだけ直接金融としての株式市場の機能が日本経済という大きな括りの中で機能不全に陥っているということだからです。価格自体はいわゆる企業価値評価に基づくものなので、株価が低いこと自体は直接金融のための市場価値としては問題視するものではないですが、取引自体が少ないということは、日本では直接金融の片翼(もう一方は債券市場)が機能していないということを意味してしまいます。つい先頃までは東証1部の一日の売買代金は2兆円以上ありましたが、今年に入ってから振り返るとその半分の1兆円さえも下回る日が頻繁にあり、2兆円を上回るのは先物オプションの同時精算を行うSQ取引日のみといった感じさえあります。最近では1兆5,000億円も出来たら上出来という感じですから。<市場活性化策を講じる東京証券取引所>そうした現状に鑑み、東京証券取引所は11月24日、昼休みの30分短縮など取引時間の一部拡大を柱とした証券市場の活性策を発表しました。来年5月の大型連休明けをめどに実施するようですが、取引時間を午前は11時半まで30分間延長し、現行1時間半の昼休みを30分間短縮します。先物などデリバティブ(金融派生商品)取引については、前場の終了時間を11時半まで延長した上で、後場の取引開始を同11時45分に前倒しし、昼休みを現行の1時間半から15分間に大幅に短縮するとのことです。東京証券取引所の昼休みをめぐっては欧米の主要取引所に合わせて廃止を求める意見もあったようですが、運用(投資判断をする)の現場にいる者としてこれら時間延長がはたして市場活性化に本当に役立つのかといえばはなはだ疑問です。ちなみに、年末年始の大納会と大発会も午前中のみで終了していた慣例を廃止して終日取引に昨年末から変更になりましたが、売買代金は半場取引の頃となんら変わりありませんでした。また新興市場「マザーズ」の上場規則を変更し、新規上場の審査を緩和する一方で、上場後に成長の止まった企業には早期の上場廃止を求めることを上場企業の「新陳代謝」を促す施策として市場の活性化につなげたいと考えているようですが、これも運用現場の感覚からすればどうにも疑問です。大証も10月に統合した「ジャスダック」の上場ルールを変更するなど新興市場のテコ入れ策を行うとしていますが、はたして本当にこれらがテコ入れ策になるのでしょうか? どうも私には「自分が異性にもてないのは、外見が悪いからだ」と服を替えたり、アクセサリーを替えたりしているのと同じことで、本質的なことを履き違えているとしか思えません。中身を磨かなければ何の意味もありません。<昼休みは極めて重要な中休み>まず時間延長の問題から考えてみましょう。ここで言うところの「昼休みの重要性」は決して「ゆっくりランチして、気分をリフレッシュしたい」といった次元の発想ではありません。事実、現場のファンドマネージャーとしてポジションを日々動かしていた頃から、私は昼休みを1時間取ったことがありません。常にアシスタントにお弁当を買って来てもらってモニターの前で食事は済ませていました。理由はその時でないとできない作業、若しくはその時間帯にすべき作業が山のごとくにあるからです。誤解なきように申し上げておきますが、私はその日のうちに「買った、売った」を何度も繰り返すような運用はしません。つまり、売買がやたら多いから忙しいという意味ではまったくありません。例えば30銘柄のポジション調整を朝の寄り付きから執行していたとします。そうした場合、当然のことながら総ての銘柄が当初の思惑通りに執行できる訳ではありません。ある銘柄は値段が期待水準に入ってこない場合もありますし、ある銘柄は取引量が思ったよりも少なくて執行し切れていないこともあります。大きなポジションを調整する時などは、自分の動きで市場を動かしかねないので、その銘柄の一日の取引量の1/3以内に抑えるなど工夫をしますが、その中締めをして、その瞬間のポートフォリオの状態を確認し、そしてより積極的に売買執行するなり、当初計画通りに進めたり、若干のターゲット変更をしたりなど作業をします。その重要な作業時間が昼休みです。確かに米国市場は昼休みなしでぶっ通しですから、こうした作業もザラバ中に行っているわけで、走りながら考えるという方法が日本ではできないはずがないとは言えませんが、取引の多様性やそもそもの流動性の違い(米国市場の方が圧倒的に流動性が高い)などから、単純に「米国市場ができるのだから日本でも出来るだろう」という議論はちょっと無謀なように思います。<大納会・大発会の全日取引化も?>80年代バブルの華やかなりし頃、大納会は今日のように12月30日ではなく12月28日でした。つまり証券業務関係従事者の年末年始の休みは最低でも6連休で、年末31日まで支店を開けている銀行の同期からは「おまえの出向先は良いよなぁ」とその長い休みを羨ましく思われたものです。そして当然、大納会も大発会も前場だけで終了です。大納会の日の午後は取引のある証券会社の人達との年末挨拶の時間として過ごし、大発会の午後は神田明神などに運用部門でその年の勝運祈願に初詣で行ったりしていました。休みが短くなったことや、取引時間が延長されたことを恨めしく言っているわけではありません。ポイントは、それでも今よりも東京証券取引所の取引量は桁外れに多かったということです。すなわちこれが意味するところは、小手先で取引時間を延長してみたり、日数を増やしたりすることが市場活性化策ではなく、もっと違うやるべきことがあるでしょうということです。市場参加者が「これではとても時間が短過ぎて物足りない」とリクエストをしているのならばいざ知らず、取引所が活性化策としてすることではないということです。<上場企業の新陳代謝を良くする??>「株式投資はリスクが高いので、長期投資できる資金で長い目で投資してください」というのが昔からの言い伝えだと思いますが、「とりあえず上場させて、駄目になったら上場廃止する」と聞えかねない「上場企業の新陳代謝を良くする」というあたかも「下手な鉄砲も数撃てば当たる」的な考え方にも、活性化策としてピンボケ感が漂います。よく引き合いに出されるのは米国NASADAQ市場などの上場審査基準などですが、日本と米国の決定的な違いはベンチャー・キャピタルがきちんとワークしているかいないかであり、直接金融としての資本市場での上場審査基準をいきなり比較しても意味がないということです。だいたい審査基準を緩くして、いい加減な企業でもどんどん上場してきて、そしてバタバタと退場して行ったら、それこそ株式市場の信用度はガタ落ちです。「米国では新興企業が技術やアイデア一つで資本もないのにたくさん立ち上がる」と良いところだけをかいつまんだ話がまことしやかに伝わっていますが、米国には“融資”という間接金融と“上場”という直接金融との間に、ベンチャー・キャピタルといういわばその中間のような役目をするファイナンス部門があります。本来、新陳代謝を良くすべきなのはこのベンチャー・キャピタルが担っている段階の役目であり、マス・リテールの個人投資家が資本を提供する上場市場で新陳代謝を良くするというのはいかがなものでしょうか?<ベンチャー・キャピタルという存在>銀行などの間接金融で融資を受けた資金は、利息をつけた上である一定期間の後に返済しないとなりません。しかし、資本の部に入れてもらった資金、すなわちエクイティ・ファイナンスと言われる方法により調達した資金は企業側に返済の義務が生じません。その代わりとして、会社の株主としての所有権を譲り渡します。その後、その企業が上場でもして株価が何倍にでも膨らめば良し、事業が行き詰って企業が破たんすれば投資家側にロスが出るというのがエクイティ・ファイナンスの現実です。ベンチャー・キャピタルから得た資金も、上場により得た資金も、受けた企業の側から見ればまったく一緒ですが、資金の出し手側から言えば、前者はまだ海のものとも山のものとも解らない新興企業を評価する道の専門家の投資家であり、時に役員など経営陣なども送り込んで手助けをしますが、後者は基本的には特別な知識を持ち合わせない個人投資家などが多数投資家層に含まれるものです。米国シリコンバレーなどにはこうしたベンチャー・キャピタルが多数あり、彼らが企業の成長フェーズの初期段階に資金の出し手となると共に、新興企業の成長の手助けをします。時に横の繋がりを利用したり、必要な技術を持っている企業を紹介したりして成功へと導きます。でも当然事業継続を断念せざるを得ない新興企業もたくさんあるのも事実です。その中で上場可能な段階まで成長できたものだけが上場してくるのがNASDAQ市場のような新興市場(と言っても、時価総額は東証1部よりはるかに大きいということを忘れないでください)ということになります。つまり知識もノウハウも、そして資金の胆力も違う投資家が一旦介在してから上場となるのが米国で、その段階がなく、いきなり上場してしまうのが日本だとも言えます。<新興企業経営者の卒業式ではないのが上場>新興市場が停滞してしまっている理由の一番が何かといえば、それは魅力ある企業が少ないということの一言に尽きると思います。前述の通り、バブルの頃のように株式市場に夢が描ける時ならば、取引時間が短かろうが、少なかろうが、充分に取引は増えるのですから。ならばなぜ魅力がないのでしょうか? 上場審査が厳しくて、面白い企業が上場できないからでしょうか? 敷居が高いからでしょうか?恐らくそれは、上場による資金調達のニーズと資金使途にあると思います。上場はあくまで資本金収集をパブリックな場で行うことにより、広くあまねく資金を調達する代わりに、株主数(企業の所有者)を増やし、そこから更なる事業発展を期するために行うものです。新株を取引証券会社から割り当ててもらって、上場時の初値で売り抜ける投資スタンスも間違っていれば、創立オーナーの卒業式として行うものでもありません。そのビジネスモデルを面白いと思い、応援したいと思えてこその投資先であり、「これだけの資金が集まれば、更にこんなことができるので資金をください」と経営側が求めるのが新興市場に上場するということだと思います。<最大の市場活性化策は魅力ある企業を増やすこと>中国やインド、或いは最近ではインドネシアなど新興国市場の株式投資に資金が集まるのは、そこに投資家が「企業が成長しそうだ」という夢を描けるからです。すなわち、魅力的に思える企業が豊富に、たくさんあるからです。どんなに制度が未整備でも、時差があろうとも、魅力があれば資金は集まり活況を呈するものです。市場を活性化させる、とりわけ新興市場を活性化させる最大のポイントは、魅力ある企業の発掘とその上場を増やすことです。いたずらに制度を替えたり、取引時間を替えたりする小手先の話ではないと私は思っています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第89号 2010年12月24日発行より) ==========================================================
2010.12.24
<金融商品の手数料>かれこれ投資信託という金融商品のビジネスに関わるようになって17年以上になりますが、初めて投資信託に関わるようになった1993年頃から今日2010年とで世の中変わらない議論の一つに投資信託に関わる手数料の議論があります。投資信託が金融商品として優れた商品であるのかないのかという議論の根底に流れているものは、要するに「運用の専門家」にそれを委託する対価が、結果としての投資収益に対して「高いのか、安いのか」というところに尽きるというのも事実でしょう。ただ業界に身を置くものとしてあえて批判を恐れずに本音ベースを申し上げるならば、数多ある金融商品の中で、投資信託という金融商品のそれは相当程度合理的なものになっていると考えています。<解りやすい手数料と解りにくい手数料>金融商品に関わる手数料というのはいくつかのパターンで分けることができます。例えば、株を売買する時に証券会社に支払う手数料、投資信託を購入する時に販売会社に支払う手数料などはその時々に通常は売買代金の何%というような計算ではっきりと明示されて支払いますので解りやすい手数料のひとつです。投資信託に関わる手数料としては、この他に信託報酬といって残高(時価換算後)に対してファンドごとにあらかじめ定められた所定割合を乗じて計算されるものがあります。これは日々計算されて自動的にファンドから引き落とされるため、前述の売買手数料のように実際に「支払った」という記憶は残りませんが、お客様のご負担されるコストには違いありません。ただそのあらかじめ定められた所定の割合というのは投資信託の目論見書や販売用資料などに明記されていますので、どんな負担割合になっているのかというのは極めて明確にご判断いただけます。一方、このような解りやすく計算できる手数料がある一方で、金融商品の中には良く解らない手数料というのが存在します。いわゆる「手数料込」という形で取引される金融商品がこれに該当しますが、代表的な例がオプション取引です。ここで言うオプション取引とは日経平均先物オプションのような上場されているオプションの取引という意味ではなく、機関投資家などの間で取引されることの多い非上場のオプション取引のことを指します。「あ、ならば個人投資家は関係ないね」とおっしゃらないでください。実は多くの場面で個人投資家の皆さんにも関わっているものなのですから。<オプション価格と手数料>オプションの価格決定理論としては有名なブラック・ショールズ・モデルというのがあります。ブラックさんとショールズさんという学者が発明したからこの名前で呼ばれていますが、多くの金融工学者の間でオプションの価格決定理論の一番の基本形として一般に利用されています。それによると、オプションの価格決定要因は、対象となる原資産の価格、そのオプションの権利行使価格、満期までの残存時間、金利、そして最後にボラティリティの5つとされています。この5つの数値が与えられた時、オプションの理論価格は正しく計算され、それが高いか安いかによって裁定機会が生まれるなどという話にまで発展します。ところで、この5つの項目のうち、すぐに誰にでも手に入るのは前から4つだけです。例えば株価や為替はいろいろな情報端末やインターネットでリアルタイムに誰にでもすぐ調べられます。権利行使価格や残存期間は調べるまでもなく、金利も原資産価格を調べる方法と同じで簡単に解ります。ではボラティリティはどうやって計算するのでしょうか? もちろん、オプションの価格が与えられれば逆算して市場が織り込んでいるボラティリティを推計することはできますが、逆は難しい。通常は確率論に使われる計算式で推計しているということになるのですが、実はここが一番怪しい部分でもあります。<オプションを使った仕組み商品>さてオプションが個人投資家の方にも深く関係すると前述した理由は、最近の多くの金融商品にこのオプション取引が巧みに組み入れられているということからです。例えば、昔からありますが「為替がこれ以上円高にならなければ、定期預金の金利を○○%上乗せします」というがあります。また最近では「××企業の株価が△△円以内で推移すれば○○%の金利をお支払いします」みたいな債券があります。実はこれらのどれもが普通の定期預金や債券と何らかのオプション取引を組み合わせて作りあげた仕組みのものとなっています。ではこうした金融商品を購入される時、皆さんはいくらの手数料を販売会社に支払っているのでしょうか? もし「手数料なんて1円も払っていないよ」と思っていらっしゃる方がいるとしたら、それは大きな勘違いです。「獣医はビジネスだ」と小栗旬さん扮するドクター・ドリトル(最近の人気TV番組です)のセリフではありませんが、それこそ金融機関こそビジネスです。そしてその金融機関にとって、かなりうま味のあるビジネスとなっているのが、このような「仕組み」を組み入れた金融商品なのです。業界暴露ネタのような話をするのは本意ではないので詳細は避けますが、オプションを組み入れた商品は金融機関にとって美味しいものであることだけは間違いありません。なぜなら、前述の「ボラティリティ推計」という部分でいくらでも数字を作ることができるからです。でも多分、お客様はそれがトータルでいくらくらいになっているかはまず間違いなく解りません。<運用会社のひとつの役割>投資信託の手数料が高いという賢人たちの議論は頻繁に耳にします。「アクティブ運用なんてパッシブ運用に結局は勝てないのだから、自分でパッシブ運用のできるだけ手数料が安いETFや年信託を組み合わせて運用した方がよほど賢い投資方法だ」という論調があるのも承知しています。ただそれでも私は冒頭申し上げたように「投資信託という金融商品の手数料は相当程度合理的なもの」だと思っています。そのひとつが今のようなオプションを使った金融商品などの場合に当てはまります。当社でもオプション取引を使った商品を組成していますが、当社のような運用会社が介在することでそのオプション取引の価格の妥当性を検証することができるからです。言わば価格の番人です。そのノウハウは明かせませんが、少なくとも「ぼったくり商売」のようなプライシングは未然に防ぐことができます。運用会社は常にパフォーマンス競争に晒されており、不当に高い手数料はパフォーマンス競争に劣後する要因でもあるため、この意味において運用会社の立場とお客様の立場は同じ側になるということは自信を持って申し上げられます。それでも「投資信託の信託報酬は高過ぎる」と言われる方もいらっしゃると思いますが、もっと全然高い手数料を取っている金融商品が飛ぶように売れているという事実があることは確かなことです。ただ不思議とあまりそれらは議論の対象になっていません。複雑すぎて外からは検証し辛いということがあるのか、或いは解りやすい投資信託が叩きやすいということなのか。ただ、だからと言って投資信託業界が襟を正さないとならないものがないとは決して言うつもりもありませんが、投資信託業界で長く仕事をしてきて、最近あらためてこの問題を強く思っています。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第88号 2010年12月10日発行より) ==========================================================
2010.12.10
<アイルランドが先に金融支援を要請したが…>信用不安が広がるアイルランドが21日午後(日本時間22日未明)開いた臨時閣議後、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請しました。ギリシャ問題が緊迫した今年5月にEUが創設した総額7,500億ユーロの緊急融資制度を使う初めてのケースとなり、支援額は800億~900億ユーロ(10兆円前後)になる模様です。こんな報道が伝えられた同じ日の新聞では「2011年度予算編成で、基礎年金の支給額の50%分を国が負担できるかどうかが焦点になってきた」という内容が一面トップを飾りました。現在の基礎年金の国庫負担の割合は税金のほか、財政投融資特別会計の積立金を特例で活用して50%となっていますが、来年度以降はこの財政投融資特別会計の積立金が枯渇するため、政府内では負担割合を08年度と同じ36.5%に引き下げる案も浮上しているということです。この二つの記事の根っこが同じに見えてしまうのは私だけでしょうか?<共通点は身の丈以上の財政支出につけの先延ばし>アイルランドが財政危機に陥った理由は、身の丈以上の財政支出をするはめになったからです。これはギリシャ問題もある意味同じです。アイルランドの場合は、もともと農業を中心とする貧しい国だったのですが、1990年代以降、低法人税率を甘味料にして海外からの企業誘致をすすめ、更に金融業を基幹産業に育てあげ経済興隆を計りましたが、リーマン・ショックにより金融機関の不良債権が急増、これを支えるためにどんどん財政悪化が進んでしまいました。今、同国に求められているのは財政の健全化で、支援する側のEUやIMFからは法人税の引き上げなど、歳入を増やして対GDP比32%にまで膨らんだ財政赤字を減らすということが求められています。ただ同国の立場からすると、法人税が低いからこそ外資系企業が居てくれるので、引き上げた結果として外資系企業が居なくなってしまっては元も子もない状況になっています。そして結論を先延ばしにしている間に金融市場が騒ぎ出して同国国債を売り叩き始めたということでしょう。<ばら撒きと埋蔵金>誰だって自分の懐を痛めずに済む話として「あれもやってくれます」、「これもします」と言われたら嬉しくなります。だからこそ、「高速道路は無料化します」、「ガソリンの暫定税率は廃止します」、「少子化対策で子供には手当を出します」、「農家の所得は補償します」…と言われたら「知恵を絞って、そして利権にしがみつく官僚組織をなくして政治主導にしたら、こんなに素晴らしい経済運営ができるんだ。」と国民が喜ぶのも無理はありません。おまけに「バッサ、バッサと無駄な事業を切捨てる事業仕分けは見ていて気持ちが良い」と、テレビ中継を意識したパフォーマンスまで見せられれば尚更です。しかしその結果はどうでしょうか? 1年経って実現できたのは何があるのでしょうか? そしてその一方で基礎年金の国庫負担に使った財政投融資特別会計の積立金(所謂埋蔵金)は来年度以降枯渇、税収を引き上げることができなければ、現役世代を含む将来世代の積立負担金を増やすしか、現在の給付水準を将来にわたって維持することは不可能という問題がついに突きつけられてきました。再三言われていた議論ですが、埋蔵金なんて掘り返してしまえばなくなる一時的なものでしかありません。<方法は二つしかない>家計に置き換えて考えてみれば実感としても明らかなはずですが、収入を上回る支出の生活は長くは続けられません。埋蔵金のような貯金があったとしても、それを使い果たしてしまえば借金をするしかなくなるのです。この状態を回避する方法は二つ、収入を増やすか、支出を減らすかです。そして前者は今の時代、極めて難しいのはご承知の通りで、出来る方策といえば節約です。最初にやり玉に挙がるのが「パパが安月給で家計が苦しいの。だから、お小遣いカットね」という最も立場の弱いところへの支出カット。ただ一方で子供の教育費は聖域として守られるというのが平均的な家庭の姿かも知れません。確かに親心という触媒があるので、文字にしたほど切ない話ではないと思いますが、この構造もどこか今の政治や仕分けの仕方と似ているような気がしています。いずれにしても、この国も歳入を増やすか、歳出を減らすかしない限り、どこか帳尻は合わなくなり、アイルランドの話は決して他人事ではなくなるはずです。<どの世代が投票権を持っていて、どの世代が税金を払うのか>歳出を減らすには痛みを伴います。小泉政権時代、構造改革といえば必ず言われたのが「痛みを伴う」ということでしたが、冒頭の話で言えば、基礎年金に対する国庫負担の割合を減らせば、年金の給付を下げなければならず、一方枯渇した埋蔵金を国庫負担で埋めようとすれば、それは増税を何らかの形でしないとなりません。こうした構造改革をすれば、必ずどこかに痛みが伴うはずです。では、どこにそれが一番顕著に表れるのでしょうか?この問題を解くヒントとなるのが多数決の民主主義と人口動態ピラミッドの形です。これは日本の人口動態ピラミッドを1950年、2009年、2050年(見込み)と総務省のデータで参照したものですが、1950年の安定的な三角形から、2050年には真反対の逆三角形に変わることが一目瞭然に解ります。何が問題かというと、投票権があるのは20歳以上、いわゆる「生産人口」と呼ばれる現役世代は65才以下、そして年金の受給を受ける世代は65歳以上だということです。つまり少子高齢化の流れの中にあっては、意思表示ができる世代層の数、負担を強いられる世代層の数、そして果実を得る世代層の数がことなり、票田の票数が均衡していないということです。単純な多数決が民主主義だとするならば、議決をする前から結果がある程度決まってしまっているという状況です。もしあなたが一票でも投票を集めたい政治家だとしたら、どの世代に向かった政治をするだろうと思われますか?2050年、つまり今から40年後の人口動態ピラミッドを見て議論をするなどナンセンスだと言われるかも知れませんが、前提条件が大きく変わって疲弊した年金制度の制度設計を変えるのに「早過ぎる」ということはないと思われます。掛け金を支払う人が増えるからという大前提は大きく変わってしまっているのですから。<年金が運用で稼げば良いとも言えますが…>給付を受ける人よりも圧倒的に掛け金を払う人が増えていた時代は、年金の運用利回りなどある意味どうでも良かったと言えます。仮に絵空事のような期待利回りを前提に収支計算が行われていても、次から次と掛け金を払ってくれる人は増えるのですから、帳尻は合うかも知れません。しかし、その構造が大きく変わってしまった現在、どの程度の前提で絵が描かれているかを知っておいても損はないと思います。下の表は現在の公的年金積立金運用の基本となるアセットアロケーションです。さて、ご覧いただける通り公的年金積立金の運用の約2/3は国内債券で運用されています。安全運転といえば聞こえはいいですが、運用資産の約2/3が年利回り約1%の国内債券で運用されており、実質ゼロ金利の短期資産も5%あります。これをもとに簡単なシミュレーションを置いたのが次の表です。国内債券の運用利回りは現在の新発10年国債のだいたいの水準である1%を利用し、残りの1/3のアセット・クラスがどれだけ稼げば全体の利回りは変わるのかを見ています。ご覧いただける通り、残りのアセット・クラスである国内株式、外国債券、外国株式、短期資産で10%超のリターンを挙げて初めて総合利回り4%が見えてくるということが解ります。何といっても、10年間で1%にしかならない国内債券ばかりをこんなにも保有してしまえば、単純な算数ですが残りが相当稼がないとなりません。因みに、現在発表されている年金財政の前提となっている運用利回りは3.2%ですので、逆算すると、残りのアセット・クラスのノルマは約7.8%ということになります。更に、もし5%は短期運用部分に回すことになっていることを考慮すると、残りの部分の比率は28%になり、そのノルマは9%にもなり、これは運用業界としてはかなりハードルが高い話をなります。過年度の損失は次年度以降のノルマ拡大に繋がるので「損が出せない」というのは、どんなに運用現場が優秀でも厳しい話です。<年金の給付水準を下げるか、間接税を増税するか>これらのことを考えた場合に打てる対策の第一は、まず年金の給付水準自体を引き下げることです。将来世代に負担が掛り過ぎないように、現在の給付水準を可及的速やかに引き下げを行います。これが節約するという方法です。もしくは収入を増やす、そのためには間接税を引き上げる、すなわち消費税のような所得税以外を引き上げるという方法があります。なぜ所得税ではいけないかといえば、生産人口は前述のように減少の一途なので、所得税を課税できる対象自体が減少して行くからです。にもかかわらずこれを所得税に任せるとしたら、相当なテンポで増税していかないとなりませんが、それは生産人口世代に過大な負担がのしかかるだけです。さて、ここで問題が起こります。このどちらの選択肢も票が欲しい政治家には言いだし難い話だということです。恐らく高齢者いじめだの、弱者いじめだのといった議論がきっと巻き起こるでしょう。先の参議院選挙で消費税引き上げ議論で菅首相が火だるまになったのが何よりの証拠です。その一方で、たとえその場しのぎと言われようがどうしようが、現在20歳以下の世代に負担を強いるような制度設計で問題先送りを続けていれば、票田から来る不平不満は少ないですし、20歳以下の世代はどんなに不満を募らせても、彼らはそれを政治に反映させることができません。かくして問題先送りの構図はなかなか改まりにくく、更に逆三角形の構図が続く限り、この状況はエスカレートするだけなのかも知れません。<公的年金で日本株を買うという選択肢>そもそも将来の給付のための公的年金基金が自国企業の株式を積極的に買わない、買えないという状況がおかしいのです。新興国のように経済成長・発展があると思われるなら買えるというのなら、それはすでに日本の将来成長を諦めてしまっている証拠です。にもかかわらず給付だけ欲しいといのは他力本願も良いところではないでしょうか?むしろ、公的年金の2/3は国内株式に投資するというのはどうでしょうか? そして給付水準はその運用利回りにスライドさせるというアイデアです。もし年金の給付水準を引き上げたいならば日本の景気を良くして株価を浮揚させないとなりませんが、それこそが現役世代以上が将来世代に責任を持つということにならないでしょうか?景気を悪くしてしまって、株価が下がってしまえば年金の給付水準が下がる一方、景気が良くなって株価が上がれば年金も増えるという構造です。息子や孫の世代に頼らない、問題の先送りはしないということにすれば、日本がアイルランドのように財政破綻などということを避けられるような気がします。もうすでにあちらこちらにほころびは出始めているのですから。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第87号 2010年11月26日発行より) ==========================================================
2010.11.26
<内閣支持率の低下と日経平均株価>尖閣諸島沖での海上保安庁船舶と中国漁船との衝突事件に関するビデオテープ流出事件は、日本経済新聞社とテレビ東京が10月29~31日に実施した世論調査ですでに40%にまで低下した菅内閣の支持率を更に低下させたようです。同調査ベースでは9月の前回調査から31ポイントの急落となった理由も、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件への対応や、民主党小沢一郎前幹事長の政治資金問題に関する国会招致への対応などが理由とされていますが、今回政府が秘匿していたビデオテープが流出したことで、支持率は更に低下したと一部メディアは報じています。その一方で、内閣支持率の低下など全く関係ないというトーンで日経平均株価は11月2日につけた終値9,159.98円を底値に3営業日で9,700円台まで回復しています。因みに、原稿執筆(11月8日時点)の日経平均株価の終値は9,732.92円です。NYダウが年初来高値を更新してリーマン・ショック前の水準を取り戻したのに比べれば、それでもはるかに出遅れていることは否めませんが、内閣支持率の低下のみならず、ねじれ国会を抱えて来年度予算審議もままならない日本市場の株価、このまま上昇してくれるのでしょうか?<先進5カ国中で出遅れる日経平均株価>添付したチャートは2009年3月初めを100として比較した先進5カ国(米国、ドイツ、フランス、英国、日本)の株価推移のチャートです。ご覧いただける通り、いわゆる先進5カ国の株価運びの中で、日本のそれ(最下段の青線)だけがある時を境にしてとてもアンダーパフォームしていることが解ります。今現在で比較すると、ドイツが180%を超えてトップですが、4位のフランスでさえ150%を超えるプラス・パフォーマンスを示しています。一方、我が国日本は情けないほど出遅れており、わずかに110%です。いつからこんなに出遅れたのか? チャート上で見ていただけると明らかですが、2009年8月の終わりから9月の初めにかけて変化点を迎えているということが解ります。この時に何が日本に起こったかというと、熱狂的な支持を受けての民主党政権誕生です。国民に信を問うことなく、安倍⇒福田⇒麻生と首相の首を据え換えることで、政権与党であることを延命し続けた自民党政治に対し、国民がNOを突きつけ、圧倒的多数を持って鳩山民主党内閣が誕生した歴史的な瞬間です。しかし、この頃を境に日本株式市場の株価は先進5カ国の中で大きく出遅れ始めたことが見て解ります。政権支持率との関係は今とはまったく逆の状態で、支持率の高い政権が誕生したにもかかわらず、株価が低迷を続けるという状態が続きました。<日本の信用リスクと株価の相関関係>さて、もう一枚のチャートを見ていただきましょう。これは日本国債(5年)のCDS、すなわち日本に対する信用リスクの市場評価と東証TOPIXの推移を比較したチャートです。ご覧いただける通り、赤線で示した日本の信用リスクが低下する局面では、通常青線のTOPIXは上昇し、逆に信用リスクが高まっていると評価される局面においては、株価は下落するという当たり前とも言える「負の相関関係」を持っていたことが解ります。しかし、この負の相関関係も2010年7月の頃から「正の相関関係」にあたかも変わってしまったかのように見えるようになりました。言い換えると、日本の信用リスクが低下し、過去の経験則からは株価は上がっても良い局面にありながらも低迷を続けているという状態です。さてそんな状態になった2010年7月頃の日本に何が起こったのかと言えば、まだ記憶に新しい参議院選挙です。「政治と金」の問題などで鳩山前首相が小沢前幹事長と共に辞任した直後の参議院選挙、当初は衆議院選挙と同じように民主党が躍進すると言われていましたが、結果を見れば民主党が大敗して法案審議が難航する「ねじれ国会」という状態へ突入しました。野党時代にはあれほど「首相の首を据え換えるのではなく、国民に信を問うべきだ」と主張していたあの民主党も、実際政権与党になってしまうと鳩山⇒管とあっさりと首相交代を実現し、そのわずか2カ月後には再度党代表選挙で鳩山⇒管⇒小沢との首相交代の可能性をも残すという状態で迎えた参議院選挙です。当然と言えば当然なのかも知れませんが、そんな選挙結果が出た時と時期を同じくして、日本の信用リスクとTOPIXの負の相関関係が崩れています。もっと平たく言えば、日本の信用リスクが下がっても株価が上昇しない局面へと入ってしまいました。これらで見る限り、日本の株価が冴えない展開が続いている大きな理由は政治にあると、どうしても考えたくなるのは私だけではないだろうと思えてきます。<ドルベースやユーロベースで見てみよう>さて、それでは政治のせいではないという考え方を示す方法を考えてみます。次のチャートは日経平均株価を円ベース(黄緑)、ドルベース(青)、ユーロベース(赤)と3つの前提で2008年1月初めからをグラフ化したものです。スタートを100としてあります。ご覧いただける通り、実はドルベースやユーロベースで日経平均株価を見ると、何と今現在見事にリーマン・ショック前の水準を回復していることが解り、前述の先進5カ国の株価推移と比較しても遜色ない株価運びになっていることが解ります。つまりこれで見る限り、日本の株価が冴えないのは「円ベース」で見るからであって、グローバルな投資家の目線で見れば決してアンダーパフォームなんてしていないということです。きっとすべて為替のせいだということです。日本という国の通貨自体が高く評価されているので、「強い円は国益に適う」と財務大臣が言ったか言わないかは知りませんが、グローバル・スタンダードで見ればきちんと回復しています。<なんでこんなに窓が開くのか?>しかし当然のことながら円で暮らす日本人としてこんなまやかしの分析結果に納得できる訳がありません。円ベース見れば、マイナスはマイナスなのですから。ただ最後にもう一枚、次のチャートを見てください。これは今年に入ってからの日経平均株価の日足チャートですが、ご覧いただける通り滅茶苦茶たくさんの窓が開いており、3時に大引けを迎えた後、翌日9時の寄り付きまでの間に市場を取り巻く環境が頻繁に大きく変わったことを暗示しています。通常、地球を一回りしてくるまでの間に諸々のことがあるとしても、そうそう簡単に窓が開くということは起こりません。たまにそうなることがあるから話題となるわけです。しかし今年は様子が変わっています。この意味するところはなんでしょうか? そう、日本市場が日本固有の理由によって変動するよりも、海外要因で変動することが大きくなっていることです。これは市場占有率で外国人投資家のシェアが増えているということとも正に繋がっていると思われ、だからこそ、先程のドルベースやユーロベースでの日経平均株価の動きと言うのがあるのかも知れないとも言えます。ここは日本の株式市場ではなくなってしまったのでしょうか?<政治が変わってくれることを願う>今回の見立てはふたつの教訓が与えられているように思います。まずひとつは、政治が変われば円ベースでの株価は上がるかも知れないということです。単なる偶然の一致かも知れませんが、選挙の時を境に市場がこうも大きく変わっているとすれば、あながちそれを関係なしとは言えないと思います。もうひとつは、市場を動かしているのがドルベースやユーロベースの外国人投資家なのだとするならば、評価も含めて、彼らの目線で考えないといけないということです。小泉内閣当時、外国人投資家が日本の構造改革を信じて株を買った時がありました。それが正に後戻りしたのが今だ(それが選挙結果に出た国民の選択だったのも事実です)ということが言えると思いますが、株価が国内政治の混迷を無視して外部要因(外国人投資家の目線)で上昇している間に、早く政治が株価にとってのポジティブ・ファクターとなってくれることを切に願うばかりです。正直、現状はあまりそれが期待できるとは思えませんが、せめてもう足を引っ張らないで欲しいというのが市場参加者の本音です。円ベースで株価がきちんと動けば、それをドルベースで見た時は抜群のパフォーマンスになり、それこそ出遅れないように外国人投資家が買って来るかも知れません。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第86号 2010年11月12日発行より) ==========================================================
2010.11.12
<機能がてんこ盛りになった携帯電話>1990年代に携帯電話が普及期に入った頃のモデルに比べ、最近の携帯電話の機能は格段に豊富になりました。若い世代の人たちには「あり得ない」と信じてもらえないかも知れませんが、そもそも最初はメール機能さえなく、携帯電話は本当に「もしもし」の音声通話機能のみでした。最初にメール機能を搭載したのはJ-PHONE(現在はソフトバンク)のSky Walkerと呼ばれる機能で1997年11月に登場していますから、日本の親指文化が誕生してからまだ13年程度しか経っていないということになります。その後は電池を小さくしながらも蓄電容量を増やし、一方で半導体やコンデンサーなどの電子部品の実装方法を工夫しながら小型化を実現し、或いは低消費電力化を追求しながら、軽量化とロングライフ・バッテリーと相反する問題を克服して、今のように機能がてんこ盛りの携帯電話が誕生してきました。<携帯電話からケータイへ>今、自分が使っている携帯電話はカシオのCA004というモデルです。これとは別にiPhoneもiPadもあり、おまけにWillcomのPHSもあるのですが、このCA004という携帯電話に搭載されている機能だけでもどれだけのものがあるのか、あらためて見直してみると驚くばかりです。まず「もしもし」という音声通話とEメールは当たり前、8.1メガ・ピクセルとちょっと前ならデジカメでも勝てない画素数のカメラ機能がつき、ワンセグでテレビが観られます。非接触型ICのおかげでおサイフケータイ機能もあり、GPS搭載で位置情報が解ります。Micro SDカードの挿入口があるので、32GBというひと頃のパソコン用HDD顔負けのストレージ容量を確保することが可能です。もちろん、音楽ケータイ端末としても使えますし、イヤホンをしなくても結構それなりな音で楽しむこともできます。おおよそありとあらゆる小型で携帯可能な電子デバイスに求められそうな機能が搭載されています。明らかにこれはすでに「電話機」という範疇を超えており、だからこそ最近は「携帯電話」と言わずに「ケータイ」という呼称が一般的になったのだと思いますが、さて皆さん、これらの機能を使いこなされていますか?<ケータイを使いこなしていますか?>「ケータイの諸機能を使いこなしていますか?」と聞かれて、自信を持って「はい!」と言える人は案外少ないだろうと思います。かく言う私も自信がない面があります。でもひとつの例を挙げるならば、休日の近所のお散歩ぐらいならばケータイひとつ持って出れば何も不自由しない程度には使いこなせていると思います。例えば、散歩の間の音楽はケータイから流れていますし、気に入った景色でもあれば写真(静止画か動画)を撮って保存することも、或いはそれを家族にメールで送って内容を確認して貰うことも可能です。そして電車かバスに乗ろうと思ったらSuicaで払ってしまえば良いし、Edyがあればコンビニでも本屋でもお財布を用意する必要はありません。最近はタクシーでこれができる車両も増えてきました。残高が不足していればネット経由で直ぐにクレジット・カードからチャージできますし、利用履歴が一目瞭然に解り、小銭がチャラチャラとポケットで鳴ることもないので大変便利です。GPS機能で今どこに自分がいるのか?ということは一目瞭然ですし、私が今どこにいるのかを家族が調べることも可能です。そう今やケータイひとつ持ってさえすれば、大抵のことはできるようになりました。<日に何回ケータイを触りますか?>上には書き切れませんでしたが、ネットで株価やニュースを見たり、ただちょっとメールを確認したりすることも考えると、一日に何回ぐらいケータイを皆さんは触りますか? 朝起きてから、夜ベッドに入って寝付くまでを考えると相当な回数、5回や10回ではないように思います。それもわりとちゃんと握り締めているはずです。これは今話題のスマートフォンかケータイかという議論はあまり関係ありません。要はこれだけの多機能で便利になったデバイスが、この10数年間の間に人々の生活に深く入り込み、日々の生活の中でなくてはならない物となったということですが、私が一番注目しているポイントはもっと他のところにあります。そのヒントとなる新たな視点が今年の「CEATEC JAPAN」にありました。 <ケータイがセンシングし、自動でデータを送る>昨年の「東京モーターショー」で初めて見つけた技術だったのですが、車のステアリングを握っている間にドライバーの血圧や脈拍といった基礎的なデータの把握から、もっと踏み込んだ血液成分データまでを取得する技術がすでに開発されているようなのです。その時は「車が医療診断をくだすわけにはいかないので…」と説明に立たれていたエンジニアの方は話されていましたが、逆にいえば、診断を下すのが医師なら問題ないわけです。もし、ケータイが自動で色々なデータをセンシングし、それを自動でどこかに送ってくれていたらどうでしょうか? たとえばリアルタイムで取得したデータをいつもお世話になっている主治医の先生のもとに送るとか。もう皆さんにも私が何を考えているかお分かりですよね。<シーンをひとつイメージしてみます>私の朝はGoogleカレンダーをケータイでチェックすることから始まります。ベッドサイドに置いたケータイでGoogleカレンダーにアクセスしその日一日の予定をまず確認するのですが、例えば、その数十秒間に起床後朝一番の血圧を測るところからデータ収集が始まります。血圧ぐらい状況によって変化するものもありませんので、定期的に同じ状況でデータが集まることが重要です。その後ケータイを握る度に毎回血圧が測定されるとしましょう。移動中、ランチタイム、会議中にこっそり、などなど無意識にケータイを握り、メールをしたり、株価をチェックしたりしている間にデータが取得され、自動的に契約してある医療センターなどのサーバに送られ、そして蓄積されていきます。これを本人は全く意識することがなく、あくまでケータイのバックグラウンドで処理がされます。こうしたデータが数日分も集まれば、恐らくどれが異常値か、或いは怪しい数値かは直ぐに解るようになります。なにせその解析はクラウドの中のデータセンタで行われているのですから。例えば、たまたま電車に駆け込んでから待ち合わせの相手に「すみません、遅れます」とメールしたところ、その血圧が高いことを見て、ケータイに信号が送られます。「大丈夫ですか? 血圧が上がっています」というようなアラート・メッセージを添えて。問題なければOKの返信をする、もしそれが来なければ、次の段階の確認などが行われます。もし、心筋梗塞を起こして倒れてしまっているような最悪の場合は、GPSで位置情報を確認してレスキューの手配が行われるというのがいかがでしょうか? 或いは、自動的に主治医とのテレビ電話が始まるとか。この種の考え方は、車のエアバッグが作動した段階でセンターと車が自動的に通信を始めるサービスなどと同種のイメージです。或いは血糖値や貧血の具合などから食事のアドバイスが行われても良いかも知れません。それら総てが、ケータイを一日に何回も握る度に収集されたデータにより行われるとしたら、こんな便利なものはないように思いますがいかがでしょうか? きっとこの費用は生命保険会社が負担してくれるはずです。何故なら、その分予防医療になって、保険金の支払いが減るはずだからです。これからの高齢者社会、面白いアイデアだなと思うのですが…。<技術の進歩があるからこそ>スマートフォンか高機能ケータイか、ということはあまり問題なく、肝心なのはワイヤレスで、ある程度のプロセッシング(演算)能力を持ち、その他諸々のファンクションを持ったデバイスが滅茶苦茶普及し日常の中に溶け込んだということです。そしてインターネットの向こう(クラウド)には無限のコンピューティング・パワーを持った世界が待っており、そこに適切なデータを入出力さえすれば、今までは夢物語だと思われていた答えが返ってくるということです。その土壌は相当に整いつつあります。まだワイヤレスの通信帯域などに幾つか問題点は残されていますが、今年の「CEATEC JAPAN」の電子部品エリアがとても盛り上がっていたのも、また各社のスマートフォン・ブースが盛況だったのも、そうした未来がすぐそこまで来ていることを証明してくれたと思いました。あとはどの会社とどの会社の技術が一緒になればいいのかなどを見極めて投資対象を決めるだけです。きっと遠からず、また株式投資が面白くなると思います。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第85号 2010年10月22日発行より) ==========================================================
2010.10.22
<パソコン自作のメリットとデメリット>パソコンがまだ高かった頃(平均的に数十万円しました)、自作するメリットは「自作の方が安い」ということだったと思いますが、多くのものがデフレの世の中にあっては、新規に一台パソコンを組み立てようと思うと現在はそこにあまり価格メリットはありません。また以前ほど部品の相性問題でトラブルことがなくなったとはいえ、メーカーで総て責任もって組み立てられたパソコンに比べると、正直何かあった時の対応は基本的には自分の責任(パーツごとに保証はもちろんありますが、原因のパーツを特定するのは自分です)です。そうしたデメリットも含めると、「好きもの(最近で言うならオタク)」以外にはあまり勧められないのがパソコンの自作なのかも知れません。でもまだ使える部品も含めて丸ごと買い換えないとならないメーカー製とは違い、一度思い切って組み立ててしまうと、自作パソコンは必要な部分だけを取り換えることが可能です。また拡張性という面では購入時は当然ながら、使っている間においても格段に違ってくるのも事実です。まず少なくともケースは毎回買い換えの対象にはなりませんし、HDDを含むドライブ類も毎回の対象ではないかも知れません。私の場合、システムを入れる「C:ドライブ」に使うHDDは、HDD自体の技術革新が速いため、毎回時流に乗ったものに取り換えてきましたが、データ類を入れているだけのHDDはそのまま使い回していますし、DVDなどの光ドライブはもう5年以上使っています。だから毎年性能が上がる最新のMPUやグラフィック・カードは使いたいけれど、その度に全部丸ごと買い換えたくはないという人には大変リーズナブルなものになるというのが最大のメリットかも知れません。必要最低限のパーツだけ取り換えれば良いのですから。まあそんな理屈付けも機械いじりが好きなものの言い訳の一つなのかも知れませんが、今回はそんな自作パソコン好きの“ぼやき”から、テクノロジー好きの運用者のマインドを感じてください。<でも周辺部品が壊れてきた…>車にも同じことが言えますが、持主にとっては「これがこの子(だいたいすでに擬人化しているわけですが…)の癖なんだよなぁ」と故障と認めていない故障があります。長く愛用しているとどうしてもそうなると思いますが、私のメインの自宅PCの場合、1年程前からDVDトレイが指先でちょっと押してあげないと閉まらなくなっていました。でも自分しか使わないものですから、全然気にしていなかったのですが、ただやはり故障には違いありません。モニターは17インチの液晶をDUALで使っているのですが、この片側のスイッチが最近どうも接触不良で時々スイッチが入りにくくなります。ただしばらく弄っていると大抵はOKなので、これも大して気にしていなかったのですが、これだってやはり故障です。だいたい私の場合、毎年のインテルのチップセットやMPUの世代交代に合わせて主要パーツは組み替えてしまうのですが、さすがに約4世代に仕えた周辺部品が壊れてきてしまいました。そろそろオール・リフォームのタイミングかなと。<気になる「Sandy Bridge」>ところで何で私が頻繁にパソコンを組み換えたり、自作したりするのかというと、それはインテルのMPUやチップセットの基本仕様が変わるからです。パソコンとして完成品で利用されている限りはあまり気にならないことではあるのですが、いわゆるその世代交代をキャッチアップしていくことがハイテク企業の最先端が何を考えているのかをリアルに実感する方法だと思っています。iPhoneやiPadを使っていない人のスマートフォンに対するコメントがどこかピンボケに感じられるように、インテルの動き、すなわちパソコン業界の動きも自分で実感してみないと正しい投資アイデアには結びつかないと考えるからです。単なる経済評論家ならば"それらしく"語れば良いのでしょうが、そこから投資判断を行う身となるとやはり第三者的な立場ではいられません。その意味ではこの9月のIDF(Intel Developer Forum)で発表されたインテルの次世代マイクロ・アーキテクチャーである「Sandy Bridge」には強く興味を持っています。現在のそれは「Nehalem」と呼ばれ、主力のCore iシリーズに使われていますが、Core i7が4分間かかる動画のエンコーディングをわずか2秒でこなすというデモを見せられては当然と言えば当然です。この件の詳細はまた別途書きたいと思いますが、問題はその登場が来年だということです。すなわち、それまでMPU(現在はCore i7-860)やマザーボード(ASUS製でチップセットはP55を使用)などの主要部品は取り換えても直ぐに陳腐化してしまいということです。<まずはグラフィックスから対応する>次の「Sandy Bridge」では現在のCore i5やCore i3のようにGPU機能をMPUが取り込んだことが注目点です。それもCore i5やCore i3のそれのように、今までのGPU混載型のチップセットを代替するようなレベルのものではなく、専用のグラフィック・カード自体と競合するようなレベルと聞いています。故に、それまでに現時点のグラフィック・カードの動向だけは体感しておかないと比較ができません。現在はある程度以上の機能のグラフィック・チップはNVIDIAとAMD(旧ATI)の2社独占市場ですが、ここにガチンコ勝負を挑むインテルの腹積もりとその実力は気になり、何がどう変わるのでしょうか? <HDMI接続にこだわるため、モニターも換える>どうせグラフィック・カードを新調するのでモニターも交換することにしました。最近は液晶パネルの価格低下がかなり進んでいることもあり、ちょっと前では考えられないような値段でスペックの高いものが買えます。そこで、いまさらHDMIかと言われるかも知れませんが、最近のパソコンモニターの主流であるHDMI接続対応の23インチのワイド画面タイプを物色しました。パソコンがAV機器化している現在、17インチを2台並べることよりもワイド画面一台の方が世の中の流れにあっているかなと。念のため補足しますが、HDMI(エイチ-ディー-エム-アイ)とはHigh-Definition Multimedia Interfaceの略で、マルチメディアインターフェースの1つであり、当然グラフィック・カードがこれに対応していないとなりません。そして更にどうせPCのケースを開けて中をいじるのだからということで、光ディスク・ドライブとHDDも同時に交換することにしました。DVDドライブは単純に壊れているからなのですが、HDDは最近DVDの映画を取り込んで、iPhoneやiPadで観られるようにエンコーディングして貯め込むことにはまっているため、増大一途のストレージ需要に対応するため2TBのもの追加することにしました。<電源が足りない>さて、予定のパーツを土曜日にアキバの電気街で仕入れ、日曜日に毎週のメルマガ原稿を書き終えた後、午後からパーツ交換を始めました。そして新しいパーツを所定の位置に据え付けて…、トラブルです。それもかなり致命的です。グラフィック・カードとDVDドライブは交換ですが、HDDは増設、通常ならば電源ケーブルは予備の引き回しで足りるはずだったのですが、これが不足してしまったのです。グラフィック・カードが予備電源を必要とするタイプだったのと、DVDドライブがSATA接続に変わったことで3つの電源ソケットが追加で必要なのですが、パソコン内で余っているソケットの数と種類が、新たに必要となった数と種類に合わないのです。意味不明な説明かも知れませんが、パソコン内部のパーツが持っている電源ソケットは案外種類が豊富で、それが機器の進化と共に更に変わって行っているため、電源ユニット自体もこれまた取り換えないと時代の流れについていけなくなってしまっていました。手持ちの部品などを使って、何とかやりくりしてみましたが、結局新HDDは電源を得られず当面は動かさないということでケースの蓋を閉じました。しかし、問題は更にありました。<HDMI接続で映像が出ない>期待のHDMI接続のモニターに映像が出ません。そこから私の悪戦苦闘が始まりです。一旦ケーブルを全部はずして配線をやり直そうが、更にパーツを全部取り付け直ししようが、モニターに浮かぶのは「No Signal」の冷たい文字だけ。つまりグラフィック・カードから映像信号が届いていません。試しにHDMIケーブルを諦めて、通常のDVIケーブルにして繋いでみるとなんときちんと映像が出ます。つまりグラフィック・カード自体が仕事をしていない訳でも、他のパーツに異常があるのでもないということまでは確認できました。ただそれ以上はもうお手上げです。新設の2TBのHDDもまだ使えないことだし…、ということで今回は一旦諦めて対応策を落ち着いて練ることにしました。ちょっと可能性に心当たりはあるのですが、今はとりあえず対応しようがないので、当面DVI接続で我慢です。これが自作パソコンの日常なのですが、懲りもせずに続けるあたり、やっぱり私はオタクなのかも知れません(汗)==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第84号 2010年10月8日発行より) ==========================================================
2010.10.08
<6年半ぶり過去最大の為替介入> 民主党代表選が行われた翌日、市場が「菅首相ならば為替介入はない」と高をくくっていた虚を突いて、6年半ぶりとなる円売り・ドル買い介入、それも一日の介入額としては2兆円規模と過去最大の為替介入が行われました。この原稿が配信される頃には景色も随分と変わっている(介入効果がなくなってしまっている可能性をも含めて)のだろうなと思いますが、少なくとも介入は市場にサプライズを与えるのには成功し、82円台に突入して15年振りの高値を示現し始めていた円ドル相場は一気を85円台に押し下げました。 そして一晩掛けて地球を一回り、夜中も休まず断続的に為替介入が行われたこともあり85円台後半にまで円安が進んで東京へ戻ってきました。たださすがに時間が経てば経つほど虚を突かれて飛び上がっていた為替市場も落ち着きを取り戻し、市場関係者の間から「単独介入では効果は限定的だ」といったものを中心に、今回の為替介入による円高対策が短命に終わるだろうという発言が聞かれ始めました。あたかも「突然だったので、ちょっと驚いただけだよ」と平静を取り戻したかのようなのですが、その背景にあるのは円高トレンド継続論です。 <なんで円高?> そもそもなんで今円高なのでしょうか? その理由としてはよくこんな話を聞きます。「ドルやユーロに対して消去法的に円が買われている。」と。すなわち「ドルやユーロは信頼ならないから、買うものがないから円を買っている」ということなのですが、私はどうしてもこの消去法的に円が買われるというロジックが納得できていません。日米の金利差を見て直近のドル円レートが決まっているというのは事実としてそうなっているので認めますが、ドルやユーロに比べて「安心」な通貨として円が買われているというロジックには疑問を感じています。とりわけドルに対して消去法でという考えが不思議でなりません。 為替は通貨と通貨の交換レートですから、その通貨を買いたいと思う人が多ければ値が上がるし、売りたいと思う人が多ければ値が下がります。では何をもとにそれが決まるのかということで議論百出になるのですが、単純に経常収支が黒字の国の通貨は高くなるという需給論(後述)だけで言えば確かに円高になります。ただ購買力平価論や通貨としての本質的な価値・強さという面で捉えた時、どうしても居心地が悪いロジックに聞こえて仕方ありません。 <経常収支が黒字だとなぜ通貨が強い?> 経常収支とは「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の4つからなり、これが黒字と言うことは平たく言って輸出が輸入よりも多くて儲かっているという意味になります。例えば50ドルで原材料を仕入れて、製品化してそれを100ドルで売ったとすれば、これは50ドルの貿易収支の黒字です。そしてこの50ドルこそが日本が生みだした付加価値ということになるのですが、この50ドルを円に両替して日本に届けるためには「50ドルを売って対価として円を買う」という取引が必要になります。もし経常収支の黒字が巨額であれば、ドルを売って円を買う取引が巨額になるので、自動的に円高が進むというのが需給から見た円高ロジックです。物の値段は基本的には全て需給で決まるという立場に立てば反論の余地はありません。 <経常赤字の国“米国”と黒字の国“日本”> 前述の通りだとすると、米国は久しく経常赤字を続けており、逆に輸出立国“日本”は経常黒字を続けていますので、為替のオーソリティや経済学者の方々からは「ドル安・円高が当然の流れだ」という理屈が聞こえてきます。この辺の議論でアカデミックな専門用語を羅列されてしまうと、どうにも反論をし難いのも事実ですが、それでもなお私はそれをすんなりとは納得できないでいます。 <米国が風邪をひいたら、日本は肺炎になる> それは米国の経常赤字のお陰で、日本が経常黒字を保っていることはリーマン・ショック後に米国経済が停滞したことによって日本が経済的に受けたダメージを見れば一目瞭然だからです。つまり日本経済は単独で成り立っていける訳ではなく、極めて米国経済に依存した形のものという意味です。例えばトヨタ自動車を例に取ってみましょう。同社の東証1部の時価総額に占める割合はおおよそ3.5%~5%程度ありました。つまり日本に数多存在する企業の中で、たった1社で3.5%~5%相当、傘下・グループ或いは取引関係を含めると相当な割合を占めているトップ企業と言うことになります。 しかし米国でサブプライム・ローン問題が発覚する直前までは8,000円台もつけていたその株価が、その後の米国経済減速と共に急降下、今では3,000円を維持するのもやっという感じになってしまいました。日産自動車や本田技研工業の株価に比べて下落率が大きく見えるのも、一番米国でのビジネス・ウェイトが高かったからということができ、いかに日本のトップ企業が米国経済に依存した状態であったかということは明らかです。つまり米国の経常赤字と日本の経常黒字は表裏一体だということです。 <円は安心できる通貨なのだろうか?> 日本の公的債務残高の対GDP比の値は世界で突出して高いというのはご承知の通りです。つまり円という通貨の発行体は借金まみれということなのですが、それでも“大丈夫”と言われる理由は国の借金を国民の個人金融資産がファイナンスをしているからと説明されます。ここに感じる違和感の理由は、国民が金融資産を円にしたままでいなければならない理由はどこにもないからです。 財産全てを外貨もしくは外貨預金にしてしまい、必要な分だけでその都度円に両替して使うようにするのは自由です。ひとたび円は駄目かも知れないというブームが起きて、どっと外貨預金に資金が流れるようなことが始まれば、上のストーリーは直ぐに成り立たなくなります。日本人ほど「みんなで渡れば怖くない」的な発想の民族性は少ないと思うからです。 上記の表は財務省のホームページからの引用ですが、米国の公的債務残高は日本の半分もありません。通貨ユーロを支えるドイツやフランスも同様ですし、イタリアでさえ127%に過ぎないという現実があります。この数字を改善するには、日本のプライマリーバランスがプラスになって借金を徐々に減らす、或いはGDPを増やさないとなりません。にもかかわらず、2010年度は過去最大の国債発行を行いました。 そしてGDPとは国内総生産ですが、これを増やすためには労働人口を増やすか、国内生産を増やすしかありませんが、今の日本ではそれは全く逆方向に向かっています。このまま分子の借金が増え、分母のGDPが小さくなれば更に世界で突出した数字になって行きます。どうしてギリシャやアイルランドを心配する余裕が日本にありましょうか? それでも円は大丈夫と言えるのでしょうか? <円は消去法的に買われていただけのはず> 論点を拡大し過ぎる前に戦線を縮小しますが、円が買われていた理由は前述の通りで積極的な需給というよりは消去法的にとよく説明されます。それは政府日銀が恐らく無策で円高に打たれるままであり、一方で輸出倍増計画を掲げる米国や、ギリシャ問題などを抱える欧州はこぞって自国通貨安を容認しているからです。アジア諸国の通貨当局も自国通貨安政策をとっていますが、無策の日本は手を打たない、すなわち単独介入など無謀だというロジックに縛られて動けないだろうと思われていたからです。 しかし今回、市場に大きなサプライズを与える形で日本の通貨マフィア(財務省)が動きました。民主党の代表選挙の翌日という極めて想定外のタイミングで介入をしてきました。これで消去法的に円が買われていた理由は薄れたのではないでしょうか? 市場はおおよそ人々のコンセンサスができあがったのと反対方向に動くものです。単独介入は利かない、長続きしないという論調が聞こえれば聞こえるほど、今回の円高騒動はもう終わったように思ってしまうのは私の基本が楽観論者だからだけではありません。 ひとつには今まで市場と関わってきたおおよそ20数年間、明確に金融当局が示した意図に対して逆らった見方をして当たった試しがないということです。確かにジョージ・ソロスはイギリスの中央銀行と為替で戦って勝ったという歴史があるかも知れません。ただ80年代後半のバブルを潰しにかかった日銀にも、ITバブルを「根拠なき熱狂」と論じたグリーンスパン氏が率いたFRBにも、市場は毎回結果として負けています。私の座右の銘のひとつは「泣く子と地頭には逆らうな」というのがあります。今回、明確に円高はいかん!という意思がやっと示されました。基本の流れは変わったと思って良いだろうと考えています。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第83号 2010年9月10日発行より) ==========================================================
2010.09.24
<キャッシュ・ポジションの使い道> 証券市場では半導体製造装置の雄が年初来安値を更新するなどハイテク関連株は総じて歩が悪い展開となっていますが、一方、リアルなビジネスの世界ではハイテク関連企業の大型M&Aの発表が相次いでいます。中でもヒューレット・パッカード(ティッカー:HPQ)とデル(ティッカー:DELL)がユーティリティ・ストレージの3PARを奪い合う状況(最終的にはヒューレット・パッカードが出した条件を見て、デルが降りました)など、決して証券市場の株価運びが示しているようなへこたれた状況ではないと感じられます。 更に私が一番注目しているは、インテル(ティッカー:INTC)の動きです。セキュリティ・ソフト大手のマカフィー(ティッカー:MFE)の買収を発表した勢いのままに、ドイツの半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズのワイヤレス事業部門を買収することも明らかにしました。実際には半年ぐらい前から話は漏れ伝わってきていたもので、マカフィーの買収に要する76億8000万ドルと合わせれば優に90億円を超えるビッグ・ディールの決断が行われたことになります。 90億ドルがどの程度の規模の金額かと言うと"最近の東証1部全銘柄の商いが薄い日の全売買代金にほぼ匹敵"と言えばイメージを持って抱けるでしょうか? これをすごいというのか、東証の売買代金を情けないと思うのかは議論のあるところですが、かなり大きな金額だということは確かです。東京証券取引所で寄ってたかって一日がかりで取引する売買代金に匹敵する金額が、一社が買収に投じる資金規模と等しいのですから。 <インテルの下方修正> そんな景気の良い話のインテルですが、同社は第3四半期の売上高見通しを当初の112億~120億ドルから、108億~112億ドルに引き下げました。内容はコンスーマー向けのパソコン販売が消費低迷でやや予想を下回っているからということのようです。ただエンタープライズとサーバーの需要は堅調を維持しているようです。 事実、粗利率の低下は市場予想を下回り、インテルによれば平均売買単価が上昇しました。つまり安価なパソコンの売り上げは鈍ったけれども、法人が使うようなものや、或いは値が高いサーバーの販売は好調を維持しているということです。ここに今夏のストーリーの面白みがあると思い、またそのインプリケーションは充分に考える価値があります。 <まずはスマートフォン、そしてiPad> ケータイからiPhoneやXperiaなどのスマートフォンに乗り換えている人は増える一方ですが、その処理能力の高さも相俟ってそれらが必要とするデータ・トラフィックはケータイの約10倍と言われています。つまりスマートフォンにケータイから一人乗りかえると、データ・トラフィックが通信・ネットワーク・インフラにかける負荷はケータイの新規ユーザーが9人増えたのと同じことになります。当然、その向こうにはデータセンターのサーバーがあり、またデータを蓄えるストレージがあるわけですが、この点からもこのスマートフォン化への流れがどれだけITインフラに負荷をかけているかということがお分かり頂けると思います。 更にパソコンでもない、当然スマートフォンでもない、全く今までになかったカテゴリーのITデバイスであるiPadが世の中に登場しました。人はこれを既存の何か、すなわちネットPCのキーボードを外したものとか、画面の大きなスマートフォンとか、或いは電子書籍だとか今までの経験した範囲の物に類似性を求めてカテゴライズしようとしているかに見えますが、これは全くそれらとは違ったものです。 使ってみないと分らないとも言えますが、少なくとも自分自身でデスクトップPCも、ノートPCも、ケータイだけじゃなくiPhoneまでも使っている実感としてiPadは別のカテゴリーだと思っています。だからこそ、たぶんこれらは益々発展する。そして通信・ネットワーク・インフラに益々負担をかけることになるでしょう。 <巨人たちが争ってM&Aをする理由> あまり知られていないのかも知れませんが、iPhoneも先日コンピュータ・ウィルスが話題になりました。ウィルスはWindows系パソコンの専売特許ぐらいに思われている面も多いと思いますが、iPhoneやiPadが普及すればするほど、今後その可能性は高くなるはずです。 iPhoneやiPadのプロセッサーはA4というアップル社が独自に作ったもの(製造はSAMSUNG)ですが、ベースバンド・チップという通信機能用の半導体は独インフィニオン・テクノロジーズのワイヤレス事業部門が作っています。ここをインテルは買収したわけですが、ここに大きなビジネスチャンスがあると思われるからこそ、この買収が決断されたはずです。 この先クラウド化が益々進むことだけは衆目一致するところです。その場合、クラウドにアクセスするデバイスは何が中心になって行くのでしょうか? ひとつの見方としては、パソコンやケータイが、スマートフォンやiPadライクなものに置き換わっていくという見方だと思いますが、パイが2倍になることはなくても、それは置き換わるというよりも増えるというイメージが正しい読みだと私は思っています。 そのシーンを想像した時、パソコン用のプロセッサーで約8割の市場シェアを握り、今やアップルのマックにまでプロセッサーを供給するインテルがその市場を黙ってみているわけがありません。その際、ベースバンド・チップの技術も、セキュリティのノウハウも持ったプロセッサーの巨人が低電圧のそれを供給できたとしたらどうでしょうか? この市場は更に拡大し、更に便利になるものだと思われます。だからインテルはこの大型M&Aを決断したと読めます。 <iPadの容量が足らない> 目下の私の最大の悩みはiPadの容量が足らないということです。最初から64Gのモデルを購入していれば良かったのかも知れませんが、正直当初は半信半疑な面もあったので、iPhoneの利用実態に合わせて16Gのモデルを買ってしまいました。しかしそれは大きな誤りでした。iPhoneとは全然利用実態が違うので、音楽やAPP、或いは写真を気ままに入れていたらあっという間に10数ギガの容量を食うようになってしまったのです。更に最近止めを刺すように容量が増えているのが映画です。これが実に良い。 公用語が英語になるという強迫観念もあり、私も努めて英語に触れるようにしていますが、映画好きとしてはお気に入りの映画を吹き替えなしで観るというのが手っ取り早い方法だと思っています。そこでDVDで持っている映画(そこそこのコレクションです)をiPadで観られるようエンコードしています。圧縮率などにもよるでしょうが、私の場合はだいたい映画1本が約1.5G前後(約3分の1)のレベルになるようにエンコードの設定をしています。 これならばiPadの大きめの画面でも充分に鑑賞に堪えます。というか綺麗です。好きなシーンや何て言ったか聴き取れなかった部分を簡単に何度も観ることができますし、観たいシーンだけ繰り返すということもできます。当然チャプターごとに観ることもできます。ただ字幕は選択できません。 今は大好きな映画を4本まで、iTunesのライブラリーの中から気分に合わせて同期するようにしていますが、実はパソコンのHDDも一杯になりつつあります。そこで思うのが、これが全部クラウドの中にあり、そしてネットワーク接続がストレス・フリーの広帯域であればと良いのにと。つまり、パソコンの中にも置かず、iPadの中にも置かず、全部ネットの中のストレージに置いておき、必要な時だけアクセスして使う。ストレージ容量は必要に応じて拡大していく。HDDが故障する恐れもなく、自分でバックアップを取って置く必要もなく、そして何よりデバイス毎のストレージ容量を気にしなくて良い。こんな便利なものはありません。 <だからストレージ企業を皆が狙う> ユーティリティ・ストレージの3PAR争奪戦は、デルが価格つり上げ競争から離脱することでヒューレット・パッカードに軍配が上がりました。でも、彼らが3PARを欲しがった理由は、こうした益々膨大になるデータ・ストレージの需要に対応するためです。HDテレビの高画質映像を録画してためるために外付けHDDをどんどん各家庭が増やすなどと言うのは現実的ではありません。でも画質が良くなればなるほど、データ・サイズは膨らみます。 DVDの映画をiPad用に自分で加工して観るというのは、まだまだ一般的ではないかも知れません。パソコンの能力が低いと、その処理だけでも相当な時間がかかるからです。でもビデオがDVDそしてHDDに、音楽メディアがMP3に、いつの間にか主役を明け渡したように、気がつけば変わっているのでしょう。その流れを最近のハイテク企業のM&Aから読み取ることができます。そこに大きなビジネスチャンス感じ取り、投資対象となる企業を探すのはそう難しくないことです。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第82号 2010年9月10日発行より) ==========================================================
2010.09.10
<昔はいろいろと関係もあったようなのですが…>「これは某政治家の銘柄だから上がるよ」なんて話が兜町を駆け巡った頃があります。「丸政(まるせい)銘柄」などと呼び、要するに政治家が資金作りのために仕手筋などと組んで値を吊り上げるみたいな噂話なのですが、実際にそうした行為があったかなかったは別として、昔は政治と株式市場は密接な関わりあいがありました。内容的には、今風に言うならインサイダー情報紛いのものもありましたが、でも逆にそのきな臭さが「兜町」らしさを演出していたようにも思います。映画「ウォール・ストリート」が流行ったこともあり、兜町を「日本のウォール街」と呼ぼうとするようなこともありましたが、私の知る限り、それはあまりに違うものという感じでした。米国にもきっとそれなりにドロドロしたものはあるのだろうと思いますが、日本のそれはちょっと異質だと思います。兜町には政治や政治家が絡んだ噂話というのは枚挙に暇がないほどあり、そのくらい政治と株式市場は密接に関わっていたように思います。<政治離れ>それがいつの頃からか、株式市場は政治との関わり合いを薄めていきます。記憶の限りをたどって、今この時ほどに株式市場が政治への関わりを失った、というよりは興味を失った時はないだろうと思います。確かに表面上は「政府は追加の経済対策を打ち出すべきだ」とか、「首相と日銀総裁の会談が簡単な電話での話し合いで終わってしまったから市場は失望したんだ」とか言います(私自身もそうコメントさせていただきました)が、実際にそれらが実現する可能性をどの程度まで本気で期待して言っているのかといえば、極めて低いだろうと言うのが偽らざるところです。“催促相場”というような言い方も市場では使いますが、どの程度本気で催促しているかと言えば、ほとんど本気ではないと言えるような気がします。本当はこれって、もの凄い我が国の将来にとっては危険なことであり、私も相当な皮肉のつもりで言っているのですが、恐らくそれも伝わらないでしょう。日々の売買代金をみるといかに市場が本気でそれを期待していないか、より強く思わされます。午前と午後の市場取引を通じて、売買代金が1兆円に満たない日が続くことの恐ろしさです。市場が本気でもっと期待しているのだとすれば、当てが外れた時の失望売りはもっと大きいはずです。そもそも期待するものが何もないから、市場の反応としては「やっぱり」ということだけで、淡々と薄く薄く商いを作って市場を下げていくという感じになっているのでしょう。国内要因に期待するのはこの1年、ほぼ無理と言っていい時が過ぎています。<政治が市場を気にしないから、市場も政治を気にしない>少なくとも以前はもう少し、政治が市場の声を聞いていたように思います。時々とんちんかんな事を言ったり、したりする政治家もいましたが、もっと市場の動きにビビッドに反応してくれていたように思います。相手がこちらを意識していると、自然とこちらも相手を意識するようになるのが人間の心理だと思いますが、相手がこちらに無関心でいると、こちらも相手に無関心になるというのも真理だと思います。きっと昔の政治家は、自分自身の資産が株価変動にさらされていることが多かったので、ある意味では市場動向を気にすることは、自らのためでもあったのでしょう。“金権政治”などというのは良い話ではありませんが、政治と市場の利害関係が一致しているというのは、その意味においては良いことかも知れません。<株も為替も国民生活に影響するものです>株を持っている人は株価変動に敏感です。外貨預金をしている人やFX取引をしている人は為替の動きに一喜一憂したりします。ただ、もし株式投資も為替関係の取引も何もなかったとしたら…。よく聞く台詞に「株が下がろうが、円高になろうが、私には関係ありません」というものがあります。確かにそうした資産クラスに直接的に投資をしていないと実感はないのかも知れません。資産運用をするのはお金持ちだけ、庶民には関係ない話というようなトーンで経済を語る評論家然とした人もいますが、それは大きな間違いです。株式は資本市場の最も重要な構成要因であり、為替もしかりです。それが経済の血液と言われる金融の根幹にあるのです。古い話では、間接金融から直接金融へと言われたのが1980年代、その直接金融の基本が株式市場です。そこが滞るということは、すなわち経済の血流が滞ることであり、経済自体が動きを止めます。89年末に日経平均株価が史上最高値をつけてバブル崩壊が始まった当初も同じことをよく聞きました。街頭インタビューなどの街の声を拾うニュースなどを観ていても「私は株を持っていませんから」というものや、「当社のように街の小さな零細企業は財テクなどとは無関係だから」というようなものがたくさんありました。だからよく証券税制改正を「富裕層優遇」といい、法人税減税を「大企業優遇」といった発想にまで発展してしまうのです。ただ実際はどうだったかということは、それはくどくど今更申し上げるまでもありません。1990年以降、日本経済全体が沈没する羽目になり、やがて四大証券の一角であった山一證券が潰れ、最下位であったとはいえ都市銀行の北海道拓殖銀行がなくなりました。そのあたりまでくると、やっと誰しもが事の重大さに気がついたということですがすでに遅すぎました。そして私たちは10年、いえ最近では20年と言われる時を失いました。直接に株式投資などをしていなくても、市場の動きは経済全体の動きを象徴しており、それがとても大きく関係しているということは見事に証明されたのです。同じことが今起きているように思うのですが、我が国の政治はその過去をすでに忘れてしまったのかもしれません。米国や欧州では、ドルやユーロを安くすることによって外需で稼ぎ、何とか自国の景気を回復させようと躍起になっています。その煽りを受けて円高になっているのが日本ですが、政治は動こうとしません。「重大な関心を持って、市場の動きを見守っていく」というようなコメントも永田町界隈からようやく少し聞こえるようになってきましたが、8月24日午後8時現在、それ以上に踏み込んだ発言はありません。重大な関心を持っていようが、注意深くであろうが、基本は“ただ見ているだけ”です。具体的なアクションを早く起こして欲しい。<党利・私利と国益>市場関係者のフラストレーションはピークに達している感じもありますが、この状況は残念ながら9月14日までは変わらないでしょう。正直、半ば諦めにも似た気持ちで見ています。これが危惧に過ぎないことを本心では切に願う限りですが、政府与党の組織としては別でも、個々の政治家の最大関心事は次の民主党総裁が誰になるかであり、その結果として党利・私利がどうなるかに掛っているように見えてなりません。今すべきことは、国益を最優先することではないでしょうか? 人間に与えられた時間は1日24時間しかないというのは、生まれたての赤ちゃんから内閣総理大臣まで一緒です。その限られた時間を何にどう使うのか、時々「今、株(為替)はいくらになっているの?」と思い出したように側近に聞いて「注視している」とコメントするだけの時間配分ではなくあって欲しい人がたくさんいます。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」が流行るのは、彼が維新政府樹立までの道筋をつけるまで命懸けで東奔西走し、そしてそれがなるや「わしはここまでや」と自らが明治政府の重鎮になることを拒絶したことにあるように思います。すなわち私利はなく、国益のためだけに動いたという美談になっているからです。今の時代に、坂本龍馬はいませんが、せめて政治がもっと市場に関心を持ってくれることを、それも国益のために最大の英知を生かしてくれることを、市場参加者の一人として切望する限りです。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第81号 2010年8月27日発行より) ==========================================================
2010.08.27
<続・ケーススタディ「アイシン精機刈谷工場の火事」> 株価が「特別売り気配」をつけて取引不能となるまで、情報が市場に伝わり始めたら長くはかかりませんでした。当時、アイシン精機の株は同じトヨタ自動車直系の自動車部品メーカーであるデンソーに比べて通常でも出来高が薄く、まとまったロットの商いをするには手間のかかる銘柄でしたが、今回は次元が違います。あっという間に売り物が殺到、ほとんど取引は成立しないままに売り気配になり、そして最後はストップ安の比例配分狙いも含めた売り注文がどんどん入ってきたまま、3時の大引けを迎えました。 私のチームのスタッフのひとりが「外資系M証券のディーラーのTさんに念のため確認しておきましたが、明日のストップ安の3%下なら全株をファンドから外すことができます。どうしますか?」と言ってきました。すなわち“決め商い”と言って、証券会社の自己ポジション・ディーラーに値段を決めて株を引き取ってもらう売買方法を使うのです。この方法ならファンドで保有する全株を、明日の市場の値付き具合などを見ながら売りさばく苦労をしなくとも、或いは売り切れずにポジションが残るリスクを抱えることなく、ファンドから外すことができます。 ただ受け取るディーラーの側も、自分のポジションから損失を出す可能性があるリスクを取る取引なので、当然ながら大引けの値段よりも更に大きく下がった値段でということが条件になります。もし投資判断として「売る」と決めるのならば、それはこの状況下では極めて合理的な判断のひとつだと言えます。 <ブロック・トレード(取引)で売り逃げる方法もある> 機関投資家の間では、こうした「ブロック・オファー」と呼ばれる方法は一般的な取引手法(ネット証券では取扱っていません)であり、買いたいと思っていた銘柄がまとまったロットで安く引き合いに来る時など、好んで受け取ることもよくありました。ファンドの解約に対応するためとか、ロスカット・ルールに抵触してしまった時など、流動性の低い銘柄を多少安くても売り切らないとならないニーズがある時は、とても便利な手法です。 逆に投資対象先として魅力的だと思いながらも、出来高の問題で投資を逡巡しているなどの買いたいニーズの時もあり、こうしたニーズがピタリとミートすれば売り手にとっても、買い手にとっても、Win-Winな取引ということになります。ヘッジファンドなどが転換社債のデルタヘッジを行っている場合などに、そのポジションを組成したり、解除(アンワインド)したりする時などにも、こうしたブロック・トレードよくある話です。 <売らない、抱える、という投資判断> 最初からその答えは決まっていたのかも知れません。そう長くはない時間だったはずですが、私の頭は高速回転をし、おおよそ起こりうる今後の事態を想定し、ファンドへのダメージ(売ろうが売るまいが、すでに株価は値下がりをはじめており、損益への影響は出始めています)などを計算しました。そして私の出した結論は「売らない。抱える。」というものでした。証券会社のディーラーが決め商いの条件として提示した値段を見ても、私のファンドが売りに回ればアイシン精機の株価がどれほど下がることが見込まれたか解ります。 ディーラーは決めた値段よりも平均売買単価が少しでも高く売り切れれば利益が出る(この時は多分無理だろうなと思われる良心的なプライスでしたが…)ので、何とか早期に売り切ろうと板を叩くはずです。決め商いに出さなかったとしても、売ると決めた以上は、私のスタッフも同様な発注を出し続けたはずです。つまりひたすら売りまくる。いずれにしても株価は下がる…。 <火事場泥棒のようなことはしたくない> ファンドに与えるダメージは当然計算しました。「損失=組入比率×下落率」です。ファンドの時価総額の2%分を保有している銘柄が10%値下がりすれば、0.2%のダメージをファンドは受けます。基準価額10,000円に対して言えば、それは20円分ということになります。株式ファンドの基準価額の日々の変動全体でみれば、ある意味「たかが20円」ですが、お客様の大事なご資金でもありやはり「されど20円」です。 でも私が「売らない。抱える。」という投資判断をした最大の理由は「火事場泥棒のようなことはしたくない」という想いからです。もちろん、資本主義のど真ん中に居るのがファンドマネージャーで、浪花節など言っていないで、冷徹に銭儲けをしろ!という考え方があるのは人に言われなくても充分に解っています。 しかし、投資判断として「買う」という判断を下す経緯は、何度も企業調査をし、知り合いもでき、そして工場見学なども行った上で「その会社を所有して株主になりたい」という想いを強く持つからです。或いは、その企業のビジョンなりに惚れ込んで「応援したい」と思うからです。少なくとも私の投資哲学にはそういうものがあり、それはファンドの説明会などでも何度も話してきたことでした。 だから、工場が火事で燃えている、現状は復旧の目途は立っていない、という正に火事場の中で「もう当分は企業収益が上がらないかも知れない会社の株なんて持っている必要はない」と、自らの商いで値を潰すようなことをしながらポジションをなくすなどということは、正直私にしてみれば「有り得ない」投資判断の選択肢であったとも言えます。むしろ同様な投資判断で叩き売ってくる機関投資家が居れば、それに買い向かってやりたいぐらいの勢いです。でも私は「株主になる」っていうことは、そういうことだと思っています。 <株主であるということ> 以前、某なにがしという人が「ものを言う株主」としてもてはやされた時代がありました。確かに企業を私物化している経営者或いは経営陣は少なからず存在するので、そうした存在に対して株主として経営を糾弾するというのはコーポレート・ガバナンスのためにも必要なことですが、時にそれを言い過ぎて資本が横暴になる時があります。やはり現場の事、専門の事は任せるべき相手があり、必要以上に経営に介入する株主というのはどうかと思います。 特に上場企業の場合、株主になるのも、辞めるのも自由です。証券会社に注文さえ出せばそれで終わりです。そんなに嫌なら株主であることを辞めれば(売り注文を出す)良いだけで、その時損失が出るとしても、それは自分自身の見立てが下手だったということでしかないはずです。株主総会に出てグタグタ言うのなら売ればいいのにとよく思ったものです。 株主というのは「無期限でその企業へ資本を融通する存在」です。株主で有り続ける限り、どんなに株価が上がろうが下がろうが本来関係ありません。株主であり続ける間に得られる投下資本に対する金銭的リターンは「配当」しかありません。1,000円で買った株が、仮に10倍の10,000円になっていようとも、それを実現させるためには株主を辞めなければ(売却する)絵にかいた餅を見ているだけです。だからこそ、株主になるということは、それだけ当該企業に対する深い想いがないと駄目だろうというのが私の考えです。こういう考えの私だからこそ「火事場泥棒のように…」というアクションは起こせませんでした。 <投資家であるということ> チャートやテクニカル分析だけで株を売買する方がいらっしゃいます。或いは、その会社が何をやっているのか全然解っていないでも「言われるがまま」で売買している人もいます。法的には株式を所有している間は株主であることに違いありませんが、私の感覚からすればそれは株主ではありません。そう、たぶんこれが「投資家」です。 ヘッジファンド運用のひとつとして「ロング&ショート」というのがあります。それは株を買って持つ(ロング)だけでなく、株を売り持つ(ショート)ことでも投資収益を挙げようとする運用手法です。「アイシン精機の刈谷工場で火事が起きた」などというニュースを聞いたら、脊髄反射のごとく「売り!」という投資判断をして、株の空売りを行うことができて一人前の運用手法です。たぶんこれも「投資家」です。 一時期私もヘッジファンドのファンドマネージャーをしていましたので、この辺は良く解るのですが、正直「ショートを振る」銘柄を探すのは好きじゃなかったです。すなわち、思い入れがある銘柄を探してリサーチする一方で、ショートする対象を探すというのは「好きな奴と嫌いな奴」を同時に探すようなものだからです。これが得意な人は違うのかも知れませんが…。 <ファンドマネージャーであるということ> こう書きながらファンドマネージャーとは「株主」なのか、或いは「投資家」なのかということを考え続けました。運用手法でいろいろと違いもあるので“私の場合”ということだけに絞り込んでみましたが、答えは結局、実は両方でした。 というのも「時価評価」という概念がない個人投資家と、投資信託のファンドマネージャーのように毎日時価評価をして基準価額を算出しながらパフォーマンス競争に晒される立場では置かれた前提条件が全然違うということです。 アイシン精機の例で言えば、個人投資家の人はそのまま持ち続けていれば買値からどんなに値下がりしていようと損失は出ません。しかし投資信託の場合、毎日時価評価していますので、大引けの値段と同じならば、売っていようと持ったままでいようと、その日の損益効果は一緒だということです。 つまり「売らない。抱える。」という投資判断をしようとも、同社の株価が下がるならばその下げのインパクトだけはファンドは享受するという意味です。値上がりしていたら収益効果が当然あります。故に、売り切れないかも知れない銘柄を無理に売り叩いて値を崩してまで売るのと、持ったままでいるというのもほぼ一緒という考えがあったというのも事実です。ただ私はこの時は純粋に「株主として」売りたくなかったというのも偽らざる本心です。 <後日談> ファンドで保有するアイシン精機の株式を売却しない方針を決めた日、証券会社のアナリストを通じて当時のIR部門の責任者の方に「火事場泥棒みたいなことはしませんから」というメッセージとお見舞いを伝えてもらいました。そして後日混乱が収束した後、その方から「大島さんの“売らないよ”というメッセージは、とても励みになりました」という内容のメッセージをもらいました。ただファンドで保有していた分は、株価が落ち着きを取り戻して戻ってきたところで、一旦は全部売り切りました。 株主であるのか、投資家であるのか、それはどちらが良いという性格の話ではないと思います。でも良いか悪いかという議論ではなく、自分自身の投資のスタンスというものを自分自身で明確にしておくというのは株式投資とうまく付き合って行く上で大切なことだと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第80号 2010年8月13日発行より) ==========================================================
2010.08.13
<iPhone 4、トラブル発生>iPadとiPhone 4と矢継ぎ早に人気商品を出して飛ぶ鳥を落とす勢いだったアップルが苦しんでいます。それはiPhone 4の素晴らしいデザインが原因で電波障害を起こすというトラブルがためです。ご存知ない方のために、極めて簡単に概略をご説明すると、iPhone 4は携帯電話ですから当然アンテナが必要です。昔の携帯電話のアンテナは棒状のものがついていたことをご記憶のことだと思いますが、いつの頃からか、携帯電話からアンテナらしきものが消えました。それは決してアンテナが不要になったからではなく、ボディの内部的な構造に取り込んだからです。iPhone 4の場合、ボディケースの周辺部を全部アンテナとしました。それがデザイン的な特徴にもなっているのですが、ユーザーがギュッと握りしめる部分と一緒であるため、電波の弱いところではアンテナが電波を受信しなくなるというトラブルが発生してしまいました。<根本的な対策は事実上不可能>もしこれを根本的に対応するとなると、アンテナの位置を変えることにもなるため、強いてはケースの中の配線基盤のレイアウト・デザインまで変更しないとなりません。デスクトップパソコンのように中がスカスカしていて、デザイン的な変更の余地がたっぷりある電子機器ならばともかく、スマートフォンの中は電子部品がギューギューに押し込まれた押し寿司のようなものですから、外見そのままに中だけ変えるというのは相当にハードルが高い作業になります。少なくとも「ハイ、対策品を出しました」と右から左にできるような物ではありません。色々なノイズ対策やら、排熱対策などもしないとならないからです。以前、某社のスマートフォンが新商品発表の期日に無理やり合わせるため、内部のノイズ対策を突貫工事でしないとならず、実はケースを開けると中が銀紙だらけだったという話を聞いたことがあります。それだけ大変な作業が待っている問題のはずです。<ふたつの対応策>今回、アップル社はこの対策として二つのことをしました。ひとつ目は本体を手に持つ時にアンテナの受信状況を阻害しないようにするための特別なケースを無償配布するというものです。そもそも今回の原因は、iPhone 4の独創的なデザイン、つまり本体周辺部をアンテナとするデザインが故に、ユーザーが握りしめてある場所を押さえ込むと電波が通じ難くなるというものだからです。ケースをかぶせることで、物理的にそこに人間の手が当たらなくすれば良いだろうというアイデアなのですが、前述のような状況で内部構造を直ぐには変えられないという事情からすれば、仕方ない対応策なのかも知れません。アップル純正のそれがデザインを破綻させないものであることを願うばかりです。そしてもうひとつがスティーブ・ジョブズCEOによる謝罪です。その詳細な内容、或いはやり方は口の悪い輩からは異議を唱えられるかもしれませんが、少なくとも多くのメディアに「スティーブ・ジョブズCEOが謝罪」と取り上げられるような内容であったことは、企業の危機管理の在り方としては見事だったと思われます。ここで消費者の神経を逆撫でするような話になると、最近はまとまる話もまとまりませんから。トヨタ自動車も最終的には状況は改善しつつありますが、昨年始まった諸々のリコール問題に対して、初期動作として豊田章男社長の動きがもう少し違っていれば、或いは多少はうまく事が収まっていたかも知れません。世界をリードする企業のCEOは楽ではないなとあらためて思わされる出来事でした。<トラブルがあれば株価は下がるもの>さて私たちが議論をしないとならない問題はここからです。投資家として「アップル(AAPL)とどう付き合うべきか?」ということです。もちろん、現在同社の株式を保有しているのかいないのかによって状況は異なると思いますが、これはまるでビジネス・スクールのディスカッション・テーマになりそうな内容です。当然前述のトヨタ自動車(7203)の株式との関わり合い方についても同様なことが言えます。要するに、基本的に技術力があって、業界トップを突っ走っていた企業が、何らかのビジネス上の障害に直面した時、その企業に投資家として「その時及び今後どう接するべきか?」ということです。当然、企業が何らかのトラブルを抱えれば、それに対応せねばならず、一義的にはその対応コスト(リコール費用など)が発生し、売上もいろいろな意味でダウンするでしょうから、利益ベースで考えると相当ダメージを受けることになります。株価は企業の収益動向を反映するというのが、どの教科書を見ても言われるセオリーですから、トラブルを抱えた企業の株価はほぼ間違いなく値下がりすることになります。ましてや赤字転落とでもなれば相当な株価ダメージを受けるというのが一般的な常識です。もちろん、それは買う人よりも売る人が多いからですが、最近はこうしたネガティブ・ニュース・フローに対してショート(売り)から始める運用手法を得意とする人もいるので、単純に株を持っていた人が逃げ売っているだけの構図とも違うのですが、値下がりすることには違いありません。<投資家とは? 株主とは?>さて、ここからが重要な議論になります。「株を買うとは、その企業の株主(所有者)になること」というのも教科書的なひとつの教えです。私自身も長いファンドマネージャー生活の中で、これを投資哲学の大きな柱として考えています。だからその企業が何をしているのか理解できないところには投資をしない、逆に投資をするならとことん理解するように努めるようにして来ました。私がパソコンを作ったり、車をいじくり回したり、或いはわざわざシリコンバレーまで出かけて企業調査をしたりするのは、正に株主として企業を所有する前に「何処で、何を、どうやっている会社なのか?」をよく知りたいがためです。その上で「この会社は面白い!」と判断してから株を買うようにしています。そしてその企業のことを応援するのです。では、投資している企業がトラブルを抱えた場合はどうしたらいいのでしょうか? 株主というのは企業の所有者ですから、その企業の製品なり、サービスなり、或いは企業理念などに惚れ込んで株を所有しているはずです。いわば企業の応援者でもあります。その立場で考えた場合、企業が何らかのトラブルを抱えて苦境に立たされた時「もうこいつらは駄目だ!」と言って株を手放すことは正解なのでしょうか?もちろん株価は下がるわけですから、経済合理性から言えばそこで一旦は株を売却するというのは正解だと言えます。企業経営の失敗のために、自分の大事な虎の子を減らされたくないと思うのも当然のことです。でももしそれが自分の贔屓のサッカーチームや野球チームだとしたらどうでしょうか? 負け込んできたからといって、ファンを辞めてしまうのでしょうか?<ケーススタディ「アイシン精機刈谷工場の火事」>もう10年以上も前(1997年2月)のことになりますが、私の大好きな会社の一つであるアイシン精機の刈谷第一工場で火事が起こったことがあります。そこで作っていた製品はブレーキ用のプロポーションニング・バルブといって、トヨタ車のブレーキ機構にはどうしても必要な重要部品でした。その大半をその工場が一手に作っていたのでトヨタの生産ラインがほとんど止まるという大問題に発展しました。「Just in time」とか、かんばん方式と呼ばれる生産方法の弱点を突かれた形になったのですが、当然そのニュースが発表になった時、それまで1700円台で取引されていた同社株価はストップ安になるまで叩き売られました。仲の良い証券会社のアナリストからの電話で私はそのニュースを知りました。たまたまその数日前にその工場を見学していたことも有り、出火したという事実に複雑な思いを抱いたのですが、同時に私はそんなセンチメンタルな想いとは別に投資判断をしないとなりません。何故なら、私のファンドには大量の同社株が組み込まれていたからです。まずはそのダメージの推計です。考えられる被害は、その拡がりは、或いは原点まで回復するにはどの程度の時間が必要か、などなどです。ただそれをあまり精緻に計算している余裕などありません。株価は直ぐに動いてしまうからです。そのニュースを最初に聞いた時にはまだ市場で売買が成立していたと思います。ただ間もなく売り気配になって取引もできなくなったと思います。皆さんが私の立場なら、どうされますか?==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第79号 2010年7月23日発行より) ==========================================================
2010.07.23
<携帯と無線LANの融合>6月21日、AT&TとVerizon WirelessがWBAに加わったというニュースを聞いて「こりゃ面白くなってきた」と手を叩いた市場関係者は、少なくとも日本市場ではあまり多くはないと思います。そもそもWBAとは何かということ自体、ご存知ない方が多いでしょうから。ここで話題にしようと思っているWBAとは世界ボクシング協会(World Boxing Association)のことではもちろんありません。WBAとは「Wireless Broadband Alliance」のことで通信事業者がWi-Fiネットワークの相互利用を推進することを目的に2003年から活動している団体のことです。 <AT&TとVerizon Wireless>念のため説明すると、AT&T並びにVerizon Wirelessとは、米国を代表する携帯電話事業者大手2社で、現在iPhoneの独占販売権を持つ通信事業者がAT&Tです。一方、全米最大の携帯電話事業者であるVerizon Wirelessは、現世代(3G)の通信規格が異なることからiPhoneの取扱いができずにいます。ただ近時Apple社との間で合意(つまりApple社がVerizon Wirelessが利用している通信規格でiPhoneを生産するということ)が成立し、来年からの取扱いが発表されています。 <W-CDMAとCDMA2000>通信規格の話を少しすると、現在の携帯電話の世代はいわゆる第三世代(3G)と呼ばれるものです。日本でもW-CDMA系がNTTドコモとソフトバンクで、auだけがCDMA2000という別規格になっています。どちらも“CDMA”という方式では一緒にも見えるのですが、第二世代の時にGSM系だったか、CDMA系だったかなどでも微妙な違いが生じており、結果としてローミングが“できる”“できない”といった問題が生じてきています。 例えば、これは合法的な利用方法ではないと思われますのでお勧めしませんが、香港でSIMロックフリーのiPhoneを買ってきてドコモのSIMカードを入れるとドコモユーザーであってもiPhoneが使えます。同じことをしてもauのSIMカードは繋がりません。これが通信規格の違いによるものです。また海外に行って、自分の携帯電話はそのままローミングできたのに、お友達や家族のそれはローミングできずに繋がらない(或いはその逆)といった経験をされたことがある人も多いと思います。それもこの通信規格の違いによるものですが、どちらも今現在の通信速度が静止時 2Mb/秒、歩行時 384kb/秒、高速移動時 144kb/秒確保できることになって第三世代と呼ばれています。 ちょっと大雑把な括り(第三世代は正確には5種類の規格があるため)で恐縮ですが、現在iPhoneを取り扱っているAT&T はW-CDMA系の前者に属し、Verizon Wirelessは後者に属します。別な見方をすれば、現在でもSIMロック解除を総務省が進めればドコモユーザーはiPhoneを使えるようになりますが、auユーザーは使えません。しかし、Verizon WirelessがiPhoneを取り扱うようになって以降は、Verizon Wirelessと同じCDMA2000という規格を使うauにもハードウェアとしての互換性が生まれますので、ドコモやソフトバンクからの乗り換えはできませんが、auでもiPhoneが使えるようになるかも知れません。 <帯域幅が足らなくなる>話を本題に戻して、iPhoneに限らずスマートフォン・ユーザーが全世界で劇的に増加していることはご承知の通りです。スマートフォンとの関わり合いで作戦失敗(積極的に展開しなかった)したノキアは先の四半期決算の発表で市場予想を下回る収益内容となり市場から叩かれることになりました。遅まきながら同社はスマートフォン開発に力を入れ始めていますが、かなり周回遅れになりつつあります。一方で、そのスマートフォン・ユーザーの激増に耐え切れなくなりそうというのが通信インフラのキャパシティです。いわゆる「帯域幅が足らない」という現象になりつつあります。 <有線LANで起きていることがワイヤレスの世界でも起こる>話は簡単です。マンションなどにお住まいで、マンション全体の契約として光ファイバーやCATVインターネットとの契約があり、それを既設のインフラとしてブロードバンド・サービスをご利用の方ならこの例えが簡単にお解りいただけると思うのですが、昼間は快適にサクサク使えるネットワークが、夜になるとグッと速度が遅くなったりすることがありませんか? 正にそれと同じ現象がワイヤレスの世界で起きようとしているということです。マンション全体に1本か2本の光ファイバー回線を引いて、それをルーターで分岐して共同利用している場合、昼間は住人の多くが会社や学校に行かれているのでインターネットの利用者が少なくなりますが、夜になると当然グッと利用者が増えます。そうすると例え光回線といえどもキャパシティが一杯になってしまうので、速度がグッと落ちてしまうという現象が起きます。 光ファイバー回線など外部アクセスの回線を増設することで問題は解決するのですが、この現象と同じことがワイヤレスの環境でも起きようとしています。そうした見通しがあるからこそAT&TとVerizon WirelessがWBAに加わったというのが事の真相なのですが、ワイヤレスの世界では光ファイバーを増設するというような簡単な解決策はありません。 <次世代になるのはまだ少し時間がかかる>携帯電話の技術革新の話はよく世代の話として扱われます。先程も使いましたが、現在の携帯の世代は第三世代です。“3G”と呼ばれるのは「3rd Generation」という意味で使われていますが、ドコモで言うならばムーバの時代が2G、FOMAになって3Gです。今年中にサービスが開始されると言われているLTE(Long Term Evolution(ロング・ターム・エボリューション))などは次世代の4Gではなく、一歩手前の3.9Gで、最近iPhoneやiPad、或いはe-mobileのPocket Wi-Fiなど高速データ通信の時に使われるHSPA(High Speed Packet Access)などは3.5Gなどと言われたりします。そして3.9Gでも今年の暮れぐらいから、4Gに至ってはまだ数年先の普及ということで実はまだ実用化への道程はかなり長いと言えます。 <ユーザーのフラストレーションは溜まるばかり>ただお解りの通り、これらはどれも通信キャリアのサービスの中でのワイヤレス環境です。今後ますます増大することが予想されるデータ通信のトラフィックを全部この中で受け止めるとすると、通信キャリアの受け止めなくてはならないトラフィックも天井知らずの状況が続きます。しかしその一方で、無線LANのニーズもどんどんと増加しています。それは4Gの世界ができ上がるまでは、間違いなく帯域幅、簡単に言うと伝送速度で携帯のワイヤレス環境のそれを圧倒的に上回るからです。 iPadユーザーは恐らく3.5Gまでの環境では相当にフラストレーションを抱えているはずです。iPadと同じプロセッサーを搭載したiPhone4のユーザーも、恐らく同じ、もしくは本来の性能を出し切れずにいるはずです。これは何もアップルの製品に限った問題ではなく、スマートフォン・ユーザーや、今年の夏モデルとして出てくる多くのネットPC系のユーザーに共通する問題のはずです。 <HOTSPOTの無線LANを有効に使う>一方最近HOT SPOTと呼ばれる公衆無線LANのポイントが現在激増しています。ただ、そのアクセス・ポイントへの接続契約を持っていない人にとっては、それらは何の役に立たない代物で、電波ですから存在すら気付かないかも知れません。でもそれらをまず総てのキャリア契約者、すなわちドコモユーザーも、ソフトバンクユーザーもauユーザーも誰もが供用できる仕組みを作れば、まずその分は携帯電話のインフラにかかる負荷を確実に落とすことができます。 技術的には無線LANのアクセス・ポイント間の移動を橋渡しするものは開発されています。つまり、電波が届く範囲のHOTSPOT間を渡り歩けば、接続は途切れることなくシームレスに繋がったままになるということです。この間、負荷がかかるインフラはインターネットの方で携帯キャリアのワイヤレス環境ではありません。 <ニーズを満たす中に、需要はたくさんある>ただいずれにしてもバックボーンにかかる負荷は今後ますます増えることはあっても減ることはありません。AT&TとVerizon WirelessがWBAに加わったというニュースは、そんな世の中の流れを、現場を預かるキャリアの側で実感として認識したからこその動きのはずです。何故ならVerizon Wirelessは従来自社のワイヤレス環境の構築に固執しており、自社ネットワーク向けに販売するスマートフォンでWi-Fi機能を無効化までしていたと聞くからです。 この流れの中に、僕らは多くの投資機会を見出すことができます。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第78号 2010年7月9日発行より) ==========================================================
2010.07.09
<羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く>羹(あつもの)とは「熱いお椀」のこと、膾(なます)とはお正月などによく出てくる大根と人参などを細く切って甘酸っぱく味を付けた料理(冷たい)のことです。つまり「羹に懲りて、膾を吹く」とは熱い汁を飲んで口の中を火傷するような痛い目にあってしまった人が、その後は冷たい料理を口にするにも息を吹きかけて冷まさないと食べられないほど、極端に用心深くなってしまったということです。 この格言、バブルが崩壊した後など金融商品の価格が大変動した後によく聞かれるものですが、投資家が特定のリスク、もしくはリスク全般に極端に慎重になってしまって、ひどい場合は資本市場がまともに機能しなくなってしまったような時によく使われます。最近ではリーマン・ショック後の金融危機の中でよく聞かれましたが、今現在でも日本の投資家はかなり株式については“膾を吹いている”ような気がします。 <慎重論なら山ほどありますが…>確かに今の日本の株式市場を取り巻く環境について悪材料と言うか、株価が上がらない慎重論を書きたてたらきりがありません。そもそも最終的にはこの国自体が将来発展するのかどうかという話にまで触れ始めたら、それこそ議論百出で収集がつかなくなることは目に見えています。例えば、世界一悪い公的債務の対GDP比率を論拠に日本の財政問題を悲観する話、少子高齢化の人口動態ピラミッドから民族そのものの将来性を悲観する話、或いは日本のゆとり教育がもたらした基礎学力の低下を憂う話など、目先で選挙がどうの、為替変動がどうのといった近視眼的な話だけでなく、極めて大きなテーマでも慎重論の論陣を張ろうと思ったら簡単です。 <楽観論を言うのは勇気が要ります>また昔から「株屋の能天気」と揶揄した言い方をしますが、要するに日本では慎重論を唱える方が奥ゆかしく思慮深く思われ、株屋の「○○だから上がりますよ」みたいな楽観論はいい加減な話なので6掛けにして聞けというような風潮があるように思います(私の僻みかも知れませんが…)。更に言えば、たとえその楽観論が正しくて結果として値上がりしてもそれが当然、逆に値下がりしようものなら「やっぱりねー」という話になり、逆に慎重論を唱えた場合にはほとんどお咎めはなく、値下がりした場合に「やっぱり慎重にみるべきだったんですね、さすがです」という話になったりします。ちょっと話が脱線気味になりましたが、慎重論・悲観論を唱えるのは容易いけれど、楽観論は言い難いのがこの業界というのが私の率直な印象です。でも敢えて私はここで楽観論を唱えます。 <人の行く道の裏に道あり花の山>そうした風土が災いしてか、今も昔も、日本では値上がりしてこないと株式周りの金融商品は本当に残高が伸びなくなります。そもそも最近の東証の売買代金を見ていれば、株式周りの金融商品どころか、株式自体の売買代金が滅茶苦茶細ってしまっているのですから当然と言えば当然なんですが、株式市場に長く関わってきた者として何とも歯痒くいつもこの流れを見ています。 「安く買って、高く売る」これが株式投資で儲かる“秘訣”ですが、安い時には見向きもされず、高くなってから「なんか面白い(儲かる)銘柄はないか?」と言われても困ってしまいます。「人の行く道の裏に道あり花の山」という相場格言もありますが、多くの人が「羹に懲りて膾を吹く」こんな時だからこそ、この相場格言が色濃く思い出されます。 <ハイテクの世界は新しい扉をひとつ開けたばかり>なんでこんな話を始めたかといえば、やっぱり「株屋の楽観論」だと揶揄されるかも知れませんが、日本企業に限らないグローバルな見立てですが、私はハイテク株の見通しに強気だからです。その最大の理由は、過去3回に亘って書き綴りました「身近なIT環境を整備しよう」で行った自宅の環境整備の結果に大満足をしているからです。大満足をしていると言っても、満ち足りているという意味ではなく「やはりこの方向で人間の欲望は走るよな」と利用実感として納得するからです。 そしてその納得感を裏付けるかのように、世の中ではiPadが売れ、iPhone 4が予約受付をさばききれないほどに申し込みが殺到しているからです。そしてもう傍らでは3D画像のストーリーが動き始めています。ハイテク周りのニュース・フローは、この先どんどん加速することはあっても、決して「なんか目新しい話はなくなったね」とは当分ならないと思われます。だから私はハイテク株の見通しに強気なのです。どうしてもっと盛り上がらないのか、正直不思議でなりません。 IT技術に求める人々のニーズは実に様々です。でもひとつ言える確かなことは、決して人間の欲望は後戻りしないということです。今のこの時代、カラーTVから白黒TVに戻っても良いという人がいないのと同じくらい、携帯電話なんてなくても良いよという人も居ないでしょう。そしてもうひとつ言えるのは、周りの人がみんな持ち始めたら、自分もそれが欲しくなるということです。 今、スマートフォンやiPadがその時代の新しい扉を開けたと感じます。そしてちょっとその扉の先に行ってみると、とりあえず次にまず何が必要なのかまで見えて来ます。だから私はハイテク株の見通しに強気なのです。足りないのは、そうした流れのストーリー・テラーなのではないでしょうか。企業の四半期毎の決算数字を正確に言い当てる人ではなく、この先にどんな未来が待っているかを語る人です。なぜって株式投資の大事な一側面は「明日の夢を買う」ということだと思うからです。 <まずは自ら扉の向こうへ>こんなに世界中で人々が熱狂したIT製品(iPadとiPhone 4)が発売されたのはWindows95以来かもしれません。そしその後の世界に何が起こったのかは皆さんご承知の通りです。「何を買ったら良いんだ?」という質問が聞こえてきそうですが、ここはまずぐっと堪えて、ご自分でその扉の向こう側に行ってみて下さい。半年やそこらで終わってしまう短期的な流れだとは思っていませんから、慌てなくても大丈夫です。いえ、むしろご自分でそれを体感して欲しいのです。きっと単なる「“株屋の楽観論”だけではないな」とご納得いただけるはずですから。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第77号 2010年6月25日発行より) ==========================================================
2010.06.25
<やっとiPhone 3GSとiTunesが繋がった(感)> 次に取り組んだ作業がiPhone 3GSをiTunesに認識させるというものです。「なんで? 繋がって当たり前なんじゃないの?」と思われる読者の方にはぜひ楽天証券から本年1月12日に配信した私のメルマガをお読み頂きたいのですが、「iPhone 3GS + Windows 7 + Intel P55 Expressチップセット」という特定の組み合わせの時、iTunesがiPhone 3GSを認識しない技術的なトラブルが発生していました。 ご承知の通りWindows 7は昨秋に発売されて以降、Windows Vistaの時のような肩透かしにはならず、久し振りにパソコン市場を刺激したMicrosoftのヒットOS(パソコンの基本ソフト)です。また Intel P55 Expressチップセットというのも最新のインテル・プラットフォームをリードするパソコンの重要な基本半導体です。つまり簡単に言うと、昨秋以降にそ こそこ以上の性能のデスクトップ・パソコンを買い換えた人の標準的な仕様ということになるのですが、それが技術的なトラブルを抱えていたということです。 私も当初は「あり得ない」と考え、iPhone 3GSを購入した家電量販店に電話しましたが埒が明かず、更にソフトバンクのサポートセンターを振り出しに→アップル→ASUS(PCのマザー・ボードの メーカー)と問い合わせてみました。そしてその当時出た結論は「まだ原因の所在も掴めていない不確かな状態」だということです。我が家の他のパソコン (Windows VistaやXPのマシン)で接続すると問題なく繋がるにもかかわらず、最新の仕様で組み上げたパソコンだけiPhone 3GSを認識しません。また逆に実はこのパソコンのiTunesでiPod Nanoは普通に認識して使えるのです。実におかしいと思いませんか? <いつの間にか対策ファイルが出ていたようです> その後、WindowsやiTunesの更新ファイルを受信する度にしつこく接続を試みたのですが、結局繋がらずに無駄な時間が流れました。まあそれがお かげで今回HDDを換装したVAIOがiPhone 3GS接続用のiTunes専用として延命されてきたのですが…。しかし連休直前、ひょんなことから件のパソコンのiTunesの再インストールを試みて みると、従来とはちょっと違った反応が見えました。完全には認識しないのですが、デバイスとしてはパソコン上で見える時があるという中途半端な状態です。 どこか何かが引っ掛かっているが、基本的には何とかなりそうな気配ということです。 多くのこうした場合、完全に一度アンインストールをして、再インストールをし直せばうまくいく場合が多いのですが、残念ながらレジストリーに残るプログラ ムの滓まで綺麗にしたりするには時間的な余裕がなかなか作れませんでした。また、マザー・ボードのメーカーであるASUSのWebで確認するとBIOSの バージョンも相当何回か更新されてバージョンアップしています。昨年の秋に登場したモデルですが、もう何度も行われているようです。ということは、これら をちゃんと処理すれば繋がるかも知れないという期待が持て、やはりこれもゴールデン・ウィーク中の作業としてスケジュールに入れておいたという感じです。 実際の作業、とりわけレジストリーの処理については慣れないで行うととんでもないことになるので省略します。またBIOSのアップデートも従来はとてもデ リケートな作業だったのですが、最近はWindows上でプログラムを操作して更新することができるようになりました(マザー・ボードのメーカーによりま す)ので、或いはメーカー製のパソコンなどの場合「VAIO Update」のような流れの中でできるかも知れませんので、同じ悩みを持つ方がいらっしゃればぜひ試してみられることをお勧めします。 ただいずれにしても、時々再起動さえできないような事態になることもあるので、最低限バックアップを取ってから、そして作業が長引いても大丈夫な時間を確 保してから行って欲しいのですが、私の場合、拍子抜けするほど簡単に終わったどころか、iPhone 3GSを繋げてみると当然のように認識するようになりました。「今までの苦労は何だったんだ!」と言いたいのも山々ですが、これでこれからは能力の高いパ ソコンで動画のエンコーディングなどを簡単に行って、iPhone 3GSの画面で楽しむことができるようになりました。 エンコーディングなどの処理は格段に速いパソコンですから、これからが楽しみです。因みに、早速映画を一本DVDからiPhone 3GS用にエンコーディングしてみましたが、約8分で処理が完了しました。パフォーマンス・モニターで見るとインテルCorei7 860(4コア、Hyper Threading対応)の理論上8つのコアがフルで稼働していましたが圧巻の速さです。 <無線LANルーターを交換する> そして最後に行ったのがルーターの交換です。2年ほど前に購入した無線LANルーターなので、物としては古いことはないのですが、何故か不思議とよく落ち ます。ファーム・ウェアは最新のバージョンに更新してありますし、リブート(再起動)すれば正常稼働に戻るのですが、無線が良く繋がらなくなります。家の 中のLANは正常でも、インターネットに出て行かないということも頻発するようになりました。もともと2階の奥の部屋に行くと無線LANの電波が弱くなる など問題点がありましたので、この際とばかり電波が強いタイプに取り換えることにした次第です。801.11nに準拠したUSB子機も付属でついて 12,000円というアキバ価格に飛び付いたという面もあるのですが…。 設定その他、交換はいたって簡単でマニュアル通りに作業を進めればOKです。セキュリティ設定も従来からの暗号キーを引き継ぐ形に入力すれば、無線LAN 子機側で設定をいじることなく親機を認識してくれるので、この作業自体はものの30分程度で終了しました。併せてルーターのUSBポートに直接500GB の外付けHDDを接続してNAS(Network Attached Storage)代わりとし、家族の写真や音楽データなどを共有するようにしました。 従来は総て私の方でファイルサーバーなどを管理していたのですが、子供たちも段々大きくなり、いろいろな使い方もできるし、ニーズも出てきたようなので誰 もがアクセスできるような共有フォルダーを作ったというわけです。HDDのフォーマット形式を変更しないとならない手間がありましたが、その後の利便性を 考えるとしてみる価値はありました。 <更なる家庭内クラウドを目指すべく次の長期休暇を待望する> さて、こんなことをしていたら、ゴールデン・ウィーク中の家で過ごす時間はあっという間に過ぎてしまった感じです。ただそれでもやや型遅れになり存在価値 を問われつつあった機器類が、再び意味ある存在となって活躍するようになったのは喜ばしい限りです。そして何より、とても便利になりました。 一例を挙げれば、家中何処からでも家族写真のアルバムにアクセスできるようになり、それはリビングのでも、ダイニングのでも大型テレビ画面に映し出して皆 で観ることができるようになったということです。まだファイルの移動を完全に済ませていませんので道半ばですが、音楽ファイルも映画なども同様にする予定 です。我が家でネットワークにアクセスできる機器なら何でもそれらを観たり聞いたりでき、またそれらを一元的に管理することで、バックアップの手間なども 省けるというものです。 ただ欲を言えば、今回の作業で家中のデータ・ストレージはネットワークに繋がって共有もできて無駄がなくなりましたが、残念ながらMPUの演算パワーまで は共有して無駄をなくすということはできていません。私が専有しているパソコンが当然最も演算能力が高いのですが、私の留守中は眠ったままです。ダイニン グにはまだPentium4(3Ghz)のパソコンもいます。そしてもうひとつ、我が家のネットワークはまだ外部からのアクセスを許可するようにはしてい ません。 ちょっとした作業で、外出先からホームサーバーにアクセスして録画済みの番組を観たり、「My Documents」内のファイルを取り出したりできるようになるはずです。次に何日かまとまった休みが取れそうな時、今度はそれに挑戦してみようと思い ます。旅行や出張に必ずノートPCを持ち歩く身としては、きっとその状況は便利に感じるはずです。最近では飛行機や新幹線の中でも無線LANが使えるよう になってきたのですから。作業終了したら、またご報告します。短いゴールデン・ウィークがオタク系の日々で終わってしまいました。スキューバ・ダイビング のインストラクター・ライセンスはお休みのままでした。========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第76号 2010年6月11日発行より) ==========================================================
2010.06.11
<torne(トルネ)™のために初期型PS3®の60GBのHDDを500GBのHDDに換装する> 次に作業に取り掛かったのがPS3のHDD換装です。このPS3は最初のモデルで、USBポートが4つあり、更にPSやPS2のゲームと互換性がある貴重なモデルになってしまったのですが、HDDの容量が60GBしかなく、今年3月に登場した地デジ・チューナー「torne(トルネ)」と組み合わせて使うにはあまりに貧弱としか言いようがありません。現在のPS3はPSやPS2との互換性を失った代わりに、重さにして約2キロは軽くなり、またHDDの容量も250GBと大幅に増えています。 実際に自宅でテストをしたことがないので、責任を持ったことは言えませんが、初期型のPS3に比べると格段に静かになったとか。初代のPS3はその頭脳部分として有名な「Cell Broadband Engine(Cell B.E.)」が90nmというデザインルールで作られていますが、現行の45nmのそれは面積も消費電力も半分になっているため発熱が大幅に抑えられ、冷却のための音が格段に小さくなっているからです。 私としては「torne(トルネ)」購入と併せ、売却・買換えを考えたのですが、PS2ゲームソフトとの互換性がなくなるとの子供達からの猛反発により延命を決めた次第です。実は当家にはPS2とPS3の間にHDDレコーダーとしての性格も併せて登場したPSXというテレビチューナー付きのPSシリーズがあり、ゲーム・コントローラーに慣れた子供たち世代はテレビ録画に好んでこっちを使うという傾向がありました。 ただ当然地デジには対応しませんし、2003年12月に購入してから日が長いこともあってか最近ではDVDなどの読み込みエラーが多発することもあり、ならば「torne(トルネ)」とPS3の組合せに統一しようということになったわけです。そこで問題となったのが60GBしかないHDDの容量ということです。 <やっぱりパーツを買うなら秋葉原だった> VAIOのHDD換装で、2.5インチHDDドライブのアキバ価格を調べてしまいましたので、今アキバに行けば500GBのHDDが6,300円も出すと買えることを知っています。ルーター他、諸々パーツを買うニーズもあり、今回は午前中からいそいそとアキバに繰り出しました。そして手に入れたのが「Hitachi/IBM HTS545050B9A300」という形式番号のHDDです。 実はこれ、VAIOの時も同じなのですが綺麗な化粧箱に入ったリテール品ではなく、パソコンを自作する人たちには一般的な“バルク品”と呼ばれる説明書も何もついていないものの場合の値段です。交換方法などの説明書付きの箱入りとなると軽く値段は2倍になりますのでご注意下さい。更に言えば「パソコンとの相性保証はできますが、PS3との相性保証はできません」という代物です。とはいえ、どう見ても同じ規格のものですから迷わず購入してしまいました。 <PS3のHDD換装はプラス・ドライバー一本で誰でもできる> PS3のHDD換装は至って簡単です。強いて言えばバックアップ用にUSB接続するストレージ・デバイス(HDDやUSBメモリー)のフォーマットがFAT32という形式でないとPS3がバックアップ・デバイスとして認識してくれないという煩わしさがありますが、その点を除けばドライバー一本の作業でした。そして誕生したのが現状市販されているPS3よりも大容量500GBのHDDを持つPS3ということです。これで「torne(トルネ)」と繋いで完璧です。 そしてもうひとつの今回のポイントが、PS3でのメディア・サーバー機能の利用です。どうやら昨年にはリリースされていた機能のようなのですが、家庭内ネットワークの上の他のパソコンのHDDに保存されている動画や静止画を、PS3が接続されている大画面テレビで観られるようにするという機能です。試しにWindows7が搭載されているパソコンとのリンクを試みましたが、基本的には何の追加作業も必要なく、パソコン内に保存されている写真や動画がリビングで観られるようになりました。 正直言って、ちょっと感動です。なぜって、パソコンと家電品の連携で家中のデバイスが繋がり出したという感じだからです。ちょっと前まではパソコン業界と家電業界は敵対していました。SONYが「ライバルはPanasonicではなくMicrosoftだ!」と言ったことが妙に新鮮に思えた時があったのですから。DLNA(Digital Living Network Alliance)という2003年6月に結成された業界団体が策定したガイドラインに基づく技術が今回のPS3とパソコンの繋がりの基礎ですが、「主戦場はリビング・ルーム」と言っていた敵同士が時を経て、手を繋いだことを実感するものです。 <「torne(トルネ)」はご機嫌です> ところで「torne(トルネ)」の評価もちゃんとお伝えしておきます。結論は一言ですが「凄く良い!」です。まず思ったよりサイズは小さめで、予想と違いACアダプターを必要とせず、PS3とのUSB接続から電源を取ります。またアンテナ線の途中に割り込む形になるので、極めて裏方的接続で事が足ります。そして機能はTVチューナーがひとつなので同時2番組録画ができない点と録画中の追い掛け再生ができないというマイナーな点を除けば、番組表も見やすいし、録画予約も簡単です。 またテレビを見ながら画面分割してWeb検索ができるのも便利です。グルメ番組などを見ながら、気になったキーワードでテレビを見ながら検索できる(PS3が処理しています)のは使えます。またPSPへ録画データを吐き出したり、或いはPSPのリモート操作で無線LANが繋がる限り、家中でテレビが携帯できたりするのは子供たちには好評です。ジップロックのビニール袋に入れてお風呂場に持ち込むことが可能だからです。ここでもキーワードは繋がるなのかも知れません。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第75号 2010年5月28日発行より) ==========================================================
2010.05.28
<ゴールデン・ウィークに自宅のIT環境を整備する> 待望のゴールデン・ウィークも過ぎてしまえば儚い記憶、今度まとまった休みが取れればあれもしたい、これもしたいと思っていたことの何割を実行できたかと考えると半分もできていない。別にダラダラと若い頃のように無為な時間を過ごしていたわけではなく、普段よりも1時間くらいベッドの中に居た時間が長い程度、あとはそれなりに活動的に動いていたはずなのですが……。つまり元々の“あれも、これも”の要求水準が高過ぎて、結局自分の体がひとつで時間が24時間という現実を超越することはできなかったという当たり前のことなのですが……。 さて、そんな中でも今年のゴールデン・ウィーク、私の一つのテーマは「自宅のIT環境を整備する」というものでした。その心は“繋げる”です。これは今のクラウド・コンピューティングの流れにも等しいと思っているのですが、個々のパソコンの能力を最先端のMPUやグラフィックス・チップに交換して高性能の尖がった物にするというより、今ある器機類を最小限の手直しなどを行って繋げることで、より有効に且つ便利に使えるようにするというものです。この考え、そして何よりエコでもあります。 <作業内容あれやこれや> もうかれこれ10数年にわたってパソコンの自作はするわ、新しい技術のオモシロ・ハイテク・グッズは買い込むわ、と野放図なIT投資を繰り返してきたおかげで身の回りには案外無駄な(その機器の能力を100%出し切れていないという意味で)状態で放置されているものがあります。また日進月歩の技術革新もあり、ちょっと放置している間に陳腐化してしまい、捨てるには惜しいけれど、主力として積極的に利用するにはちょっと物足りないような物も増えています。前者の代表例が初代のPS3であり、後者が2005年に買ったノートPCです。また昨夏にホームサーバーを置く場所を確保して、更に家中の有線LANケーブルを子供部屋にも届くようにしたのは良いのですが、どうもこのところルーターの調子が悪く、10日に一度くらいの割合でネットワークが落ちてしまう状況になっており、これも何とかしたいというのが今回のテーマのきっかにもなりました。 今回のゴールデン・ウィークで行った作業は下記の通りです。 SONY製ノートPC(2005年モデル)のHDD換装(80GB⇒320GB)及びメモリー交換(512MB×2枚⇒1GB×2枚 初期型PS3®(2006年11月モデル)のHDD換装(60GB⇒500GB)(Torne(トルネ)™対応) 既報「iPhone 3GS とiTunesが繋がらない(インテル製Core i7 860+チップセットP55 Express+Windows 7(64bit)」という問題をBIOSアップデートなどにより解消する 4. 無線LANルーターの入れ替えとNASの導入、ネットワーク・セキュリティ設定の見直し <VAIO S-type(VGN-S92PS)のHDDを換装する> 最初に取り組んだのがノートパソコンです。2005年春に買ったSONY・VAIOのType-Sというモデルで、当時としてはそれなりな値段(少なくとも最近のネットPCならば何台かまとめ買いができるような値段)がしたと記憶しているのですが、今見るとHDDの容量が80Gしかなく、メモリーも1Gしか搭載していません。OSは当然Windows XPです。典型的な全世代の遺物(?)なのですが、とはいえ先日も上海出張に持って行きましたが、ネットを見たり、メールをやり取りしたり、或いはBloombergを立ち上げて市場動向をチェックする程度ならば能力的には問題はありません。ただ最近HDDの音がちょっと大きくなってきたなということと、今流に使うとメモリーがちょっと足りないかなといった感じが強くなってきました。液晶に問題はなく、HDDとメモリーの換装ができればまだ当分は使えそうですし、アイデア次第ではもっと有効活用もできるだろうと目論みます。 ただ問題はノートPCの場合、HDDなどをユーザーが換装することを前提に設計されている機種は少なく、結果、その交換したいパーツに狭い筐体の中で辿りつくのが極めて難しいということがよくあるということです。私のVAIOの場合もご他聞に洩れずHDDはキーボードの下に仕舞い込まれており、メモリー・モジュールも1枚は簡単に交換できる位置にあるのですが、もう1枚は奥に仕舞い込まれています。最近のパソコンは通常、2枚の同じメモリー・モジュールを挿入した場合に、デュアル・チャンネルとして認識しますが、異なる仕様のものを2枚差した場合、極端な場合は1枚無駄ということに成りかねず、今回は2枚同時に換えないと意味がありません。 (キーボードを外して筐体をバラバラにしたVAIOはマザー・ボードが剥き出し。左半分にDVDドライブがあり、右上のFANの下にMPUが居ます。一度覚えてしまえば何てことないのですが、初めての人はちょっとここまでするのは怖いかも知れません。右側の四角い箱が外した2.5インチHDD、その上が512MBのメモリー・モジュールです。) <ネットはいつでも情報の宝庫です> まずは交換の可否を確認するため互換性のあるHDDやメモリー・モジュールがあるかないかをパーツメーカーのWebページで検索します。今回はBuffalo製品のWebページ(http://buffalo.jp/products/catalog/storage/hd_in.html)を最初に見に行ったのですが、残念ながら「本製品の装着は大変困難です」の説明がありました。パソコン雑誌などで「ノートPC、大容量HDDへ換装の奨め」なんて特集記事で見ると簡単に交換できる機種もあるようですが、どうやらVAIOはデザイン性が高いからか、まずはボディを解体してHDDなどに辿りつくのにひと手間かかりそうです。5連休、時間はたっぷりあると腰を据えて取りかかる(この手の作業、順調に行けばそんなに時間はかからないのですが、何かがひとつトラブルと予想以上に時間がかかることがあります)ことにしました。 まず前述のBuffaloのWebページの内容を再度確認するとHDD自体は特殊な形状のものではなく、2.5インチ・5,400RPMのSATA接続タイプのものなら交換可能だということが解りました。問題はノートPCの綺麗に組み立てられた筐体をばらせるかどうかということに尽きるようです。接合部分の爪を折ってしまったり、或いは内部の細かい特殊な配線を壊さしたりしないでHDDまで辿り着ければ、あとはパソコン・ショップでパーツを手に入れればOKです。ただこの手の分解マニュアルのようなものは最近必ずと言っていいほど誰かがWeb上に掲載してくれている便利な時代になりました。形式番号である「VGN-S92PS」と「HDD交換」などといったキーワードを絡めて検索すればだいたい先人の教えにつきあたります。今回もやはりたくさんの方が同じことを考えてすでに交換作業をされていました。 それら先人の教えによれば「裏側のねじを10本外して、バッテリーパックの奥にある爪をこじると……」なるほどキーボードが簡単に外れます。この要領で作業を進めて行くと、もうHDDとメモリー・モジュールは直ぐそこです。家族の「そこまで分解して直せるの?」という冷めた視線(確かにマザー・ボードが剥き出しのノートPCを見たら誰もがそう思うでしょう)を無視しつつ、エア・スプレーで基板上の埃を吹き飛ばして目的の“ブツ”をゲットです。それらはどう見ても汎用品、これならば簡単に手に入ります。 時間があるならば秋葉原のパソコン・パーツ街に出向くのがパソコン関連のパーツを手に入れる最も確実で安い方法です。ただ連休初日でこの作業を何とか終えてしまいたい私としては往復2時間の移動時間がどうしても惜しく、結局地元のパソコン・ショップで購入することにしました。容量320GBの2.5インチHDD、つまり現状の4倍の容量にできて7,380円也。あとでアキバ価格を調べたら320GBなら4560円、同じ金額を出したら500GBを買ってもお釣りがきたというのは後の祭り、それでも何より4倍の容量になるという事実が大事です。メモリー・モジュールも1GBを2枚買って帰宅しました。 <生まれ変わったVAIO S-type> 新しいHDDを元のようにマウントし、メモリー・モジュールもきちんと差し込み、筐体をばらした時の要領の反対作業を着実にこなすと、外したネジに余りはありませんでした(笑)。あとはDVDドライブにリカバリー・ディスクをいれて電源を入れ、HDDとメモリーをマザー・ボードが認識し、OSの再インストールが始まれば作業は完了です。デスクトップPCを自作する時も同じですが、最初に電源を入れた時、BIOSが各パーツを正確に認識するかどうかを試すこの瞬間が最も緊張しますが、今回も問題なく作業は終了したようです。あとは全ての更新ファイルをダウンロードしてインストールすれば終了、2005年製のVAIOが蘇りました。大容量のHDDにしたこと、そしてメモリー搭載量を倍増したことで、体感的にも早くなりましたし、そして音も静かになりました。 当然と言えば当然ですが、パソコンで壊れやすいのはやはり駆動部分や可動部分です。つまりケースの中でガラス磁気ディスクが毎分5000回転以上もグルグル回り、そのディスクの上をレコード針のようなものが左右に振れるHDD、或いはDVDなどの光メディア・ドライブ、もしくは冷却用のファンモーターなどがその代表格で、MPUが焼けたとかはほとんど聞いたことがありません。時々、MPU周りのコンデンサーが駄目になるとかありますが、滅多にあることではないと思います。だからあえて「日本製の信頼のおけるコンデンサーを使っています」ということを謳い文句にしているマザー・ボードもあります。大事なデータを保持するHDDが新品に代わったことで、2005年製のVAIOもだいぶ寿命が伸ばせたように思います。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第74号 2010年5月14日発行より) ==========================================================
2010.05.14
<毎度のことながら市場予想を上回る> 先週4月13日、米国ハイテク企業の決算発表の先陣を切る形でインテル(INTC)がCY2010の第1四半期の決算と続く第2四半期のガイダンスを発表しました。今月より火曜日のレギュラー・コメンテーターを担当させていただくことになったテレビ東京「イーモーニング」(午前9:00~9:27)の東証寄前コメント(13日放送分)の中でも“本日の注目材料”として取り上げさせていただきましたが、予想に違わず抜群の決算を発表してくれました。 発表になったのは現地時間13日のNY市場の引け後、すなわち日本では14日の早朝にあたるので、13日の日本市場の注目材料として取り上げるのはおかしいと思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、それはちゃんと深い考えがあってのことです。 数多ある米国企業の中で、パソコンの心臓部であるMPUをほぼ独占的に全世界に供給するインテルのビジネス環境は、日本のハイテク関連企業にも幅広く影響を持つことは市場関係者にとっても周知の事実のため、その決算発表だけは株式市場が極めて注目していると言えるからです(機関投資家などが様子見を決め込むための言い訳とも言えますが……)。 事実、翌14日の日本株式市場では寄付きから関連と思われるハイテク株が値を飛ばして始まりました。当然、インテルの決算発表の内容及び第2四半期のガイダンスが市場予想を上回るものであったからです。そしてこれ、実は私の記憶の限りにおいては、2008年夏の決算発表から毎四半期、いつも同社は株式市場の予想を上回る内容を発表していると思います。つまりもう最低でも8回、ということです。 <世界最大の半導体メーカー!?> インテルのことを説明する時、多くの場合その枕詞は「世界最大の半導体メーカー」と書かれることが多いと思いますが、私はこの言い方はあまり好きではありません。もちろん世界最大の半導体メーカーであることは事実ですが、半導体と言っても多種多様なものがあるので、その特徴がいま一つ浮かび上がってこないからです。少なくともロジック系とメモリー系では全然話が違うのでそれを区別したいと思うのですが、MPUメーカーといってしまうと「MPUって何?」ということになってしまうので、一般にはこの言い方は向かないのが難しいところです。 MPUとは「Micro Processor Unit」の略ですというような説明は以前にも詳説したことがありますので今回は省略しますが、要はパソコン1台には必ず1個は搭載されているパソコンの主たる演算を司る半導体であり、その市場におけるインテルのシェアは80%を優に超えているという事実から、同社のビジネス・トレンドはイコール“パソコン業界の動向”と言えます。だからこそインテルの決算は市場の注目を集め、それは今後のハイテク産業への投資方針を決めて行く上で極めて重要な指針を与えてくれることになります。今回の決算の内容とその後のカンファレンスの内容をまとめると以下の通りです。 ・第1四半期(1-3月) -売上高103億ドル(前四半期比3%減) -ガイダンス:97億ドル±4億ドル -コンセンサス:98.1億ドル・第2四半期(4-6月) -売上高ガイダンス102億ドル±4億ドル -コンセンサス:96.8億ドル・1Q粗利益率ガイダンス対してやや上振れ -要因は、新製品寄与によるASP改善 -数量増、コスト削減等・流通在庫健全なレベル。OEM/チャネル在庫横ばい・自社在庫はさらに積み増しが必要とコメント・32ナノ製品立ち上げ順調、供給が需要に追い付かない・ハイエンドPC向けが好調。コーポレート向けも好調・PC需要、1カ月前、四半期前より強くなってきている <市場コンセンサスよりも上というのがひとつのポイント> よく新聞紙上などで「最高益更新!」といかにも株価が喜んで上がりそうな見出しが出ても株価が上がらない時があります。逆に、例えば「3割減益」という叩き売られるかも知れない見出しの時に株価が上がる時があります。その主な理由は「市場がすでに織り込んでいたから」というのが通説です。要するに毎日毎日株が売買される中で、おおよそ誰もが取得しうる情報とだいたい共通の認識ならばそれは株価にすでに反映していて、その記事を見た時に「ああ、やっぱりな」と思えば株価は動かないし、逆に「これは凄いな」ということになれば、上か下かのどちらかに動くということです。 一見すると好材料でも、そもそも市場がすでに「良いだろう」と思っている時は、それ以上の結果を出さない限り、市場はもう喜びません。逆に「今期は厳しいだろうな」と皆が思っている時ならば、「あ、その程度の減益で済んだのか」などと売り込み過ぎを買い戻す時もあります。 そこで問題になるのがコンセンサスということになるのですが、上記の表をご覧いただけるように、第1四半期の実績も、第2四半期のガイダンスも市場コンセンサス(市場参加者の共通認識)を上回った素晴らしい決算が発表されました。同社の株価を追っているだけならば、ここまでの内容だけでもある意味充分と言えます。中には「これで材料出尽くし」と思った人もいるかも知れませんが、通常はその逆であり、更に同社の場合はこれが8四半期は続いているということを忘れてはなりません。 <ポイントは他にもたくさんある> 凄くシンプルなことを言えば、インテルの決算を通じて他社の動向や業界動向を探るヒントは数字よりもコメント類に多く現れます。英語で書かれているので読み辛いというのもあると思いますが、読み慣れてしまうとたいしたことではないので、個人投資家の方でも同社Webサイト(本国)に行ってご自身で読まれることをお勧めします。とはいえ、ちょっと概説してみましょう。 先程の表に戻っていただいてコメントを読んでみて下さい。在庫のことが書かれています。在庫にはいくつかの種類があって、流通在庫と自社在庫が大まかな分類ですが、どちらも足りないということをコメントしています。つまり作った端から売れて行くということです。これが流通在庫はないけれども自社在庫が膨らんでいるとか、自社在庫はないけれども流通在庫に溜まっているということだと需要が落ち込んでいることになるのですが、共に適正以上に少ないということになれば、極めて需要が強いことになります。 従来はAtomと呼ばれるネットブックPC向けの新製品が数量を伸ばしていましたが、今回はハイエンド向けや企業向けも好調だと言い出しています。これはマイクロソフトの状況とも併せて考える必要がありますが、昨秋登場したWindows7が遂にWindows XPからVistaに切り替えることを逡巡していた法人需要をも動かし始めたことを示していると思われます。 そして32ナノ製品の立ち上がりが好調で供給が需要に追い付かないというのは、最新のMPU(詳細はロードマップを見れば解りますが、話が複雑になるので省略します)が順調に市場に浸透して行っていることを表しています。そして需要が日を追うごとに強くなっている感じを伝えています。これだけでも相当に投資対象への絵は描けるというものです。 <投資対象企業を考える> パソコンがMPUだけでできているものでないのは誰もがお分かりだと思いますが、インテルが作っているのは、そのMPU製品の中心で働いているシリコン(半導体)の部分だけです(マザーボードも多少作ってはいますが……)。通常誰もが目にする、例えばCore i7やCore2Duoと呼ばれる製品はそのシリコンをすでにパッケージに包んでしまっていますので、その中心のシリコン部分を見ることはできません。それを作っているのは日本の技術です。 パソコン1台を頭に浮かべていただき、どんな部品がついているかを考えてみて下さい。パソコンを買う時にこだわる性能の部分と言い換えても良いかも知れません。例えば、メモリーは4G欲しいなとか、HDDの容量は最低でも500Gは欲しいなとか、或いはDVDに書き込めるだけではなくてBD(Blu-ray Disc)が欲しいなとか思われませんか? パソコンを頻繁に自作する私のようなマニア系でもない限り、普通はモニターも一緒に買い換えると思われますが、大画面にしようとか、横型にしようとか、いろいろとこだわりを持って商品選択をされると思います。インテルのMPUが売れているということは、当然にしてそれらも付随して売れているということです。 最近は韓国や台湾の企業も多くなりましたが、今でも値段で勝負という分野にならないものの多くは日本の技術が支えています。HDDのモーターやその磁気ヘッドは典型的なそうした商品です。また商品として消費者の目には止まり難いですが、デジタル・ノイズを除去するために必須の積層セラミック・コンデンサーなどもその好例です。投資対象を探すことは楽しい作業です。 <でも、一番のポイントは?> 今回のインテルの決算から見えてくることをまとめてみましたが、一番のポイントは何かと言えば、それは市場の予想が8回も外れているということです。それも毎回市場の予想の方がアンダー・エスティメートだということです。金融市場はリーマンショック以降、いろいろなことに懐疑的になっています。そしてある面では強気なことを言うのに自信をなくしています。そうこうしている間に、ネットブックPCに代表される安いパソコンが大量に消費者に受け入れられ、スマートフォンが普及し始め、そしてiPadのようなものが爆発的に市場に受け入れられ始めています。 これはコンピューティング環境、とりわけモバイル・コンピューティングの環境が自体が変わってきていることのひとつのサインだと思います。この流れを読むか読まないかで、インテルの決算を市場は毎回毎回過小評価して来たのではないでしょうか? 実は同じようなことが、ITバブル前夜にあったと記憶しています。私はいろんなことがとても面白くなってきたと感じています。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第73号 2010年4月23日発行より) ==========================================================
2010.04.23
<世の中デジタル化の流れですが……> 私のファンドマネジャーとしてのスタートがクウォンツ運用と言って、コンピューター(当時はパソコンではなく、ワークステーションでした)を使って、各種統計データや株価や為替、或いは金利などのデータを捏ねくり回して発掘するスタイルで始まったことは前にもお話ししました。某大手金融グループの資産運用会社の年金運用部門の先駆けを作った一人だと言ってもあまり信じてくれる人はいませんが、アクティブ型ファンドマネジャーの典型みたいな印象が強い私も、実はそういうデジタルなスタイルから運用を開始しました。 そして時代は正にデジタル化の流れの真っただ中にあり、“デジタル化”などという言い方さえもが陳腐化してきた今日この頃ですが、私は敢えて資産運用を志す方に「アナログの勧め」をお伝えしたいと思います。でもだいたい「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる世代が大学生になろうかという昨今、アナログと言ってピンとくる人も減りつつあるのかと思いますが……。 <そもそも人間はアナログなもの> コンピューターが発達して、何もかもがコンピューターの世界に取り込まれていく現代においても、人間の頭脳ほどに優秀なコンピューターはありません。そして同時に人間はいかにしても最後はアナログです。確かに人間の頭脳の処理能力をある側面では上回るスーパー・コンピューターなどはありますが、完全な人工知能、すなわち自分で考え、進化することができるという意味において、人間の頭脳に勝るコンピューターはありません。 結局突き詰めればコンピューターの処理の原点は電気が流れているか居ないか、すなわちプラスかマイナスか、つまり0と1だけの世界に収斂します。これが二進法ですが、コンピューターの処理の原点がここですから、技術進歩はいかに大量の0と1を瞬時に計算できるか、逆にいえば、いかに人間の脳みその思考過程を細分化してフローチャート化して0と1の世界に分けるプログラムを作れるか、そしてそれを処理できるかに掛かっているとも言えます。 何の話がしたいかと言えば、0と1の間には無限の数値があるということです。0と1だけではなく、0.5や0.33、或いは0.7925といったものだってリアルな世界にはあります。にも関わらず、コンピューターの世界は突き詰めれば0と1でしかなく、その刻みを無限に小さくできることはできても、絶対にその中間値はないということです。でも人間にはそれがあります。テレビが滑らかに動画を伝えるのは1秒間に30枚の静止画を連続して表示しているからですが、人間の目は静止画ではありません。まあ、人間の目は見たものを記録することはできませんが……。 <検索ではなく、スクラップ> 最近は私自身もそうですが、何もかもがインターネットになってしまい(ネット企業グループなので当たり前?)、何か調べものをする時にはまずはネットで検索するようになってしまいました。辞書を引いたり、百科事典(←死語に近い)を開いたり、或いは図書館にこもって文献を漁るなんてことは本当に少なくなりました。デジタル・ネイティブ世代の高校1年生の息子などは電子辞書が鞄に入っているだけで、使い込んで手に馴染んだ英和辞典の有難味を理解させるなどは至難の業です。確かに便利です。必要な情報が瞬時にネット上のどこかから収集できるのですから。 でも、私はそんな現代になっても毎日欠かさずしている作業があります。それが新聞の切り抜きスクラップです。「えーーーっ?」と思われるかも知れませんが、新聞の記事をカッターで切り抜き、それを薄茶色のスクラップブックにスペースを合せながら貼って行きます。おおよそ月に2冊の割合で消費しますが、そんな地道な作業を続けています。 正直ベース、そのスクラップブックを見直すことは週に一度、週末にメルマガの原稿書きをする時に再度開く程度ですが、飽きずに、懲りずに続けています。ほぼ再度開くことのないバックナンバーを保存しておくのを家族はかなり嫌がっていますが、結構な量が本棚に溜まっています。 <検索するならネットの方が便利なのは事実> 恥を忍んで申し上げれば、私は記憶力に自信がありません。受験生の頃、数学や物理が好きだったのは、公式さえ覚えていれば試験本番のその場で対応ができるからで、世界史や生物は暗記していないと手も足も出ないから嫌いでした。そんな私がファンドマネジャーになって最初に苦労したのが“覚えていない”ということです。そもそも放っておくと怠惰な性格ですから、前述のように地道に記憶するなんて作業は向いていません。でも過去の事実と照らし合わせて先を見通すのが“相場観”の原点ですから、記憶するのが苦手だなんて言っていられません。どうやって記憶の襞にそれを残すのか? スクラップした切り抜きを見直すということはほとんどないですし、単純に検索するならネットの方が正確で情報量も多いです。しかし、スクラップするという作業の中で、その記事の内容が自然と頭に残ることにある時気がつきました。またスクラップするためには、毎朝電車の中で新聞を読む時にスクラップする記事としない記事を判断しておかないとならないことに気がつきました。つまり、記事の重要性を判断する癖が身に付いたということです。 今よりもリサーチ自体に時間が掛けることができた時は新聞を読む時に赤と青の色鉛筆を持ち、記事に線を引きながら読んでいた時もあります。片側が赤鉛筆で反対側が青の色鉛筆が便利ですが、くるくる鉛筆を回しながら読みます。ラインマーカーだと新聞のインクで黒くなるので、この作業は色鉛筆に限ります。そうするとより頭に自然と入ってくるような気がしました。流石に最近は時間がないので、スクラップするだけになってしまいましたが、最初のうちはこんな作業もスクラップを上手にするための秘訣かもしれません。 <エクセルに手で株価を入れる> クウォンツ運用を私が始めた頃でも、株価や金利の過去データは簡単にダウンロードすることができました。もちろん有料で日経平均株価の引値が日次データとして一日分が10円とかいう単位だったと思いますが、あまり頓着することなく「過去5年分の日経平均株価とTOPIXと……」なんて感じでドバーっとダウンロードしていました。 そういう意味からすると、過去の時系列データなどを手に入れることは現在とても容易になりました。おまけにあまり追加的な費用は掛かりません。にも関わらず、私の日課の中には新聞の証券面や情報端末から20種のデータを取り込んでエクセルに打ち込む作業が入っています。昔の先輩たちはB4判のフルスカップに手書きしていましたが、私はエクセルに同様なシートを作って手入力を毎日しています。 解析用のデータベースとするためにはあまり役に立ちません。例えば日米で休日が違う時、データの空欄ができてしまうため、チャート一つ作るのでも穴が開いてしまうことがあるからです。ではこの作業の目的はと言えば、やはり人間がアナログな生き物だということが原点にあります。数字を目で追い、手を動かして入力することで、自然と記憶に残り、そして見落としやすいデータを忘れずにチェックする習慣づけにもなるということです。 昔の先輩の中にはチャートも方眼紙を付け足し付け足ししながら手書きしていた人もいましたが、私はそこまではしていません。 <アナログの勧め> 想像してみて下さい。この何もかもが便利になった現代に、新聞の切り抜きを地道にしながら糊づけしている姿を。或いは毎日決まったように特定の数字をエクセルに打ち込む姿を。でもどんなに環境がデジタル化しても、人間がアナログであることには変わりありません。ネットで検索すればだいたい何でも手に入りますが、それを次に処理するのは人間だということです。万能に聞こえるプログラミング取引のようなものでも、それを最初にプログラミングしたのは人間です。だからこそ、どこかアナログな作業をしないと勝てないのかも知れないと思ったりもします。是非、アナログな作業を積極的に取り入れて下さい。 今晩はアコースティックな音楽を聞きながら一杯飲んで寝ようと思います。ただ残念ながら我が家にはCDしかすでになく、結局はデジタル処理されたものになってしまうのですが……。==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第72号 2010年4月9日発行より) ==========================================================
2010.04.09
先日このメルマガを読んでくれている知人から早くも「プロの運用って本当にあんなに簡単な視点なのか?」と文句を言われましたが、私の答えは「はい、そうです」としか言いようがありませんでした。自分の実体験にもとづくものだからということもありますが、私はこういう銘柄発掘の方法こそ「自分が何に投資をしたのか理解する最も簡単な方法」だと信じています。 株券電子化で実際の券面を手にすることがなくなった今、株式投資は正に形のないものへの投資となりましたが、形さえないものの価値や良し悪しをどうやって判断するのでしょうか? "株を買う"とは「企業を株主となって所有すること」という意味ですが、「あなたが買った会社ってどんな会社ですか?」という質問に答えられずに大金を投じるのはギャンブルにもなりません。ギャンブルだって、最低限何らかの読みはあります。だからこそ、自分の解るものから投資を始めるべきだと考えます。 <落とし穴はあります> ただ落とし穴はあります。その為にはこれだと思って投資をする前に確認しないとならないことがあります。まずひとつ目のポイントは「それってどの位儲かるのか?」ということを考えるということです。決して難しいことではなく「その会社全体の売上に、どの程度それは貢献するのか?」ということを考えて欲しいということです。 例えば単純な話、どんなに凄いと思っても「この"電動歯ブラシ"は爆発的に売れそうだ」という見通しだけでパナソニック(6752)全社を評価するのは無謀だといえばお解りいただけるでしょうか? 大きな企業になればなるほど、日本企業の場合は色んな分野に手を出しています。その企業のサイズにあった着眼点でないと、全く役に立たない場合があります。前回の例でいえば、任天堂(7974)にとってWiiは携帯型ゲーム機DSシリーズなどと肩を並べる同社の主要プラットフォームとなるべく登場したので注目に値したのです。 <総合電機の投資判断は難しい> そういう意味で私自身、昔から総合電機と呼ばれる銘柄への投資は苦手です。原稿執筆時点の今日(3月23日)の日経新聞朝刊には、マイクロソフト(MSFT)の創業者で会長でもあるビル・ゲイツ氏と東芝(6502)とが共同して次世代原子炉の開発に乗り出すとの報道がありました。東芝がGE(GE)などと並んで世界的な原子力発電関連の主力企業であることは事実であり、確かに今回のような話はポジティブ(肯定的)であることは事実ですが、一方で同社の主力ビジネスの一つはサンディスク(SNDK)などと組んでいるフラッシュメモリーなど半導体ビジネスです。 現時点においては半導体ビジネスも追い風が吹いており、片翼の原子力ビジネスが広がりそうだという話はプラスアルファの材料であるとも言えますが、ついこの間までの状況ならば、足を引っ張るビジネスともなりかねませんでした。当然、同社はパソコンも作っていれば、白物家電も作っています。従って総合電機のように多種多様なビジネスを展開している企業に対しては、その着目点がどの程度のインパクトを持っているかを判断しないとなりません。 <アイデアの普遍性を考える> もうひとつの落とし穴は、人の考え、世の中の流れとずれている場合があるというものです。自分のアイデアが世間一般の水準から考えて、どの程度普遍性のあるものかということは当然大事な確認ポイントです。例えば、アキバ系オタクの人が好むようなハイテク・ガジェットは必ずしも誰しもが好むものではありません。逆に、アキバ系でも取り上げられているけれども、同時にイトーヨーカ堂やジャスコの店頭も賑わせている物などはかなり普遍的なものであると言えます。つまりひとりよがりな趣味性や恣意性の強いアイデアでは駄目だということ念頭に置いて、自分の感じた流れを検証してみる謙虚さが必要です。そうすればこの落とし穴には落ちないで済みます。 <自分で見つけた流れならば納得して動ける> さて、何よりこの自分で電気屋さんなどに行って調べて銘柄を見つけて投資をするという方法のメリットは、その後の動向を自分自身でフォローできるということにあります。多くの場合、株価が一本調子で上がることはありません。当然そうした場合には誰だって不安になります。このまま持っていていいのか、或いはもう売ってしまった方が良いのかということです。 人に勧められたままに起こした投資行動の場合、そう悩んだ時の対処方法はそのネタ元を問い質す以外にありません。しかし、自分で見つけた話ならば、もう一度同じプロセスを繰り返すことで、その後の状況もフォローすることができます。 例えばもう一度電気屋さんを回ってみます。「これは面白い」と思った時と比べて、現在の取り扱い状況はどうなっているでしょうか? 更に大きく取り扱われているでしょうか? もちろん、お店の人にそれとなく聞いてみるのも良いかも知れません。もしその当時と同等もしくはそれ以上に取り扱われているのならば、安心して持っていて良いだろうと思います。 逆に全然見る影もない時だって有り得ます。その時は売ってしまった方が良いかも知れません。つまり自分の判断が正しかったか間違っていたかを再び同じように自分で確認に行くということです。これが簡単にできるのがこの方法の最大のメリットであり、もちろん結果に納得感があります。そしてそうすることできっと打率は上がってくるはずです。最初から100発100中となるわけはありません。段々と慣れてくることで、自分なりの投資アイデアの見つけ方ができてくると思います。 是非落とし穴に気をつけて、自分で銘柄発掘を楽しんで貰えたらと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第71号 2010年3月26日発行より) ==========================================================
2010.03.26
<“通好みな銘柄”より、“儲かる銘柄”が欲しいはず> 前回「誰でもできる差分を埋める方法」として電気屋さんに行く話を少ししました。今回はその具体的な話をするのですが、ちょっとその前に寄り道をします。 仕事柄もあり、昔から人に「何か面白い銘柄はないのか?」と聞かれるとは以前にも書いたような気がします。この場合の面白い銘柄とは決して“笑える銘柄”ではなく、当然“儲かる銘柄”という意味なわけですが、実は答え方が大変難しい質問です。私がファンドマネジャーであったり、投信投資顧問会社の社長をしていたりするからという意味でコンプライアンス的に“難しい”という意味合いもあるのですが、それよりもこの場合の難しさは“通好み”という匂いがしないと多くの方が簡単に納得してくれないということです。或いは「こいつ専門家だとか言いながら素人みたいなことを言うな」という顔をされるという意味で難しいのです。 でも本当に知りたいのは“儲かる銘柄”であって“通好みなイメージがする銘柄”ではないだろうとよく思います。長年この仕事に携わりながら実感しているのは、多くの人がその点を変に歪曲して考えるから銘柄選びが難しくなって、株式投資の敷居が上がっているのではないでしょうか。或いは日本人が(言葉の壁を乗り越えたりしないで済む)一番解り易い日本株を買わなくなっているのではないかと思っています。私に言わせれば、株式投資の銘柄選びとは案外簡単なもの、特に流行に敏感な女性(女の勘)にとっては本来とても身近で得意な分野のものだと思っています。 <ベートーベンよりフォーレ> もう少しこの意味を説明します。例えば、音楽の趣味はなんですかと聞かれて「J-POPが好きです」というより「クラシック音楽が好きです」という方が何となく知的な深いイメージがあると思いませんか。ただそのクラシック音楽が好きだと言っときながら一番好きな曲がベートーベンの“運命”だとかドボルザークの“新世界より”だとしたら、急にその人のクラシック音楽好きという高尚さが色褪せて見えるような気がしませんか? 一方「フォーレのレクイエムかなぁ、あのSANCTUS(聖なるかな)の始まりの部分が本当に綺麗だから」などと言ったら「なるほど」といった感じになる、そういう意味です。誰もが知っているど真ん中の王道より、ちょっとマニアックな匂いを求めるというのでしょうか。 実は私は元々合唱部に在籍していたことがあるので、このレクイエムの歌詞も諳んじているほど親しみがあるのですが、私の感覚の中にあっては“ベートーベンの運命”がトヨタやソニーと言った誰もが知っている大型株で、“フォーレのレクイエム”はちょっとマイナーな中小型株といった感じです。前述の例に戻すと「何か面白い銘柄はないのか?」という問いかけに、例えばトヨタとかソニーと答えたら納得してもらえず、逆にあまり知名度の高くない中小型株の名前を出すと「なるほど、なるほど」とメモを取り出したりするといった感じです。でもそれって株式投資をする上では本当は遠回りな気がします。 <電気屋さんでの実話> では電気屋さんなどで具体的には何をすれば良いのでしょうか? 実はこれも大変簡単な話です。個別銘柄に関する話なので、あまり直近の生々しい話はコンプライアンス的に微妙になるのでちょっと前の話を引き合いに出しますが、でも実話です。 2006年12月2日に新発売になった有名な電気製品があります。そう任天堂のゲーム機Wiiです。結論から言えば、そのあまりに飛ぶような売れ方の勢いに「これだ!」と思って任天堂(7974)を28,000円台で投資開始、その後株価はほとんど押し目なく上昇し、1年後の2007年11月1日には高値73,200円まで上昇したという話です。 今振り返ってみるとおかしく感じられますが、実は当時、任天堂のWiiに関してアナリストの評価はまちまちでした。良いと絶賛する人もいれば、たいしたことはないとか、ハード的には利益が出ないとか賛否両論でした。ただ私はいつものように百聞は一見に如かず、近所の電気屋さん(家電量販店と言われる大きなお店です)を何軒か回ってみました。しかし、あっちこっち回ってみてもどこも売り切れです。 ディスプレイ用に空き箱はたくさん並べてあっても、中身(在庫)が入っていません。良く見ると(入荷未定)の文字が並んでいます。終いには入荷予定も立たないので予約も受け付けなくなりました。結局私自身はイトーヨーカ堂で土曜日朝一番に列に並ぶと手に入る場合があるとのことで、株を買ってからWii本体を手に入れることになりました。そして、これだけどこに行っても買えない商品を作っている会社の株価が上がらないわけがないと確信、実際の投資行動(買い)に移りました。 <特別な知識は必要ない> お気付きの通り、ここまで専門家然とした投資判断プロセスは何一つ踏んでいません。あくまでただ一人の消費者としての目線で評判の商品を求めて電気屋さんを回り、品切れであること確認し続けただけです。これならば誰にだってできそうな方法ではないですか? そして応用範囲が広い。要するに売れ筋になりそうな商品を見つけることができれば良いのです。それは必然的に身近なものでしょうし、普段いろんな方法で情報収集をして流行に敏感な方なら誰でもできると思います。実は同じ方法で外国株も投資判断することができます。代表例はiPodやiPhoneで飛ぶ鳥を落とす勢いのアップル(AAPL)や、誰もがそのサービスを使っているグーグル(GOOG)などです。 <この話のインプリケーション> 話は任天堂に戻って、多分今この話を聞かされてもWiiが任天堂の馬鹿売れ商品になったことは誰もが知っているし、株価がその後すごく上昇したことも株式市場に関わる人ならば常識なので、誰も驚きも感動もしないだろうと思いますが、実は少なくとも2006年12月頃からしばらくの間は相当に懐疑的な人が多かったのです。何よりそれが証拠に、わずか1年足らずで株価は2.5倍になりました。 つまり半信半疑であった人が段々と宗旨替え(良いのかも知れないと考え始めた)をしながら上値を買い求めて行ったということであり、だからこそ株価はあっという間に73,200円の高値まで値上がりをしたわけです。株は植物ではないので、水や肥料をあげれば勝手に育つ(値上がりする)というわけではなく、誰かが何らかの判断基準で「まだ上がる」と考えてその値段を買うからこそ、段々と値上がりするわけです。ここがポイントです。 つまり100人中100人までが値上がりすると思ったら、もう誰もその上の値段を買いませんから株価は上がらなくなります。逆に今回のように、半信半疑、ましてや専門のアナリストの意見が二分されているような時こそ実は絶好のチャンスなのです。そしてあとは自分自身で先見の明を持つということになるのですが、電気屋さんのような小売の最前線こそ、どっちに付くべきかを悩んだ時の絶好の判断材料を与えてくれる場所だと言えます。 <目の前で厳然と売れているという事実が大事> 作っても、作っても販売に製造が追いつかないからこそ店頭で商品が品切れします。売れる商品だとプロのマーチャンダイザーが確信するからこそディスプレイも棚割も目立つように大きくもなります。その結果が日報、週報、月報、四半期決算と段々と反映されて証券分析のデータ根拠となるわけですが、その最前線(最初のデルタ変化)こそ電気屋さんです。これ以上に確かなデータがあるでしょうか? それを実感できる数少ない場所が電気屋さんなのですから、それを確かめに行けばいいのです。そして販売員にちょっと相談してみる。買う気がないのに質問攻めにだけしていたら嫌がられますが、多少の質問ならば喜んで答え、色々な付帯情報も教えてくれます。そしてできれば自分でも欲しくなるようなものだとより確実でしょう。私の場合、子供たちと話し合ってWiiについては「欲しい」という結論になりました。 <そのものズバリで良い> さてWiiが売れそうだということは解ったとします。でも不思議なことにこの時「では、何を買えば良いんですか?」と聞かれることがあります。最初は質問の意味が解りませんでしたが、任天堂の話をしても駄目だということです。つまりそこで任天堂を買うのはベートーベンの“運命”を聞くようなもので、フォーレのレクイエムを教えろということのだと解りました。でも私の答えはこの場合、あくまで任天堂です。 機関投資家という立場で大きなポートフォリオを運用していると、時として銘柄を分散しなくてはならず、この場合だと任天堂一社に買いを集中させることができない場合があります。そういう場合に、例えばWiiのコントローラーを作っている会社の株を買ってばらけるという選択をする時がありますが、少なくとも個人投資家の普通の投資規模ならばそこまでは大きくはないだろうと思います。そのものズバリを買えば良いと思います。ましてやその会社の株主になるのですから、本家本元を買って所有するというのが株式投資の王道に適うと思います。 <身近なものでしょ?> 株式投資の銘柄選び、少しは身近になりませんか? こういう視点で始めると、きっと身近な有望企業はたくさんあるはずです。自分の日常生活、趣味、仕事など関わりのある企業は山のようにあるはずだからです。何も好き好んで難しいアプローチをすることはありません。要は売り上げが伸びていて、利益が増えること、そのことを数多ある企業の中から嗅ぎわける方法さえ見つけられれば良いのです。 ただこの方法だけだと時々ちょっとした落とし穴がありますので、次回はその注意する点について触れたいと思います。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第70号 2010年3月12日発行より) ==========================================================
2010.03.12
<何を買ったら良いか解らない> ファンドマネージャーとしてデビューしたての頃から今日に至るまで、何が一番困るかと言えば銘柄選びです。そもそも何でデビュー当初の私がクウォンツ運用(後述)を志向したかと言えば、本当の理由は“銘柄選びができないから”でした。社会人3年目の銀行員、それも本部の資金証券業務経験ではなく、池袋の支店で窓口業務(だから今でも札勘は上手です)や店周(お店の周りの地域)担当の取引先係でドブ板外交の経験しかない私に「ほら、運用してごらん」と資金を渡されても何を買って良いのか解るわけがありません。会社四季報は電話帳程度にしかその意味は解らず、かといって誰かが良い方法を教えてくれるわけでもありません。 <定量分析という解決策> だからこそ独学でBARRAモデルの使い方を覚え、統計学の本を初めて(?)開き、そしてプログラムの仕方を勉強しました。求めたものは「何を買ったら良いかな?」とコンピューターのEnterキーを押したら勝手に演算して答えを返してくれる定量分析モデル、そんなモデルを作ろうとしていました。こうした運用方法をクウォンツ運用と言います。最初の3年間程度はそんなことばかりしていたと記憶しています。だから逆にいえば、個々の銘柄への思い込みはほとんどありませんでした。コンピューターが計算で答えを出した銘柄に過ぎないので、何をしている会社なのか、どんな製品を作っているのか、或いはどんな環境で仕事をしている会社なのかなんてことは全然興味の対象にはなりませんでした。 <国内外を問わず年間200社以上を訪問する手法> そんな私も’95年頃になると、いつの間にか「自分の解らない銘柄には投資をしない」という哲学を座右の銘とするスタイルに変わっていました。ファンドで投資する企業には必ずまず自分自身で企業訪問をしてみる、可能な限りその会社の製品やサービスに触れ、できれば経営者とも直接面談をさせてもらうというようなことが当然のこととなっていました。年間に訪問する企業数は優に200社を超え、「投資する先は訪問調査先に限定します」ということを謳ったファンドをローンチしたのは’96年です。その頃には調査先も日本国内に限らず、米国やドイツにも拡がっていました。 <損を納得したかったから…> 恐らくそれは格好良く言えば「アカウンタビリティ(説明責任)」をファンドマネージャーとして全うしたいからということになるのだと思いますが、’90年以降の強烈な株価暴落の過程で、コンピューターが計算して弾き出した銘柄に投資していたことで膨らむ損失には我慢がならず、自分なりに納得のいく方法を探して辿りついたやり方だったというのが本当のところだったと思います。自分が買った銘柄だけでなく、何もかもが値下がりしていたのですが、それでも「何でこんなに下がるのだろう」という納得感がそうした銘柄群からは得られなかったということです。 <百聞は一見に如かず> 自分自身で企業調査を、現地現場主義を押し通してすることの良さを痛切に感じた代表例のひとつは初めて‘95年にシリコンバレーに行った時です。“シリコンバレー”という単語自体は当然それ以前から耳にしており、半導体(シリコン)関連の企業がたくさんあるところで、大きな安定した岩盤がそこにあるからだという説明は知っていましたが、人間の想像力は自分が実際に観たもの以上に極端に膨らますことはできないものだということを思い知らされました。 結局は自分の経験したことを基準に考えるより方法がないから仕方ないのですが、初めて黒船を見た時の坂本龍馬も然りと思うほどに、私の北米企業調査ツアーの第一回目の記憶は今でも鮮烈に頭に残っています。正直「この地で生まれる発想に日本が勝つことは極めて難しい」と感じました。それは東京大学のキャンパスと、スタンフォード大学のキャンパスを単純に比較しただけでも明らかです。逆にいえば「この地では日本人のような勤勉実直さは生まれ難い」というものでもありました。 <誰でもできる差分を埋める方法> 楽天投信投資顧問の最高運用責任者という立場でありながらも、一方で代表取締役社長でもある現在は以前のように年間200社もの企業を国内外問わずに訪問して回るなんてことは現実的に不可能です。またそうしたスタイルを始めた時に比べれば蓄積されたものもありますから、いわゆる「差分を埋める」という方法で不足分をカバーすればある程度は事足りるということも事実です。 そんな自分が今でも欠かさず行っていることがあります。きっとこれなら誰でも、お金も掛からずできることですのでご紹介します。それは電気屋さん巡りです。ヤ○ダ電機とか、ケ△ズデンキとか、大きな電気屋さんがきっと皆さんのご自宅の近くにもちょっと出かければあるのではないでしょうか? そうしたところへ少し時間を作って偵察に行く、ただそれだけのことです。できれば犬の散歩のマーキングではないですが2、3カ店は行きつけの店を持っていると良いと思います。そこを無理のない範囲で定期的に巡るのです。 <電気屋さんで何を見るのか> 最初は「買いたい物があるわけでもないのに何を見れば良いか解らない」ときっと思われるでしょうが、数回足を運んでみるときっと解るはずです。まず当然陳列されている商品が変わります。家電品のライフサイクルは車などと違って数カ月単位で動いていますから、ちょっと間を空けて行ってみると内容がガラッと変わっているなんてことはよくあります。できれば店員さんに見込み客の振りをしていろいろと売れ筋とか、お勧めとかを聞いてみると良いでしょう。きっと下手な証券レポートを読むより、生で旬の話が聞けるはずです。 陳列の仕方が、すなわちフェース割が変わっていることがよくあります。薄型テレビとかのコーナーはちょっと離れた所から観るのがポイントです。当然売れているメーカーの場所が広く取ってあり、前回観た時よりも場所が拡がっているメーカーがあれば、それは当然売れ筋が変わったということでもあります。やや記憶力が試されるようにも思われますが、慣れてくると普通に記憶に残っているものです。 ただ注意すべきは他店にも必ず行ってそれが正しいことか確認するということです。何故なら、最近は家電量販店の販売力が高まっていることもあり、系列毎に大量仕入れで仕切りをしている場合があります。つまりひとつのチェーンでの売れ筋が必ずしも全体のシェアを説明していない場合があるということです。あっちでも、こっちでももし売れ筋ならば、間違いなくそれはその企業のPL(損益計算書)にプラスに働く筈、すなわち株価は上がる筈です。 何が最近の売れ筋なのかが解れば、成功する株式投資へ一歩近づいたことになります。次回はその具体例をご紹介したいと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第69号 2010年2月26日発行より) ==========================================================
2010.02.26
<トヨタ神話の危機は正しく伝わっているのか?> トヨタ自動車の品質神話が揺らいでいます。米国でリコール問題として最初に取り上げられたのはアクセル・ペダルでしたが、今度は安全性に最も関わると思われるブレーキ周りなので、ちょっと問題が深刻化かつ複雑化の様相を呈しています。メディアなどのトーンも、アクセル・ペダル問題の時は米国で起こっている"ちょっと大き目のリコール問題"という程度に受け止めているかに見えましたが、ブレーキ問題に発展して以降の受け止め方は、株式市場も含め、ちょっと変わってきたように思います。 ただこの問題、事実認識が一般にきちんと伝わっているのかというと、やや疑問を持ちます。多分、多くの方が「あの環境対応車として人気の一番高いプリウスのブレーキは"利き難くなる時"があるらしい」、つまり"止まらない時がある"らしいという認識を刷り込まれつつあると思います。この原稿がアップされる頃には状況に多少なりとも変化があるかと思いますが、どういう場合に、ブレーキのどこにどんな不具合が発生しているのか、それが正しく認識されるように伝えられているのかと言えば正直疑問です。 <回生ブレーキって解りますか?> 例えば"回生ブレーキ"と言われて、それが何なのかご存知でしょうか? 或いは"ABS(アンチ・ロック・ブレーキ)"と聞いて、それがどんな時に何の役割を担っているものなのか説明できますか? トヨタ自動車の品質保証担当役員の方のコメント「問題の不具合は、滑りやすい路面などで"ABS"が作動した場合、"回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わる際に時間差が生じる"(トヨタ自動車横山裕行常務役員)ことが原因のトラブル」という説明が引用されていることがありますが、それがどんな状況なのかをきちんと説明できる人はそう多くはいないと思います。 もう30年近くも前の記憶ですが、教習所での逸話で「エンジン・ブレーキをかけて下さい」と教官が生徒に指導したら、悩んだ挙句の生徒が取った行動は「助手席(教官席)に足を延ばしてきて、そこのブレーキペダルを踏みに来たんですよ」というものでした。また、今でも箱根の山道などで「長い下り坂、エンジン・ブレーキを使いましょう」と黄色い看板がありますが、きちんとシフト・ダウンしてそれを利用している人は少ないと自動車関連の雑誌に書いてあったことがあります。エンジン・ブレーキでさえそうなのに"回生ブレーキ"と言われてピンとくる人は少ないのではないでしょうか? <ABSってどんな機能だかご存知ですか?> 先日、首都圏でも雪が薄く積もった日、家内が「ブレーキを踏んだらギューンって変な振動が(ペダルに)したからブレーキが壊れたのかしら」と、それこそ正にABSが雪の上の滑りやすい路面に反応して作動した状況だということを理解せずに話していました。彼女の運転歴は私ほど長くはないにしても、"それなり"に充分なものです。でもこれが普通の人の車の技術に対する認識レベルではないでしょうか? <トヨタのトップにも責任はある> もちろん、トヨタ自動車側の本件に対する対応は、その初動段階から後日ビジネス・スクールのダメージコントロールについての格好のテーマになりそうな話です。もっと早くに豊田章男社長が自ら前面に出てきてメディアにも、市場にも説明していたら全然違った展開になっていただろうと思います。そしてそもそも、それ以前の問題として「世界No.1の自動車メーカー」となった段階から、追うものが追われるものへと変わったことで品質管理などの面でどこか緩みはなかったのかというような基本的な疑問点も沸いてきます。 或いは、兵站線が伸び切っていたのかも知れません。それはそれで大いにトヨタ自動車にも猛省してもらいたいと思うのですが、私は自他共に認めるTOYOTA・LOVER(トヨタファン)として、今現在で把握できている状況について、私なりに解説して、状況を正しく理解して頂きたいと思うのです。 <完全EV走行可能なプリウスと他社のHV車を混同してはいけない> まず以前にもプリウスのハイブリッド車としての技術は群を抜いているという説明を本稿でしましたが、そのポイントのひとつは「エンジンを止めた完全なEV(電気自動車)走行ができること」だと言いました。その時の繰り返しになりますが、車はエンジンを止めると通常は総ての油圧系統と負圧を利用したシステムが利かなくなります。その典型的な例がステアリングとブレーキです。 最近の軽自動車や小型乗用車にはEPS(電動パワーステアリング)と言って、モーターで駆動するパワーステアリングが増えてきていますので、エンジンがかかっていなくても電気さえ流れていればハンドルを軽く回すことができますが、多くはステアリングを補助する力はエンジン回転から得る油圧ポンプに依存しています。エンジンを切るとステアリングを重くて回せなくなる車はこの油圧ポンプ方式のパワーステアリングです。 ブレーキペダルを踏んだ時、自分が実際にペダルにかけた力以上にブレーキ・パッドに力が伝わっていることをご存知でしょうか? 実は教習所で必ず勉強しているはずですが、ブレーキのマスター・シリンダーと言われるところにブースター(倍力装置)と呼ばれる個所があり、エンジンの吸入行程の負圧を利用してより強い力が生まれるようにしています。 例えば、ブレーキペダルに軽く足を掛けた状態でエンジンをかけてみます。その時ブレーキペダルが奥にスーッと吸い込まれるような感じがしたら、正にそれがエンジンの負圧を利用したブースターの働きです。だからもし、下り坂でエンジンが止まったら大変なことになります。決して試しにエンジンを切ってみて下さいとは言いませんが、ハンドルは重くて切れなくなり、ブレーキはとんでもなく利かない筈です。 さて、プリウスはその問題をどう解決しているかと言えば、当然それらを総て電気エネルギーで解決しています。ステアリングの件に関しては、すでにEPS(電動パワーステアリング)が世の中でこなれた技術としてまかり通っていますからことさら問題とする必要はないでしょう。充分なバッテリー容量さえあれば問題ありません。しかし、ブレーキに関しては、総ての電気自動車が同じ問題を抱えていますが、そう簡単ではありません。 「■頑張れ!ニッポンのトヨタ自動車!!(その2)」に続く==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第68号 2010年2月12日発行より) ==========================================================
2010.02.12
<プリウスに備わる3つのブレーキ> プリウスには3つのブレーキがあります。(1)回生ブレーキ、(2)油圧ブレーキ、(3)エンジン・ブレーキです。鉄道マニアには(1)回生ブレーキはお馴染みだと思いますが、要するに駆動用モーターを外力で回転させることで発電機とし、その発電抵抗で制動力を発揮するというシステムです。モーターに電気を与えると軸芯が回転しますが、軸芯を高速回転させると発電機になるということを中学生ぐらいの理科で習いましたよね? 摩擦や抵抗による発熱などで無駄に消費されているものがたくさんありますが、電気で物体を動かし、その運動エネルギーを再度回生して電気に戻せば、理論上エネルギー不変の法則が成り立つという、正にエコロジーなシステムです。エンジン・ブレーキのモーター版とも言えなくもないですが、発電するということで電力回生という意味で回生ブレーキという呼び方をします。 (2)油圧ブレーキについては、プリウスの場合はエンジンが回っていないEV走行の時もあるので、やはりこれも電動のポンプを使って油圧システムに与圧しています。故に車両全体の電力供給がストップしない限り、エンジンがかかっているかどうかに関わらず、ブレーキが使えます。バッテリーに電気が残っている限り、油圧ブレーキの与圧はモーターで行われ続けるからです。 <ブレーキペダルは単なるスイッチになった> ここまでの説明ですでにお察しいただけた方もいらっしゃるかも知れませんが、プリウスのブレーキペダルは単なる電気系統のスイッチに過ぎません。これって実は凄いことなんです。人間の踏力をブースター(倍力装置)を介して増幅させて利用する従来からある油圧ブレーキ・システムとは全く構造が違うからです。これを「Brake by Wire」と言いますが、メルセデス・ベンツが先々代のEクラス(W211)に導入して、大量のリコール問題に発展し、その後の開発を諦めたという極めて高い技術力が求められるブレーキ・システムです。それを1台700万円も800万円もするベンツではなく、200万円前半で買えるプリウスに採用したというのがトヨタの凄さです。 プリウスのブレーキペダルは前述の通り、単なる電気スイッチなのですが、それは各種のセンサーでドライバーが踏み込んだ速度や力を測定して、その意図を汲み、前述の3種類のブレーキを作動させる役目を負っています。軽くそっとゆっくり踏めば回生ブレーキだけを作動させ、より強くグイッと踏めば油圧ブレーキをも作動させ、思いっ切り踏み込めば"急ブレーキ"と認識して最大油圧でブレーキ・ディスクをパッドが締め付けるような指示を与えます。 <ABSはいつ働くのか?> さて、ここまでの通常の制動プロセスではABSは登場しません。ABSとはAntilock Brake System(アンチロック・ブレーキ・システム)の頭文字で、つまりタイヤをロックさせないで最大制動能力を維持するようにコントロールするシステムのことです。タイヤがロックする状態とは、いわゆる急ブレーキの時にタイヤがロックして路面と強烈に擦れるために生じるあの軋み音が発生している状態です。 ABSの普及と共に街中では滅多に聞くことがなくなりましたが、車両速度とタイヤの回転速度を読み取り、タイヤがロックした瞬間にブレーキ・パッドを緩め、回転し始めた途端にまた締め上げるという操作を繰り返します。アイルトン・セナはこれを足で毎秒10回近くも行ったと言われていますが、ABSは1秒間に最大数十回も行うことができるそうです。それがABSです。 <プリウス・ブレーキ問題の本当の状況> つまりお解りの通り、ABSが作動する瞬間というのは路面状況にもよりますが、かなり緊急事態、逆にいえば通常の走行ではほとんど関係ないものということができます。そして本題になりますが「問題の不具合は、滑りやすい路面などで"ABS"が作動した場合、"回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わる際に時間差が生じる"(トヨタ自動車横山裕行常務役員)ことが原因のトラブル」が発生する状況とはいかなる場面かということを再考してみる必要があるでしょうということです。 通常ドライバーはブレーキの利きが甘いなと感じるとブレーキペダルを余計に踏み込むはずです。確認しましたが、そうすれば問題なく制動力は確保されるということです。逆にいえば、1秒間の空白を感じるということは「あれ~、ブレーキが利かないなぁ」と、そのままの状態でいた場合に生じる感覚だと関係者から聞いています。 確かに最近では高齢者のドライバーなども増えてきたことから、全力制動の急ブレーキになるまでブレーキペダルを踏み抜く力を出せない方も増えてきており、ブースター(倍力装置)のみならず、ブレーキ・アシストと言って、ドライバーの意思が急ブレーキを必要としていると車が判断したら、その踏力に関わらず全力制動状態になるシステムを搭載している車も増えてきています。 しかし、前述した通り、プリウスのブレーキが利かないと感じる状態というのは、現時点で私が調べた限りでは「かなり稀な状況」と言えるように感じ、一般に「プリウスのブレーキは利かない時があるらしい」というような認識とはちょっと齟齬があるような気がします。 <海外世論に同調すべきではない> それにも関わらず、米国では議会を交えて、相当この問題を大袈裟に伝えているかに聞いています。また韓国のメディアでも敵失を喜ぶ(韓国車の市場シェア拡大はかつての日本車のそれに似ています)かのごとく、日本の数倍もの露出で取り上げていると聞いています。そしてメルセデス・ベンツがボッシュと組んでも一旦諦めているような高度な技術のこのプリウスのブレーキが非難の対象となり、もしトヨタも諦めるようなことになったとしたら、それは技術大国として生き残らざるを得ない日本の未来にとって、とてもマイナスな話だと思われませんか? 本件が日米外交問題のスケープゴートだという考え方はメルマガの方でご紹介していますが、そうした意味においても、日本の政府にもっと適切な対応をしてもらいたいと思っています。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第68号 2010年2月12日発行より) ==========================================================
2010.02.12
<iPod touchが100円で買える?>週末、某家電量販店に行って驚いたのですが「在庫限り、iPod Touchが今なら100円」の看板がありました。今年に入って遂にiPhone 3GSに手を伸ばしてしまった私としては「うわぁっ、このやり方があったんだ」というのが正直な感想です。実は私、iPhone購入後の現時点でのiPhone 3GSの利用実態は、携帯電話機能(3G機能)は通常OFFにしてあります。携帯電話としては今まで通りau端末(家族を含む一族郎党の固定回線を含めて全部auとKDDIに契約変更して家族割引を享受するようにしたため)を使っており、iPhoneは、外出時は基本的にiPod替わり。そして帰宅後は無線LANを通じてそれらしく使うということで楽しんでいます。 「それならば最初からiPod Touchで良かったじゃないか」という指摘が聞こえてきそうなのですが、やっぱり外出先で使う通信手段(公衆無線)は確保しておきたいじゃないですか。普段はほとんど使わないとしても、それがスマートフォンというものじゃないですか。今回はそんな話をしたいと思います。 <iPhoneやiPod touchの無線LAN機能を使う>iPhoneというか、スマートフォンと呼ばれるカテゴリーの機器が最近特に注目を集め、また非常に面白い存在となりつつある理由の一つは、無線LAN機能を搭載したことだと思います。例えば、iPhoneに搭載されている無線LANの規格は801.11b/gですので、最大54Mbpsでの高速通信が可能です。一方、携帯電話の場合、最近の3.5Gと呼ばれる高速通信の速度でさえ下りが約7.2Mbps程度に留まります。 逆に、無線LANを搭載したPDA(携帯情報端末(けいたいじょうほうたんまつ、個人情報端末とも))とスマートフォンとの最大の違いは、スマートフォンが速度は無線LANに劣るとはいえ、数年前のADSL(出始めは1.5Mbpsでした)よりも格段に帯域幅の広い携帯電話としての通信機能を有するということです。微妙に解り難いかも知れませんが、これは面と速度の問題です。無線LANは「速度は速いが使えるポイントが限られる」一方で、携帯電話は「速度は遅いが使える場所はほぼ全国津々浦々にまで拡大している」ということです。 iPhoneのようなデバイスを、携帯電話としてだけ使う人は当然まずいないでしょう。動画サイトのYou Tubeを見たり、もちろん、iTunesから音楽や動画をダウンロードしたりするのに使うわけです。この時、無線LANを使うと何が良いかというと、格段にスピードは速いし、パケット代が発生しないということです。パケット使い放題みたいな契約にすれば気にしないで済むという見方もできますが、その料金だけはMAXまで払わないとなりません。無線LAN環境で使っている限り、速度も料金も気にせず(インターネットへの接続環境がない場合は別です)に済むというのは素晴らしいことだと思いませんか? なので、私は自宅で無線LANだけで使っているのです。その操作性の素晴らしさと、ポータビリティを満喫しながら。 <iPhoneやiPod touchでskypeを使う>息子が私のiPhone購入と同時にiPod touchを買いましたので、二人で比べっこをよくしています。iPhoneとiPod touchの最大の違いは何かといえば、携帯電話機能があるかないかです。 そこで、今更説明など必要ないかも知れませんが、skype(スカイプ)ってご存知ですか?インターネットを使った電話と思っていただければいいのですが、skype登録者同士ならば普通に音声通話のみならず、USBカメラなどを使ったテレビ電話も無料でできます。有料で電話番号を取る方法もありますが、インターネットを使える環境にいて、アプリケーションを立ち上げていれば、普通に呼び出すこともできます。そして一番のメリットは海外との通話(国際通信)も一緒の取り扱いで、すべてインターネットの利用代金の中で賄える、すなわち最近のようなネット環境ならば、実質国際電話も無料だということです。 ただskypeが使える端末が常時インターネットにアクセスできる環境にあるかといえば、今までそれは案外と難易度の高い話でした。デスクトップPCならばインターネットに常時接続をしていると思いますが、本人がその端末の前に座っていないとなりません。ノートPCやネットPCならばもう少し可動範囲は拡がりますが、それでも無線LANの届く範囲に限られ、外出先だとそのスポットはかなり限られてきてしまいます。また何より、パソコンの場合、常に電源を入れてPCを立ち上げておかないとなりません。 しかし、iPhoneやiPod touchならば常時持ち歩くことが可能なのはもちろんのこと、 PDAの特徴としてのリアルタイムOSが常時待機になっています。そして当然skypeアプリをダウンロードして使うことができます。結果、無線LANが使える環境下にいれば、パケット利用を気にしないで、ネット端末として通話ができるということです。実際に息子のiPod touchと通信を試みてみましたが、残念ながら現状ではマイク機能がうまく活かせず電話の様に通話はできませんでしたが、iPhoneからパソコンのskypeへの通話は電話のようにできました。そして正直、これを試してみた実感として、いろんな可能性がこれから拡がることを実感しています。 <無線LANのアクセスポイントを持ち歩く>最近「モバイル・ルーター」という考え方があります。無線LANのアクセスポイントとなるルーターを持ち歩くという考え方です。無線LANのアクセスポイントに端末を持っていくのではなく、アクセスポイント自体を持ち歩くという発想です。例えば、鞄の中にひとつアクセスポイントを入れておけば、持ち歩いている総ての無線LAN対応機器を自由にインターネットに繋げることができます。それがPDAでも、ノートPCでも、或いはPSPやDSなどのゲーム機器でも問題ありません。そしてポイントの一つはルーターですから同時に複数のデバイスの接続が可能だということです。 現在前述の携帯電話技術の3.5G、HSPA(High Speed Packet Access)方式のそれが実際に販売されており、冒頭の「iPod Touchが今なら100円」というのは最近ネットブックPCの販売形態で良く見られるこれらとの抱き合わせ販売なのですが、この流れの展開からは目が離せません。きっと遠からず下り速度40Mbpsを提供するWiMAXでも対応製品が出てくるでしょう。 <ひとりひとつのアクセスポイント>まだWiMAXのような高速通信は普及初期段階なので人口カバー率が低く、どこに行っても高速通信というわけにはいきませんが、きっと遠からずそのエリアは爆発的に拡大するはずです。そして個々人が自分専用のアクセスポイントを常に持ち歩けば、身の回りにある総てのデジタル機器をインターネットに繋げることができます。そして身の回りに自分だけのネットワークを作ることも可能となり、PDAとノートPCとゲームなどをシームレスに繋いで使うなどという利用形態が生まれるでしょう。家に帰れば、そのままでも良いですし、家族や友人のアクセスポイントとは自動でリンクするようにしておけば、更に使い勝手は良くなると思います。 ユーザーはアクセスポイントの通信料を払うことになりますが、現在のパケット使い放題などの状況を見ていると、最大で月間3,000円~4,000円程度に収斂していく可能性は高いです。現在のワイヤレス関連のトレンドはそうした方向性へ向かっています。 <その時、携帯電話はどうなるのだろうか?>会社や家庭にどんどんIP電話が普及している現在、携帯電話だけが独自の技術を維持していくというのは合理的でないかも知れません。つまりみんなIP化していくということです。それも従来のワイヤレス環境で考えられていたのとは格段に違う良質なものとして。その試金石となるのが、iPhoneやiPod Touchで無線LANを使ってskypeを利用するというような動きだと思います。 この流れが本気で加速した時、IT環境はもう一段違う世界へと変化していくと思います。ただその一方で、既存の携帯キャリアには厳しい環境が訪れるかも知れません。携帯キャリアは電力や水道のように、ただパケットを流すインフラを提供するだけとなり、付加価値は再びデバイス・メーカーが握るというような流れになるのではないでしょうか。ただいずれにしてもとても面白い時代になってきたと思っています。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第67号 2010年1月22日発行より) ==========================================================
2010.01.22
新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。 本来は元旦かせめて正月三が日の間にすることだと思いますが、今年一年の計として「日本株を買う」という計を立ててみるのはいかがでしょうか? これは投資の現場にいる者として「今年の日本株は値上がりしそうだ」というような相場見通しを持っているから申し上げるのではなく、あくまで「一年の計は元旦にあり」と諺でいわれる意味に即して、今年の投資活動を実りあるものとし、また同時にそうした個人投資家の皆さまの動きが燎原の炎のように巷に広がることで、日本株式市場が今後活性化すれば良いなという思いを込めての皆さまへのご提案です。<株は安く買って、高く売るもの> 株で絶対に損しない簡単な方法があります。それは株が安い時に買って、高くなってから売ることです。「馬鹿!それができないから苦労しているんだろう」と怒られてしまいそうですが、だからこそ今年の一年の計として「日本株を買う」という提案をさせていただいたのです。 まずは下のチャートを見てください。これは1970年から昨年2009年までの日経平均株価の年足チャートと呼ばれるものです。すなわちこの40年間の日経平均株価が毎年どういう動きをしてきたかを端的に示すものです。年の初めの大発会の初値と年の終りの大納会の終値を比較した場合に、終値の方が初値よりも高い場合は白い棒になり、逆に終値の方が初値よりも安い場合が青い棒となっています。太い棒の上に出ている細い線を上髭と呼び、年間の高値を示し、逆に下に伸びている場合を下髭といって、年間の安値を示します。 (出典:Bloomberg)まず目に飛び込んでくるのは、チャートの真ん中にそびえ立つ大きな山だと思いますが、これがいわゆる「バブル相場」の頂点で1989年末大納会になんと"38,915円"をつけました。それに比べて一番右端の棒、すなわち昨年の日経平均株価の動きを示す棒が教えてくれるのは、年末の日経平均株価がたったの10,546円に過ぎないという事実です。往時に比べてその3割にも満たない水準です。これってどう見ても"安い"と思われませんか? <バブルの定義は曖昧> このチャートは1970年からスタートしていますが、誰がどう見ても1989年と1990年を頂点とする山の左斜面と右斜面で形が違います。バブル発生のメカニズムを説いた経済書はあまた書店に溢れ返っていますが、私の知り得る限りにおいて、その根源を1985年9月22日のプラザ合意以前に求めるものはありません。そして1970年代には石油ショックがありましたので、日本経済はいろんな面でダメージを受けた時代です。注意してみると70年代にも凸凹はもちろんありますし、変化率でいったらそれなりに大きくマイナスの年もあります。それでも80年代に向かって上昇し、いわゆる「バブル相場」と言われる時に突入してグイっとその角度を上げています。つまり左斜面と右斜面の様相が違うことをバブルのせいにすることはできず、そもそもバブルの定義そのものが曖昧だと思っています。 <失われたのは10年、20年?> よく失われた10年とか、20年とか言いますが、株価チャート的にはご覧の通り30年が失われていることになります。つまり今の株価水準が1980年代だということです。このチャート上でぜひお絵描きをしてみていただきたいのですが、昨年2009年の株価を示す棒を仮に20,000円前後の水準においたとしても何の違和感もなくありませんか? バブルの頂点である38,915円にすることは確かに遠く離れた点になってしまいますので無理が多いですが、20,000円レベルならば決して罰があたりそうな水準とは思えません。大局観を持ってみるならば30年分も失われているというのは納得し辛いストーリーです。 <いろんな反論があるのは知っています> ここまでのストーリー展開に、いろんな反論が出てくることは充分理解しています。日本の高度成長期は遠い昔のことで、だから左斜面と右斜面が違うのだとか、GDP成長率からみてダラダラとしていて当然であるとか諸々です。ましてや現状は政府自体がデフレ宣言をし、モノの値段が下がることを認めてしまったのですから「そんな国の株価が上がるわけがないだろう!」と一蹴されても確かに仰せごもっともです。 <一番の問題は人気剥落> 昨年末の大納会から証券市場は前場だけという伝統を捨て、後場も通常通り行うという前日型に変えました。大発会も同じです。途中でシステムを止めてしまうプログラムを組むより、終日取引にしてしまった方がコストがかからないという側面もあるようですが、大納会の売買代金が9,291億円、大発会が7,080億円というのは何とも情けない限りです。更に情けないのは、東証発表のデータによれば、12月25日を含む、すなわちクリスマス休暇で外国人投資家は市場に不在だと一般的に言われている1週間の売買代金でさえ、その48.3%は外国人投資家によるものであり、日本の個人投資家と法人を合わせた48.1%(個人31.7%、法人16.5%)よりもわずかですが多いということです。 その前の週にさかのぼると更にその傾向は顕著となり、外国人投資家が57.3%になるのに対して、日本の個人投資家と法人を合わせたそれはたったの39.5%(個人26.3%、法人13.2%)に過ぎないということです。日本人が日本の株に見向きもしないが故に、外国人投資家が日本株式市場を支配しているということです。段々話が右傾化してしまいますが、これっておかしいと思いませんか? <人と同じことをしても儲からない> 不思議なもので、日本人というのは「赤信号、みんなで渡れば怖くない」的な民族性が、こと金融商品に関してだけは昔から強くあるようです。人気商品ばかりが注目を集めます。米国にも「靴磨きが相場の話を始めたら株は売れ」と大恐慌を回避したケネディ家のエピソードがあるくらいですから大差ないのかもしれませんが、人気の商品にだけ興味が集中するという点は否めない事実だと思います。そして当然、その後には「損したぁ」という溜息が聞こえてくるのですが、「自己責任」という原則が常識化して以降、その不満をどこにぶつけることもできずに悶々とするばかりというのが実情のように思います。 井戸にクジラを入れたら水が溢れると言われますが、日本人の個人金融資産が小さな市場に殺到したら瞬間的に株価は上がります。ただ問題は自分が買った値段よりも高い値段で買ってくれる人が次から次と出てこないと、自分が買った値段よりも高いところで売り逃げることはできないということです。人気の商品は「儲けて売り逃げたい人」が買いにきているのです。人気化してしまってからでは遅いのです。 <2003年頃も同じようなことがありました> 多くの人が訳もわからずネット関連株と言われる銘柄を買い漁ったITバブルが2000年に弾けてから3年間、株価は下がり続けました。2003年には日経平均株価も7,000円台というとんでもない水準まで下落したのですが、この当時も日本株のファンドマネジャーをしていた私がどんなに「これからは日本株だ。日本株ファンドを設定しましょう」と言っても誰も振り向いてくれませんでした。というより「日本株」とか「株」といった段階でアウトです。拒絶反応というか、アレルギーというか。しかし冒頭のチャートを見ていただきたいのですが、株価は17,000円台まで戻していきます。実は再びその後日本株は注目を集めたのですが、その時の水準はすでに安値からの2倍となる14,000円を超えていました。もし、誰も見向きもしなくなっていた時に買っていれば、今でも利益が出ているはずです。 <どんな時にも値上がりする株はあります> 今、日本株はまったく人気がありません。日本株のファンドをやろうと言ってもまず企画段階で没になります。だから今から始めたら来月や再来月の話とは思いませんが、きっと儲かるのだろうなと密かに思っています。ブラジルや中国、或いはリートやコモディティ関係も勿論面白いのかも知れません。でも私たちは日本円で給料を貰って、日本円を貯めて、そしてほとんどの支払いを円で済ませ、また日本語を喋り、日本語で読み書きするという譲れない事実があります。すなわち本来、日本株ぐらい身近な金融商品の存在はないはずだということです。 外国製品も身の回りに溢れている昨今ではありますが、身の回りに圧倒的に多いのはやはり日本製のものです。何がよく売れ、何が欲しくて、どこに行けば手に入るのかなど、どんな情報でも簡単に手に入ります。 外資系企業もたくさんありますが、やはり日系企業に勤めている人の方が圧倒的に多く、また本人の勤め先のみならず、家族や友人知人のを含めれば誰だって身近に感じている日系企業、すなわち日本株の投資対象となる企業の一つや二つは身の回りにあるはずです。もちろん「うちの会社はもう潰れそうだ」と沈んでいる会社は駄目です。でもいつも忙しいと言っている人がいる会社や、人気の商品を発売した会社などいくらでもアイデアは見つかるはずです。端的な例が昨年のユニクロでしょう。きっとそんな例は必ず見つかるはずです。 <日本株を買ってみませんか?> 日本株を買うのも随分と簡単になりました。ネット証券を使えば手数料無料の場合だってありますし、しつこく営業マンに追いかけられることもありません。これだけ株価も下がっていますから、数万円も用意すれば買える株はたくさんあります。日本株の投資信託だってあります。ファンドマネジャーが何をどう考えて運用しているのかを頻繁に公表しているファンドも数多くあります。自分の持っているファンドの中身がどうしてそうなっているのか、専門家の投資の着眼点を知るのも楽しい筈です。 <小さな買いでも、市場は変えられる> 前回の衆院議員選挙、自分の一票ぐらいじゃ何も変わらないと思っていた人たちも動いたからこそ政権交代が起こりました。同じように、日本株式市場も多くの人が振り向いてくれれば、もう一度元気になるはずです。そしてその時、最初に買い始めた人の投資収益が上がっているということはもちろんですが、投資とはどういうタイミングで何を狙うべきなのか、きっとそれらの人には分かってもらえるだろうと思います。人気で話題の商品だけが投資対象として優れているわけではないということが。 今年もいい年になりますように。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第66号 2010年1月8日発行より) ==========================================================
2010.01.08
<どん底から始まった>投資運用業界に関わるようになって22回目となった2009年の幕開けは、過去の経験に照らしてみても、この先「何が起こるか分からない不安」という意味では3本の指に入ると思われる激動の中で始まったと記憶しています。まさかと思う金融機関の破綻があり、そればかりか国自体のデフォルトが伝えられるケースがあるなど、おおよそ金融機関と名のつくところに身を置くものならば、誰しもが自分自身のことも含めて「この先どうなるのかな」という思いを抱いて迎えた年明けだったと思います。そしてその激動の2009年も、もうあと数日で幕が下ります。 <オバマ大統領誕生>2009年最大のトピックスの一つといえば、間違いなくこの話題です。8年続いた共和党ブッシュ政権が民主党に変わったからでもなく、有色人種初の合衆国大統領の誕生だからでもなく、世界中が金融危機の中で多くの不安を抱き萎縮している中で、世界経済のトップに立つ国の大統領が、それこそ世界中の注目と期待を集めて誕生したということだからです。1月20日に行われた大統領就任式の映像は、眠い目をこすりながらも生中継で見てしまいました。そして思ったことは「アメリカはワースト・イズ・オーバーだな」ということでした。 「噂で買って、事実で売る」と格言で言われる株価セオリー通り、大統領就任演説を伝えるCNBCやBloomberg TVの映像の片隅で下がり続けていましたが、2001年「911同時テロ事件」後の米国内の団結とその後の立ち直りを現地で何度も実感してきた感覚に照らし、熱狂的に国民に支持されて誕生する新政権は、大きな求心力となって経済建て直しを図れるだろうと思ったからです。あの国の人たち、あの旗の元に集まったという意識がそうさせるのか、団結して動き出した時のそれは、単一民族国家と呼ばれる日本のそれより数倍強いと思っていました。そして少なくとも、米国経済はそうした方向へ向かいました。 <米国主要株価指数は揃って52週高値を更新した>株価は経済の体温計であり、株価はその国のエネルギーを象徴すると思います。株価が下がっている国に元気な国はありませんし、株価が上がっている国はだいたい活気があり、エネルギーに溢れています。年初来130%を超える上昇率を誇るブラジル・ボベスパ指数や、120%を超えるロシアRTS指数は特異な例かも知れませんが、中国市場やインド市場も70%を超える勢いを記録しており、やはり新興国のエネルギーは目に見張るものがあります。 そんな中で、米国の主要株価指数であるNYダウ、S&P500種そしてNASDAQ総合指数などが揃って先日52週高値を更新して来ました。52週とは、要するに過去一年間という意味なのですが、3月初めに多くの市場が最安値をつけ、そして切り返し始めてこの1年間の高値を更新してきたという意味です。ある意味、傷は癒えてきたということができます。 事象面でも、一部の銀行については市場でも賛否両論(無理のし過ぎだという意味で)あるのも事実ですが、金融危機直後に政府が公的資金を投入した多くの米銀がそれを早くも返済、傷は癒えたことをアピールするような展開になってきています。ゴールドマン・サックスなどは早くも空前の利益を稼ぎ始めてもいます。米連邦準備理事会が16日に発表した連邦公開市場委員会(FOMC)声明を見ても、当然完治ではないにしても、景気悪化の状況はコントロールの範囲内に収まってきつつあると、当局の自信が滲むものとなってきました。 <日本も遂に政権交代が行われ、民主党鳩山内閣が誕生した>小泉首相以降、3人も毎年選挙を経ずに代わった首相に対する国民世論の不信感は日毎高まり、ついに7月21日に衆議院は解散され、ポピュリズム選挙との批判も多々ありますが、8月30日の衆議院選挙で圧倒的な支持を受けて民主党鳩山新内閣が誕生しました。オバマ大統領誕生と比べると、世界中から民衆の注目と期待を集めたかという面では一歩も二歩も譲りますが、こと日本国内だけで見てとると、その圧勝ぶりはオバマ大統領誕生のインパクトに勝るとも劣らないものだったとも言えます。あれから3カ月、日本はアメリカのように活気づき始めたのでしょうか? <残念ながら、日本の株価は下がっている>新政権発足から3カ月、日米で株価の状況を比較してみると興味深い結果が出ます。前述のように、「噂で買って、事実で売る」というのが株式市場の伝統的な動きであるのと同時に、3カ月間はメディアもあまり批判しないという慣習があるので、それらをも踏まえて、新政権発足後の日米それぞれの株価推移をまとめたのが次の二つの表です。 一方、日本市場では全指数でマイナス、市場全体の動きを表し、外需寄りと言われる日経平均株価よりも国内景気を反映すると言われるTOPIXは、何と13.03%ものマイナス推移となっています。共にあれほど熱狂的な国民の支持を集めて誕生したと言われる新政権の舵取り後、3カ月目の市場反応としては、正に真逆の動きになっています。国民が新政権の方針について行ってないということなのか、或いは国民の期待が早くも裏切られたという証左なのか、そもそも市場は新政権に期待をしていなかったということなのか、多くの議論が生まれてしかるべき状況と言えます。 <米国でナスダックが好調なのは明確な理由があったから>ハイテク企業の業況をより反映し、また新興企業の比率が高いと一般に言われている(実際、マイクロソフト、アップル、グーグル、シスコシステムズ、オラクル、インテルなどを新興企業と今でも言っていいのかは、はなはだ疑問ですが…)ナスダック総合指数がオバマ政権誕生以降元気なのには理由があります。それは年初来何度も申し上げてきたつもりです。 前政権共和党のポリシーが富裕層や大企業を優先するものであるのに対し、オバマ民主党のそれは正反対をなすものであり、レガシーな全米のエクセレント・カンパニー30種で構成されるNYダウが共和党政権から民主党政権に時代が変わったことで出遅れることは当然といえば当然です。 また基本的な問題として、ホワイトハウスにブラックベリーを持ち込み、グーグルのシュミット氏を顧問に迎え、グリーン・ニューディール政策などを打ち出したオバマ大統領の時代は、アルコアやGE、或いはキャタピラーやエクソンモービルの株価よりも、グーグルやリサーチインモーション(ブラックベリーの会社です)の株価の方が上がると誰もが容易に想像がつくだろうと思います。 <鳩山民主党政権には色がない!?>そういう意味で考えて、鳩山民主党政権に麻生自民党政権が変わったことで、何がどう大きく変わるのかというのが見えないというのが大きな問題です。「国民の生活が大事」と謳う政党であったからこそ、ファースト・リテイリング(ユニクロ)の株だけが上がって日経平均株価を支えたのかも知れないと笑えない話が市場にはあります。補正予算の執行が停止されたことで、地方の公共工事は軒並みストップしました。需要不足のデフレが進み、需給ギャップのマイナス7%は欧米の3~4%の2倍になります。 今の来年度予算審議の状態や国際世論との関わり合いを見ていると、閣僚間の意見に差異が多く、どう着地するのかが原稿執筆時点(12月21日)でまだ見えていません。すなわちこの国がどこに向かって行こうとしているか、見えているのは来年の参議院選挙だけという感じです。そして政権発足からはすでに3カ月半が経っています。それが株価の運びに大きく日米間で差を作った背景にあると思います。 <それでも2010年は来る!>それでもあと数回寝て目覚めると、誰にも等しく2010年は参ります。あの2000年ミレニアム問題に沸いた1999年の大晦日から、何事もなく除夜の鐘が鳴り響いて21世紀を迎えた時と同じように新年を迎えます。そしてまた新しい歴史が作られていきます。 正直に言えば、私は景気が二番底を迎えるという論の支持者であり、年明け後に株価はもう一度試練の時を迎える可能性が高いと思っています。ただそのような事態になろうとも、必ずどこかに成長ドライバーとなるビジネス・トレンドはあると思っています。事実過去、上手に自分で見つけられない時が何度もありましたが、必ず成長ストーリーはありました。それは人間が常に「楽しみたい、幸せになりたい、便利になりたい、豊かになりたい」と多くのWANTSを持っているからであり、必ずそれを満たそうとする起業家なり、技術者が居るからです。そこに必ず道は開けます。 来年もそうした姿勢で、皆さまの投資のヒントとなるTIPSをお届したいと思っております。良い年をお迎えください。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第65号 2009年12月25日発行より) ==========================================================
2009.12.25
<14年ぶりの円高水準に驚いた株式市場> 10月下旬に92円台から始まった円高の流れは、11月末に向かって益々加速、ついには1995年以来となる円高水準となる86円台に突入、これを受けて株価も大きく反応し、日経平均株価もあわや9,000円割れかと思われるようなレベルにまで急落しました。結局為替は11月27日には1ドル84円83銭までつけることになるのですが、折から表面化したドバイの信用問題がマネーのドル資産回帰を誘発して反転、再び1ドル90円を超える水準にまで戻しました。株価の方も、またまたこうした流れに反応し反転、日経平均株価は1週間で1割近い上昇となる急騰劇を演じて10,000円台を回復するありさま。株価が正に為替に振り回されているという感じです。 <ドバイ問題だけでなく、もちろん日銀も頑張りました> アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの政府系投資持株会社ドバイ・ワールドによる債務繰り延べ要請が発覚したことにより、超低金利のドルを調達して、そのドルを売って、そして高金利国の通貨に投資するというドル・キャリー取引の安穏とした流れには水が差されました。再びリーマン・ショックのような信用不安が想起されたからですが、慌ててドルを買い戻す動きとなって円安に動いたというひとつロジックがあります。 そしてもうひとつは日銀が表明した10兆円の追加金融緩和策が、日本の金融当局による円高対抗策と受け止められたということもあります。日本では2004年3月を最後に為替介入は行っていませんし、また現在の藤井財務相は就任時に為替介入はするべきではないという発言をされていることから、ある意味、為替市場から"舐められていた"部分もあると思います。しかし、今回の日銀の対応を見て、日本の金融当局も何かはするかもしれないと思われたというのがもうひとつの円高巻き直しの背景です。 <円高と円安、株価はどっちに反応するのか?> 今回のセオリー通り、円高局面で株価は急落し、そして為替が円安に戻すに従って株価も反転して回復するという流れになりましたが、為替の動きに対する株価の反応は一辺倒ではないというのは知られているようで、知られていないことなのかも知れません。 通常よく言われるセオリーは「日本は輸出型の企業が多く、輸出企業の多くは円安により利益が膨らみ、円高により為替差損が発生することから、円安の方が日本経済、すなわち株価には好影響だ」という理屈です。間違いなくその理屈は正しく、輸出型企業の典型とも言えるトヨタ自動車などは1円円高に動くだけでおよそ250億円の営業利益が吹き飛ぶと言われています。そうした輸出型企業の集積が日本経済であるとするならば、そして株価は企業収益の鏡であるという前提に立つならば、間違いなく円安こそ株価上昇の重要な要素であり、円高は株価下落の大きな材料となります。 <株と為替の相関性に一定の法則、実はない> まずは添付のチャートを見てください。これは1990年1月から2009年11月までの日経平均株価とドル円為替の月末終値をチャート化したものです。水色の線が日経平均株価を示し、赤色の線がドル円為替の水準を示します。途中の上げ下げの明らかな局面に、それぞれトレンドを示す矢印を入れてみましたので、まずはじっくりとご覧下さい。 1995年の80円を超える超円高局面からドルは98年7月の140円台半ばまでおよそ3年間掛けて円安基調となりますが、この間、株価は前半上昇するものの、その後96年6月から98年9月のLTCMの破綻まで株価は下がり続けます。 日経平均株価とドル円推移 しかしその後、再び2000年ミレニアム問題の世紀末に向かって円高が100円近くにまで進むのですが、この時こそが正にITバブル、ソニーが3日間連続ストップ高を演じたり、村田製作所が24,000円台まで駆け上がったりと、大変な状況になりました。つまり円高に反して、輸出企業までがばんばん株価が上がったということです。その後、為替は再び140円台を目指す円安になりますが、株価はバブル崩壊後の最安値となる7,000円割れを示現するまで下がり続けました。 残りの期間を見ていただいても明らかな通り、株価と為替の関係の間にはきちんとした相関関係を見つけだすことはできません。ある時は正の相関関係であり、またある時は負の相関関係ですから。ただその正負が逆になる時、すなわち円安で株が買われる時と、円安で株が売られる時のターニングポイントにくるまでは、定量分析などで捉えた相関係数は有効に使えるとも言えます。 <為替の決定要因はひとつだけじゃない> なぜこのような動きが起きるかというと、為替が金利差や経済力の違いといったファンダメンタルズに基づく論理的なものだけでは決まっていないから、ということが言えます。すなわち需給です。買いたいと思う人がたくさんいれば値上がりしますし、逆に売りたいと思う人がたくさんいれば値下がりするという、極めてシンプルな議論です。 為替の基本的な価格決定メカニズムは「二国間の通貨の交換レート」だと教えてくれた人がいます。もちろん、今の時代ですから投機目的だけで売ったり買ったりする人もたくさんいますが、輸出によって手にした外貨を自国通貨にする、或いは相手に払うために他国通貨を手に入れるなどで発生する需要が大きいということです。これをドル円の関係に当てはめると、米国(ドル経済圏)へ大量に輸出した物の代金を日本に持ち帰る、すなわち円にしたいと思えば「円高」になります。大量に輸出すればするほど、その代金をそのまま現地においておかない限り、輸出(ドル建て)は円高要因になります。逆に輸入はドルで支払うために、ドルを買わないとなりませんから円安になります。 <外国人投資家が日本株を買う時は円安か、円高か?> 仮に何らかの理由で外国人投資家が日本株に着目したとしましょう。例えば米国の大きな年金基金です。彼らのファンドは当然ドルで集めていますから、そのドルで日本株を買うにはドルを売って、円を買わないとなりません。彼らの好きな銘柄は、やはり世界で通用しているようなグローバル企業の場合が多いですが、彼らが株を買うために、円を手に入れれば入れるほど、円高圧力がかかり、投資先の企業収益にはマイナス・インパクトになります。逆に、日本株を売ってポジションを小さくしようと思えば、円を売ってドルを買いますから円安になり、それら企業の収益は上昇し、株価は割安になります。 逆に、見向きもしないで仮に日本株を放っておいたとして、ある時気がついてみたら円安メリットをたくさん受けて収益好調、ならば日本株のポジションを増やそうかという考えになるとも言えます。そう、まるで鶏と卵の関係に似ています。どっちが先なのかということですが、正にケース・バイ・ケースだということです。 <今回の円高局面はどっちでしょうか?> 今回の円高局面を、外国人投資家が日本の金融資産を買うためにドルを売って円を買ったからの円高と見るのは、状況的にかなり無理がある気がします。過去、このような局面があったのは例えばITバブルの頃です。とりわけ、日本の電子部品関係は、世界のIT機器需要にはなくてはならない重要な要素ですから、多くのハイテク株が円高にもかかわらず値を飛ばし、暫くすると「外国人持ち株比率が上昇」などと発表されたものです。 次は2003年にりそな銀行に公的資金が注入されたあとからの局面です。市場の上昇をリードしたのは銀行株でしたが、やはり好んでこれらを買っていたのは外国人投資家で、日本がこれで変わるということを囃して円を買い、株を買ってくれました。 翻って現在「日本を買う理由」はなんでしょうか? 民間年金で国内最大の約9兆円を運用する企業年金基金連合会にさえも見放されてしまっているというのに...。とするならば、今の円高は金利差とか、別の要因で動いているわけです。すなわち、為替変動による企業収益のマイナスを評価して株価が動く局面です。残念ながら、1円の円高でトヨタの営業利益はおよそ250億円吹き飛ぶというようなことを考慮しなくてはならない局面です。もしくは素直に、円高でメリット受ける輸入企業の株が注目される局面です。 今、為替と株の関係を見るならば、為替が企業収益に与える影響で評価し、需給は気にする局面ではないと言えると思います。 円安メリット企業と円高メリット企業==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第64号 2009年12月11日発行より) ==========================================================
2009.12.11
<Windows 7の立ち上がりは好調> 新聞によればマイクロソフトがこの10月に投入したパソコン用基幹ソフト(以下OS)のWindows 7の立ち上がりはかなり好調のようです。どの程度好調かといえば「以前に売り出した他のOS(Windows Vista(以下Vista)は当然のこととしても、Windows XP(以下XP)なども含む)と比較して2倍のペースで売れている」ということのようです。 Windows 7は当然のことながらVistaの後継です。Vistaが鳴り物入りで2007年1月30日にリテール版が登場した割には、リリース直後にバグが出たり、 動作するアプリケーションが限られたりと芳しくなく、またそもそも厳しくしたセキュリティー機能のおかげで不評な割には、求められるハード・ウェア・ス ペックが高いなどの理由から普及促進に当初から赤信号が灯り、普及が進まなかったOSの後継ということになります。Vista登場からわずか3年足らずで 次世代が投入されたことになります。 事実、周りを見回してみて、法人でVistaを使っている企業は少ないままであり、多くの企業の主力OSはXPというのが実情でしょう。小ネタに なりますが、デジタル・ネイティブを地でいくような中学3年生の愚息も「Vistaは最低、周りのお友達も皆XPの方が好きだよ」とのことで、折角発売当 初からVista搭載のPCを作ってあげたにもかかわらず、感謝するどころかブツブツとずっと文句を言っています。その大きな理由はフリーソフトの互換性 問題に起因するからなのですが、すなわち、それだけ法人でも個人でもVistaの普及は遅れていたということになります。 だからこそ、今回のWindows 7は立ち上がりが好調であるともいえます。XPから見れば、リリース(2001年11月16日)後、なんと8年ぶりの大更改ということになり、流石にハー ドウェアのスペック的にも、かなり厳しい時期に重なったという面もあります。普通の家電品でさえ、8年間も使えば…。 <パソコンを買い替えるか? アップ・グレードするか?>Windows 7を利用できるようにする方策としては二つあります。一番簡単なのは、Windows 7を搭載したパソコンを買ってくるなり、私のように組み立ててしまえば良いのですが、マイクロソフトは既存パソコンのOSの「アップ・グレード」という方 法も推奨しています。ただ前述のように、Windows 7はVistaの後継OSであり、Windows開発チームからもWindows 7はVistaを基に改良したカーネルが使用されていると発表されているのでVistaユーザーにはアップ・グレードも可能かもしれませんが、大多数の XPユーザーにとっては、ハードウェアのスペック的に相当ハードルは高いものになると思われます。そもそもOSのアップ・グレードというのは簡単なようで いろんな設定が変わってトラブルの原因にもなりますから、普通はあまりしたくないですよね。だからこそ、パソコン自体のリプレイス需要があります。 <Windows 7、確かに早くなった気がします>前回記したとおり、私の場合はパソコンを組み替えました。MPU(Core 2 Duo⇒Core i7)はもとより、マザーボードもハード・ディスク・ドライブ(以下HDD)も取り換えましたし、メモリーも載せ替えましたので、OSを換えたことによる だけの効用なのか特定できませんが、少なくともVistaマシンの時よりは総てにわたって軽く、早くなった気がします。 HDDに関しては、今までシーゲートの320GBのHDDの4台でRAID5を組んでいたのですが、容量1.5TBのHDDが1万円以下で買える 時代にそれもナンセンスと考え、バックアップはNASに従来通りにすることにして、パソコンのメインHDDは1台にしました。ただデータ移行を容易にする ためもあり、サブとして500GBのHITACHI製HDDは一緒に組み込んであります。メモリーは従来3GB載せていましたが、マザーボード交換に伴い DDR2からDDR3に移行、値段も安いこともあり4GBにしました。グラフィック・ボードはファン・レス(ファンが付いていないので静かです)であるこ とが気に入っているので、引き続きNVIDIA GeForce 7600 GSを使っています。 <32bitから64bitへ>メモリーを4GB載せた、というところで気がつかれた方もいるかもしれませんが、今回のWindows 7ではついに64bitに移行してみました。Vistaの時にも64bit化については散々悩んだのですが、当時は64bit仕様にすると使えなくなるア プリケーションやデバイスがたくさんあるとのことで見送り、今回はその問題はクリアしてきたということなので初トライです。 64bit化の最大のメリットと言われているのは、使用できるメモリー搭載容量が増える点です。32ビット版では理論的には4GBまで、実際には 最大3GB前後までしかメモリーを利用出来ませんので、これだけDRAM価格が安くなってきたとはいえ、3GB以上に増設することは意味がありません。こ れに対して、64ビット版では128GB(最大容量はエディションによって異なる)まで認識して利用することができます。 メモリーの搭載容量を増やすと何が良いかといえば、基本的にはたくさんのアプリケーションを同時に立ち上げて、複数の処理を一緒にする時のストレ スが軽減されます。たとえばiPod用の動画変換などを裏側でしながら、レポートを書いたり、講演会資料を作ったりするような機会が多い身としては、とて も助かるものです。ハンディカムが5,6万円で買えるようになった現在、特にダウンロードを積極的にするような世代でなくても、動画をちょっとだけ編集し たり、iPod用に変化したりするニーズは高まっているように思います。DRAM価格の低下を享受できる環境がここでも整ってきました。 <起動時間はそんなに早くならなかった>前段とは矛盾する話に聞えるかも知れませんが、立ち上げてから操作する段階での体感は軽く、早くなったような気が確かにしますが、パソコンのス イッチを入れてからの起動時間は「なるほど!」と膝を叩くほどにはVistaに比べて早くなったとは思えません。たぶんこれは普通にHDDを起動ディスク のCドライブとして利用しているからで、逆にいえば、HDDというハードウェアの物理的限界なのかも知れないと思っています。 なぜなら同時によく感じるのが、HDDへの読み書き、取り分け書き込み時間が最もボトルネックになっているように思うことがしばしばあるからで す。今回の取り換えたマザーボードに採用されているチップセットはインテル製のP55と呼ばれるもので、以前ご紹介したようなノースブリッジとサウスブ リッジという2チップ体制の物ではなく、従来で言うならばサウスブリッジと呼ばれる方しかありません。MPUとメモリーとの接続などを司っていたノースブ リッジは、MPU側に吸収され、より高速化を果たしました。逆にみると、HDDだけが取り残されたともいえます。 ひとつの解決策として始まっている流れが、起動ディスクとなるCドライブをHDDではなく、フラッシュ・メモリーを利用したFlash SSD (フラッシュエスエスディー、Flash Solid State Drive、Flash Solid State Disk)と呼ばれる半導体のものにしてしまうというやり方です。ノート・パソコンなどで、消費電力や耐衝撃性、或いは省スペースなどに配慮してSSDを 使う流れはすでに始まっていますが、デスクトップ・パソコンの世界でも起動時間を早めるためというニーズでこの流れが始まっています。現在64GB程度の SSDを2万円弱で買うことができますが、半導体の新しいニーズとしては充分に期待できるものと言えます。 <ニーズをまとめると…>冒頭引用したマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOの言を借りるまでもなく、現状知りうる限りにおいてはWindows 7の立ち上がりは好調であり、パソコン全体のリプレイス需要も株式市場がナーバスになって危惧する以上には確かなものがあるように思われます。その背景を ひとことで言うならば、ハードウェアの技術進化は日進月歩であるにもかかわらず、OSの世代交代がVistaで失敗したがゆえに、8年間もの長きに亘り、 先々代のXP搭載パソコンが延命されてきたということです。 そして、今般のWindows 7から64bit化が進みそうであり、これにより自ずとメモリーの搭載容量は増える環境が整ったということです。またチップセットなどMPU周りの技術進 化がHDDの性能の遅れを浮き彫りにし、HDDかフラッシュ・メモリーかという二者択一的な議論ではなく、起動ディスクはSSDでデータ・ストレージは HDDという棲み分けが始まりそうだということです。故に、世界の主要半導体メーカー65社が加盟する世界半導体市場統計(WSTS)が発表した2011 年の世界半導体出荷額の予想は、過去最高だった2007年を上回り、過去最高になる見通しだというような流れができつつあるということです。 今回の視点は、今注目の「クラウド・コンピューティング」というような流れとは全く切り離して考えてみました。あくまでもWindows 7が登場し、それに合わせて新規にパソコンを組み換えた上でのファンドマネジャーとしての目線だけで考えてみました。すなわち、もう一歩踏み込んで「クラ ウド・コンピューティング」と組み合わせれば、もっと面白い話が拡がるということです。やはり注目はこの辺の世界にありそうだと思う今日この頃です。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第63号 2009年11月27日発行より) ==========================================================
2009.11.27
<ファンドマネジャーがなぜパソコンは作るのか?> この10年以上、パソコンはノートタイプ以外、メーカー品というか、組み立てられた物を買ったことがありません。以前にもお話したことがあると思いますが、自分で作ります。日進月歩で技術革新が激しいハイテクの世界において、VAIO(SONY)とか、Studio XPS(DELL)など商品名のついたパソコンを購入してしまうことは、最新の技術トレンドやビジネストレンドを知る上で無駄が多過ぎるからです。 ファンドマネジャーという職業上、常に最新の技術を取り入れたものに接し、何が変わって、どうなったからこの先に何が見えてくるのか、ということを肌で感じていたいと思っています。だから最低でも年に一回はパソコンのリニューアルをしています。その位の頻度で技術トレンドは変化しているからです。 ただ総てのパーツをその頻度で変えないとならないかといえば、答えはNOです。時にそれはMPUであり、時にそれはチップセット(マザー・ボードの交換となります)だったり、或いはグラフィック・ボードなどの主要パーツだったりしますが、時にBlue-rayなどの光メディア・ドライブのような周辺パーツだったりもするからです。メーカー製のパソコンの場合、特注マザー・ボードやコネクターを使っている場合が多く、とりわけMPUの換装という主要パーツの交換だと丸ごと買い換えることになります。それでは無駄な投資がかさむだけです。 <決してアキバ系ではない!......つもりですが> 私はアキバ系ではないつもりですが、家の間取りと比べても、家族数から考えても、どう考えても我が家のパソコン総数に経済合理性はありません。一見無駄に多いです。ただ自作ならば前述のように興味のあるパーツだけを取り換えることができ、また複数台のパソコンがあれば、その際のメインテナンスやバックアップも楽にできます。当然、取り換えないパーツもあるということは、その新パーツを交換したことによる限界的な変化をきちんと体感できるというメリットがありますし、横展開して使い回しができます。 簡単に言うならば、メモリーを増設した時を想像していただければ、なぜそうして頻繁に組み替えるかという意図は解り易いと思います。メモリーを増設すれば、恐らく「あ、なんか早くなった」ということを誰もが体感されるでしょう。ただもしパソコン丸ごとスペックが上がるように買い換えていたらば、何の効用(どのパーツの性能向上)によってそれが実現したのか解りません。他のパーツはそのままにして、特定のパーツだけを交換するからこそ、その効用がはっきりと特定できるわけです。 <副次効果もあります> 更に言えば、それら無駄な数のパソコンを有線と無線のLANで繋ぎ、NASやリモート・プリンターなど使っていますので、自宅のネットワーク環境はちょっとしたSOHO並みになっており、当然その保守メインテナンスは自分ですから、多少はネットワークに関する知識も身につくというものです。今現在はたまたまありませんが、以前はFedora Core5というLinuxベースのOSを利用したサーバーを立てていた時もあります。これも大変勉強になりました。 <今回組み替えたパソコンのマザー・ボード。ネットブック・パソコンのEee PCで一躍有名になった台湾企業のASUSですが、マザー・ボードのメーカーとしては古くからとても有名です。中央と、右上にロゴマークが見えます> <Windows 7がやってきた> さて、そんな我が家に、ようやく先週末(11月8日)、Windows 7をインストールしたPCが仲間入りをしました。というより、やっと私が新しいパーツを購入してきて、主要なパーツを入れ替えるつもりになったからなのですが、Windows Vista登場の時は、ネットで先行予約までして、更に発売日にはパソコン・ケースまで含めて総て新しくするという盛り上がりだったのと比べると隔世の感があります。今回は発売から2週間以上も間を空けてしまいました。 もちろん、仕事が忙しくてパソコンの自作なんかしている時間がなかったからという言い訳もありますが、残念ながら、私のような立場で、前述のようなモチベーションのある身でも、発売からこれだけ間を空けてしまうあたりに、今のパソコン業界のひとつの現実があり、「Windows 7はマイクロソフトを救えるか?」という当然の疑問につきあたるわけです。 <Core i7もやってきた> とはいえ、今回の遅れた理由にはもうひとつ大きな理由があります。それはハードウェアの大きな世代交代があったからという理由もあります。"Pentium(ペンティアム)"というインテル製MPUのメジャー・ネームが脇役に回り、"Core(コア)"という名前が冠されたMPUが主役になってほぼ3年間が経過しましたが、同じ"Core"という名前を冠したMPUでも、"Core 2 Duo"と呼ばれる主力製品は読んで字のごとく、2つ(Duo)のコアがひとつのMPUパッケージの中に入っているもので、現時点では更に4つのコアをひとつのダイに載せた正真正銘の"Quad Core(クアッド・コア)"である"Core i7"が主力になりつつあるからです。 こうした話は是非「検索:intel ロードマップ」などとして、インターネットでご自分でもその流れを調べてみていただきたいのですが、今回の私がリニューアルの対象にしたパソコンは、正にWindows Vistaの登場に合わせて組み替えた当時の最新型"Core 2 Duo"搭載のパソコンです。これに当時と同じ程度の値段で買える"Core i7 860"という型番のMPUを搭載してみて、この3年間で何がどう変わったのかを体感しようというのが今回のリニューアルのコンセプトです。 <マザー・ボードも入れ替える> 本当はMPUだけを換装したかったのですが、今回の世代交代ではそれができません。実はあまり知られていないかも知れないのですが、今回はMPUの世代交代だけでなく、チップセットの世代交代も同時期にあり、これに伴ってかなり多くの基本仕様が変更になっています。インテルの7-9月期決算の発表とそのガイダンスの中で、プロダクト・ミックスの改善でASP(平均販売価格)が上がるという説明があるのですが、その意味するところは、この辺にもあるわけです。故に、今回はマザー・ボードも入れ替えざるを得ません。 <MPUが8つになった?> 詳細は次回に、というより、まだ組み替えてから殆ど使用時間もないため、だからどうだというコメントは今回はまだできませんが、下の写真をご覧いただくといかに今回のシステムに期待が寄せられるかということが分かります。それは、前述したとおり、MPUのコアは4つのはずなのですが、Windows上で認識されているコアの数はその2倍の8つです。 これは仮想的にOSから見てコアの数を倍に見せることのできるHyper-Threading Technologyというもののお陰で、これが実装されたがために、実際には4つのコアがOSからみると8つのコアを搭載したパソコンというように見えるわけです。そして前評判通りならば「重い、重い」と言われたWindows Vistaに比べて、今回のWindows 7は軽くなったと言われています。OSが軽くなって、MPUの数が増えたとするならば......。その期待値は嫌が上にも高まります。 次回は2週間使ってみた印象も含め、ネットブックPCとは違った、デスクトップ・パソコンの最新事情から見えてくる投資判断のヒント、のようなことをお伝えしたいと思います。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第62号 2009年11月13日発行より) ==========================================================
2009.11.13
<8カ月も待たないと手に入らない車> トヨタ自動車のWebページで確認すると新型プリウスは「平成21年10月7日(水)以降のご注文分は平成22年5月下旬以降の工場出荷予定となります。」となっています。つまりおよそ8カ月も納車待ちをしないと手に入らない人気の車がトヨタのプリウスです。前回はその車の魅力について、技術的な側面から、或いはエコロジーとしての側面から「とても素晴らしい車です」という話をしてみましたが、しかし8カ月もお客様を待たせないとならない車ってどうなんでしょうか? フェラーリや、一部の手作りに近いポルシェ956などならまだしも、基本は量販車種ですから。それに経営努力という視点からも、現在が「車が売れて売れてどうしようもない」という状態ならば納得もしますが、状況はご承知の通りです。株主利益を最大化する気はあるのかと問われて、経営陣を問い質したくなりますが......。 <電池の生産が追いつかないと言われているが...> 一般的に喧伝されている「プリウスの生産が追いつかない理由」は"電池の生産が間に合わないから"と言われています。でもこれって本当でしょうか? プリウスに採用されている駆動用主バッテリーは、ある意味では枯れた技術とも言われるニッケル水素電池です。最近のパソコンなどで多く使われ始めたリチウム・イオン電池とは違います。そしてそのバッテリーを作っているのは、これまたある意味"天下"のPanasonicです。にもかかわらず、電池の生産が追いつかないからプリウスの生産量がふやせないというのは、何とも納得しづらい話です。 更に言えば、現在レクサス・チャネルで販売されているハイブリッド車のLS250hも、間もなく(10月20日)トヨタ・ブランドで登場するSAI(サイ)というハイブリッド車も、実は同じニッケル水素電池を駆動用主バッテリーとして利用しています。つまり、プリウス用以外ならば電池を作るキャパシティはあるということです。矛盾を感じませんか? <本当の理由は純粋に車両生産キャパシティ、組み立てができない> いろいろと調べてみると、本当の理由は違うようです。もちろん、電池の生産量を急激に立ち上げて増やすのが困難(レアメタルなどの調達もあり)というのは事実のようですが、根本の理由は「車両自体の組み立てができない」ということのようです。つまり、パーツを全部揃えて、車の形に組み立てていくその基本的なライン・キャパシティの問題がボトルネックになっているようです。そういう物理的なラインの問題のようです。そしてそういう理由ならば逆に納得がいきます。つまりトヨタは本心ではプリウスの生産量を劇的に増やすつもりがそもそもないということです。なぜなら、プリウスがこんなに市場で人気を博すというのは、トヨタ自体にとっても大きな誤算だったからと思われるからです。 <ラインを増設すれば済む話のように思われる> 素人的な発想だと嘲笑を買うかも知れませんが、これだけ不景気な時代に「8カ月待ってでも御社の製品を買いたい!」と言ってくれるお客様が山と居て、その最大のボトルネックが生産キャパシティの物理的な問題なのだとしたら、それこそ期間工を大量採用して稼働率の低下しているラインを転用するなど、一気にプリウスを作りまくれば良いのではと思ってしまうのが普通の発想ではないでしょうか? 販売できない機会損失、消費者の気分はコロコロ変わるのですから、8カ月後にはオーダー・キャンセルの嵐になっている可能性だって否定できません。まだ製造業で派遣社員を採用することが禁止になったわけではないですし。にもかかわらずそれをしないとしたら、それは違う意図があると考えて当然です。 <本当の理由はプリウス以外が売れなくなるから> トヨタのWebサイトに行って、同社のカーラインナップのページを一度開いてみてください(http://toyota.jp/service/carlineup/dc/carnamelist)。たぶんその多さに驚かれる筈ですし、私のような車好きですら名前から形をすぐに想像できない車種もたくさんあります。数を数えてみると何と60車種。兄弟関係や派生車種もありますから、必ずしも全部が全部違った車ではありませんが、実に多種多様な車を作っています。そしてこれは日本で販売されている物のみですから、ワールド・ワイドで考えると更に車種は多くなります。そしてプリウスはその中のひとつに過ぎません。 もし今、トヨタが「需要に迅速に対応できるように、全経営資源を投下してプリウスの生産を強化する!」とでも本気で気焔をあげたら、恐らくプリウスの納車は2カ月待ちぐらいには縮められるに違いありません。エコカー減税の期限が切れる3月末まで、売れに売れまくるかも知れません。ただ間違いなく、残る59車種の販売には影響が出るでしょう。そう誰も見向きもしなくなるリスクがあるということです。だからこそ、トヨタは電池のせいにして、のらりくらりとしている。 <トヨタの敵は、トヨタ> これだけの車種を作り、強烈な営業力を持ち、世界の自動車メーカーのトップに君臨するようになったトヨタにとって、今やライバルはトヨタ自動車自身。これは市場シェアが断トツになったトップ企業が持つ共通の悩みでもありますが、かつてのトヨタと日産のBC戦争(ブルーバードとコロナ)、或いはサニーとカローラの戦いのように競合とのシェアの奪い合いでなくなってしまい、自社製品同士の競合という図式になってしまったということです。今ほどの車両ラインナップを展開している巨大企業トヨタにとって、プリウスの一本足打法は当然取れる選択肢ではないということです。 <プリウスは価格設定を失敗した!?> とはいえ、もしプリウスが利幅の厚い車種だったら展開は違っていたかも知れません。しかし、ホンダのインサイトが189万円で発売開始になったことがトヨタのシナリオを狂わせ、トヨタも対抗上205万円に設定してしまいました。トヨタ単体は利益を出せていても、グループ全体では必ずしもそうではありません。ここにトヨタの大誤算の芽がありました。 同社のWebサイトで価格条件を入れて検索してみてください。プリウスを買える値段帯で実に多くの車種がリストアップされます。そしてそのどれも、燃費では当然のことながらプリウスに勝てません。でもメーカーとしての利幅は間違いなくプリウス以外の方が厚いはずです。ハイブリッドのトップメーカーとして利益の少ないプリウスを市場の需要に合うようにバンバン作るより、ある水準を維持しながら、またそれをアイキャッチにしながら他の車種を売ること、恐らくこれが利潤追求を命題とする私企業の正しい姿でもあるのかも知れません。 <プラグイン・ハイブリッドなどに期待> 株式投資はその企業の株主なり、企業を所有するということ」というのが私の投資哲学でもあります。その企業を所有し、同じ夢を見るのが株主の本質的な役割という前提に立てば、目先の利益云々よりも、その企業の理念や技術力などを純粋に評価したいというのが基本にあります。四半期ごとの利益にブツブツと能書きを言うのではなく、何がしたいのか、何ができるのか、どんな技術を持っているのか、そんなことを評価する投資が株式投資の本来あるべき姿のように思っています。そういう納得の仕方ができていれば、たとえば仮に値下がりしてしまった時でも、何を確認すればいいのかは明らかです。 その意味でも、次のプラグイン・ハイブリッドには期待しています。きっと更に「凄い」と思わせてくれるものと思います。この原稿がアップされる頃には東京モーターショウが始まっています。今からそれが楽しみで待ち遠しい想いです。 ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第61号 2009年10月23日発行より) ==========================================================
2009.10.23
<音のしない車とのご対面> その車は音もなくやってきました。誇張しているわけでも、詩的な表現で言っているわけでもなく、本当に無音。強いて言うならタイヤが路面を掴む音がわずかにする程度の音だけを発しながら家の前に止まりました。普通ならばエンジンの音がまずあり、更に冷却用の電動ファンの音などが静かな住宅街なら聞こえるはずなのですが、頭ではそういう筈だと理解はしていても、実際に目の前に音もなく車が迫ってきたのには驚きました。 そう、その車はトヨタの「プリウス」。高まる環境意識とエコカー減税などのお陰で受注が急増、今月発注した車の納車は来年5月下旬以降に工場から出荷される分となる異常な需要と供給のミスマッチを起こしているあの車です。たまたま今乗っている愛車の定期点検の関係で、担当のトヨタの営業の方が乗って見せに来てくれた(セールスマンですからね)のですが、自宅の前で見るとやはり違って見えるものです。 <新しい価値観、かっこ良さの創出> 当然車好きの私としては早速近所を試乗させて貰うことにしたのですが、正直に「この車は売れて当然だな」と思いました。それは私が"新技術"という単語に滅法弱いという性格なのもありますが、エコ・モードにして走ると、エンジンが回っていないいわゆるEV走行していることが何と多いことか。そりゃ勿論、5000CCのV8エンジンなどと比較したら、全然ひ弱だし、迫力なんて言葉とは正反対にいる代物ではありますが、低燃費車を買おうなんていう次元とはまったく異なるところで、正に「カッコいい」と思いました。バブルの時代、大型の欧州車を六本木あたりで乗り回すことに見出されていた価値観とは全く別のものがそこにはあります。 世の中、同じように考える人は多いようです。先日、もう何年も定期的に訪ねて自動車業界の技術トレンドをアップデートさせていただいている某社技術者の方とお目にかかりましたが、米国でもメルセデスやBMWからの乗り換えが多いというお話をお伺いしました。 それも素直に頷ける話です。車をその効用だけで突き詰めていくと、実際は日本でなら軽四輪で十二分であり、1,000万円以上も車にかける合理的な理由などありはしません。時速200キロから「神の見えざる手に掴まれたような絶対的な安心感のあるブレーキが凄いんだ」と(私も含めて)車好きは主張しますが、日本の高速道路では完全なオーバースペック。女性の服飾品と同じように、ブランド価値にそれ相応のプレミアムを払っているというのが現実だと思いますが、そういう価値観をも動かし始めたとも言えます。 <最新技術が満載、これぞ日本の誇り> 技術的に見ても、他社のハイブリッド車とは完全に一線を画す出来です。完全なEV走行ができるか否かがその分岐点だと言えますが、今までの車はエンジンを止めた瞬間、いろいろな不具合が発生します。走行中にエンストした経験のある人ならばお分かりだと思いますが、エンジンが切れた瞬間から、ハンドルは固く重く、ブレーキは急激に利かなくなりなります。多くの車のパワー・ステアリングがエンジンから動力を得る油圧ポンプ式から電動式に変わりつつありますが、ブレーキの倍力装置にもエンジンの排気が使われているからです。つまり完全なEV走行をさせるためには、基本設計を変えてすべてを電気仕掛けにしないとなりません。 言うは易し、するは難しの典型で、先々代メルセデス・ベンツEクラスがブレーキの電動化を試みたことがあります。それも完全なバイ・ワイヤー化ではなく、バックアップに既存技術のシステムを残してのそれでしたが、実装後2年程で中止、開発も中止したはずです。プリウスのそれは当然完全なバイ・ワイヤーで、おまけに制動時には回生エネルギーで発電までします。ブレーキを踏むたびに「エネルギー保存の法則」の方程式がぼんやりと頭に浮かんでしまったほどでした。 先日発表になったメルセデス・ベンツのSクラスのハイブリッドも、同様のシステムを搭載するBMW7シリーズのハイブリッドも、完全なEV走行はできません。前述の技術者の方は「とても凝った作りをしているのは事実ですよ」と教えてくれましたが、ハイブリッド・システムとしてはプリウスのそれの方が圧倒的に優れていると自信を持っておられました。 <素朴な疑問、なぜもっと量産しないのか?> さて、問題はそれだけ優れているハイブリッド・カーであるプリウスが、この不景気の時代に、これだけのバックオーダーを抱えているにもかかわらず、今や世界一の量産自動車メーカーである天下のトヨタ自動車が、お客様に「欲しい」と言わせてから8ヵ月以上も納車までお待たせするという事実です。何がボトルネックで、何が足りないからそんなに生産が間に合わないのでしょうか? 電池が足りないから、電池の生産が追いつかないから、というのが一般的な認識のように思いますが、どうやらそれは違うようです。最も正しい答えは単純に「組み付けが間に合わない」ということのようですが、ならばなぜもっとラインを増やさないのか?という当然の質問が頭をよぎります。「単一車種でこれだけの受注残を抱えたことがない」ので、それに合わせて投資をすることを経営はリスクが高過ぎると判断しているというのが、ある意味教科書的な答えですが、数日後、あるセミナーでその答えがふっと頭に浮かびました。それは「トヨタはプリウスをあまり売りたくない」からなんだというものです。 <プリウス馬鹿売れはトヨタの大誤算> 恐らく、世界最大の自動車メーカーとなったトヨタ自動車にとって、プリウスがこれだけ受注残を抱えるように人気化したことは、嬉しい悲鳴というより、大きな誤算だったのだと思います。同社の10年3月期の決算見通しが営業損益ベースで7,500億円の赤字というのも、その辺のジレンマの象徴のような気がします。 次号へ続く ==========================================================楽天投信投資顧問株式会社CEO兼最高運用責任者 大島和隆(楽天マネーニュース[株・投資]第60号 2009年10月9日発行より) ==========================================================
2009.10.09
全79件 (79件中 1-50件目)