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2009年08月22日
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     6

「ア、アルバール艦隊中央部に何かが出現――こ、この信号は――紅緒!」
「な……紅緒は先代アルト殿下と伴に……まさか、ご存命なの?」
 契約は一対一。契約者が死ねば、新たな契約者が現れるまで、彼女が姿を現すことは無い。そして紅緒と契約できるのはライングラス王家の直系男子のみ――
「――司令ですか?」
「え? なんで?」
「司令は女性には召還不能の龍を呼び出すことが出来たはずですよね」
「……確かに私は彼女達の協力を取り付けたわ。でも、私が召還、いえ、友達として来てくれるようにお願いできるのは風香だけ。それもお互いの立場上、内々という制約付きでね」
「ですが……あの紅龍はまちがいなく紅緒……」

「惑星サレベルンの再来……」
「えぇ。それにアルバールとの内通者の介入による、艦隊の解散ということもありえるわ」
「それは……確かに避けたいですね」
「黄蘭というのなら分からないでもないのよ……でも紅緒がいる理由が私にも分からないのよ。私以外に呼び出せるとすれば……沙理菜……いえ、あの子にも紅緒との接点がない。とすれば……」
「棚加さん、ですか」
「そうか、黄蘭……そういう事なのね兄様……」
 可笑しそうに笑い出すネリュートに艦橋全員の視線が向けられる。
「総員攻撃用意! 雑魚は紅緒に押し付けて、穴熊の息の根は私達の手で! ライングラス王家を守護し紅龍になどに手柄を横取りされるんじゃないわよ!」
 メビルスの決死の総攻撃が始まる。しかしすぐに新たな事態が発生した。
「し、司令! 敵艦から強制転移! この反応は棚加さんと沙理菜軍曹……それともう一人、未承認の――この反応の状況からいって、五歳前後の女の子です!」
「まさか二人の隠し子とか……」

「な~にか言ったかな?」
「いえ……それより……二人とも健康状態に異常が認められます! かなり危険な状態です!」
「それを早く言いなさい! 衛生兵の準備を! 今すぐ医務室に! それと九十九軍曹は? 事情を聞きたいわ」
「あ! ありません! こちらへの転送直後、再度敵艦に転送した様です。あ! お、女の子の反応も在りません! 突如消えました!」
「……という事は……九十九君はけじめをつけに行った、って所かしら……じゃ、その女の子は? どこに転送したかわかる?」

「いないのなら、その子の詮索は後回しにしましょう! 今はそれどころじゃないわよ! 衛生兵を二人の回収に向かわせて! そして私達は敵の旗艦を沈めることだけ考えましょう」
「しかし敵艦には九十九軍曹が……」
「あの子はこれぐらいで死ぬようなタマじゃないわ。それに出力不足のこの艦の砲撃に巻き込まれて死ぬのなら、あの子もその程度って事よ」
「了解しました。全砲門狙撃状態で開口! 照準敵旗艦ゴーランド!」
「了解!」

 そして「サンクロバの一矢」と呼ばれる、歴史に名を残すその後のサンクロバによる反撃の楔となる戦いが始まった。

    ◆

 あまりにも突然に始まった紅龍の襲撃により、増援艦隊を生贄にして旗艦ゴーランドを中心とする一隊を後退させたものの、ビリーは状況をまだ把握できずにいた。
「な、何事だ? 何が起きたんだ!」
「龍――サンクロバの龍です!」
「そんなことは分かっている! なぜあれがここにいる? 馬鹿な! あれを召還できる者は全員始末したはずだ! 確認を急げ! ノストラダムスの言葉は?」
「回答を拒み撤退を進言しています。イレギュラーが発生し、過去の予測が全て無意味になった、とのことです。そしてこの予測の中心にある重要因子が不安定要素を多大に含む為、予測は一切不能との事です。今出来る最低限の予測は、不安定な重要因子の影響を受けない宙域への全力後退だけのようです」
「そんなモノは予測でもなんでもない! クソッ! さっきまでは全軍進軍をほざきながら……役に立たん機械だ! 最初から、胡散臭いと思っていたのだ! それより我艦隊を襲うあれは本当に――」
「いまさら確認しなくても、結果はもう見えているでしょう? あと一つ訂正させてください。一応ウチの主人も召還できるの知っています? 風の白龍を――」
「……面汚しの小倅か。どうやってここに?」
「おやおや偉大なる穴熊提督が、私のような若輩を後存知とは光栄ですね。しかし、別に貴方の顔にドロを塗って記憶はありませんし、面汚しも何も、父は全て承知の上ですよ。貴方が先月サレベルンで虐殺を行った事と同じですよ。そしてどうやって、との事ですが、それは最重要軍事機密です。貴方ごときが知る権限はありません」
「忠義の果て、とでもいいたいのか? ふざけるな! 貴様の薄っぺらい信念と我忠誠心を一緒にするな!」
「一緒にされてはこちらが迷惑ですよ。我ベルソードはゲルド王家にのみ忠誠を誓う。主がそれを望むなら、ベルソードは喜んで汚名をかぶりますし、命すら差し出します。見方艦の乗員を皆殺しにするなど、造作も無い命令ですよ」
「捕らえろ!」
「そして主が貴方を許さないと申しているのです。貴方が蛮行を働いたサレベルンはかつて主の血筋が収めし領土。遠き過去の事とはいえ、主はひどく心を痛めています。そして貴方は主の心を更に傷つける一言、そして結果を導き出したのですよ」
 九十九の背後にまで完全武装した兵士が回りこんだ。
「艦隊の皆さんには申し訳ありませんが、この艦隊に配属されてしまった事を恨んでください。先程勅命が下りました。貴様ら全員を嬲り殺せ、とね。今頃別働隊があなた方の家族の所にも向かっている頃ですよ」
 次の瞬間には九十九の姿は消えていた。
 そして兵士の一人が吹き飛び身体が四散する。
 九十九は包囲を一蹴で抜けると、その一角の兵を切り殺したのだ。ただ衝撃が強すぎ身体が爆発したように霧散してしまう。ただそれだけの事だ。
 銃撃を集中する頃にはその場に九十九の影すらなく、彼の姿は別の兵士の懐にあり、また一人兵士の姿が消える。
 兵法の基本、各個撃破、それを確実駆る迅速に繰り返し、九十九は敵の戦力を殺いでいく。
「なんで総機鋼甲冑兵をこうも簡単に――」
 焦れば焦るほど射撃は散漫となり、同僚が減っていく恐怖感で、無駄弾が多くなり弾切れという最悪の事態を招く。そうなれば後は九十九に殺されるだけである。
 機鋼兵を全員始末し終えると、九十九はビリーに向き直った。
 彼をガードする兵士達が一斉に射撃を始める。しかしそれを九十九は左右に身体を振って避ける。
「何故だ! 何故当たらん! この下手糞どもめが!」
 ビリーの真横で血飛沫を残し兵士が消失した。風と同じ速度で間合いを詰めた九十九が右側にいた兵士を頭から真っ二つに両断し、すぐさま反対側の兵士の首を刎ね落とたのだ。
 最後にビリーを残すのみ――という状況で、九十九は引いた。
「最後の選択件を貴方にお譲りしましょう」
 九十九はそう言い残し、メビルスに自身を転送させた。

     ◆

「おい! 誰か! サムランド! グルドファーン! 誰かいないのか!」
 廊下に出て目にしたのは、血に彩られた艦内だった。むせ返るような血の臭い。それがここであった殺戮の内容を示していた。
 ビリーは回線を開き、生存者を確認する。しかし数値は一……既に彼しか生きているものはいない、ということだ。
「ば、化け物……」
艦橋の人間に気付かれる暇も与えず、それ以外を皆殺しにしていたと考えるしかない。それは絶望的な脅威だった。
 ビリーはすぐに決断した。このまま艦内に残るっていても意味がない。一人で戦艦を動かす事は難しい。となれば早く逃げ出さなければ危険だ。
 ビリーは司令特権の短距離転送で救命艇に乗り込むと、すぐさま艦を離れた。
 早くこの宙域を抜け出しアルバールの制宙圏に逃げこみ本国に帰還しなければならない。
 背後でゴーランドが爆発した。どうやら敵の砲撃を受けての轟沈のようだ。
「――まったく、使えん奴ら……」
 ビリーの目の前に巨大な光がよぎる。
 光り輝く紅玉の光――
 それが紅緒の攻撃なのだと気付く暇もなく、ビリーの意識と身体は消し飛んだ。
 当然ビリーが気付くはずもない。実は九十九の情報操作により、ビリーが逃げ出した段階では、ゴーランドの乗組員はまだ大勢生き残っていたのだ。どんなに九十九が化け物じみていても、短時間に全員を殺す事は難しい。その結果ビリーは艦隊を見捨て一人で逃亡した臆病者、という烙印を押され、生前に築いた全ての地位を失うことになるのだった。






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最終更新日  2009年08月23日 20時45分40秒
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