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2009年08月22日
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     5

「アルバールの増援艦隊の反応! 数五十!」
「このままじゃ、ただの的ね」
 この状況での増援は死亡宣告であった。
 突入部隊による被害と条約違反の強制転送で、メビルスは艦体に深刻な傷を負っているので隠密行動は出来ない。砲撃訓練の愚鈍な仮想敵艦のほうがまだ機動性があるはずだ。
「戦うしかないわね。攻撃できる?」
「従来の半分ぐらいしか出力が出ません」
「無いよりはまし、って感じね。仕方ないわね。砲撃状態を狙撃に設定。威力を捨てて一撃必中で各個撃破。それしかないわね」
「了解です。司令」

「? 何か追加がございますが」
「ううん、何でも……いえ輸送艦には当てちゃダメよ!」
(九十九君……沙理菜と保持君を護って……未来のサンクロバの……いえ宇宙の為にも……)
 軍人と言う職業を選び、戦場に出た瞬間から、死ぬ覚悟は出来ている。そして今から死地に向かう決意も固めた。
(最後にあの人をもう一度抱きしめたかった――)
ネリュートはそんな小娘のような願いを頭から拭い去ると、最後の司令を下した。
「攻撃用意!」
「司令、それは私の仕事……!」
 最後の戦いが始まるー―そう決心して見つめた先には――
『!』
 ネリュートばかりでなく、その場にいた全員が、そこに信じられない存在を視認していた……



 ベニオは息絶えた沙理菜の頬をそっと撫で、何かを呟いた。
「まだ……ない」
「え?」
「まだ間に合うかもしれない。保持殿、もしサリナを生き返らせることが出来る方法があるなら、どうしたい?」
「え? それって……」

 こくりと肯く。そんな方法があるのなら、保持はどんな犠牲を払ってでも実行するだろう。
 彼女が何者かなど関係ない。救いはそこにしかないのだ。それが何であろうと、保持はそれにすがるしかない。
「しかしこの方法は多大な犠牲を必要とする。それでも良いというのなら、俺はサリナの命の炎を再びこの身体に灯そう」
「出来るのですか? 本当に!」
「あぁ。しかし人の命はそう安い代価では買えぬ。命の対価は命――つまり保持殿の命と引き換えということだ」
 しかしその代価は、保持にも予測できていた。
「いや、全部とは言わぬ。そうだな、残せて最長一年。保持殿の寿命はあと一年弱ということになろう。そして生き返った瞬間、サリナにも障害が出る可能性があるだろう」
「それは……」
「あぁ、脳に――記憶障害が残る程度だ。人の身体は脆く、特に脳は繊細だ。死してなお失った記憶の連鎖をつなぐ事は出来ぬ。だがこの場合はサリナにとってはそのほうがいいのかも知れぬな。そして保持殿は、いつ訪れるか知れぬ死の恐怖に怯えながら、保持殿を忘れたサリナと向き合わなくてはならぬ地獄の日々をくることになる。それでもいいか?」
 保持は再び頷いた。迷うはずがない。自分の命でサリナが助かり、記憶を失うことで保持が死ぬ原因を知られずに済むのなら、むしろ願ってもないことだ。
「お願いします。僕の命でいいのなら、州上さんの為に……」
「……まったく……貴方はあのお方にそっくりだよ……」
 ベニオが感慨深そうに呟いた。その目は保持を通したどこか遠くに向かっていた。
「しかしコレも運命――か」
「え?」
「いや、なんでもない。じゃ、覚悟が出来ているうちに済ませちまおう。早いに越した事はないからな――」
 ベニオが保持の額と沙理菜の額を両手で繋いだ。そして「行くぞ」という確認の声と伴に術を施行した。
 全身から力が抜ける。力が入らないのではない。最初から力などなかったかのように、ちからのいれかたすら判らなくなる。
 倒れこみそうになる保持の額を鷲掴みにして、ベニオは保持から命を吸い続けた。
 そして彼女が手を離し、保持はそのまま床に倒れこんでしまった。
「しばらくすれば、サリナも目を覚ますだろう。あと、俺とこの事は内密に……サリナは何故か奇跡的に助かった。それが王家に秘められた力――そういう事にしておいたほうがいい。では、いずれまたどこかで……残り少ない貴殿の人生が、最大の喜びで満たされますよう……」
 ベニオの声が遠のいてゆく。
「最後に――我等が私怨――かなえ――う――し――が、――に――され――ば――の――も――う……」





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最終更新日  2009年08月23日 20時47分23秒
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