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2009年08月22日
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 とりあえず心身ともに異常がなく、その心配の原因の説明を受けた保持は、珍しく幸運に恵まれたことに感謝した。普段の保持なら間違いなく最悪の結果を招き寄せていたはずだ。
 そして最重要な危機を脱した後は、二人をパパとママ呼ばわりする少女へと関心が戻っていった。
「ねぇ、お名前は? なんていうの」
 保持の子供でない事をやっと理解した沙理菜が、女の子に名前を尋ねた。どちらにしてもこの状況から抜け出すまでは、見知らぬとはいえこの子を放っておくわけにはいかない。
 そうなるとまず必要になるのは名前だ。
「コモエのなまえ? コモエはコモエだよ?」
「コモエちゃんね。いい名前ね。それじゃコモエちゃんは何でここにいるのかな?」
「えっとね、えっとね。パパとママにあいにきたの」

「ウン! ベニオママといっしょにいたんだけどね、いなくなったの。でもパパがいるからへいきだよ」
「ずいぶんと無責任ね……じゃ、そのベニオさんがコモエちゃんのママ?」
「ママはママだよ? ベニオママはベニオママ」
 沙理菜が頭を抱えている。
(気持ちは分かるよ……)
 保持もコモエの言っている意味が理解しきれず、頭を抱えたい気分だ。
「とりあえず、この子の素性は置いておきましょう。問題はこの後どうするか、よ」
「えっと、どうすればいいんでしょう?」
「とりあえず状況の説明ね。私たちはここに閉じ込められているの。空間転移された、という前提で話を進めれば、動力源の供給が絶たれているから、扉はおそらく開かないわ。そしてどこか歪んでいるのでしょうね。びくともしないわ」
「そうですか……」
「問題その2。自動防御機構が作動しないわ。メビルスとの接続が切れているからね。それと私のアイリーンもダメだったわ。おそらく精神波妨害されている」

「攻撃を受けたら身を護る術はないってことね」
 その後、保持は沙理菜から状況の説明と、今後の方針を大まかに説明されていると、外で物音がした。
 沙理菜に緊張が走る。ドアを無理やりこじ開けようとしている。沙理菜から説明された状況から考えると、味方である可能性は低い。もし味方ならドア越しでも中の様子を聞いてくるはずだ。
 そして案の定というべきか、押し入ってきたのは三名のアルバール兵だった。
「出ろ! おとなしくしないと、痛い目にあうぞ!」

「なんだ? このガキは? こんなガキ、報告にはなかったぞ?」
「いいから連れて行け!」

兵に連れられいどうすると、沙理菜の推測どおり、巨大な空間に丸く切り取られた巨大なガラクタが転がっていた。
「……無茶するわね……」
 ポツリ呟いた沙理菜の言葉から、この方法はあまり一般的ではないことを保持は理解した。
(一般的じゃないって事は、何か問題があるって事だよな……普通に考えると)
 保持達は乱暴に残骸から少し離れた場所へと連行されると、手首に新たにブレスレットのようなモノをはめられた。
 そしてそこから全身に電流が走り、痺れて動けない。
「司令にご報告しろ」

 本当は痺れていて動けないのだが、強引にモニター見るように強制され、保持は兵士の助けを借りて、そのモニターを凝視していた。
 そこに写っているのは白髪白髭の老人で、髪はオールバック、髭は短く刈り込まれている。
 横目にはいった沙理菜の表情が変わる。
 沙理菜にも同じ物がはめられ、身動きできないはずだが、保持よりも多少の自由が利くようだ。
(精神力の差……僕は根性無しだからか……それよりも、この男が、第十五艦隊の司令官……名前は……穴熊のバリー……何か違うな……)
 ビリー・バーバリンは両腕を組んで保持を観察すると、蔑んだ表情で一笑した。
(何でこんな頼りない男の為に自分が――とか考えている顔だな……)
『貴様が棚加保持だな』
「――」
『返事はするな! 猿の奇声など聞く気はない。時間の無駄だ!』
 ビリーは言い放つ。もっとも、返事する事も出来ないぐらい痺れていたのだが……
『しかしとんだ手土産が出来たものだな。雑魚を釣りに来たら、とんだ大物が針にかかった。サンクロバ王家の娘、交渉材料としての人質としては最高だな』
 沙理菜は相変わらずビリーを睨み付けている。
『聞けば我が艦隊のケネス大佐が一度は捕獲していたというのに……無能者が……オスは檻にでも入れて倉庫の片隅に放置して置け! メスは犯せ! 孕ませるんだ。人工の淫魔に遠慮はいらぬ。孕むまで順番に犯し続けろ!』
 カッと保持の中に憎悪が生まれた。沙理菜を侮辱するばかりか、損案ひどいことを兵器で言い放つ。そしてこれからそれは行われるのだろう。絶望にも似た感情を攻撃欲求に変え、保持は画面の先のこの男を嬲り殺したい――そんな激情に駆られていた。
『そのメスを各艦に輸送しろ! 慰安婦としては最低、動物による代替品だが、無いよりはマシだろう。抗体を――ん? なんだ?』
 保持の怒りが上限知らずで高まっていく中、モニターの向こうのビリーも、補佐官の報告に顔色を変えていた。
『ん? “聖典”に? 不確定要素? 未来視に波? 確立が著しく低下だとッ? 馬鹿者ッ! 早く何とかしろ! “ア? それをするのが貴様らの仕事だろうが!』
 突然モニターにノイズが走り、ビリーの姿が消えてしまった。何がおきたのか――それを推察するよりも早く、コツーンと何かが床に落ちる音がした。
「今の音は何だ? おい! 誰か調べろ!」
「今のは探索素子……」
「え?」
「……未確定の場所に転移しようとする時に、先に転送し周囲の状況を強制送信する、端末機械よ。画面が消えたのは多分、送信の影響よ。あれは強力な電波を発生させるから」
「ということは……」
「どこか――この状況だと、おそらくメルビスから何かが転送されるって事ね……」
「何が転送されるの?」
「一般的に考えると、無人兵器、もしくは爆雷……」
「えぇっ!」
「何をこそこそしゃべっている! 早く来い!」
「痛い! 痛いよ」
「パパをいじめないで!」
 背中を銃で強く小突かれうっかり口にした事で、コモエが兵に突っかかった。保持は慌てて平静を装い、コモエを引き止めると「大丈夫、苛められていないよ」と笑って見せた。しかし内心は肝を冷やす思いだった。今までアルバール兵と何度か接してきた経験から、いくらコモエが幼かろうが、手加減するはずがない気がするのだ。
(確かに九十九は僕にも優しいけど、あれは例外……だよな。それにコモエちゃんが小さくて可愛いからこその危険、と言うものあるよな)
 不用意に問題は起こせない。アルバール兵の目に付くような行動は控えなければならない。保持が静かに決心を固めている直後、何かが爆ぜる音がした。
「二人とも伏せて!」
 バチィーンと拍子手のような爆音がし、何か小さな黒い物体が空間の中央部に現れた。





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最終更新日  2009年08月23日 20時48分36秒
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