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2009年08月22日
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 第四章 始まり

     1 前

 アイクの保護の報告から三日後、メビルスは危機的状況に陥っていた。
「いまだ謹慎中の三人を呼んだのは他でもないわ」
 どうせまた、ろくでもないことだろう――そう高をくくっていた保持だったが、ネリュートの口から伝えられたのは、全く予想もしていなかったことだった。
「完全包囲されちゃった テヘッ」
確かに無意味に慌てふためくのもどうかとは思われるが、バチコ~ンと悠長にウィンクしている場合ではない。呆気にとられていると、沙理菜が何か非難するような表情を示した。しかし沙理菜が口を開く前に、ネリュートが呟いた。
「どこかの誰かの独断で、中継衛星港で時間を取っちゃったからかな?」
「……申し訳ありませんでした」

 嫌味を言ったネリュートではあるが、それほど気にしていなかったのか、ただ単に沙理菜をからかいたいだけだったのか、謝罪を軽く受け流すと、表情を引き締め正面に映し出された各艦の配置映像を凝視した。
 そこには保持ですら容易に理解できるような、模範解答の包囲が完成していた。
「申し訳ありません……アイクさんの一件以降、航路を特定されないように試みていたのですが、こちらの選択肢を予測するかのように全てを潰されてしまいまして……このような結果になるまで報告を怠ったのは、私の責任です」
「気にする事は無いわよ。ナーシャ。艦の運行に関する決定権は貴女にあるもの。報告と運行記録を見る限り、落ち度はないと思うわ。私もここで航路を確認していたもの。私も貴女と同じ結果を出したはずよ。今はそんな事よりも、この状況をどうするか、よ」
「はい。ありがとうございます。しかし……」
 ネリュートに深々と一礼し、ナーシャも悔しそうに画面を睨み付けた。
「こうも見事に包囲されてしまうとは……」
 ふと気が付けば、ネリュートがこちらを見ている。
「なんだか、分からないっていうより、お話についていけないって顔ね、保持君。あのね、今までこのメビルスが完全包囲される状況になった事がないの。あ、でも慢心や油断でこんな事になったのじゃないのよ? ナーシャがいっていた通り、こっちも敵の動きを予測して裏の裏の裏あたりまで考えて、行動していたの。完璧と言うのは傲慢かもしれないけど、今まではこんな事にはならなかったわ。それがメビルスの性能と思ってもらってもいいわ」
 ねりゅーとは自己弁護を終わらせると、大きな胸を押し上げるように腕を組むと、小さなため息をついた。
「でも、見ての通り完全に包囲されちゃったの。さてどうしてでしょう? というのが今の状況ね」

 ネリュートの話を補強したのは九十九だった。まさか彼が密告――というような、保持ですら考え付くような事を、ネリュートが気付いていないはすがない。九十九がそんな事などしていないという確証か裏付けが取れているという事だ。
(友達を疑うなんて……)
 何よりそんな自分自身が情けなく、恨めしい。
「そう、そのメビルスが隠密行動をしていたというのに、敵に先の先の先の先まで読まれていた……有り得ないわけじゃないけど、にわかには考えられないわ」
 相変わらず保持がわからないと言う顔をしていたからなのだろう。沙理菜が耳元で細くしてくれた。

「で、この艦が近付いたら、こっちは通行止めだ、とばかりに出てくる。そうやって退路を断っていくうちに、メルビスは逃げ場を失い、包囲状態になっていたわけだ」
 沙理菜の説明に乗っかかってきた九十九の説明を加え、どうにか状況をなんとなく把握した保持だったが、だからといって事態が好転したわけではない。何も出来ないだけに、言いようのない不安が襲い掛かってくる。
「さすがのメビルスとはいえ、この包囲じゃ単艦突破は無理ね」
「まさか、あなたがこちらの位置を……」
 九十九を疑ったのは保持だけではなかった。しかしこの状況では疑いたくなるというものだ。
「おっと、州上、俺じゃないぞ。発信機とか持ち込んでいない事は、十分検査して分かっていますよね。司令官閣下?」
「そうね。九十九君が何かを持ち込んだ形跡も無いし、生体調査までしたけど、疑わしい所はなかったわ。それにこの艦は内部からの電波や思念等一切遮断されることは、サリーも知っているでしょ?」
「しかし、それでは何故? もしかしたらアルバールが新技術を……」
「可能性は無いとはいえないけど、まず無いわ。もしそうなら、私の情報網に引っかからないはずが無いわ」
「……司令の情報網は地獄の地引網といわれ、それはもう、手当たりしだいですから……」
「ナーシャ? 何か言った?」
「いえ、何も……」
 打つ手なし――何か考えはあるのだろうが、少なくとも保持には何も考え付かない。そこに発言をしたのが九十九だった。
「その事なのですが……あの、すいません。ウチの艦隊の情報とか分かります?」
「ちょっとまってね。イリーア分かる?」
「お待ち下さい。妨害粒子の影響で……艦影が不鮮明でして……」
「分かりました。ありがとうございます。出来れば確証が欲しかったのですが、しょうがありませんね。保持、お前が捕まった艦、どこの艦隊だったか覚えているか?」
「あ。えっと……カエルみたいな艦長のいる……五? 確か五の付く艦隊だったような……」
「そう、第十五艦隊」
「!」
 艦橋に緊張が走った。その空気をまとっていないのは、事情を知らない保持と発言元の九十九だけだった。言い換えるなら、みな殺気立っている。
「……これが第十五艦隊としたら、旗艦はゴーランド、司令官はビリー・バーバリン少将ね」
 ネリュートの声は心なしか震えていた。
「バーバリン少将、命令には従順――いや命令は絶対。手堅い作戦を得意とする反面、柔軟さに欠ける老将……」
「……なるほど。むしろこれは手土産ってわけだったのね。粋な計らいしてくれるじゃない」
 ネリュートの声はまだ震えていたが、不敵に微笑む表情から、それが武者震いである事が伺える。
「いやはや、手違いが多くて、当初の予定通りには行きませんでしたが」
「十分よ。臆病な穴熊を巣穴から引き出してくれただけでもね」
「引き出したまでは良かったのですが……ね。月の中継港でアルバールの動きがどうも妙でしたので、少々調べていたのですが、バーバリン提督は軍上層部から何か特命を受けていたようです。出来れば確証を得ていれば、何かしらの報告出来たのですが……せっかくの贈り物の価値を下げるな、との命を受けていましたので……」
 ネリュートは「それじゃしょうがないわね」と呟きながら形のいい顎を指でつまむと、不鮮明な艦影の映し出されたモニターを睨み付けた。
「そう、そういう事ね……相手が見えない包囲作戦なんて、穴熊には一番苦手な作戦のはず。奴を引き出す裏工作があったにしろ、奴が選任されるはずは無い。臨機応変な柔軟さではなく、穴熊の盲目的な従順さが必要とされた……それが特命の内容って事ね」
「……つまり布陣は、こちらの動きにあわせたものではなく、予定されていたもの……だとしたら、どうでしょうか? 当方の情報工作があったにしろ、現場の判断よりも規定された命令をただ盲目的にこなす、それだけを求められて穴熊があてがわれたとしたら」
 九十九の言葉に全員がハッと何かに思い当たったようだ。……保持以外は。
「! エインソーフ!」





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最終更新日  2009年08月23日 20時52分18秒
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