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2009年08月22日
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 九十九の目測では、暴走したアイクが小型艇で勝手に飛び出した――と思わせ、実はそう仕向けられた、のだろう、とのことだった。
「ベルソード家は王家と繋がりが深いですからね。末妹とはいえ彼女の心象を悪くすれば、王家の覚えも悪くなる。アイクを娘のようにかわいがっている王子もいらっしゃいますから」
「あぁ、いるわね」
 なぜかネリュートがそう相槌をうつ。おそらく彼女の情報網にかかればそんなことすらすでに把握済みなのだろう。
「そんな彼女を危険な目に合わせたとしたらもう終わりでしょう。しかし、当人の意思で危地に飛び込んだのなら、それは不可抗力。まぁ、状況にもよりますが、今回の場合では言い分は通るでしょうね。王家だって一枚岩じゃない。ベルソードを快く思っていない者は多いですから、敵の敵は――ということで快く思わない別王家の後ろ盾ぐらい貰えるでしょうし」
「なんで? 宇宙一の剣術道場の家なら戦力になるんじゃ……」
「ほら、さっき、ベルソードはサンクロバ発祥って言ったじゃない?」
 保持の呟きを聞き逃さず、沙理菜が“教えてさりな先生”といった感じで、ある種独特雰囲気をかもしながら、保持に確認を促す。

「俺も今しがた、王家は一枚岩じゃない、と言っただろ? サンクロバ王家だってその例外じゃない。王家の中にも血筋縁者による派閥が存在するんだよ。そして彼らは互いにいがみ合っている」
「ウチは基本的に世襲制じゃないからね。私の――いえ、私達の母は現在女王で、私は一応第一王位継承権を持っているけど、私が王位を継ぐとは限らない。今はアルバール連合との戦争の真最中だから、直接戦力を束ねる元帥の私が王位継承権一位だけど、戦争が終わり平和になれば、軍事力を背景とする私よりも、政治力の強い、そうね、ローラ辺りにお鉢が回るんじゃないかな? というか、平和になったら私は邪魔だろうから、他の王族総出で暗殺にかかるでしょうね。ま、そんなこんなで、その時その状況により、王位継承順位は変動するの」
「そんな物騒な……」
 だがネリュートにとっては、既にそれは覚悟の上の事実なのだろう。そういう事情を含めて今のネリュートがあるに違いない。
「で、話を戻すと、過去にサンクロバでそんないざこざがあって、王家の一家が直属の臣下をつれてアルバールに亡命したわけだ。その臣下ってのはベルソード一族ってわけだ。で、アルバールに渡ってから今の道場を開いた。ちなみに亡命した王族はアルバールの王家と婚姻を結び、現在は王家の一柱となっている。ちなみに柱は柱でも、細い柱だけど、というオチがつく」
「……そうか、今でもベルソード家というのは、その王族直属ってことなんだね」
「そういうこと。そしてどんなに強大な勢力を持ち、国益に貢献していようとも、自分達の利益につながる力にならないのなら、基本的には邪魔な勢力でしかない。それが敵に回る可能性があり、懐柔できないのなら、存在意義はないのと同じ、と判断するわけだな」
「どこも世知辛いわね……」
 なんとなく話がまとまった所で、イリーアが遠慮がちに報告を始めた。
「司令、その小型艇から通信が入っています」
「出して」

「あいつらしいな。おそらく間違えて送信したんでしょう……本人は映っているつもりでしょう。あいつは基本的にドジっ娘属性完全装備だからな」
「あら? 妹には必須の能力じゃない?」
「お! 司令官閣下はわかっていらっしゃる! しかし実の兄からすると、そこが危なっかしくて……」
「おぉ! お兄ちゃんしているねぇ~ チミィ~」
「いやいや、はっはっは」

 沙理菜が呆れたように……いや、既に呆れながら呟いた。保持も彼らのノリに今ひとつついていけない。
「で、通信では何と?」
「出します」
『兄様! ベルソード一門の端員として逃げ隠れせず、私の前に出てきなさい! 私のこの刀の錆にしてあげるわ!』
「ちょっと具体性のない通信ね。どこに出て行けばいいのかしら? それはともかく、どうする? あの子をこのまま放置しておくわけにはいかないわ。航路を見る限り、こっちの位置は分かっていない様子よ? あれは探し回っている飛行よ?」
「頭に血が上って飛び出したはいいけど……って所ですね。馬鹿だな。あいつは」
「かといって、彼女を招き入れるわけには行かないわ。相手にこちらの位置を伝える事になる。私なら保険として小型艇に工作員を忍ばせるわ。かといってこのままってわけにも……ねぇ」
「実に私的なお願いなのは承知していますし、今の自分にそこまで要求する権利は無いことは分かっています。ですが――」
「分かっているわよ。あの子を見捨てたりはしないわ。とある王族の誰かさんも悲しむ事でしょうし」
「……恐れ入ります。つきましては一隻お貸しいただけませんか?」
「反対です!」
 沙理菜が猛然と反発した。
「彼はアルバールの人間です! その彼を妹さんとはいえ、敵と接触させる事は危険です」
「ふむ、一理あるわね」
「そもそも、彼女が彼の妹であるという確証もありません! そして彼女がアレに乗っているという確証もありません!」
 確かにあの少女が九十九の妹であるという事は、九十九本人の申告だけである。そして小型艇からの通真に映像がないということは、既に録音した何かを流しているとも考えられる。
「本当だって。一度俺の家計図みてもらえばわかるって」
「彼女は確かにツクモンの妹よ。まぁ、わたしの手元にある情報が間違っていなければ、だけどね。そして今の通信はほぼ直接的な通信だったわ。機械的な干渉の形跡はない」
「……」
「私個人が持つ情報網とこの艦の偽装処理能力が正確であることは、あなたにもにもわかっているでしょう?」
 沙理菜は口を閉ざし、気持ち身体を後退させた。
「でもね、ツクモンには悪いけど、今は許可できないわ。どんな形であれ彼女に接触するという事は、敵にこちらの位置を特定させる可能性が高くなる」
「でも見捨てないって……」
 保持は思わず聞き返していた。九十九の妹とは面識ないとは言え、目の前で見捨てるのはあまりに目覚めが悪い。
「見捨てたりはしないわよ。ただ“今は”小型艇を出す事には反対しているという意味」
「じゃ……」
「さっきツクモンも言っていたでしょ? あの子はベルソード家で某王子のお気に入り。彼女を見捨てることは、あっちの人間にとっては致命的じゃない? たとえ他の王家の賛同を得たとしても、王子は絶対に許さない」
「え? まぁ……そうですよね」
「だから当然あの艇はトレースされているとみて間違いないわね。言葉は悪いけど、駒としての価値はまだまだあるのだからね」
「そう、ですね……」
「だから、不用意に彼女に接触する事は危険、ってことなのよ。だから危険じゃなくなって、あの小型艇がまだ浮遊しているようなら、助けに行きましょう、って事でいい?」
「……はい……申し訳ありません。失念していました……」
「妹さんの事で、周りが見えなくなった? ウンウン、私はそんな青臭いの好きよ。そういうわけなんで、申し訳ないけど、彼女の無事を祈るしかないわね。でも、好都合でもあるわ」
「そうですね。司令……」
 うまくまとまったかに思えたのだが、ネリュートは表情を曇らせた。
「それにしても、どうやってこちらの位置を特定したのかしら?」
「それは高周波の通信を送って……」
 沙理菜の答えに、ネリュートは首をかしげた。
「そうなんだけどね、それだって無限に流せるわけじゃないわ。ある程度の場所の特定をしていないと無意味じゃない?」
「そう、ですよね。子供服売り場で迷子になった子供を、紳士服売り場で捜すようなものですからね」
「相変わらず、良く分からない例えね……」
 九十九の相打ちにため息を吐く沙理菜の言葉で、なんとなくその場は「月からの航路を予測して」ということで収まってしまった。

 その後、アイクの乗った連絡小型艇は月の方角に流れて行き、メビルスからの通信で月に駐留しているネリュートの息のかかった工作員によって拿捕された。案の定、小型艇の船内にはアルバールの工作員が潜伏していたらしいが、その工作員が負傷した以外は目立った被害は出なかったらしい。
 こうしてアイクは月のサンクロバ軍に無事保護され、その報告を聞いた九十九の安堵感をあらわにした姿が保持には印象的だった。

しかし……
のんきに他人の無事を祈ってはいられない状況に、この時既に足を踏み入れつつあったのだった……





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最終更新日  2009年08月23日 20時52分30秒
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