サボっていたお詫びに、去年のボツ原稿を掲載します。ボツすなわち採用してくれない原稿です。
ボツ作品ではお詫びになっていないですね。
いつになったら採用される文章が書けるのでしょうね。ため息ですわ。
まあ暇つぶしができたと喜んでいただければ幸いです。
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遂に犯行に及んだ。今日の日を首を長くして楽しみに待っていた。
悪事をなぜ楽しみ待っていたのだって?確かに悪事が楽しみと言うと不謹慎であろう。
計画をしたのは、去年の3月31日22時27分。そして翌日の4月1日に準備を今回の犯行計画の実行を開始したのである。
完全犯罪。これが最も重要である。捕まってしまうのは耐え難い。計画が失敗したときに、その後の処遇がいかなるものかを考えると、小心者であるが故に眠れなくもある。
成功するには、慎重に慎重に、ここまでやるのかと思えるくらいに過剰に、抜け目無く丁寧に準備を進めなければならない。
昨年の4月1日5時58分。
雨の音を聞きながら綿密な計画を思案した昨日とは違い、陽が昇るにつれて、空が段々と青く明るくなってきた。良いお天気だ。
天も我に味方した。使用するブツは湿気を嫌うものであるから、これはスタートの時点から幸運の女神も計画が失敗しないようにと応援していると感じた。
ブツを入手する為に家を出る。起きたらすぐに出かけることが出来るように、昨晩は服も着たままで寝た。確実に手に入れるため、顔も洗わず、当然に歯も磨かずに出かけた。
いつも利用していた店でブツは販売されている。以前は商品を購入していたのだか、収入が減ったために、ここ数年は利用していない。その店に電話をすれば、もし残っているならば、確実に取り置きしてくれるであろう。ただ不審に思われることと、しばらく買って頂いていないからまた購入してくださいと営業攻勢をかけられるのが嫌なので、隣町の同等品が売っている店まで出かけることにする。ブツを手に入れることが出来なければ、計画そのものが無くなってしまうからアクセル全開で車を走らせる。
出勤前に、早起きして動いて正解だった。問題なくブツは入手した。乱雑に扱うと、品質に致命的な問題が生じるので高額のガラス食器を運ぶように慎重に持ち帰った。そぉっとそぉっと。腕が震えてくる。それだけデリケートなブツである。
昨年の4月1日21時3分。
仕事から帰ってきた。朝に入手したものを、陽の当たらない冷暗所に保管しなければならない。家族の者にも見られず、安定した環境の場所。ブツが変質してしまっては計画に差し障るから知恵をしぼった。いろいろと考えた末、押入れの奥が見つけにくくてよい場所だとわかった。
片付けと称して押入れの中をすべて出した。そして一番奥のスペースに入れるのである。朝に入手したブツをビニールで丁寧に包み、そしてブツの上に、他の荷物が載ってしまうと大変なことになることから、黒い樹脂の衣類保管箱に入れた上で押入れの奥に置いた。もちろん乾燥剤も忘れずに。湿気てしまっては使えないのである。
そして計画を実行するときが来るまでに、誰かに見つかると計画が実行できずに終わってしまう為、見つかることの無いように、黒い樹脂の保管箱の周りを、古本を入れたダンボールで囲った。重い古本の入ったダンボールは、さすがに何かが無い限り動かそうとは思わないだろう。この為に荷物が溢れたが、計画の為にはやむを得ず、保管スペースを贅沢に確保した。
長くて短い月日が流れた。
今年の3月18日。
計画から、もうすぐ一年になるが、重要となる課題の一つ、犯行時に顔の表情が読まれないようにするための訓練も行った。毎日毎日、鏡を見ながら自分自身の考えていることが表情に出ないように、かかさずに訓練をしてきた。
何があっても、実行しているときに、まわりの人間に決して感づかれてはならないのだ。
朝7時35分の電車。いつもは使わない時刻の電車である。
今日から毎日この電車の、同じ扉から、また座る場所も同じところを選んで乗るのである。それは計画の予行の意味合いもあるのだが、被害者を誰にするかを探すこともしなければならなかったから、犯行日のまえから下見をするのである。
賢明な方は感づかれたであろう。憎しみを抱いている人間に対しての反抗ではないのである。被害となるのは誰でも良かった。無差別な犯行なのである。
毎日乗っているうちに、この電車は、計画の遂行に好条件であることも確認した。
いつも利用する時間の電車は混雑しているのであるが、この時間の電車は、まだ自由に座る場所が確保でき、そして段々と乗客が増えていき、降りる駅では満員になっている最高のパターンと云うこともわかった。大勢の人が被害者となる可能性もある。心が躍った。
新年度が始まる今日、4月1日。
新しい年度を気持ちよくスタートしたいと願うのは誰もが思うのである。だからこそ、その思いを打ち砕く、今日という日は最も犯行に適した日なのである。
7時34分に電車が到着。ゆっくりと滑り込んできた電車の扉が開き、平静を装って乗り込む。七人掛けのシートの真ん中に陣取る。いつもと同じ人間が同じように乗ってくる。
朝の空いている電車内、軽やかな車輪の音が気分を落ち着かせてくれる。すこし揺られながら、乗ってから三つ目の駅に到着。ここでは、かなり多くの乗客が乗ってくる。勤め人の習性か、座っている乗客も立っている乗客も、ほとんどが同じところに陣取る。背中に何かが走るくらいに、怖いほどに計画が滞りなく進んでいる。
徐に鞄から新聞を取り出して広げる。横に座っている五十代半ばの頭の少し禿げた男性。いつものように新聞を覗き込んでくる。吐く息が臭いので近付いて覗き込まないで欲しいと毎日思っていた。かわいいお姉さんの吐く息ならまだ我慢していただろう。
そして前に立っている、二十代後半と思われるノーネクタイの会社員の男性。上着の下に見えるシャツのポケットに、だらしなくネクタイを折りたたんで入れている。家を出るときにネクタイくらい締めてから出てくればと思うのである。ネクタイを締める時間も無いのだろうか。この人物も毎日新聞を盗み読みしていた。
見えるものであるから、読んでも良いだろうが、何かしら嫌いなタイプということと、他人の新聞を盗み読みして、自分の小遣いを使わないようにする、そのケチなところが、どうしても許せなかった。
ただそれだけの理由であるが被害者にするのには申し分なかった。
二分後、仕事場の近くへ行くバスがある駅に、まもなく到着するとの車内放送が流れる。
電車が止まるまでに、新聞をたたみ、立ち上がって、いつもと同じ様に網棚に載せ
る。ドアのところまで移動したときに、ねずみ色の作業着を着た四十代後半の男性が、網棚から新聞取って、今まで私が座っていたところに陣取ったのが、この数日間であるが、毎日同じように繰り返される行動が今日もその通りにされたと確認できた。
そして被害者となる三人は仲良く新聞を読み始めた。気付いてもよさそうなのが、三人ともが気付かずに熱心に新聞を読んでいる。そこにとんでも無い仕掛けがあることは、まだわかっていない。
ホームへ出て、ドアが閉まる。
成功した。
このときを1年近く待ち続けたのである。
乗ってきた電車を眺めながらホームを歩いていくのだが、最後尾の赤いテールライトを見ていると、口元が完全に緩んでしまい、成功の喜びを隠せなかった。どの時点で大騒ぎになるか、それを直接見ることができないことが唯一残念ではあったが。
計画は全てにおいて問題なく終了した。完全犯罪の成立である。そして絶対に捕まることはない。エイプリルフールだから。
完全な犯行にする為、誰にも計画を洩らさずに、去年の4月1日の新聞を丁寧に準備した甲斐があった。
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