備忘録その9 . Weingut Rita & Ludolf Trossen
モーゼルはキンハイム村のリタ&ルドルフ・トロッセン。 1978 年からビオディナミ、徹頭徹尾自然なワイン造りにこだわる生産者。世界はどうあるべきか、理想に近づくには自分はどうしたら良いのかを考えた結果が、ビオだったという。父の死で醸造所を継ぐことになったので、「ビオなんて出来る訳がない」と反対されることもなく、また、社交的な、人当たりのよい性格で村人との折衝もうまく話をつけて、ビオを続けてきた。
近年は亜硫酸無添加のリースリング、プールス・シリーズに力を入れている。亜硫酸無添加ということは、ワインが何も保護されていないセンシティヴな状態なので、セラーにある時から常にタンクを満たすなど、丁寧に丹念に醸造しなければならない。醸造所の規模 2ha
という小ささが、様々な区画からの亜硫酸無添加のリースリングを可能している。
亜硫酸無添加だから体に良い、とか、頭痛がしない、ということを目指しているのでは全くない。ワイン本来の姿を求めて、あるいはリースリングの可能性を追求した結果、それを好む顧客が現れ-例えばコペンハーゲンのレストラン「ノーマ」など-、ドイツでもヴァン・ナチュールに力を入れるショップが出て来て、需要が増している。
今回も昨年訪れたときよりアイテムが増えていた。オイレ、シーファーシュテルン、ピラミデ、マドンナ、シーファーゴルト。ノーマルなリースリングとは構造が違っても、畑ごとに違う個性が出ている。 個人的な印象では、 2014
は 2013
よりピュアでエレガントで、 2013
では筋肉質でエネルギッシュだったピラミデが、ずいぶんとしなやかで味わい深く、逆に繊細でほっそりと感じたシーファーシュテルンが、その名の通り口中で光芒を放つようなエネルギー感をそなえていた。マドンナは厚みと重み、なめらかなテクスチャー、完熟した柑橘類と干したアプリコットのヒントで充実。プールス・シリーズを試飲した後では、ノーマル版だという、やはり 2014
のマドンナのシュペートレーゼ・ファインヘルブを飲むとほっとするが、どこか物足りなさを感じてしまう。が、愛すべきモーゼルらいしリースリングだ。
プールス・シリーズは、これまで瓶内二次発酵しているシャンパーニュのように王冠で栓がされているが、アメリカの顧客がなんとコルクで栓をしたものを求めているという。亜硫酸無添加だけに瓶内再発酵や酸化のリスクが非常に高いのだが、それでもいい、と言っているらしい。トロッセン氏も前向きだ。我々が訪れる数日前にも、モーゼルの生産者達が集まって、スクリューキャップとコルクで栓をした同じワインを寝かせたものを比較試飲したが、その際の結果は一目瞭然で議論の余地がなかった、という。もちろん、コルクの方が断然よかったそうである。そんな訳で、リスクはあってもとりあえず試してみるそうだ。
試飲後葡萄畑へ行く。粒が小さく、ばらけている房が多く、生産量は控えめになりそう。マドンナの区画の裏手に 1ha
あまりの急斜面の畑があり、今年から持ち主が世話をやめてしまったそうだ。誰か引き受けてくれる人を探しているのだが、まだみつかっていない。ブドウ畑の世話は、週末に都会から来るだけでは、到底やっていけるものではない、とトロッセン氏は言う。しかもキンハイムのほとんど無名の畑だけに、誰もやりたがらない。有名な畑なら、後継者はすぐに見つかっただろう。
(つづく)
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