3. Château Pauqué
トリーア滞在二日目に行ってきたのはモーゼル川上流の醸造所だ。モーゼル川の両岸を挟むようにして、斜面に葡萄畑が広がっている。かつての国境検問所跡のある橋をわたり、ルクセンブルク側に入ると、急に家並みが白茶けてフランスっぽくなる。
8 月の最終週にある、ザールのファン・フォルクセン醸造所の新酒試飲会に出展している、アビ・デュール Abi Duhr 氏の醸造所だ。デュール家は約 350 年の伝統を持つ醸造家の一族で、ドメーヌ・マダム・アリ・デュールが、アビ・デュール氏の実家にあたる。事務所は恐らく一世紀以上前に建てられたと思しき洋館だった。玄関を入ってすぐのところにある、大きな暖炉を囲むソファで、我々は 2 時間半ほどお話を伺いながら試飲した。
ルクセンブルクの葡萄畑面積は
1300ha
弱で、ラインガウの約
3
分の
1
の広さだ。その約
60%
を醸造協同組合が栽培醸造していて、残りの葡萄畑を、個人経営の醸造所が栽培している。シャトー・パークはその中でもトップクラスの醸造所の一つで、モーゼルで言えばフリッツ・ハーグとかヘイマン・ルーヴェンシュタインとか、そういった位置づけになる。
オーナー醸造家のデュール氏は 1953 年生まれ。ガイゼンハイムで醸造学を学んだ当時、白ワイン中心で、しかも分析値と効率を重視したワイン造りに物足りなさを感じ、ボルドーの研究所に 1 年間留学して、醸造学の国家資格を取得した。そこでポール・ポンタリエ氏、ドニ・デュブルデュー氏と親交を結んだ。今もワインジャーナリストとして、ベルギーのワイン雑誌でボルドーを担当している。
ボルドーで学んだのは、ブレンドの醍醐味とバリック樽を用いた醸造だという。モーゼル川沿いの 24km
に分散して所有する、 8ha
の葡萄畑で栽培するヴァイスブルグンダー、オクセロワ、シャルドネ、エルプリング、ミュラー・トゥルガウ、それにピノ・ノワールをバリック樽で醸造し、その大半はブレンドしている。とてもバランスの良い、料理にあわせやすそうな辛口だ。一方でリースリングとグラウブルグンダーは、ステンレスタンクの方が向いているという。
醸造で特徴的なのは、野生酵母を用いて
8
~
10
ヶ月発酵すること。必要があれば培養酵母も使うことがあるが、基本的に野生酵母でじっくりと時間をかけて発酵することで、しなやかな酒質のワインになるという。もうひとつの特徴は、ルクセンブルク全体では
12.5%
にすぎないリースリングが、この醸造所では葡萄畑の約
60%
を占めることだ。
14
種類リリースしているワインのうち、
8
種類が畑違いのリースリングである。
葡萄畑は貝殻石灰質とコイパーが主体で、斜面下部には一部砂質土壌が混じり、畑によって土壌の岩石がごつごつしていたり、細かく砕かれて柔らかかったり、南部のフランスとの国境付近は赤みを帯びた雑色砂岩が混じっていたりして、それがワインの味にも反映している。 2014 のリースリング・パラデイス Paradäis は、しっとりと下に向かって広がる繊細な味で、凝縮した完熟した柑橘の長い余韻。同リースリング・パラデイス・アルテ・レーベンはしっとりとした酒質は共通しているが、透明感と気品に勝る。このしっとりとして繊細な感じが、ルクセンブルクのテロワールの味なのかもしれない。また、残糖も前者は 18g/ℓ 、後者も大体同じ位。ドイツワインで言えばハルプトロッケンかファインヘルブだが、そこで自然に発酵が止まったからで、ワインが自分でそうなった味なのだという。ヘクタールあたりの収穫量は 15 ~ 35hl/ha と低い。
リースリングに関しては、恐らくデュール氏はルクセンブルクで右に出る者はいないだろう。醸造コンサルタントも勤めていて、ファン・フォルクセン醸造所も、
2003
年に醸造責任者が交代した時からの顧客と聞いて、なるほど、それで新酒試飲会に出展しているのかと納得した。他にデンマーク、セルビアとボジョレーでもコンサルタントをしているそうだ。
ルクセンブルクとドイツワインの個性の違いについて意見を聞くと、それは歴史的な事情に由来する、とデュール氏は言う。ここから先はまた機会を改めて報告したいと思います。
(つづく)
PR
Comments
Keyword Search