sinokの【私情まみれの映画考察】

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サイド自由欄

May 8, 2010
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カテゴリ: 映画「は」行
CGバリバリの娯楽大作『アバター』が侵略戦争、低予算SFの『第9地区』が人種差別、という社会派テーマを内包しているのとは逆に、『ハートロッカー』はイラク戦争というリアルな大問題を描いた作品であるにもかかわらず、戦時下の人間性にひたすらフォーカスした映画だ。

徹頭徹尾説明を排除したこの映画は、思い返せばこイラク戦争が舞台だという説明すらなかったようだ。
どういう状況下に主人公たちが放り込まれているのかは、あとでパンフの年表を見るまでよくわからなかった。2004年のイラクがどうだったのか、すぐ思い出せる日本人は一般にはほとんどいない。
だが、選ばれた舞台がイラクであるということは、アメリカ人にとっては重要なことなのだろう。


前宣伝では、爆弾処理という極限状態を嬉々として楽しむ男が主人公であるかのような印象だったが、実際はまったく違った。
むしろ、主人公ジェームズこそが、一番人間性を保っているかのように見える。
私には終盤ギリギリまでまっとうな軍人であったサンボーン軍曹の方が不気味だったのだ。
戦争のおかげで、アイデンティティーが爆弾処理という行為に集約されてしまったジェームズは、相手がイラク人だろうが離婚した元妻であろうが、驚くほどの優しさを持ち合わせている。

真に明日を思って生きていない人間は、他者に対して優しくなるのが本当だと思う。
これがさまざまな人生経験を経て得たものなら幸福な話なのだが、彼の不幸は、それが爆弾処理という極限状態で培われた不完全な心の在り様でしかない、ということだ。
そのために、任務を離れてしまうと自分の中の優しさをもてあましてしまうジェームズの姿は、見ていて悲しい。
戦争でのPTSDが問題視されているのは周知の事実だが、今まで映画でよく観ていたのは、エルドリッジのような姿であって、あまりジェームズのような静かなPTSDは見たことがないように思う。
そしてこれは私の勝手な想像だが、同じPTSDでもある日頭を銃で打ち抜いてしまうタイプというのは、エルドリッジではなくジェームズの方ではないかと思う。
エルドリッジは麻薬や酒に逃げるだろう。しかしジェームズの心は、すでにそんなもので満足できる状態は過ぎている。
もっとも精神に負荷のかかる状況でしか心のバランスが保てない、という異常事態は、映画冒頭にあったとおり、一種の麻薬中毒だ。
だとすれば、彼はすでに重度のジャンキーであり、麻薬中毒に死という終わりがあるように、ジェームズに残された道も劇中の時点で既に死しかありえない。
生きている実感を得るために戦うだって?
私には、死という終わりがそこにあるから、戦場に赴いているようにしか思えない。
だれも殺してくれないから、PTSDの元兵士たちは、自ら死んでいくのだろう。

ジェームズが処理した863個の爆弾は、彼の不発に終わった不幸の数でしかないのだ。


観客を観客のままに留まることを許さず、現場に参加しているかのような感覚を覚える映画だ。
手持ちカメラでの接写と、ぐんと引いて撮る映像とのバランスが絶妙で、臨場感は最近の映画の中では群を抜いている。
説明はなく、セリフも少なく、画だけを伝えて、観客に判断を委ねる撮り方は、そもそも私の好みのストライクど真ん中で脱帽だ。
そこに臨場感という、最近流行の取り方がプラスされたものだから、評価しないわけにはいかない。

たいていの男性監督ならば、男の映画を撮る場合、男同士の熱い仲間意識をプラスせずにはいられないからだ。
これが全然リアリティのない世界の話なら私好みのネタなんだけど、リアルな戦争映画では、真面目に観てしまう分どうしても私は引いてしまう。
戦争映画でよくでてくるのが「仲間のために戦う」というセリフや場面。
これが、この映画には出てこない。
なぜならジェームズと、その仲間であるサンボーン、エルドリッジのら3人は、最後まで真の仲間意識をもてないまま終わるからだ。
彼らはそれぞれプロだというだけだ。お互いを助けるのも、サポートするのも、プロとしての判断だというのは観ていればわかる。
だから、この映画では「仲間のために戦う」という意識は皆無となり、そのためエモーショナルな場面はほとんど存在しない。
あるのはひたすら、爆弾処理という極限状態ばかりだ。
仲間の死体を回収するために命がけで敵地に向かう兵士が出てきたのは『ブラック・ホーク・ダウン』だったが、それは実際戦場では行われていることなのだというが、申し訳ない、正直いって私には理解不能の行為だった。
おかしなもので、『ハート・ロッカー』にはそんな仲間意識丸出しのエピソードがない分、リアルな戦争映画には珍しく、感情移入がしやすかった。
「女は女のためには絶対死なない」と書いたのは塩野七生だが、まったく私も同感だ。
戦争という奴、本質的には男のものだということか。





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最終更新日  May 8, 2010 10:19:03 PM
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