日々草

日々草

2006.07.15
XML
カテゴリ: 本の紹介

『茶色の朝』 フランク・パヴロフ著、(絵)ヴィンセント・ギャロ、 (訳)藤本一勇
       高橋哲哉メッセージ   (大月書店)

 この本は、夏休みに高校生、大学生にぜひ読んでもらいたい一冊である。
この本は、わずか11ページの短い寓話であるが、現代を深く考えることのできる洒落た物語である。
ありふれた、穏やかな日常、ごく普通の市民である「俺とシャルリー」の生活。コーヒーをゆっくり味わいながら、時の流れに身をゆだねていけば、心地よい暮らしができる平和な国。
この国に、ものごとを「茶色」に染めていく出来事が次々に起きている。
でもこの2人、なんだか変だなと感じたり、憤ったりしてみますが「茶色に守られた安心、安全」それも悪くない、慣れてしまえば「快適」だ。
「街の流れに逆らわないでいさえすれば、生活も安心で面倒にまきこまれたりしない」などとさまざまな自己弁護をして、快適に面白おかしく暮らしている。(ように見えた)



シャルリーに逮捕の最後の朝がきた、その場面は、

茶色党のやつらが
最初のペット特別措置法を課してきやがったときから、
警戒すべきだったんだ。
けっきょく、俺の猫は俺のものだったんだ。
シャルリーの犬がシャルリーのものだったように。
いやというべきだったんだ。
抵抗すべきだったんだ。
でも、どうやって?
政府の動きはすばやかったし、
毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。

ごたごたはごめんだから、
おとなしくしているんじゃないか?

だれかがドアをたたいている。
こんなに朝早くなんて初めてだ。

・・・・・


外は茶色。
そんなに強くたたくのはやめてくれ。
いま行くから。

でこの物語は終っている。

 フランスとブルガリアの二重国籍を持つ著者、フランク・バヴロフがこの「茶色の朝」を書いたのは、ジャン=マリー・ルペン率いる国民戦線と名乗る極右党がフランスの各地で大きな影響力を持ち始めた1998年であった。
 東西冷戦の終結後、西ヨーロッパには、イデオロギー対立が後退し、民族・国民的アイデンティティによりどころを求める極右運動が台頭し、今日に至っている。
この極右運動の主張は、「移民労働者や外国人が増えて本国人の職が奪われ、文化が破壊される」という一点で、各国共通のものである。即ち、人種差別に基づく排外主義がその根底に根強くある。

このような社会状況の中で、現代フランス社会へ危機感を抱き、抗議の意思表示を強く世に示す為に書かれた寓話である。
しかもこの本は、若い人々に読んで欲しいと印税を放棄して、わずか1ユーロで出版された。

しかも2002年春、ルペン候補が大統領選挙で、社会党候補を抑えて2位となり、シラク大統領との決選投票で闘うことになったとき、「極右にはノンを」の運動をもりあげるパンフレットとして、広く読まれ、ベストセラーにまでなったのである。

とても叙情的で穏やかに進む物語。
『茶色』のルールに慣れてしまえば快適だった個人の暮らし。
ある朝、突然の破局さえなければ、穏やかに平和に過ぎていくはずの暮らし。

この「茶色の朝」は
今、この日本の社会のなかでも奥深いところで進行している状況ではないか。

先日、閉幕したサッカー・ワールドカップ、その決勝戦で、フランスのジダン選手のみせた怒りは、あの暴力の怒りの抗議は、「茶色」のルールへのぎりぎりの叫びではないか。
「ジダンの暴力は許されない」と世間は言っている。
しかし、さらにもっと大きな暴力、戦争には、みんな何ら怒りの声を上げていない。
黙ってみている。道理ある根拠のない戦争にさえ、日本人で抗議の声を上げている人は極めて少ない。
「ラブ、ミー、テンダー」などと、戦争を仕掛けている当人とはしゃいでいるほど、日本は平和であるか。

日本の社会に今どんな変化が起きようとしているか。

フランク・バヴロフは、
「やり過ごさないこと、考え続けること」
というメッセージをこの本に寄せている。

日本人は「考え続けること」を止めてしまったのではないか。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006.07.15 12:26:11
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

冨士子婆

冨士子婆

バックナンバー

2026.10
2026.09
2026.08
2026.07
2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02
2026.01

コメント新着

背番号のないエース0829 @ 松谷みよ子 「私のアンネ = フランク」に、上記の内…
冨士子婆 @ Re[1]:夜来の雨(03/28) ミーシャ1225さんへ ブログの年齢間違…
冨士子婆 @ Re[1]:夜来の雨(03/28) ミーシャ1225さんへ お久しぶりです。…
ミーシャ1225 @ Re:夜来の雨(03/28) お元気そうでなによりです。 変わりなくお…
背番号のないエース0829 @ 学童疎開 「外間邦子 ~ 対馬丸記念館 ~ カテゴ…
幸達 @ Re:2018年 明けましておめでとうございます(01/02) 今後ともブログでどうぞ宜しく(=^・^=)
修楽7036 @ Re:早春の絵手紙から(孫娘の祝中学入学)(04/07) こんにちは♪  ごぶさたです。 絵手紙 …

お気に入りブログ

源氏物語〔38帖 鈴虫… New! USM1さん

秋の陽ざしの中で ミーシャ1225さん

秋の安曇野 フォト安次郎さん

ピカさんの夢のある… ピカさん65さん
親仁の意見-50男… 渚のバラードさん

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: