
ナメたらいかんぜよ! 誰もが八方美人の優等生になってしまった今のクルマ界、魂を直撃するピリピリ感を味わうには、手作り感覚のスペシャルスポーツカー以外にない。[2008/04/08]
YES!はドイツ東部、古都ドレスデンの北にある田舎町グロッセンハインに本拠を置く特殊なスポーツカー・メーカー。巨大メーカーが優秀な高性能車を量産すればするほど、それに飽き足らない熱烈なマニアのためのクルマも求められる。それに応える形でヒットしているのがロータスやTVRにケイターハムだが、そんな一派のドイツ代表がYES!だ。
それは、作りを見れば一目瞭然。ド~ンと深い縦メンバーを頑丈な桁で結んだ簡潔きわまるアルミ製フレームに、鋼管溶接製のウィッシュボーンなどほとんどレーシングカーそのままみたいなサスペンションを取り付け、必要最小限のFRPの皮で包んだだけなのだから。コクピットの内装はそれなりに快適に考えられていて、オプションでフルオート・エアコンなども装備できるし、布や革のシート色も5種類から選べたりはするが、基本的な精神はスパルタンそのもの。真剣にドライビングだけに集中する以外、YES!に乗る意味など何もない。
ミッドシップに搭載されるエンジンは、アウディから供給される4気筒1.8Lターボの286psとV6で3.2Lの255ps、それをさらにターボで増強した355psまである。最も重いタイプでもわずか930kgという数字だけ見ても、並みの腕前では制御しきれないジャジャ馬ぶりが想像できるだろう。「お覚悟、よろしゅうござんすね」と、クルマも言っている。
すべてイージーな現代のクルマに慣れた身には、YES!に接すること自体、何から何までエクササイズに等しい。斜め上に開くドアは、うっかりするとそれ自体の重みでバタンと閉じるから、意識して丁寧に扱わなければならない。その前に、剛性確保のため異常に高いサイドシルを跨がなければならないので、スマートに出入りするのがアクロバット的だ。ここはシートを思い切り後ろにスライドさせておき、乗り込んでから位置を合わせるのが基本になる。バックレストの角度は調節できないが、これはステアリングやペダル位置などとともに、注文の時に仮縫いするから心配ない。
注目のポイントは走りっぷりだ。軽いクラッチや低速で粘るエンジンのため発進は簡単だが、そのまま安心して雑にアクセルを踏むのは禁物。特に低いギアでは瞬間ごとにタイヤと相談し、ちゃんとグリップするかどうか確認する必要がある。これほどのパワーに対してホイールベースわずか2355mm、3.2でもそれより10cmしか長くないのだから、うっかり滑らせただけでも角度変化が大きく、修正に大汗をかくことになる。やや鈍いステアリングの手応えは、本物のレーシングカーでゆっくり走る時と似ている。このまま限界まで攻めると感触も変わるだろうが、とても公道では試せない。どこまでも心のブレーキを忘れずに、瞬間ごとのピュアな気分を楽しむのがコツ。
Report:熊倉重春