成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.03.15
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カテゴリ: 高速ツアーバス
縁あって、ある大学の経済学部の学生さんの卒業論文を読ませていただいた。『ツアーバスと高速バスの現状とあるべき姿 ~ネガティブ情報を用いた安全性の比較と運輸安全マネジメント制度への提案を通じて~』。もちろん一学生さんの論文であって、よく目にする研究者の皆様のそれに比べると不足している部分もあるだろうし、事業に直接タッチする者から見ると実態と合っていない点もないわけではなかったが、客観的、かつ真摯にこの問題に取り組んでおられた。本学生さんはもちろん、指導担当の先生のことも私は存じ上げなかったのだが、この論文を読んで何かを感じるのは誰も同じらしく、たまたま目を通した私の知人がわざわざ送ってくれたものだ。そして私も、研究者ら多くのバス産業の関係者に転送させてもらった。

本学生さんは、あずみ野観光バスのスキーバス事故や近鉄バス「フォレスト号」の横転事故などの報に接し、この問題に興味を持ち始めたそうだ。特にあずみ野の事故は彼の身近なところで起こったようで、それがこのテーマを選んだ大きなきっかけらしい。当時は、制度面で共通するスキーバスと高速ツアーバス(この二つは運用面では大きく異なるのだが…)が同一視され高速ツアーバスに対しても否定的な報道が相次いでいたのは確かだ。一方で彼は、「高速(路線)バスは安全、ツアーバスは危険」と安易に決め付ける報道のあり方に疑問を抱き、客観的な評価を本論文で試みている。

その客観的評価の基準として用いたのが、国土交通省が公表している、事業者ごとの「ネガティブ情報」である。ただ高速ツアーバスについては、実際にどの事業者が運行しているかは公開情報からだけでリスト化できるはずもなく、実際に高速ツアーバス各社の集合場所に繰り返し足を運び運行事業者を特定したとのこと。このあたりの熱心さには本当に頭が下がる。一方、「ネガティブ情報」から事業者ごとの事故・違反点数をデータで収集し、それを分析することで「必ずしも高速路線バス事業者に事故・違反が少なく、高速ツアーバス運行事業者に多いというわけではない(むしろ、一部の事業者分類においては逆転している)」という結論を導いているが、まあ、事故・違反点数だけで比べると、事業者の規模が傾向として圧倒的に大きい高速路線バス側に不利にはなろうから、私もこれを持って「ほらみろ、高速ツアーバスが危険という考え方は間違っている」と吹聴するつもりは一切ない。大切なことは、客観性をもってこの問題に取り組むその姿勢なのだ。

いわゆる「内部補助の問題」(高速バスの利益が圧迫され平場の路線バスの縮小を余儀なくされる問題)についても、本来的には事業者は内部補助のスタイルを転換すべきとしつつ、<現実にはそのような転換はなかなか上手く進んでおらず、高速バスの採算悪化による赤字路線の廃止という問題を抱えたまま、ツアーバスとの価格競争に望んで>いると、本来あるべき姿とそれについていけていない現実とを公平に目配りしている。安易に「高速バスの競争激化が地域の交通ネットワークを崩壊させている」と叫ぶ人には、そのような発言が結果として乗合バス事業者や地域住民にとって長い目でプラスになるのか、該当部分だけでいいから本論文を読んだ上で考えていただきたいくらいだ。

先日、私の仕事に好意的な既存事業者の経営者の方から「高速路線バス取扱は増えそう? 営業は順調?」と尋ねられ、具体的な事業者名はお伝えできないながら「おおむね順調です」とお答えした後、「でも」と付け加えた。「でも、地方の事業者さんを中心に、私の会社がマーケットプレイス(総合予約サイト)だということを未だ認識してくださっていない会社も多いようで……。私の会社が高速ツアーバスを自ら企画実施していると勘違いなさっているんですよね」と申し上げたところ、「えっ? そんなこと、サイトの画面見たら簡単にわかるじゃない!?」

おそらく、この一言に集約されていると思う。既存事業者が本当に高速ツアーバスに負けたくないと考えるなら、たとえ5分間だけでもサイトを見るはずだ。面倒でもなければ、コストがかかるわけでもない。私のサイトの画面を見れば、ウィラー・トラベルもオリオンツアーもキラキラ号も(そして一部の高速路線バスも)予約が取れることはすぐ理解できるはずだ。自分たちの事業を大きくしよう(少なくとも、これ以上小さくならないようにしよう)と本気で考える人なら、ライバルたる高速ツアーバスに自分で乗ってみるだろうし、そこまではともかく、サイトくらいは見るはずだ。ウェブを使わない年配の経営者の方であったとしても「そのツアーバスなるものは、どんな会社がやっているんだ?」と部下に尋ねるのが普通だろう。

それが、現実には上記実態なのである。お題目のように「ツアーバスは安全性に問題がある」「地方の路線バスを縮小させている」と叫ぶことが、失礼ながら、自社の高速バスの将来に「本気」である証だとは思えない。もちろん必死で新しい取り組みを行なっている事業者も、担当者レベルはそれを望みながら会社全体ではそうはいかず歯がゆい思いをしている課長クラスや若手も私は多く知っているが、一方で、自分たちの数字が悪いことを高速ツアーバスのせいにして(それも最近は「1000円高速」の“おかげ”で下火だが)、会議の言い訳に使っているに過ぎない担当者も多く知っている。「昨日と同じようにバスを走らせていればさえ昨日と同じようにメシが食えるんだから、余計な話を持ち込まないでくれよ」と迷惑顔の担当者には、まずはぜひ、本論文を読んでいただきたいものである。(内容より先に)一学生さんでさえバスの将来をここまで真摯に考えてくれているその姿勢を学んでいただきたい。ましてや、道路運送法が改正され需給調整が撤廃されたとはいえ、主に「バス停の権利」を中心に実態として参入障壁が大きく残る寡占業界なのである。寡占主体の側が変化を拒み結果として市場をシュリンクさせている罪深さを、認識すべきである。

本学生さんに卒業後の進路を尋ねると、バスとは関係ない某一流企業の名前が返ってきた。このような優れた学生さんにも「一生バスにかかわる仕事をしよう」と選んでもらえるような業界に、変わっていくことはできるだろうか。





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Last updated  2010.03.15 18:13:20
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敵を知り己を知らば・・・  
ぴよれ さん
 いつも本当に楽しみに拝読しております。大型車両メーカーで開発の仕事をしております。
 路線バス事業者の方々は、ライバルを調査することで得られる成功体験をお持ちでないのでしょうか。地域独占のせいかもしれませんが、一度きちんと分析して、経営政策に取り入れれば、大きな成果が出ると思うのですが。逆にツアーバス会社のほうが、常に他社や(バス業界すら超えた)他サービスを良くウォッチしていると感じています。
 我々車両メーカーは常に、他社製品の調査活動を行っています。例えば、「中国はウチの車両を完全コピーして怪しからん」と感情的には思います。が、コピー車を購入、こっそり輸入して自社のコピー元車と並べて徹底的に調査しています。あるいは、現代自動車「ユニバース」は「桁違いの生産台数だからコストで勝負にならない」とは思いますが、同車をお持ちの事業者様に「貸切」でお借りした上で、走りこみ含めた調査をしました。北京交通集団の新型ハイブリッド路線車が高性能と聞けば、北京まで出かけて調査です。
 そこまでするのは、敵を知ってはじめて自社車両の強みと弱点が見えてきます。強みは営業部門に情報を展開し、開発部門は相手の良いところをどんどん取り入れないと、「一方的なやられっ放し」になってしまいます。調査では、公平な評価を心がけます。被害者意識は何も生みません。
 それにしても、国土交通省のネガティブ情報を使っていわゆる新免と路線の定量的比較をすると言うアイディア、やられた!と思いました。実は以前、同じような事を考えていくつかの事業者名で検索したものの、そこから定量的データを構築するのは大変で、すぐ諦めたからです。優秀な学生さんが、足も使って定量的な調査を試みた以上、本職の国土交通省も規制緩和の総括として同様の考察をしてもらいたいですね。 (2010.03.15 22:38:53)

そろそろ決着すべき時が・・・  
経済人@尾張藩 さん
いつも、ブログを拝見しております。
さて、今回を含む3回程度は路線バス事業者への厳しい言葉が並んだように思います。
私は「高速バス統一基準(ルール)」論者なので、ツアーバスにも路線バスにも厳しい意見を持っていますが、最近のツアーバスの「頑張り=営業努力」を見る限り、路線バスにより厳しい目を向けざるを得ません。
「レベニューマネジメント」の話がこのブログでよく取り上げられますが、現在のところ、ほとんどの高速路線バスには、この販売手法が取り入れられておらず(かろうじて、JRバスだけ取り入れているかな?)、単なる「値引き販売」にしか実施していない状況は路線バス事業者の危機感のなさと勉強不足の表れと考えています。
高速ツアーバスだろうと、高速路線バスだろうと、お互いに健全な競争を行い、「高速バス」市場が確実に成長していくことを切に願います。 (2010.03.16 01:02:24)

Re:敵を知り己を知らば・・・(03/15)  
nalys  さん
ぴよれさん、再びコメントをいただきましてありがとうございます。
今回コメントをお読みして、まさに当を得たというか「なるほど、たしかに」とあらためて感じた点がいくつかあります。
まず、ライバルを調査して得られる「成功体験」。まさにそれだと思いました。私が今の仕事を通して(厳しいことを言い嫌われながらも)既存事業者の皆様に実感していただきたいのが、分析したり工夫したりすることによって得られる「成功体験」なのだとあらためて気づきました。
また、中国は完全コピーでけしからんという「感情」は消せない一方でちゃんと調査もする…だってビジネスですもんね。それでお客さんをあっちに獲られてしまってはメシが食えなくなってしまう…。「被害者意識は何も生まない」、本当にその通りだと思います。

さらに分析結果を「営業部門に展開する」こと。商品力と販売力は両の鐙、車の両輪です。いい商品があっても営業・販売部門がうまく回らなければ商品は売れない…。失礼ながら既存事業者は商品には力を入れても販売にはあまり注力してこなかった…。

特に最初の「成功体験」が欠如しているのではないかというご指摘がもっとも印象的でした。既存事業者の皆さんは能力もあるし地域交通の一翼を担っているという責任感もお持ちだし…あとちょっと分析や工夫をしていただければ、と思います。

それと、ヒュンダイに続いてデウも型式認定されましたので輸入再開ですね。ぴよれさんにとってはライバルが増えるわけですがいいところは盗んでよりよい車両を開発してください。
またコメントをお待ちしています。 (2010.03.16 19:11:33)

Re:そろそろ決着すべき時が・・・(03/15)  
nalys  さん
経済人@尾張藩さん、いつもありがとうございます。
>さて、今回を含む3回程度は路線バス事業者への厳しい言葉が並んだように思います。

そうですね…意識してそうしているつもりはないんですが…毎日のようにいろんな事業者さんとお会いしていると、失礼ながら「差」がよく見えてくるのです。私なんかに会うときでも懸命に情報を引き出し自社の今後に活かそうと真剣な担当者の方と、とにかく「昔はこうだった。規制緩和なんかなかったらよかった」という風に「蛸つぼ」に入ってしまう方との「差」です。規制緩和やウェブの普及に代表される環境の変化を未だに受け入れられない方とお話していると、こっちが悲しくなってしまうのでついつい文章にも出てしまうんですよね。
それと具体的な話ですが、レベニューマネジメントではなく「値引き」になっている点、同感です。そしてその原点はやはり「ツアーバスは安いから伸びた」という思い込みですよね。ぴよれさんのコメントにもある通りライバルを調査し調査結果を分析していい商品を作り、さらにそれを販売サイドに展開できていれば、「ただの値引き販売」には向かわないはずなんですよね。

もうひとつ、おっしゃる通りで、私も、高速ツアーバスの現状が満点だなどと言うつもりはありません。運用(安全)面など課題は多いと思います。ただそのことが、高速路線バスの側が変化(成長)しなくてもいいという免罪符になるわけでもない、というのが私の考えです。そしてこのブログで既存事業者の側ばかりに厳しいことを書いてしまうのは……結局、個人的には高速ツアーバスより高速路線バスの方に思い入れが強いんだなと自分自身のことを分析しています。ここまで事業を一緒になって拡大してきた高速ツアーバスの仲間たちには少し悪いですが。
引き続きコメントをお待ちしています。 (2010.03.16 19:35:48)

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