成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.03.18
XML
カテゴリ: 高速ツアーバス
先日、学部学生さんの卒業論文について書いたばかりだが、別の大学の大学院生さんからも修士論文が届いた。こちらは、バス産業の(特に規制のあり方についての)研究では有名な教授(私も日ごろよりいろいろ勉強させていただきお世話になっている先生だ)の研究室に所属する学生さんである。『高速バスと貸切形態ツアーバスの競争条件適正化に関する研究』。タイトルを読むだけで先日の卒業論文とよく似ている。

先日のものは、指導担当の准教授が主に環境学や交通でも安全面がご専門の先生ということで、どちらかというと「安全性の公平な比較と、それに基づいた今後の制度の提言」という趣旨だったのに対し、こちらの先生はずばり「規制」「制度」がご専門だから、より営業面、制度面での比較と提言になっている。ただ、高速路線バスと高速ツアーバスという近いけれども異なる業態を比較し今後のあり方を提言している点では非常によく似ている。もちろん、似た論文を2篇続けて目にすることになったのは決して偶然とは言い切れないだろう。それだけ、この問題が注目を集めているということなのだ。

そしてお二人とも、きわめて公平に、客観的にこの問題を捉えているという点で共通している。特に制度面で比較をする前提として、既存事業者の側からよく耳にする「競争条件が不公平→高速ツアーバスの方が廉価にサービスを提供できる→だから高速ツアーバスに乗客が流れている」という論理が正しいのかどうか、この学生さんは冷静に分析している。総合予約サイト(例えば私のサイト)が<インターネットの検索エンジン対策を行うことにより潜在的利用者を誘導する。また、居住地や嗜好に合わせたメールマガジンの発行、実際の利用者の感想をホームページに記載するなどの戦略をもち、高速バスとは別の方法で市場開拓を行った。その結果、現在のツアーバス増加につながった>とした上で、<都市部ではバス事業者が多く1社あたりの事業規模は小さい。事業規模の小ささ故に、マーケティング能力には限界がありテレビでコマーシャルを流すようなことは不可能だろう。ツアーバスは中小の事業者が多いこともあり、事業規模はさらに小さい。しかし、インターネットを巧みに使いこなす旅行社や商品取扱者の存在により、ここまで成長してきたと言える>と、ウェブの活用度合いの差が高速ツアーバス成長の大きな要因であることを突き止めている。逆に、駅前一等地に停留所を確保でき、かつ予約なしの当日発券にも対応できる高速路線バスの有利さも明記している。

また、誤謬の典型として私がよく引き合いに出す「内部補助理論」についても、<高利益路線が他の高速バスやツアーバスに奪われて赤字の乗合バスの内部補助が不可能となると言う点である。もっとも、赤字の乗合バスの維持は内部補助におけるのはあまり好ましいと筆者は考えていない。それは高利益路線がいつまでも続くわけではないという点に尽きる。赤字の乗合バスについては内部補助ではなく、運行を民間委託するなど経費を節減しつつ、市町村による運行が望ましい>としており、きわめて客観的な書きぶりである。これは先日の卒業論文も同様で、<この内部補助そのものに関しては元来から議論があり、高速バスの利用者がなぜ赤字路線の赤字を運賃として負担しなければならないのかという意見がある。私の考えはその意見と同じであり、加藤(2006)p34 ※にある様に、赤字路線が地域振興のために必要であるならば、公的補助を検討すべきではないかと考える>としている。ちょっと先まで考えれば内部補助に頼った事業のあり方がいかに不安定か、研究者の先生方はもちろん学生さんでも理解できているのに、一生バスで生活していくはずの事業者の社員自らが将来の自分たちの首を絞めるような論理からなぜ脱却できないのか私は理解できない。
※ここでいう「加藤(2006)」とは名古屋大学・加藤博和准教授の論文を指すが、恐らくは誤記で「加藤(2009)」とすべきではなかったかと思われる。『運輸と経済』2009年3月号「特集・新時代の高速バス」に掲載された同先生の論文『日本における高速バスの現状と課題~ツアーバス台頭を踏まえて~』p34ではないかと。ちなみに加藤先生ご本人は「誤植を見つけるのが特技」だから、もし本論文にお目通しされていれば既にお気づきかも知れない…。

話を戻すと、そのような背景を冷静に分析した上で、本学生さんは新しい高速バスの制度のあり方についてきわめて前向きな提言をしている。私がこれまで拝見した中ではもっとも私自身の腹案に近い内容となっている。だから逆にここでは詳しく紹介できない。今の私の立場から私案段階で発表してしまうのは、その案の良し悪し以前に実現が遠のく状況だからだ。機が熟すまで私の中にとどめておき、タイミングを見て正しい手順で発表するよりないだろう。しかし一般論として言えることは、【1】EUなど諸先進国では「平場の路線バス」「貸切バス」の他に、名称はともかく「高速バス」に相当する制度的分類があること、【2】高速バスには「繁閑の差」がつき物で(かつ高速バス繁忙日はおおむね貸切バス閑散日でもあり)、繁忙日には余裕のある貸切車を活用することで多くの乗客のニーズに応えられること、【3】あえて「企画・催行」と「運行」とを分けることで(もちろん、事業者の希望により両方を担うことはかまわないが)、相互に役割と責任範囲を明確にでき、双方がより専門的な取り組みができること。以上を踏まえ、誰かの既得権益を守るための規制ではなく、高速バス全体の発展に寄与する制度であるべきだということであろう。

将来的に新しい制度を模索するとして、従来の高速路線バスのあり方だけを「正」とするのは避けなければならない。もし高速ツアーバスという事業モデルが確立していなければ、もしそこに競争という概念が取り入れられておらず結果としてウェブマーケティングの活用に消極的なままであったら、例えば今日、例えば明日、私のサイトなどから予約して各社の高速ツアーバスに乗る、万を超える数のお客様はどうなっていたのか? その数は大都市間路線に限って言えば高速ツアーバス誕生前の高速路線バスの輸送人員など軽く超えた数字なのである。これだけの数の取りこぼしにも気づかず、従来どおりの業界秩序が守られ従来どおりの事業者が従来どおりのやり方で高速路線バスを運行することを指して「バス業界のためにはその方がよかった」と言うのなら、そこでいう「バス業界」とは誰のものなのか? 繰り返すが高速ツアーバスの現状を満点などというつもりは私にはさらさらないが、高速路線バスの従来の姿だけを「正」として一切の変化を拒む姿勢とは、私はずっと戦い続けたい。1人でも多くのお客様が高速バスを利用してくださることこそ、私たちの希望なのだから。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.03.18 18:28:13
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

nalys

nalys

Comments

京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

Calendar

Archives

2026.10
2026.09

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: