成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.05.31
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カテゴリ: 高速ツアーバス
先週、南部バスとウィラー・トラベルから大きなニュースが発表された。南部バスが、それまで国際興業、十和田観光電鉄と共同運行してきた八戸-東京線「シリウス号」から撤退し、同時に、ウィラーと提携するというものだ。7月以降は、ウィラーが企画実施(催行)する高速ツアーバスについて南部バスが運行を請け負うという形になる(もっとも、ウィラーの青森-東京線については4月から既に南部バスが運行をしていたけれど)。なお私のサイトはウィラー全便の席の販売を手伝っているので本商品もまもなくサイト上に登場する。以前から、「高速路線バス=既存事業者、高速ツアーバス=新規参入組」という固定観念を捨てるべきと繰り返し書いてきたが、この提携がその「答えの一つ」であることは間違いなく、ウィラー側の粘り強い交渉と、南部バス側の勇気ある決断に心から賛辞を送る。

昨年3月に 『運輸と経済』の「特集・新時代の高速バス」 に詳しく書いたので詳細は図書館ででも読んでいただきたいのだが、「心情的」な部分をいったん横に置けば、高速路線バス、高速ツアーバスそれぞれの長所短所は、大きく「制度」的な側面と「営業面での事業者の特性」という側面に分けられる。制度的には、「路線」の長所はわかりやすい停留所を設置できることであり、また予約や発券行為そのものは簡便な点(「ツアー」の場合は旅行条件書の手交などが必要で、行為そのものの簡便さでは「路線」に分がある。ウェブ予約→決済の場合はそれほど大きな差には感じられないが)であり、特に車内発券が可能な点はまさに「路線」最大の強みである。逆に「ツアー」の長所は、商品設定が簡単なことであり、その運用(価格変動や繁忙日の傭車など)も自由度が高い点である。また営業面では、あくまで一般論だが、「路線」は主に地方部において高い認知度を持つのに対し、「ツアー」はウェブの活用に代表される新規需要の掘り起こし力に強みを持つ。

車内発券こそ「路線」最大の強みと書いたが、したがって、多頻度で運行されフリー乗車の比率が高い比較的短距離の高速バスについては「路線」業態が圧倒的に有利である。逆にほとんどの乗客が事前に予約・決済をする長距離夜行路線では、どちらかというと「ツアー」の方がやりやすい。もっとも、「路線」的なフリー乗車や当日発券を望む利用者もいないわけではないし、レベニューマネジメント概念に基づくリアルタイムな価格変動やグレード別の多様な座席タイプの品揃えはまさにウェブ予約の申し子で、紙の時刻表と電話予約、窓口発券ではオペレーションが煩雑になるため、全ての利用者が「ツアー」になじむとも思えない。

それを前提に地方の既存事業者(例えば南部バス)の強みや弱みを因数分解すると、彼らの最大の財産は八戸側での圧倒的な認知度である(それと、もちろん充実した運行ノウハウも)。一方、ウィラー(と、その販売のお手伝いをする私たちも)は、首都圏に代表される広範囲なマーケティングでは自信があるが、八戸地区といった狭域マーケティングでは地元の既存事業者に劣る。その意味で今回の提携は営業面ではお互いに十分な補完関係を構築している。商品の性格を見ると、上記のとおり「ツアー」の柔軟さは活用できるものの、南部バスの窓口で発売しようとするなら窓口ごとに旅行業の営業所として届出が必要で、そのための前提条件整備など「路線」を発券するより煩雑となるなど、メリットデメリット双方あることがわかる。もっとも、もしこれが全くの新規参入なら、「路線」業態での参入には障壁が山ほどあるので、多少のデメリットには目をつぶり「ツアー」を選択するのが現実的だが。また業態の選択とは別の話として、ウィラーやオリオンなどが企画実施しその運行を請け負う形に切り替えれば、乗車率が上がらなかった際に赤字となるリスクは企画実施会社側に全て任せ運行業務から上がる最低限の利益は確保できる反面、乗車率が高くてもバス事業者側が手にする利益は低いままで「ローリスク・ローリターン」だ。

つまり、既に「路線」として運行してきた実績があるなら、あえて「路線」から撤退しウィラーやオリオンと組むことにはメリットもデメリットも存在する。ざっくり言うと、多頻度昼行路線では「ツアー」に転換する必然性など全くなく、長距離夜行の場合は該当路線が置かれた環境しだい、となる。同じ青森県の弘南バスが「津輕号」でそうしたように、首都圏側で立派な停留所を使える「権利」を持ち、かつ単独運行のため(または共同運行先と意思疎通がうまくいっていて)意思決定が簡単な状態であれば「路線」のまま運行を続け、売り余らせそうな座席だけを私のサイトに登録して乗車率の向上を図ればいいし、南部バスのように既存の共同運行スキームから飛び出すとか新しい区間に参入するとかの場合はウィラーやオリオンに任せてしまうのもテだ。もちろん、「津輕号」と並行して弘南バスが自ら高速ツアーバスにも参入したように、自社ブランド・自社企画実施による高速ツアーバスも一つの選択肢である。ちなみに私のサイトをはじめとした「総合予約サイト」は、事業者自身が売れ残りそうだと判断した座席だけを管理画面から登録し、その結果予約につながればその実績に応じて手数料が発生する形なので、登録する座席数は事業者側が乗車率やコストを勘案しながらリアルタイムに増減させる必要があり(もちろん「出しっぱなし」でも結構だが、余計なコストが発生してしまう)、そのノウハウは高速ツアーバス企画実施会社が十分に持っているのでウィラーやオリオン企画実施にしてしまえばその分の手間とノウハウはバス事業者には不要で済む。

つまり、今回の南部バスの決断“だけ”が「正しい答え」というわけではなく、それぞれが置かれた環境に応じて複数の選択肢がある、ということだ。先週書いた ホテルの例 をここで思い出して欲しい。自社ブランドにこだわった京王と、ハイアットのブランドを掲げた小田急は、それぞれが置かれた環境によって別々の戦略を選びそれぞれに成功した。高速バスも同様だ、と考えるのである。本日は、既存事業者の皆様の「心情」についてはあえて無視して理屈から導かれることだけを書いたが、実際にはこれに「過去の経緯」「心情的な背景」が加味されることはもちろんやむをえないかも知れぬ。ただ大切なのは、自分たちの目の前にあるあらゆる可能性に常に門戸を開き、あらゆる選択肢を比較検討することだけは、手を抜いてはならないということである。





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Last updated  2010.05.31 18:43:34
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これにはビックリ  
後発組 さん
お世話になります。
最初見てビックリしました。

あれ?国際・十和田の2社は続きますよね。

率直な感想で、内情はよく分かりませんし、言い方悪いかもしれませんが。。

国際・十和田VS南部・ウィラー になるよな~
南部もえらい思い切った事したな~~
けど、八戸線自体、需要があるのかな?
ウィラーに、いいように使われて、関東の乗り場だけ乗っ取られなければいいが。。(本物を余計に刺激するだけで、国際・十和田がなぜ参加しないのか?)

本物と偽物の融合は、成定さんにかかってませんか??

なーーーんて、新聞記事を見ながら感じました。。 (2010.05.31 19:02:29)

「路線」か「ツアー」かは、正直あまり意味がない。  
経済人@尾張藩 さん
いつも、ブログを拝見しております。
久しぶりにコメントさせていただきます。

今回の南部バスの件ですが、メーカーに例えれば、「製販分離」やOEMといったところでしょうか。個人的にはこのような動きも「あり」かなと考えています。
バス運行を請け負う南部バスにとっては、集客リスクをウィラー・トラベルが負ってくれる一方、損益分岐点を超えた利益を享受できないので「ローリスク・ローリターン」となります。

ただ、「路線」から「ツアー」に移ると道路運送法上の取り扱いに差(両者に一長一短あることはご承知のとおり)が発生することは甚だ問題だと思います。

やはり、何度も発言しているように「高速バスとは何か」という定義を明確にし、あとは製販一体型でも製販分離型でも企業の経営戦略次第という法体系が望ましいと思います。

また、この点については議論できるといいですね。 (2010.06.01 22:22:46)

Re:これにはビックリ(05/31)  
nalys  さん
後発組さん、いつもコメントありがとうございます。

>南部もえらい思い切った事したな~~

それは同感です。ご決断の過程を知りたいところではあります。一方、高速ツアーバスが存在することを前提として考えると、一つの答えだとも思いますよね。なかなか皆さん、高速ツアーバスという存在があることを「前提」として考えられないので。

>ウィラーに、いいように使われて、関東の乗り場だけ乗っ取られなければいいが

あ、それは違います。今回、南部バスは「シリウス号」から完全に撤退するので、東京側での「集合場所」はウィラーが用意する場所になります。なので停留所の権利は関係ないです。

>本物と偽物の融合は、成定さんにかかってませんか??

うん、まあ、必ずしも絶対に「融合」がゴールである必要はないと考えているんですよね。ただ、今最大の問題は、お互いに「無理解」が多いことです。特に「路線」側が「ツアー」側のことを理解しようとしないケースが多く、彼ら自身の成長のチャンスもフイにしていたりする……だからこのような事例を「ショック療法」的に経験していくことは、意味のあることだと思います。

またコメントお待ちしております。 (2010.06.02 19:55:46)

Re:「路線」か「ツアー」かは、正直あまり意味がない。(05/31)  
nalys  さん
経済人@尾張藩さん、ご無沙汰いたしております。

>やはり、何度も発言しているように「高速バスとは何か」という定義を明確にし、あとは製販一体型でも製販分離型でも企業の経営戦略次第という法体系が望ましいと思います。
>また、この点については議論できるといいですね。

はい。そうですね。たしかに本件は、「路線/ツアー」という業態での対立軸と、「垂直統合/分業」という対立軸の複合なので話がややこしいですね。まず「製販分離」的な分業は私も「あり」だと考えています。一気通貫で行くか分業で行くかは各事業者の裁量の問題だと。同時に私は(ここが意見の違うところですね!)、「路線」業態のメリットデメリットと「ツアー」業態のメリットデメリットをきちんと比較して、各事業者が、商品(区間)ごとにどちらの業態を選ぶか(または両方やるか)という点も、事業者の裁量の問題だと思います。リポビタンDは医薬品で効果効能を謳える代わりに薬局等でしか販売できず、オロナミンCは炭酸飲料として販売したため効果効能は謳えないものの自販機でも売れる(いずれも現在は規制が若干変わったらしい)という話がマーケティングのケーススタディでよく出てきます。同一市場に別のレギュレーションの商品が並んでいること自体はそんなに特別なことではないとは思います。
その上で、お互いのいい点をちゃんと見比べながら次の制度を作っていく。でも、その制度が生まれた瞬間、新しい業態を作る模索が始まるんだと考えています。
リアルタイムの価格変動など、ウェブ予約が定着していなければ絶対に生まれていません。そのような環境の変化に応じて制度も変化すべきだと私は考えているのですが…

またコメントをお待ちしています。
(2010.06.02 20:16:26)

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