成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.07.13
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カテゴリ: バス産業
私たちのサイトで既に取扱が始まっているある路線バス事業者の担当者がこんなことをおっしゃっていた。<ウチの役員、なんか面白くなっちゃったみたいで、休みの日にも自宅から楽天さんの画面を見て「○日の残席が少なくなってるぞ。もっと在庫を入れないといけないんじゃないか」とか電話して来るんだよ>。私自身、ホテルで働いていたときには休日に自宅で各予約サイトの残室数などチェックしていた経験もあるから役員さんの立場もよくわかるし、電話を受けて苦笑する担当者さんの立場もよくわかる。

この話は何かを象徴していると思う。役員だろうが現場だろうが、誰しも、数字を上げたいという気持ちはあるはずである(「売上を増やす」という表現では「バス事業には売上よりも大切なものがあるはずだ」と非難されるのであれば、「一人でも多くのお客様に、自社のバスに乗ってもらいたいという気持ち」と言い換えるべきかも知れないが)。しかし路線バス事業にたずさわる人たちにとって不幸なのは、数字を上げるためのレバーが少なかったことだ。いや、平場の路線バスについては今でもそうかも知れない。原則的に地域独占で事業を行なってきた路線バス事業者にとって、輸送人員や運賃収入が増えることは、ニュータウンが開発されたとか、雨が多くて自転車利用者がバスを使ってくれたとか、はては日本全体の景気が回復してきたとか、「外部環境の変化」でしか実現しないのだ。

しかし高速バスでは違う。 「高速バスの役割~公益性?~」 の項で書いたように、ごく一部の路線を別にすると、高速バスとは鉄道や航空から乗客を奪っていく挑戦者の立場である。認知度や予約のわかりやすさしだい、車両や乗務員の接客といった商品の魅力しだいで、つまり自らの工夫や努力によって乗客数を増やす可能性を手にしたのだ。ただ独占認可だった頃は比較対象がなかったから、仮に乗車率が低くても「この路線は高速バスに向いていない。高速バスが弱い区間だ」で済んでしまっていた。しかし高速路線バスどうし、さらには高速ツアーバスとの競合環境が生まれ比較の対象ができ、ウェブ化の進展によってリアルタイムにそれぞれの予約状況を把握できるようになると、自らの力で予約を勝ち取り座席を埋めていく苦しさと面白さを経験することになる。今、まずは経営者や本社部門の企画・営業担当者から、その苦しさと面白さを味わっているのだ。

実は、私の前職である高級ホテルの「現場」の連中(フロントクラークとか、レストランのウェイターとかコックとか)もまた、バスの現場と同じ「職人気質」「匠の精神」の塊である。彼らの意識の大半は、「一流のサービスをしたい」「(目の前にいる)お客様に最高の満足感を与えたい」という点にあると言える(あえて悪く言えば、本当のところお客様にとって実際にいいサービスであるかどうかよりも、先輩から脈々と受け継がれた「これこそが最高のサービス」とされるやり方を徹底的に守ることに最大のプライオリティがあるのかも知れないという点で、彼らは完全な「現場」だ)。しかし、ホテルの現場とバスの現場で唯一異なる点がある。ホテルの場合、その「職人気質のこだわり」の中に「数字」も入れ込んでしまっていたことだ。朝、デスクワークの私が出勤すると、前の夜からの「泊まり」勤務のフロントクラークが「成定さん、おはようございます。昨晩、稼働率98%まで行きましたよ! 100%には届かなくて悔しいけど」と声をかけてくる。1本何十万円のワインを薦めたところ見事にオーダーを獲り、バックサイドでワインの準備をしながら小さくガッツポーズしているソムリエがいる。彼ら(新入社員だった頃の私も)の中では、数字を上げることもまた、結婚披露宴をいかに厳かに執り行なうかとか、ナイフやフォークの銀の表面をいかに曇りなく磨き上げるかといった「職人気質のこだわり」の中の一つに見事に入っているのだ。

ホテルでは、特に宿泊部門の場合、「客室稼働率」というわかりやすい指標があった。航空業界では「ロードファクター」である。もっとも、どちらも既にメインの指標ではなくなっている(現在、ホテルの場合は「RevPAR=販売可能1室あたり収益。“レブパー”」、航空の場合は「RASM=1席1マイル当たり収益。“ラズム”」という指標がメインになっている)ものの、客室稼働率やロードファクターの高低は誰しもが直感的にわかりやすく、現場には受け入れられやすいだろう。私の悪い癖で、特に数字のことになると「本質的な意味」にこだわってしまうので、私なりの指標「RevPACH=“レブパック”」なるものを様々な方にお勧めしているのだが、本当はもっと簡単な指標から入るべきかも知れない。

いくつかの都内の大手私鉄系バス事業者の中で「車内マイクの使用」に徹底的にこだわる動きが流行した際、現場では「マイクより大事なものがあるだろうよ、おい」という雰囲気が強かった。しかしマイク使用も乗務員の「仕事」として定着した今、これら事業者のバスに乗って、マイクを使わない乗務員や不愉快そうにマイクを使っている乗務員に出会うことはない(上手い下手はあるけど)。それどころか、マイクで案内放送する際に「○○でございます」と丁寧語を使える乗務員が、乗客からの質問に肉声で答えるときには「わからないねえ」などと途端に無愛想な接客になってしまったりして驚くことさえある。本来は無愛想なタイプの乗務員も、マイクでしゃべるときだけは「丁寧な接客者」の役を演じられるのだろう。マイク同様に「数字」もまた、それが仕事だとなれば懸命に追いかけられるだろうと考えるのである。

繰り返すが、特に平場の路線バスについては、乗務員一人ががんばったからといって数字が上がるものではない。しかしそれはホテルのフロントやウェイターもおおむね変わらない。それぞれが持ち場持ち場できっちりと仕事をし、それが会社の業績となって最後には自分の給料に戻ってくるというサイクルを体で実感することが大切で、「指標」はその象徴なのだ。現場での丁寧な接客や安全な運転それ自体が乗客(売上)を増やすことは難しくても、少なくとも、逆にそうでない接客や運転を続ければ乗客(売上)を減らしそれがまさに自分たちの生活を脅かすところまでバス産業は追い詰められているという点を、バスにたずさわる全ての人に体の芯まで染み込ませることだけは必要である。





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Last updated  2010.07.13 19:16:07
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京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
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