Laub🍃

Laub🍃

2013.04.22
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カテゴリ: 🍷流血女神伝






俺のことを見つめる、相棒の目が怒りに燃えている。


「・・・な、なんでしょぉ~」

怖くて震える声を叱咤し、取り敢えずおどけた声を出すと、
即座に手刀を振り下ろされた。あ、火花の先に死んだじいちゃんが見える。
おーい、と手を振りかけたところで、ギアスの大声によってまた現世に連れ戻された。

「何でしょうじゃない!そんなことも分からんのか貴様は!!!」

んなこといったって、分からない。
いや、より正確に言えば「思い当たることが多すぎて」見当がつかないのだが。
というか、お前確か昨日結構な怪我してなかったか。怒ると傷に障るぞ。
そう言うと、目の前の人物は「あんな程度の怪我位、怒りで治せるわ」とびしっと大真面目に返してきた。まじかよ・・俺今度からお前丈夫なもやしって呼ぶわ・・

・・・目の前の相棒、ランゾット=ギアスは、みたまんまのまるっきりの糞真面目だ。
出会った当初は、普通に皆がやっていることを俺がしても(例えば乱痴気騒ぎとか)奴は冷たい目で見てきた。
それでも最近は、少しは骨を得たのか「仕方がない」とでも言うように
対応されていた。
・・・なのに、なぁ・・・。

睨んでくるギアスの前で目を彷徨わせながら、
記憶を整理するように、ここ数日の出来事を振り返ってみる。

まず、昨日。

・・・確か船の上で乱痴気騒ぎを起こして、ギアスに技をかけられた後の記憶がない。
 気がついたら素っ裸で自室のベッドの上に居た。騒ぎすぎて筋肉痛がやばい。
2日前。港の酒場で、久しぶりの踊り子のオンナノコをガン見していて、
親父っぽいことを言う自分に、生ゴミを見るような視線を向け無言で帰るギアスを追いかけた。
3日前。ギアスが受け取った手紙を後ろから覗き込もうとしたら、唐突に顎に頭突きされた。アイツ頭かてーよ。流石堅物だよ。
4日前・・・は確か、ギアスが居なかったんだよな。
5日前。ギアスと一緒に海図の勉強をした。ふざける度に氷のような目で見てこられた。
6日前。港に降りて、酒場に誘おうとギアスの部屋に入ったら、書類付けになっているギアスを発見。
あやうく手伝わされそうになるところを必死で逃げた。
1週間前。海の上で海賊と合戦になったとき、ギアスがやられそうになっていたので
敵をギアスの後ろからやっつけたら、パニクったギアスに海にぶん投げられた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひ、ヒント・・・・・・っ」
呟くように言うと、ギアスの顔からぴきり、と音が聞こえたような気がした。
「ちょ、いやいまのな、」
ひくり、と引き攣った頬に嫌な予感がして、慌てて撤回しようとしたが、
「・・・・・・もういい」
「ちょ、ちょっと!?」

ギアスが後姿を向ける方が早かった。

二日酔いでぐわんぐわんする目を向け、立ち上がろうとする。

「おまっ・・」


バタン、と音がして、ギアスは観測室に籠もった。
追い掛けてドアを開ける寸前、ガチャガチャと鍵をつける音がして、
俺はがっくりとその場に座り込んだ。


こうなったギアスは、多分相当めんどくさい。








***




「はぁ・・・」

わけが、わからなかった。

あの馬鹿に、それを気付かれていないだろうかと手が戦慄く。

『  』

思い出すだけで顔に血が集まるのが分かる。あの言葉一つに、どうしてこんなに過敏に反応するのか。
自身の状態を把握できない。危険だ。考えてはいけない。いや、考えても答えが見付からない。
何なんだ。本当に何なんだ。いらつく。何なんだ。あいつは以前からわけが分からなかったが、
今、ギアスの体の中には、あいつという名のパズルのピースが散らばっている。

そうだ、順番に出来事を整理してみよう。
論理的な思考に慣れたギアスの頭は、困難に接したときの習慣を実施した。

7日前。港に降りるもうすぐというところで、海賊と相見えてしまった。
貴重な資料を守りながら、徒労に終わるだろうと思いつつも
足掻くように重い剣を振り回す。そんな自分に、目の前の20代くらいの海賊が、年に似合わぬにたりと醜悪な笑みを浮かべた。
そこで思った。--ああ、俺はここで死ぬのだろうか。--
奇妙だが、死ぬことに対して、大して実感がわかなかった。
ただ、頭の中に一つの単語がよぎった。  --コーア--

ずぶ。

その音に、最初は自分が刺されたのだと思った。
だが、鮮血は自分からではなく、正面の海賊から噴出している。
次に、自分の剣がようやっと海賊に届いたのかと思った。
だが、右手の感覚は軽い。
「なーにしてんの、ランジーちゃぁん」

目の前の惨状に不似合いな、陽気な声が聞こえた。

そこで、カッと体が火照った。
いきなり現れられて、しかもからかわれて、俺は多分怒ったのだと思った。
だからやつの体をうっかり「ナゲ」とかいう技を
使って海に落としてしまった。あとから散々ぶつくさ言われた。

その声に「すまん」を繰り返しながら、自らの体が火照った理由を
もう一度見直してみようと思った。怒りとは、少し違う気がしたのだ。


6日前。
たしかあの日は、ひたすら書類整理に追われていた。
「すっかり忘れていた」となんとも呑気に宣う艦長に嫌味の一つでも言ってやりたかったが、生憎
気の利いた言葉を考える、そんな暇さえなかった。
いくら先日海賊に襲われて、その日にわたすつもりだったのだ、と言い張られても
終わらないものは終わらないんだぞゴミ頭・・・

そこまでぼんやりとする頭で考えたとき、昨日のことが思い浮かんだ。
瞬間、また沸かした湯のように顔が火照る。俺は、怒っているのか?
・・・・・・そう位置づけるには、あまりにもその感情は不自然だった。
わけがわからないが、こうやって忙殺されることが、その不自然さから現れる
居心地の悪さをどうにかしてくれる気もした。
「今は、仕事するか」

そう言った所で、やる気が急に出てくるわけでもない。
紙をめくる。計算する。書き込む。文章を考える。
延々と続く単純作業に、
頭の中が重く、紫色になったような感覚に陥る。

・・・・・・・そこで、バンッと鋭い音が響いた。

「やっほー、元気ィ?暇なら酒場にでも・・・」
そこまで言った人に対し、顔を上げずに瞬間的に
「そんな暇があったら手伝え」と言うとすごい勢いで逃げられた。

「チッ・・」

今のは誰だろうか。
・・そうだ、・・・あの馬鹿だ。
一転してくく、と喉を鳴らす。

あいつに手伝わせたら、書類が終わるものも終わらない。

そう思いながら手を滑らせる。
不思議と、今度は落ち着いた気持ちで仕事を出来た。
ついでにその後に訪れたホデレには付き合わせた。
ホデレに、不思議な感情のことを相談しようかと思ったが、
何故か誰にも言わないのが得策な気もして、ひたすらホデレの話す愚痴を聞きつつ書類を仕上げ続けた。

5日前。
夜中までかかってやっと書類が完成して、あとは艦長にわたすだけというところで、
廊下を走り回っていたコーア海尉とすれ違う。

「・・・おい。何をしている」
「おっ、ギアス仕事終わったのか」

陽気な仕草で左手を挙げてくる。
「ああ。おかげさまでな」
皮肉げに言ってみる。
「・・・・わ、悪かったってぇ~、だって、俺そういうの全然だめだしぃ~、」
俺、お前と違って武闘派だからぁ、今度何か代わりに頑張るからぁ、
と言うコーアの左手を鷲掴み、いきなり歩き出す。

え、えと戸惑うコーアの様子を見て、ふっと目元が緩むのを感じる。

「丁度艦長はお留守のようだ。ということでな」
バタンと自室のドアを開ける。

「え、んじゃ遊びに行「勉強会だ」

びしりと言う。 
「そのうちまた、昨日のようなことがあったら、今度は手伝ってもらおうか」
顔が意地悪に歪むのが分かる。
わざとらしく震えながら「微かに微笑んでいるのが怖いよー」
と小さく呟くコーアに、勉強の仕方をつらつらと並びあげると、
コーアは諦めたような声と、眉を下げた笑顔で「・・・お前らしいよなー・・」と言った。
コーアが例によって例の如くふざけまくったので、その度に丸めた海図ではたくと
「馬鹿になったらお前のせいだかんな」といわれて「何を今更」と返すと「ひっでー」と笑い声を立てられた。
その笑顔に、心に何かが浮き上がるのが分かったが、それが何なのかまでは皆目検討がつかなかった。











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最終更新日  2014.07.24 22:41:13 コメントを書く
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