Laub🍃

Laub🍃

2013.04.23
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カテゴリ: 🍷流血女神伝














すまんすまん、と笑みと冷や汗を同時に浮かべる艦長に
器用だな、と思いつつ鋼鉄の無表情で書類を渡した午前。
続いて、陸に降りたらやりたかったことをする。と言っても、地図を確認して市場に出向いただけだったが。

わたされたばかりの給料を入れた袋を持ち、市場を歩く。

露店を見ていると、鮮やかな色の服が目に入った。
面妖な、これを着こなせる人はいるのか、と自身の身の回りの人間に思いを馳せる。
そこで、ポンッと魔術のように、その服を身に着けたコーアが思い浮かんだ。

・・・似合いすぎだろ。
知れず、頬が緩む。

「兄ちゃん、どうすんの?これ買うの?」
と店主に告げられ、ハッとして短く謝ってから、早歩きで立ち去る。
その日は、コーアに一度も会うことはなかったが、
派手な腕輪や面白いものに出会うたびにコーアを思い出し、
もしかしてあいつは人を笑わせるためにいるんじゃないか、と コーアに聞かれたら怒られそうなことを思った。








3日前。

朝、宿の一室で目を覚まし目を時計に向ける。・・・・早過ぎる。
そのまま二度寝しようとしたところで、けたたましい音が聞こえた。
「おーいギアスくーん」

どうやら、音を出しているのは、先日散々に人を想像で笑わせてくれた男だった。

「・・・・・・ふっ」
昨日の想像が思い浮かび、思わず顔を背けて息を吐き出した。

「え、ちょっと何その反応!?俺でもさすがにちょう傷付くんですけど!?」

「・・・すまん」

口元をいじくり、もう起きてしまえ、と階下に下りる準備を整えているところで、ふと聞いた。
「そういえば何故お前がここに居るんだ?」
「え、遅っ」

コーアがすかさず突っ込みを入れる。
「・・・いいから。何か緊急収集でもかかったのか?」
「うんにゃ、」
彼が懐に手を突っ込む。
「手紙だ」


渡されたのは、自分の家の紋章が印刷された白い封筒だった。
前の港に着いた時ー1ヶ月位前だったかーに送った手紙の返事だろう。

コーアに礼を言い、封筒を受け取ってペーパーナイフで封を切る。
中から出てきた3枚の手紙を取り出す。

1枚目、2枚目は挨拶と、ランゾットの書いたことへの返事と、そして近況についてだった。
3枚目を開こうとしたとき、ふいに後ろに存在を感じた。




ゴッ




「・・・・・・・・てぇええええ」

「貴様、何をしている」

「いーじゃんかけちー!そこまで読んじゃったし、続きも読んでみたいなぁ~」

ふざけるな、とコーアの体を部屋の外に押し出す。







ほ、と息を吐く自分が居た。







ーー近況報告の続きに
結婚相手についての話が、書かれていた。

何故、それをコーアに読まれなかったことに
自分がほっとしているのか、ランゾットには分からなかった。

ネイ様との話が立ち消え、更にオレンディアに去られてから
ランゾットの周りには恋愛の影は見えなかった。
影では色々しているのでは、という噂話もあったが
ランゾットが隠せるようなものは、少なくとも恋愛についてはないだろうというのが
同じ船に乗っている者たちに共通する見解だった。

・・・自分は別に結婚しなくても構わんが、
 ここまで親に心配されているのであれば、何か対応を考えるべきか・・?
手紙をベッド脇の机の中にしまい、首を捻りながら階段を下りると、階下で待っていたコーアがあごをさすりながら
「痛い」をアピールしてきた。
しょうがないので「・・・後で何かおごろう」と言うと目を輝かされた。

だが、結論としてはこの日は普通に市場を一緒に歩いただけだった。
今日は、行きたい酒場にお目当ての子が居ない日だからいい、ということだった。

例の派手な服をまた見掛けたので、思わずコーアと見比べると、
「・・・・ギアスとお揃いなら着てやらあ」と荒んだ目で言われた。あのダンスの二の舞は御免なので却下だ。
どうやら、先日同様のことを他の海兵たちにことごとく言われたらしかった。
派手なものを見てコーアを思い出すのは、皆共通なのだな、と口に出すと
何だか可笑しかったが、何故か少し寂しいような気持ちもした。


2日前。
あの日は、近日の中でも、間違いなく最もいやな記憶ランキングの首位に入っているとランゾットは思う。

がんがんと鳴り響く音楽、下卑た笑い声や怒声、床や壁や人の体を舐める極彩色の光、
麝香と甘味と汗が入り混じったような香り。
このままでは、船酔いと同じような状態になりそうだな、とぼんやり考えていたことを覚えている。
だが、最も記憶に焼きついていることはーー

「お前のオンナノコバージョンって、ああいう感じの服が似合うと思わん?」

今考えてみると、ここで怒ったのは流石に大人げないな、と思う。
だが、その時はくらくらした頭をもっとくらくらさせるその一言に、胃の奥から「武器」が
せりあがってきそうで、奴の顔をぎっと睨んでから店を早々に出た。先払い制だったから、
後腐れなく店から出られるのは心地良い、と感じた。

後ろから奴の情けない声が聞こえてきたが、ひたすら無視に勤めた。

店を出てから、暫く狭い路地から路地へと移動し、情けない声が遠ざかるのを実感して安心する。
ー私が、女。ー

・・・馬鹿かあいつ。

母親似の外見を揶揄され、かちんと来たことは幾度となくあったが、
その時は、奴を10発ほど殴りたいと思った。恐らく少しはまともな頭になるだろうな。ばか者。愚か者。

馬鹿じゃないか。

想像したくないのに、さっきまでの音と光が、ギアスにもやもやと想像を立ち上らせる。
黒い髪に不健康そうな顔の、背の低い女がじゃらじゃらと飾りのついた黒い服を着ている。
貧相な体つきだったが、それは生地の少ない服と相俟って独特の麝香のような雰囲気を感じさせられる。

そこまで考えて、馬鹿な、と自分を笑おうとしたとき、
その隣に誰かがふっと現れるのを感じた。


必死で打ち消した。

冗談じゃない。洒落にならない。

頭を振って、我に返る。


・・・そこで、初めて気が付いた。



・・・・・・・・・・迷った・・・。




























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最終更新日  2014.07.24 22:43:25
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