◆長屋村       あらっ!ご近所さん♪

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October 29, 2010
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カテゴリ: ◆NovelでTea☆Time
指切り


+ 高志の父親 + [23]


高志の父親は重体だった。

事故以来、集中治療室へ入っていて余談を許されなかった。
三日目の朝に意識を取り戻し、付き添っていた実の弟の正春と少し会話が出来た。

『お、兄貴。俺だ、正春だ。わかるか?』
『家内は?』
『兄貴、大丈夫か?』
『直美は?』
『直美さん、ダメだった』

『高志君は大丈夫だ。背中を切った程度で、もうじき元気になる』
『・・・・・・・』
『火葬は?』
『今日だ』
『正春、お願いがある。直美の黒髪、少し切り取ってくれないか?』
『髪の毛をどうするんだ?』
『高志のための切り取ってやってくれ。頼む』
『分かった』
『それから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
高志の父から正春への話は、暫く続いた。

やがて、背中の傷が癒えてきた八日目に、少し動けるようになった高志は看護師に車椅子で連れて行かれて、父にやっと会うことが出来た。

父は看護師に酸素マスクを外された。
『高志か・・・』
蚊の泣くような声であった。
『うん』
『・・・・・お前が無事で良かった』

『うん・・・・・高志。お前のことは正春おじさんに頼んであるから、お父さんに何かあったら相談しなさい』
『うん。でも、お父さんは元気になるでしょ?』
『・・・・・そりゃ、お前のために元気にならなくちゃ』
『きっとだよ。きっと元気になってね』
『・・・・・』

返事はなかった。
父は残っている体力を振り絞って声に変えていた。
看護師が無言で酸素マスクを戻した。
高志は涙を溜めたまま、病室へ戻された。

それから二日後の早朝の事だった。
『高志君、起きて』
夜が明け切らぬ時間に看護師に起こされて、車椅子で父の病室に連れて行かされた。
そこには最後の呼吸をしている父の悲しい姿があった。
車椅子をベットの横へぴったりとつけ、父の手を握る高志であったが、高志はこれが現実とは到底思えなかった。
『お父さん・・・・』
高志には、死んでいくという事を受け入れることが出来なかった。
母が目の前から消え去ったのも、これから父が消えていくということも、考えたくなかった。
優しいお母さんがいつか目の前に現れてくれるだろうと、元気なお父さんが手を引いてくれるだろうと思っている。

高志は掴んでいる父親の手を見つめた。
(この手はいったい誰の手?)
(お父さんの手はもっと大きくて温かいよ)
(おとうさ~ん)
(お父さんまでいなくなちゃ、イヤだぁ)
そう思った時だった。

『ピッ、ツーーーーーーーー』
無情にも心電図は停止した。
死亡の確認をとった主治医が
『高志君、お父さんとお別れだ』
高志は無言で父の最後の顔を見つめた。
頬を涙が伝わってきたものの、独りぼっちになった寂しさから泣けなかった。

やがて駆けつけてきた叔父の正春が
『兄貴・・・・間に合わなかったか・・・・』
暫く兄の顔を見ていた正春が、ベットへ向かって両手を合わせた。

それから
『高志君・・・・・・』
そう言って、正春は膝を折って高志を軽く抱きしめた。
『お母さんに続いてお父さんまでも・・・・・・可哀想に・・・・・』
『高志君のことは、お父さんから頼まれたから心配しなくていいからね』
『遠慮しないで、何でも言ってきなさい』
頭を抱えられながら、高志は頷いたのだった。






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Last updated  October 29, 2010 11:20:40 AM
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