明日は竣工検査のために海の現場に行くんですけど、天気図を見ると時化なんですよ。
つまり検査用の船が出航出来るかどうかってとこなんですけどね。
出航出来ても、検査官が船酔いしなければ良いんですけど…無理かなあ?…
じゃ「小説もどき」の続きをどうぞ!
《歌手になるつもりが…54》
私に辛く当たってくる2人目は…テノールのパートリーダー、「Y本先輩」だった。
彼は英文科の2年生ながらパートリーダーを勤めており、定期演奏会では「キリン先輩」とデュエットすることになっているが、同じテノールに「A山部長」がいるから、パートリーダーながら自分のパートなのに思い通りに出来ない歯痒さがあり、その欲求不満から私に辛く当たっているように思える。
実力は確かなのだが、そんなところから少しひねくれている。
音楽的な部分はバスのパートリーダーである「O坂先輩」からダメだしが出てるから、「Y本先輩」は自分の専門である「英語」の発音で絡んできた。
「ナイト!…お前の発音は東北訛りだな!…愛の歌に東北弁はないな!」
確かに英語の発音が良いとは言えないが…「O坂先輩」と違って、ただのイジメのように思える。
なぜなら…彼と一緒にデュエットする「キリン先輩」の発音だって良いとは言えないのに、彼女が3年生で先輩だから2年生の彼としては何も言えないのだろう。
こうして幹部のうち2人のパートリーダーから辛く当たられていたが…最後のひとりも幹部だった。
それは…
「あなたね!…ソロは遠慮しなくちゃならないんじゃない?…だって1年生なんだから!」
これは「会計責任者」の「子だぬき先輩」だった。
これは以前報告したが、彼女が「O坂先輩」の恋人ではないかと思われる節があって…彼女にしてみれば、バスパートからソロが出るならば「O坂先輩」がやらなければならないと考えているようなのだ。
私はこうやって幹部の人達に辛く当たられることで、ソロで歌うことが苦痛になっていった。
「O坂さんは音楽的なことで理論的に責めて来るからまだわかるけど、あとの二人はただのイジメじゃないか!…そんなに反対なら、初めからソロの曲の追加を、幹部会で反対すれば良いじゃないか?」
私は「キリン先輩」と二人ッキリのとき文句を言った。
「あの3人は幹部会の時はなんにも言わなかったんだけどな…でも理由はわかってるよ。」
「キリン先輩」は一人だけで納得していた。
「麗子だけわかっていても、俺には判らないよ!」
「O坂君とY本君…あの二人はT崎さん達のグループに入れなかったから、あなたに妬いてるのよ。」
そのあと、彼女は説明してくれた。
「O坂先輩」の場合…一度は誘われたらしいが、彼は大学卒業を最優先させた。
彼は岩手県の三陸海岸にある小都市の建設会社の跡取り息子であったが、父親が病気がちであったため、直ぐにでも帰って社長になる運命にあった。
文系の学生と違い…土木工学科は実験や実習が多く時間的余裕がない。
それにレコードデビューしたあとのスケジュールは、「T崎先輩」も初めてのことだから全く想像も出来ないし…無理に誘うことも出来ず…やがて時間も失くなってしまったのだが…「O坂先輩」としては、正直参加したかったのだ。
あともう少し背中を押してくれれば…そんな思いが残ったようだ。
しかし、最初誘ってくれたという恩義も感じていて…「T崎先輩」を尊敬している姿勢は変わらなかった。
彼にしてみれば、小さな建設会社の跡取りとして大学に来ている同じ立場の私が、「T崎先輩」に目を掛けられ…可愛くもあり、憎くもあり…そんな複雑な思いから、スパルタ式の指導になっているのだろうと「キリン先輩」は言った。
しからば「Y本先輩」の場合は?
彼は最初から誘われなかったという…
レベルが低かったわけではなく、むしろ今いるメンバーより実力は上だったが、メインボーカルは二人いらなかった。
「T崎先輩」がメインボーカルを張る以上…彼の出番はないのだ。
ところが、「T崎先輩」は卒業を理由に引退する噂が飛んで…「それなら次は自分の出番」と思っていたのに、流れがどんどん「ナイトという1年生」に…つまりこの私に移っていく…
去年は同じテノールということでメンバーから外されたと思ってたのに、…いざ蓋を開けてみたら、パートも違う1年生にその座を奪われる…彼の自尊心はズタズタに傷つけられたという。
「子だぬき先輩」のことは、全く私の想像通りだった。
「良いじゃない…O坂君はどうであれ、あなたを一生懸命指導してくれてるんだし…Y本君だって言葉を変えて言えば発音を直してくれてるんだし…彼女に関してはO坂君のことしか見えてないんだから無視しても…」
しかし、「キリン先輩」はもう一言付け足した。
「あなたをソリストにしようっていうのは、今回意見が合ったけど…あなたがT崎さんのグループに入るのは、まだ賛成したわけじゃないからね。」
そう言って、今日は母親が赤ちゃんにするように、私の頬にキスした。
続く
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