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2008.07.01
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~講談社ノベルス、2008年~

 さて、やっと個人的に大きな仕事(?)も終わり一段落ついたので、さっそく久々に小説を読んでみたのですが…びっくりするほど面白かったです。
 作業したり、西洋史関連の文献を読むことに時間をかけてきていたので、小説への情熱が薄れているのではないか、読んでもすぐに飽きるかも…と、そんな心配もしていたのですが、杞憂に終わりました。やっぱり小説面白いです。というより、それだけ本書が面白かったということもあります。

 と、前書きが長くなりましたが、本書は、QEDシリーズの重要人物の一人となっている「毒草師」御名形史紋が探偵役をつとめるミステリです。では、簡単な内容紹介と感想を。

ーーー
 鬼田山家は、呪われているのか―。そこでは、奇妙な事件が相次いでいた。
 先々代の俊春は子どもの頃、一つ目の山羊に遭遇し、無我夢中で山羊を打ち倒した。その後、彼と妻の間に最初にできた子どもは死産。そしてその子どもは、一つ目だった…。
 先代の壮治郎は、ある突然屋敷の離れにこもってしまう。窓も扉も内側から閉ざされたその離れに異変を感じ、家族が扉を破って中に入ったとき、壮治郎は消えてしまっていたという。一ヶ月後、彼の遺体が、隅田川から揚がった。

 そして今年(平成10年[1998年])。今度は、壮治郎の後妻、久乃が、離れにとじこもり、消えたのだった。
   *
 医業界向けの書籍や雑誌を発行する「ファーマ・メディカ」に勤めるぼく―西田真規は、鬼田山家の関係者と懇意にしていることもあり、鬼田山家の事件を独自に調査することになった。フリー編集者の朝美と事件について語りながら、先に進めないぼくは、奇妙な隣人―御名形史紋にも事件の話をした。すると御名形は、『伊勢物語』、キュプクロスという言葉を、ぼくに示唆したのだった。
 朝美の協力をえながら、『伊勢物語』、在原業平について調べていくうちに、ぼくは、この事件との類似性に次第に気付いていくことになる。
ーーー

 歴史上の謎と、現在進行形の殺人事件の謎を並行して解明していくという、QEDシリーズおなじみのパターンですが、今回はどちらの解決も見事で、本当に面白く読みました。
 いまさらながら、ギリシャ神話のキュプクロスが鍛冶神だということを知り、日本と一緒なんだなぁと感心しました。日本でのそれも、QEDシリーズで学んだわけですが…。
 今回は、主に西田さんの一人称で物語が進むのですが、彼が楽しい方なので、読んでいるこちらも楽しくなりました。地の文での御名形さんへのツッコミはもちろん、とつぜん熱く語り出したり、話の中で例を挙げるときの、その例も面白く…。毒草師のシリーズは第二作も出版されていますが、西田さんがまた登場しているのか、ちょっと楽しみです(講談社ノベルスになるようならそちらを買いたいので、しばらく我慢ですが)。
 ところで本書では(でも、というべきでしょうか)、いくつかの「差別語」が扱われます。筒井康隆さん、島田荘司さんのエッセイなどでも「差別語」の問題(「差別語」を使うことではなく、ある言葉を「差別語」とする社会の問題)にふれていますが、本書でも的確な指摘があったので、文字色を変えて引用します。

それらの人間に対して、悪意を吹き込んだのはまた別の人間じゃないか。言葉自身には、何の罪もない。というよりむしろ、連綿と続く歴史をぼくらに教えてくれているわけだ。本当に問題なのは言葉ではなくて、それが差別用語になってしまったというその過程にあるんじゃないか 」( 118-119

 ミステリとしても面白く、『伊勢物語』などの歴史上の問題の解明も面白く(浅学ながら、「詠み人知らず」の意味を今回はじめて知ったように思います)、とても素敵な読書体験でした。
(2008/06/29読了)





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Last updated  2008.07.01 06:42:45
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