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2013.05.25
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~刀水書房、2013年~


 書名が中世イギリス史ではなく、中世ブリテン諸島史となっているのが重要です。
 たとえばサッカーでも、「イギリス」代表チームというのはなく、イングランド代表や、スコットランド代表となるそうですが、そもそもいわゆる「イギリス」は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国です。ただ、なんとなく「イギリス」というひとつの国があるような錯覚になってしまいがちですね。そういった背景や、またブリテン諸島の島々や海、それぞれの「ネイション」の多様性から、本書では「中世ブリテン諸島史」と銘打たれていると思われます。

 著者の有光秀行先生は、東北大学大学院文学研究科の准教授で、中世ブリテン諸島史を専門に研究されています。本書は、先生がこれまでに発表された論文をまとめた著作となっています。
 先生ご自身の単著は本書が初ですが、その他、訳書などを刊行されています。私の手元にあるのは、
・ギラルドゥス・カンブレンシス(有光秀行訳)『アイルランド地誌』青土社、1996年
 という、史料の邦訳です。また、わかりやすい文章で記された論考として、
・有光秀行「中世アイリッシュ海風雲録」 甚野尚志・堀越宏一編『中世ヨーロッパを生きる』東京大学出版会、2004年 、15-33頁
 があります。



ーーー
地図
系譜

序論
第1章 2人の年代記作者はイングランドとノルマンディをいかにとらえたか
    ―オルデリクス・ヴィタリスとウィリアム・オヴ・マームズベリの場合―
第2章 「アングロ・ノルマン王国」論とそれへの批判
第3章 ジェラード・オヴ・ウェイルズのウェイルズ、そしてアイルランド
 補論 ウェイルズ中世史料にみるネイション呼称
第4章 「ケルト的周縁」の民と「野蛮人」
    ―ウィリアム・オヴ・ニューバラとその影響源を中心に―

―ロジャ・オヴ・ハウデンに着目して―
第6章 スコットランドの形成と国王たち
第7章 「マンと諸島の王国」史論
第8章 「ネイション・アドレス」考(1)
第9章 「ネイション・アドレス」考(2)

結論

文献目録
あとがき
索引
ーーー

 第1章は、ノルマン人(フランス人)とイングランド人(アングロ・サクソン人)とのあいだに生まれた二人の年代記作者が、ノルマンディとイングランドをどのようにとらえていたのかを見ていきます。具体的には、海を隔てた二つの土地をあわせてひとつの言葉で表しているか、その人々をどうみたか、「うち」「そと」の意識はどうだったか、といった点が検証されます。

 第2章は、第1章の出発点となった先行研究の議論を整理し、また批判を加えます。

 第3章は、ノルマン人とウェイルズ人の血をひくジェラード・オヴ・ウェイルズが、イングランド王につかえる中で記した著作から、彼がウェイルズと、王とともに訪れたアイルランドをいかにとらえたかを論じます。ジェラードが、イングランドとウェイルズの関係性のなかで、ウェイルズをどのように征服・統治できるかを論じつつ、一方ウェイルズ側はいかに抵抗できるかと論じているという、いわば両価感情があるという指摘が興味深いです。

 第4章・第5章は、「ケルト的周縁」の人々に向けられた「野蛮人」などのイメージについて、著述家たちの著作を丹念に読み解き、彼らの態度の違いなどを明らかにします。

 第6章は、中世スコットランドの通史です。

 第7章は、「マンと諸島の王国」について通史的に見たのち、「王国」や「王」の位置づけについて論じています。

 第8章から第10章は、「○○人の(誰)」に対して挨拶を送るという文言が証書史料の冒頭にみられることがありますが、こうした挨拶、すなわち「ネイション・アドレス」についてみていきます。具体的には、史料ごとに現れる数や、その挨拶が何人(イングランド人、フランス人など…)に向けられているか、なぜそのネイションの人への挨拶が含まれているのか、といった問題を検討します。

 どの章にも通じていえることは、とにかく史料を丹念に読み込むということです。個別具体的な著述家に焦点をあてた章が多いですが、彼らがどういう生い立ちで、どういう背景で著作が書かれたかはもちろん、分析対象となる言葉が史料に何回出てきて、それらがどういう文脈でどういう意味にとられるか、という点まで詳細に分析しています。

 私の直接の専門とは関わりのない分野の論文集ですが、著述のあり方や研究姿勢などについて、学ぶべき点の多い一冊でした。





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Last updated  2013.05.25 21:36:26
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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