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2016.08.27
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~藤原書店、2015年~

Le Moyen Age et l’argent , Perrin, 2010)

 西洋中世史研究の大家ジャック・ル・ゴフ(1924-2014)が晩年に著した一冊です。著者が86歳のときに刊行されたわけで、ル・ゴフが生涯研究を続けていたこと、その情熱にあらためて感銘を受けます。
 さて、本書は中世の人々が貨幣に対してどのような見解を持っていたか、貨幣をどのように扱っていたか、といった問題を、通史的にたどった後、何点かのテーマごとに詳しく論じるという構成の一冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
謝辞


第1章 ローマ帝国とキリスト教化の遺産
第2章 カール大帝から封建制へ
第3章 12世紀末から13世紀初頭にかけての貨幣の急増

第5章 13世紀の商業革命における交易、銀、貨幣
第6章 貨幣と揺籃期の国家
第7章 貸付、債務、高利貸し
第8章 新たな富と貧困
第9章 13世紀から14世紀へ、貨幣の危機
第10章 中世末期における税制の完成
第11章 中世末期の都市、国家、貨幣
第12章 14、15世紀の物価、賃金、貨幣
第13章 托鉢修道会と貨幣
第14章 ユマニスム、メセナ、金銭
第15章 資本主義か愛徳か


訳者あとがき
原注
参考文献一覧
人名索引
―――



 最も興味深かったのは、日本人研究者宮松浩憲先生の『金持ちの誕生』(刀水書房、2004年。仏語版2008年)が紹介されていることです。宮松先生は同書において、中世盛期に「金持ち」が誕生したことを丹念に論じていますが、ル・ゴフはその時代にも「金持ち」を意味するdivesは富者ではなく権力者のことを意味していると本書で言っています(ただ根拠を明確にはあげていません)。宮松先生の著書では膨大な史料を追っており、説得的だった印象を覚えているので、また再読してみようと思います。

 また、フランスで、13世紀に税制が整えられていったという議論も興味深いです。当然、新しい税制には民衆の不満も大きかったようで…。なお、ルイ9世(聖王)は、王国内に流通する貨幣について、王室が鋳造した貨幣は王国全体で通用するが、領主が鋳造した貨幣はその領地でしか通用しないという原則をたてたそうです。このように、国王は貨幣への関与を強めていきますが、議論のさいごで、「国王は最も多くの施しをした人物で」あると指摘されているのも興味深いです。

 さいごに一点、13世紀における名字の出現についてふれている部分。シュミット、フェーヴルなど、鍛冶屋を意味する名字がたくさん生まれたことを指摘する部分で、著者自身のル・ゴフという名字も、ケルト語で鍛冶屋を意味する名字だと紹介しています。ル・ゴフとはどういう意味なのかずっと気になっていたので、これは勉強になりました。

 結局、本書の内容自体の紹介はないに等しい記事となってしまいました…。

 冒頭にも書きましたが、本書はル・ゴフが86歳の頃に刊行されました。それも単に、初期の自身の研究をまとめただけではありません。2007年に刊行された文献も参考文献に挙げられており、とにかくずっと研究を続けられていたのだということが分かります。

 註は少なく(その分物足りない部分もありますが)、読みやすい著作だと思います。

 訳書の刊行を嬉しく思います。





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Last updated  2016.08.27 21:41:42
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