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2017.10.14
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~岩波書店、2003年~
( John H. Arnold, History: A Very Short Introduction , Oxford University Press, 2000 )


 オックスフォード大学出版局から刊行されているA Very Short Introductionシリーズの日本語版<1冊でわかる>シリーズの中の1冊です。200頁程度ながら、史学史の概要はもちろん、具体的な歴史学の営みのあり方まで紹介されていて、非常に分かりやすく、また興味深い1冊です。
 著者のジョン・H・アーノルドは、ロンドン大学バークベック・コレッジ講師(本邦訳書刊行当時)。 What is Medieval History (2008)や Belief And Unbelief In Medieval Europe  (2005)など、気になる著作を刊行されているようです。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
まえがきと謝辞
1 殺人と歴史
2 イルカの背から政治の塔へ

4 さまざまの声と沈黙
5 1000マイルの旅路
6 猫殺し――過去は見知らぬ国なのか?
7 真実の語り

自分で歴史を描いてみるために―解説にかえて―(福井憲彦)
日本の読者のために(福井憲彦)
図版一覧
読書案内
参考文献
―――

 第1章は、異端をめぐるある殺人事件を題材にして、歴史学の営みを紹介します。つまり、過去には無数の事件があった。この事件を取り上げるからには、それを大きな構図の中に位置づける必要がある。事件(又はある史料の叙述)を紹介するだけでなく、それを解釈する必要がある、というのですね。本章で特に印象的だった一節をメモしておきます。「すべての歴史家にとって重要なことは、実際に何が起こったかであり、そしてそれが何を意味するのかということである。いつなんどき幻想であることが明らかになるかもしれないある種の「真実」をつかもうとする不確かな試み、そこに歴史の魅力があるのだ」(19頁)



 第3章は、16世紀から20世紀を対象にします。ここでは、「政治史の塔」は廃墟と化していき、一般の人々にも感心が寄せられます。19世紀の著述家トマス・カーライルの興味深い言葉が引用されています。「最初に兵士を連れてアルプスを越えた人物と……最初に鉄のクワを鍛造した名もなき農夫のどちらが人類の歴史において重要であろうか?」(72頁)
 また、歴史の専門化というシステムがもたらした3つの弊害が指摘されます。第一に、一般の読者層とアカデミックな歴史家の間のへだたりの拡大。第二に、歴史家が客観的な評価を下せるという口実を与えてしまったこと。ここでは、「専門家」は「公平」であることを意味せず、「仕事に対して報酬を受けている」ということだけだと強調されます。第三に、専門分化がなされ、「歴史」はただひとつの真実の物語にはなりえないということです。

 第4章は、史料について論じます。ここでは、夫がニューイングランドに赴き不在となった夫人に対して、年金を支給することを決定したという史料を例に、具体的にその位置づけを見ていきます。史料の綴り、同時代の背景、当時考えられていた女性の地位など、多様な情報を史料から読み解くという、歴史学の営みの具体例ともなっていて、非常に興味深く読みました。

 第5章は、前章で紹介された史料を、さらに大きな文脈に位置づけます。ここで興味深いのは、物語には終わりがないということ。先の史料は、分析の出発点ではありますが、その終わりはありません。「「帰結」とは、わたしたちが疲れ切って作業をやめる地点にほかならない」(130頁)との言葉が印象的でした。

 第6章は、現在のわたしたちと過去の人々は本質的に同じなのか、全く異なるのか、という2つの異なる立場について、「猫殺し」への態度を例に考察していきます。ここで私が関心を寄せているアナール学派の業績の紹介や、「心性」の歴史についてもふれられます。



 福井憲彦先生によるあとがきや文献案内も興味深く、また有用です。訳文もたいへん読みやすく、内容もたいへん実り多く、勉強になりました。良い読書体験でした。

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Last updated  2017.10.14 15:34:28
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Re:ジョン・H・アーノルド『歴史』(10/14)  
シモン さん
第一章から、「殺人と歴史」とは、刺激的な話題ですね。
数学や論理学と違い、歴史には客観的な真実を見出すことが出来ないとすれば、名探偵コナンの「真実はいつもひとつ」という考えは、実に楽観的なのだとこの感想を読んで感じました。

今回も平易でポイントを抑えた解説をありがとうございます。 (2017.10.15 21:04:10)

シモンさんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
いただいたコメントを拝読して、中間色の概念などから色についての理論も文化的なものだというパストゥローの説を連想しました。多くの分野において、いま正しいと思われていることが、今後も永遠にそう言い切れるとは言えないのではないかと思います。
ある意味では謙虚になれますし、また一方で、先行研究を批判しながらより真実(?)にたどり着こうとする努力の大切さも感じました。 (2017.10.17 22:16:39)

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